背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

分かりにくいんだよ

2011年02月06日 07時14分39秒 | 【図書館危機】以降
「美味かったな、相変らず」
「ほんと。堂上家の晩御飯だと自分でもびっくりするぐらいいっぱい入るのよね」
「てか、あれで【いっぱい入った量】か」
「あたしがお代わりするの、珍しいのよ。知ってるでしょ」
「知ってるけどな」
手塚と柴崎が向かいあって座るのは、寮の最寄りのコンビニ。
しゃべって食べれるコンセプトなので、レジの脇に狭いがテーブルセットが置いてある。
今夜はお招きされた堂上家からの帰りにそこに立ち寄った。
官舎から寮までまっすぐ帰るつもりだったのだが、珍しく柴崎から「何か飲まない」と誘った。
「寒いから、あったかいものでも飲んで帰ろ」
むろん手塚に異論があるはずはなく。
「いいよ。コンビニでもいいか」
「うん。あたしのおごりね」
どうやら機嫌がいいらしい。堂上の料理が美味いのももちろんだが、やはり気の置けない笠原と夕食をともにするのが嬉しいんだろうなと手塚はうがったことを思う。
店に入ると手塚に席を取っておくように言って、柴崎が注文にいった。
番号札を片手にテーブルにやってくる。当たり前のように彼の向かいに座って、マフラーを解く。
「ちょっと待つって」
「うん」
さすがに隣には来ないか、と少しがっかりしてみる。と、
「堂上教官、また腕、上がってない? 料理の」
今夜はプレートでお好み焼きだった。ソースは自家製だという。もちろん堂上の手作りだ。
「だな」
「料理する男の人っていいなあ。あの、腕がいいのよね」
「腕?」
「うん。こう静脈っていうか血管がすうっと浮いた腕をまくって、さくさく食材とかさばいていくのを見てるの、気持ちいいわよね」
うっとりと遠い目をして言う。
たぶんさっきまでの堂上を思い出しながら。
確かに恰好よかった。でも改めて柴崎の口から聞くと……なんだか。
「……」
「あ、むっとしてる」
「してない。そうだろうなって思っただけだ」
嘘だ。柴崎が堂上を褒めるのが面白くない。
でもそれを見透かされるのは業腹だった。
俺も料理始めるかなとできもしないことを手塚が思っていると、ふと口調を変えて柴崎が続けた。
「あのさ、今日、昼、悪かったわね」
切り出しづらいのか、柴崎が目を合わせずに口を開いた。
「昼?」
「ん、ちょっと、間が悪かったな、って。ごめん」
掬うように見る。それで合点がいった。
「何でお前が謝るんだよ。たまたまだろ」
自分でも不機嫌な声が出て驚く。
バツが悪いというか、とっさにだ。
柴崎が、でもさあと髪を指で梳いた。無意識のしぐさ。気まずい会話を受け流すための。
「だって、あれ、手渡しでしょ。チョコ。……通りがかって、ごめん」
日中、用事があって図書館の書庫の前の廊下を通ったとき、偶然見てしまった。
手塚が、年下の業務部の女の子に可愛らしいラッピングの小箱を渡されている場面を。
あ、と思って踵を返そうとしたが遅かった。あ、と自分と同じ形に手塚の口が開いた。
まさか人が来るとは思っていなかったのか、その女の子は真っ赤になって棒立ちに。
慌ててUターンしたが、見てしまったのに変わりはない。
手塚は眉間を曇らせたまま言った。
「別に、お前が来なくても断わったし。謝らなくていいよ」
「断わった、って。なんで?」
「なんで、って……。付き合う気がないからに決まってるだろ」
「バカねえ。あの子だってそこまで一足飛びに期待してるわけじゃないでしょ。まずは気持ちを伝えたかったんじゃないの。受け取るぐらい、いいじゃない」
「そうはいかない」
手塚の口調は頑ななまま。柴崎はやれやれと天を仰いだ。
「今年ももらわなかったの。誰からも」
返答はないが、頑なな表情から答えは用意に知れた。去年手塚が義理チョコも受けとらなかったという噂は図書館じゅうに知れ渡っている。今年こそはと意気込んであの女の子も手塚を呼び出したのだろうに。そう思うとなんだか気の毒になった。
「厄介ね、あんたは」
