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『トロイ戦争は起こらないだろう』

2009年03月16日 | 映画

劇団四●の『トロイ戦争は起こらないだろう』見てきました。
ジャン・ジロドゥの書いた戯曲。
以下、めちゃめちゃネタばれしてるんで一応下げときます。
とはいえ、ネタばれ以前にトロイ戦争が起こることは作者も観客も皆知ってんだけどね。

あらすじ(四●HPから抜粋)


永年にわたる戦争に終わりを告げ、平和が訪れたトロイの国。
アンドロマックはトロイの王子である夫・エクトールの帰りを待っていた。
しかし、妹のカッサンドルは再び戦争が始まるという不吉な予言をする。

「トロイ戦争は起こるでしょう」

ギリシャ王妃・絶世の美女エレーヌの虜となったパリスは、
戦争の混乱に紛れてギリシャから彼女を誘拐してしまう。
妻を奪われ、名誉を汚されたギリシャ国王・メネラスは激怒し、
「エレーヌを返すか、われわれ、ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫る。

しかし、エレーヌの魅力に我を忘れたパリス、そしてトロイ国王プリアムやそのとりまき、
国中の老人たちは、再び戦争を起こしてでもエレーヌを返すまいとする。
幾度もの戦場生活に戦争の虚しさを知らされたエクトールや、その妻アンドロマックらは、
平和を維持するためエレーヌを返そうと説得するが、誰も耳を貸そうとはしない。

「エレーヌは君だけのものじゃない。この都市のもの、この国のものだ」

とうとう、エレーヌ引渡し交渉の最後の使者・ギリシャの知将ユリスがやってくる。
果たして戦争の門を閉じることはできるのか。
あるいは、トロイ戦争は起こってしまうのだろうか。
宿命の罠は、愚かな人間たちが囚われ堕ちていくのを静かに狙っている―――。


※ジロドゥさんは外交官だった人で両大戦特に第二次世界大戦がこの作品の裏にあるそうなので、ソレを踏まえてみるとまた違った感慨があるのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…うん、面白かった。…んですが、そもそも滅多に演劇を見たことがないのでこれが客観的に見て面白いのかどうかの判断がつきません。
なんとなしにもやもやするのは、そもそも大前提としてどう転んでもハッピーエンドにはならない結末があるからなんだけども、ソレはまあ仕方ない。
シナリオ、というか、ジロドゥの原作は、読んだことないけども今回見た劇から推測するにとてもいいと思います。個人的には大好きです。

ヘクトールが頑張って頑張って若干から回りつつ尽力する姿は、いっそ切ないです。
ドン・キホーテですよ。
観客はトロイ戦争が起こることを知ってるわけだから、彼が立ち向かおうとしている運命の大きさも感じてるわけだし。
まったヘクトールの邪魔をしてヘレネーをトロイに取り込み戦争を実行しようとするトロイの重鎮たちがいらつくんだ。この馬鹿!(対するトロイの女たちはヘカベーを筆頭にそんな男たちに冷ややかなんですけどね)
でもってヘレネーは魔性。道理が通用しません。
パリスは若旦那から可愛げをとったようなホスト風の男だし(これはこれで素敵だったけど)。
トロイの全男がヘレネーに夢中で狂喜のうちに戦争へ猛進しようとするのを、ヘクトール一人が(女性たちの援護はあるものの)戦争を押しとどめようと奮闘するんですよ。見てるこっちの胃が痛くなるようなストレスを全編通して受け続けます。

それで、この劇の要は、その努力が報われたかに見えた瞬間にほんの小さな過ち(しかも味方のヘクトールに対するねたみ)から、全てが崩れてしまうというどんでん返しのインパクトじゃないかと思うんですが、

