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人間科学研究所特別企画シンポジウムレポートその1

2007年10月25日 | タワゴトと萌え語り

2007年9月22日(土) K南大学人間科学研究所特別企画シンポジウム 『暴力の神話と女神』

に行って参りました!(近場でこんな催しをやってるなんて知りませんでしたよ、S様情報ありがとうございました!)
参加自由・申込不要、とあったので、素人が図々しくも紛れてこんでみたわけですが、一体どういう形式なのか、参加者はどういった層なのか、何人くらいなのか、先生に当てられちゃったりしたらどうしよう、などと不安山盛りでした。
当日、のっけから開催場所の18号館がどこか分からず30分も校内をさまよったりしつつなんとか無事到着、ふたを開けてみれば、参加者は40~50人ほどで、まじめに勉強している院生さんや教授も混じってはいそうでしたが、付き合いで来ているらしい職員さんや常連の一般人などもちらほらいて大いに安心。講演者は4人の先生方で、一人の持ち時間が30分、その後質問受付、という流れでした。

以下、プログラムより抜粋

『暴力の神話と女神』
シンポジスト
吉田敦彦 「ギリシア神話に見る大地母神の暴力」
篠田知和其 「恐ろしい女神 ―ライオンの姿をしたセクメトとその周辺」
坂田千鶴子 「日本神話の荒ぶる女神とその夫」
依田千百子 「韓国神話における女神と暴力」

結局、30分は短すぎ、それぞれの先生がちょっとずつずれ込んだせいで、4時半に終わる予定が6時前まで延び延びになったのですが、聴講する側にとってはそれもラッキー。

では、忘れ去ってしまわないうちに、講演内容をメモ程度に要約しておこうと思います。

まず、シンポジウムの大まかなテーマは
「暴力の蔓延する現在社会。いったい暴力はいつ生まれたのか。そこのところについて比較神話学・比較文学の観点から暴力の起源を神話にまで遡って、各地の神話が暴力をどのように説明しているかを見てみたい。特に、ジェンダーの視点から。暴力には当然ながら力の差、性差が付きまとうが、女神における二面性、女性性と暴力はどのように結びつくかに焦点を当てたい」ほど。


一人目:吉田敦彦先生 「ギリシア神話に見る大地母神の暴力」
講演内容 まず、ヘシオドスの創世神話から、ゼウスの支配の確立までを、吉田訳『神統記』の抜粋を資料に解説。

はじめに、何かが生まれるべき空間(カオス)が誕生し、ガイア(大地)、タルタロス(淵)、エロス(今後色々な事象を生み出すための原動力)が生じる。

・これでカオスがなくなったわけじゃなく、ガイア、タルタロスの外側に相変わらず果て無く広がっている、という説明に、妙に納得しました。世界が区別されていく過程で秩序も生まれるが、それでもカオスはなくならないのですね。3種の風の区別もカオスの中ではないそうで、秩序の及ばない外側の世界として残されているのです。

・ガイアは最初はエロスの力を借りずにウラノスを産むんだけど、その後はエロスの力を借りてティターンたちを生んでいく。
ちなみにこのティターンたち、ところどころ何を司るかはっきりしない人がいるそうで(コイオスやイアペトスなど)、それは、ゼウスの支配が確立した後の役割分担に組み込まれていないからじゃないか、というのが吉田先生のご意見。逆に、ゼウスと結婚して子供を生むテミス、やムネモシュネ、ティタノマキアに加わらなかったオケアノスなんかには役割が振られている。

ウラノスは生まれた子供をガイアに押し込んで光を見せない。→ガイアが子供たちにウラノスへの謀反を持ちかける。→クロノス一人が母の呼びかけに応じる。という、経緯が語られる。

・ガイアはアダマース(鉄より硬い神話上の金属)を産み、それでこしらえたギザギザの刃のついた鎌をクロノスに与えたんだそうな。痛そうだなあ…。

クロノスは待ち伏せして父ウラノスを去勢→ウラノスの勢力を削ぐことに成功。
後、クロノスは姉のレイアと結婚して子供を生むが、ガイアに「子供に王位を奪われる」と予言され、生まれた順に飲み込む。
末っ子のゼウスだけは、レイアが真夜中にこっそりクロノスの目を欺いたらしい。この際、ゼウスはレイア→ガイア→クレタ島のニンフの順で人手を渡って落ち着く。ガイアの協力に注目。

・この時の、吉田先生の兄弟順の説明に不肖見習い目から鱗が落ちました!まず生まれたのは
ヘスティア→デメテル→ヘラ→ハデス→ポセイドン→ゼウス の順。
で、その順に飲み込まれ、次に、吐剤によって逆順に吐き出されたので、その際もう一度誕生しなおしたとみなされ、兄弟順の逆転が起こった。

ゼウス→ポセイドン→ハデス→ヘラ→デメテル→ヘスティア

なるほど!!