「性分なんだ、ほっといてくれ」
手塚は頬杖をついて、窓の外にぷいと目をやる。視線を逃がしたかったのに、夜なのでそこに映る自分と目が合い舌打ちしたくなった。
窓に映る柴崎はなんだか微笑っている気がした。つい、愚痴めいたことを言いたくなる。
「本当にチョコが欲しい女からは、なかなかもらえないもんだよな」
「……」
柴崎が何か言いかけたがそこで店員が番号を読み上げた。オーダーしたものの準備ができたらしい。
「あ、あたしだわ」
席を立って受け取りに行く。ちぇ、上手くかわされたなと手塚はくさる。
すぐにミディアムサイズのカップをトレイに二つ載せて、柴崎が「おまちどうさま」と戻ってきた。何もなかったかのような笑顔が癪に障り、「ん」とむっつりと受け取った。
淹れ立てで熱いだろうなと気をつけながらそっと口にして。思わず咽せた。
「な、なんだこれ」
手の甲で口を覆う。
甘い。歯が溶けるほど甘い。てっきりブラックコーヒーだとばかり思い込んで飲んだだけに反動が大きい。
「コーヒーじゃないのかよ!」
「あら、違ってた? ごめん」
しれっとした顔でカップの縁に口をつける。
「違ってた? ってお前、――あ、」
そこで手塚が不意に口をつぐんだ。
柴崎はそ知らぬ顔でちびりと喉を潤す。
この味は。この、舌が焼けそうなくらいの極悪な甘さは。
――ホットチョコレート。
手塚は赤くなって黙った。
柴崎が言った。
「ごめん。あんたがやなら、替えてもらってこようか?」
「……いや。いい」
このままでいい。照れくささをホットチョコと一緒にぐびりと飲み込む。
「そ」
柴崎はにっこり笑って背もたれに身体を預けた。
ややあって、手塚のもの言いたげな視線に気がつき、「なによ?」と小首を傾げる。
「なんでもない」
「なんでもないって顔? それが」
「うるさい。分かりにくいんだよ、お前」
噛み付くように言って、手塚はテーブルに顔を伏せた。とてもじゃないが柴崎の前で平然と飲み干す芸当などできそうにない。
初めから、そのつもりでここに誘ったのだろう。何食わぬ顔をして、この女は。
料理する堂上一正を褒めたり、俺が告白を受けているのを見たことを詫びたり。
カーブばかり投げてから。これだ。
畜生。
「ごめんなんて言わないわよ?」
柴崎は艶やかに笑って、手元のコーヒーを両手でそっと包み込んだ。

~Happy Valentine's Day~

(了)


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5 コメント

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一足早い (まききょ)
2011-02-06 18:51:56
バレンタインプレゼントありがとうございました(^-^)
素直じゃない柴崎が大好きです(^-^)
返信する
よいバレンタインを~♪ (あだち)
2011-02-07 05:17:26
>まききょさん
コメントありがとうございますv
みなさまもまききょさまも14日はよい日でありますようにv
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いただきました (たくねこ)
2011-02-07 13:59:12
あま~~~~~~いの頂きました。
今日帰ったら、ホットチョコレート作ろう!
手塚ではなく、部活帰りのかわいくない娘に…orz
返信する
お嬢様に甘い憩いをv (あだち)
2011-02-08 13:43:05
>たくねこさん
ご無沙汰しております。
お嬢様とホンワカな時間をお過ごしくださいね。
って、そろそろお嬢様も本命にチョコを渡すオトシゴロなのでは…?笑
返信する
甘々ですね(//∀//) ()
2011-02-09 20:28:53
甘々だぁ(//∀//)

手塚と柴崎本当に良いですね☆☆☆

姉にワガママ言って作ってもらおうかなと画策してます(´∀`)
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