なんか、今回の舞台だとなんの感慨もなしに漫然とスジが進む感じで
ヘクトールの努力が報われた瞬間の喜びや安堵感、
それが覆された時の絶望感、その裏の運命の不気味な巨大さなんかが
あんまり感じれらなかったんです…
エレーヌ(ヘレネー)の中立性っちゅうか、彼女は善でも悪でもないけど運命の方向を決める鍵となる人物であるという位置づけとか、
アンドロマック(アンドロマケー)がちびっ子を使ってエレーヌを言いくるめようとしてエレーヌに反対に言いくるめられてしまった時の気まずさとか、
ものすごい大局に立ったユリスの諦観に満ちた発言がどう考えても戦争を起こしたがってるとしか思えなくてヘクトールが激昂しかけたときに一転協力を持ちかけるその反転の鮮やかさとか、
さっき行った土壇場の安堵から絶望への転落とか、
そういった大事な感情がちょっと分かりにくかったんです…。
一番最初に、フランスで、原作どおりのフランス語で上演された時はもっと分かりやすかったんじゃないのかと推測されるだけに、ものすごくもったいないというか!惜しいの!ほんとはもっと面白い劇なんじゃないかと思うのよ!
スジが好みなだけに、もっと面白さが分かりやすければ、もっとこの劇を好きになる人も増えるんじゃないかと思うと、ものすごくもやもやするんですよ。
でも、演劇鑑賞暦が浅すぎて舞台というのが全般的にこういうものなのか、四●の演出がそうなのかよく分からなくってこれもまたもやもやしてしまったわけです。
どうなだろう…。
演出の問題という気がものすごくするんですが誰か教えてクレー!


以下、雑感
・エクトール(ヘクトール)について
ヘクトールは男前でしたよ。まだまだ若くて練れてない感じは、映画『トロイ』の超男前なヘクトールよりは原作の『イーリアス』のヘクトールそのものといった感じでした。

・アンドロマック(アンドロマケー)
全体的には彼女のことは大体好きです。(女性(というか妻)一般を象徴してんのかな?)
終盤になっての「愛してない二人のために国が滅ぶのは納得いかんが、愛のためならきっとなんとかなる」という超力技の議論には若干唖然としましたが。そらヘレネーさんも「アンタ何言ってんのよ」って顔するって。


・パリス
原作より大分イカサマ師っぽい。これはこれでイイです。開き直りパリス。
原作はあんまり悪いことやってるつもりがない感じでケロっとしてましたが、劇のパリスは自分のやっている悪いことをしっかり認識している確信犯でした。

・エキュブ(ヘカベー)
大体において原作でもどの劇でも男前で頼もしいヘカベーですが、この劇でも大変頼もしゅうございました。ヘクトールの後方援護部隊部隊長。

・エレーヌ(ヘレネー)
実は一番諦観に囚われてるのはこの人かしらという気がしました。

・カッサンドル(カッサンドラー)
超・男・前☆
ヘクトールの妹というよりお姉さん的存在です。

・プリアム・デモコス・ビュジリス
色ボケ三老人。わたしのストレスも限界すれすれ。

・オイアクス(??だれ?小アイアースがモデルなの?)
意外といいやつでした。拳で語る!を地で行く男。でも他人の奥さんに触っちゃいけませんよ。

・ユリス(オデュッセウス)
世界の全オデュッセウスファンも満足する仕上がり。よう出来た人です。むしろ若干出来すぎなくらい。
若いヘクトールより色々な経験をし、その分視野の広い、先を見通せる目を持った人物として描かれてます。
トロイ側は運命を見誤った、トロイ戦争は起こる、そしてその運命の力にはおそらくトロイ側もギリシア側も抗えない、と先を読んで、そうヘクトールを諭すオデュッセウスなんですが、ヘクトールの戦争を起こしたくないという気持ちにはものすごく共感してるわけ。で、ヘクトールがオデュッセウスのあんまりな言い草に「そこまで言うなら帰れ!」と怒りが頂点に達したその時に「エレーヌは引き受けよう。ひとつ運命に逆らってみようじゃないか。このわたしの弁舌を持って」などと大逆転の協力宣言。その上、「ありがとう、あなたはなんていい人だ」と感謝するヘクトールに「何、君の奥さんがおれの女房と全く同じまばたき方をするもんでね」なんてペネロペイアアピールも忘れないサービス精神ですよ!
折角またとない良い役なので、演出家はもっとユリスの素晴らしさを前面に押し出すといいと思います。

 

結局ジロドゥさんは何が言いたかったのか、ということに関しては、アホゆえによう分からん。まあ人によって色々と感じたらいいんだと思います。
どうしても第二次世界大戦を重ねて見ちゃったのでどうしようもなく戦争へと押し流されていく様子がいやおうなく実感させられて怖かったです。それでも、たとえ無理だろうがやはり最後まであがくべき。

 

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HP


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