ゼウスの一派VSクロノスの兄弟たちの図式でティタノマキア勃発
この時点では、ガイアはゼウスの敵ではない。実力が拮抗して決着がつかず困るゼウスに、ガイアは自分の奥深くに押し込められたキュクロプスとヘカトンケイルの救出を助言する。
上記の巨人たちの協力を得て、ティターン神族に勝利する。

・ここでさりげにポセイドンの大地との関係深さが示されるのが興味深かったです。ティターン神族を幽閉するため、タルタロスの周りに塀をめぐらせたのはポセイドンだったんだって。どこでもかしこでも塀作ってるな、この人。ちなみに、ここの地点の見張り番にはヘカトンケイルがついた。

・ここでやっとゼウスが暫定最高支配者になったので、ゼウスの一派の神々にはギリシア神話上初めて権能が振り分けられた、と仰る吉田先生。前述とかぶりますが、だからティターンの一部の人には権能がないし、ムネモシュネーやテミスなどは、オリュンポスメンバーとなる子供を産む母親ゆえに、彼女らにも役割が振られている。…ということらしい。

ゼウスはティターンたちをタルタロスに幽閉する。ガイアは自分の子供たちが幽閉されたことに憤ってゼウスに反旗を翻す。まずはガイアの生んだ巨人たちとのギガントマキアが起こるが、巨人たちは不死ではなかったので、何とかこれを撃破。次、テュポーンとの戦いが語られ、いったんは押されつつもなんとか勝利。
ここにいたってようやくゼウスの恒常的な支配が確立される。

ここまでの流れを説明された後、吉田先生は浮き彫りになるガイアの役割を指摘されました。
ウラノス→クロノス→ゼウスの交替劇をしくんだのはガイアである。
ガイアはゼウスをも追い落とそうとするが、前者二人と違ってゼウスはこれに打ち勝つ。このことによって(ガイアも認める)ゼウスの支配が確立するのである。暴力を実際に振るうのは男神だが、それを仕組んだのは女神だったのだ。

吉田先生のお話はまだ終わってないのですが、持ち時間を大幅に過ぎたせいで、いったんここで話者交替。

 

二人目:篠田知和其先生 「恐ろしい女神 ―ライオンの姿をしたセクメトとその周辺」

実は、篠田先生のお話は、聞いている間は分かったような気になっていたのですが、終わってみるとあんまり覚えていないのです…。
当日配布されたプリントと、それに書いたメモを頼りに記憶を辿ってなんとか復元してみます。

・もともと、神に性別はなかった。性別を超越したものであり、自然の脅威=神だったのでは?

・狩猟生活を送るうち、獲物をたくさん取らせてくれるよう「動物の主」に祈るようになると、その主=動物を生み出すもの=大いなる子宮=女性という流れで、明確に女性である女神が生まれたのでは?

もともと電気のない時代人間は昼のうち働いて、夜は祭りに充てられた。だから、原初は太陽よりも月が重視されていたのではないか?女神は太陽ではなく月だったのでは?

月の神である女神は闇を司る神であり、すなわち、死を司る神でもあった。生むと同時に生を吸い取る二面性。再生を司る蛇は女神の死の力の象徴でもある。

次に、女神と蛇の関係の深さの説明。テュポーン(これは女神じゃないけどな)、エキドナ、メリジューヌ、などの蛇伝説や、大蛇と接吻して美女に代わった話、蛇の美女と結婚した話、女の腹から出てきた蛇に食われた話、見るなの禁忌、などの蛇信仰の例があげられ、ワギナ・デンタタの伝承(女陰に歯が生えてて男根をちょん切るらしい)ともなったことが語られる。月(夜)=蛇=女神の信仰は、太陽=獅子信仰に先立つのでは?

次に蛇(生命を象徴)から太陽信仰(王権に関連)が述べられる。ライオンと関連の深い女神の羅列。セクメトや、ライオンをつれたキュベレー、ドゥルガーやそのアバターであるカリ。ライオン女神にはセクメト-ハトホル-バステト、パールバティ-ドゥルガー-カリと、もっとおだやかな一面をも併せ持つことが多く、いくつかある層のうちの怒りの面がライオン女神??必ず3対で、そのうちの一つは必ず死であり、地下だった??

つまり、王権が生じるとともに太陽信仰が生まれ(地上の支配が天上にも反映されるため)、追いやられた月信仰と月の女神は地下へ下って冥界の女神に?

このあたりから、話は急展開、地上の王権は常に簒奪者、暗殺者におびえている。ウラノスやクロノスの神話はこれの反映では?という説が話され、その循環を断ち切ることが出来るのは自分自身は権力を要求しないトリックスターによる世界価値の転換しかない。それは、つまり、原初の力を文化に転換することである。破壊的暴力的な力はトリックスターの原理によって文化的生産力に転換される。

…このあたり、なんか、、もう、ようわからんように…。シャクティがどうとか、女神のために道化を演じる道化師がどうとか、…むむ、理解が及ばなくてすみません。


人間科学研究所特別企画シンポジウムレポートその2

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