背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

彼女が電車を乗り過ごしたら(「空飛ぶ広報室」槙×柚木)

2013年02月03日 00時11分52秒 | 雑感・雑記
ガタン、という振動で目が覚めた。
窓の外の夜の景色が流れていく。それを見て、――ああ、電車の中だったと気づく。
そして、自分が槙の肩にもたれてうつらうつらしていたということにも。
柚木は慌てて身体を起こした。槙に預けていて斜めに傾いでいたのだ。
それもばっちし車窓に映し出されている。夜の窓は鏡。あかあかと電気の点いた車内を映し出す。
帰宅ラッシュをとうに過ぎた時間だと、人気もまばらなため、余計に。
「ごめん。寝てた」
口元に手をやる。まさか、涎とか垂らして寝入ってなかったよね?
そんな柚木の心配を見透かしたように槙は、
「大丈夫、垂らしてませんでしたよ」
と教えてやる。
柚木は、「そんなの分かってる」と肘で彼の腕を小突く。
「一言余計なンだよ、あんたは」
いてて、と顔をしかめて槙は言った。
「疲れてますね、先輩。俺に寄りかかって眠ってっていいですよ。駅が来たら起こしてあげますから」
「そんなの……。あんただって疲れてるんだから」
「いいから。甘えてください。知ってる顔、誰もいませんから」
官舎まで眠って、と優しく言う。
それでももじもじしていたら、「ほら、遠慮しないで」と頭を引き寄せられた。
決して手荒にではなく、大きな手で肩にもたせかけらされる。
窓に映る女の顔ははじめ当惑気味だったが、やがてそっと息をついてそのまま目を閉じた。
確かに疲れてるかもしれない。ここんとこ仕事が立て込んでる。
ウチに帰っても化粧も落とさずバタンキューということもあって、朝方はね起きて慌てて洗面台に向かったりすることもしばしば。ご飯も食べないでそんなことを重ねてたら、さぞかし肌にも悪かろう。
明日はヒールのかかとが少し低めの靴を選ばなければならないかなあと、張ったふくらはぎをもてあます。
「先輩、今の仕事がひと段落ついたら、温泉でも行きますか」
エステつきの。と槙が言う。
「でかい風呂があって、露天で。ジャグジーとがばんばんついてて。飯も旨いところ。俺探しますよ。だから踏ん張りましょう」
肩に当てた耳から彼の声を聞く。
柚木は槙の肩により深く預けた。
「……そうね。温泉、いいね」
労わられている。気にかけてくれている。
前は槙のそういうところ、かゆいところに手が届くほどの気遣いやねぎらいが重かった。
恋人同士になる前は、こんな風にシリアスになるのを避けて、わざとおちゃらけて流していた。
でも今は、純粋に嬉しい。心があったかくなる。
だから柚木は素直に言った。
「ありがと、あんたと行けたらいいな」
行きたいな、と付け加えると、
「予約しておきますよ」
とさらっと返された。


そのまま、ガタンゴトンという心地よい揺れに身を任せたのが悪かったのか、いつの間にか落ちてしまったらしい。しかも、槙まで。
アナウンスではっと目覚めると、終点だった。まばらだった乗客も、完全にそこで降りきってしまい。ターミナル駅特有のアナウンスが、高い天井に反響している。
「すみません、俺まで眠るとは」
慌てて席を立とうとする槙。却って柚木のほうが落ち着いており、ふあああとあくびをしてひとつ伸びをした。
「いいよ、おかげでぐっすり眠れた。あんたもかなり疲れてるんだね」
「申し訳ありません。起こすとか言っておきながら」
槙は自分の失点を悔やむように柚木から目を逸らす。
柚木は彼の生真面目な横顔を見ながら、
「ねえ、温泉の件はさ、仕事の後でいいから。とりあえず、今からどこかでお風呂入っていかない?」
できればジャグジーつきの。と声を掛ける。
「え?」
すぐに意味が分からず首を傾げる。そんな彼に、「行こ」と笑いかけて柚木はシートから立ち上がった。車両から降りるとき、身体がわずかに軽い。髪が風を受けてふくらむ。夜の匂いが心地よかった。
すっきりしていた。槙のおかげだなと思う。彼が肩を貸してくれたから寝めた。
「先輩、それってどういう意味ですか。風呂って……」
珍しく鈍い。柚木は背中を向けたまま答える。
「温泉まで待てないってことよ。お風呂でマッサージしてくれる?」
あたしもしてあげるから、と小声で言うと、槙はようやく合点がいったらしく、「……平日ですよ今日」と抑えた声で返した。
「明日も仕事なんですよ」
「分かってるわよンなこと。どうするの、行くの、行かないの、どっち?」
焦れて訊く。と、
「行きます」と即答。柚木を追い越さんばかりの速度に歩調を上げた。
「先輩からの誘いなんてレアなこと、俺が蹴るわけないじゃないですか」
柚木は口の端に笑みを蓄えた。そっと槙の手を握る。
「いいホテル、空いてるといいね」
「ジャグジーつきがいいんでしょ。……ラブホでもいいですか?」
槙が声のトーンをぎりぎり抑えて尋ねた。彼の中、急激に情欲が高まっているのが声音から察せられた。
「いいよ。手近なところで」
柚木の表情からは余裕が窺える。槙は眩しそうに目を眇めた。
「……参ったな、抑え、利きませんよ。疲れてるときだと、なおさら」
柚木は彼の足取りに、自分のものを合わせる。
そして言った。
「……構わないよ」
槙はぎゅっと柚木の手を握る手に力を入れた。
――明日、今日と同じスーツに同じシャツで出勤だと、お互い、まずいなあ。
そんなことを気にかける自分が、なんだかひどく幸せな柚木だった。

(fin.)

お気に入りの槙×柚木です。
ここで終わるもよし、夜の部屋で続くもよし。
あとは二人にお任せって感じで(笑)

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4 コメント

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お届けしますから (たくねこ)
2013-02-04 12:00:41
シャツとスーツをお届けしますから
夜の部屋にお願いしたいです~~~m(__)m
返信する
これは… (まききょ)
2013-02-04 20:46:46
夜の部屋に続いてほしいです(^w^)
お時間あればぜひ(*≧∀≦*)
返信する
疲れが (さっち)
2013-02-04 22:05:58
吹っ飛びました~。
こんな立て続けに槙×柚木が読めるなんて。。。

ぜひとも二人にはジャグジー付きのお風呂で疲れを癒していただきたいです。
返信する
夜の部屋で連載開始しました (あだち)
2013-02-10 08:30:32
お三方
コメント有難うございます
夜の部屋で連載開始しました。
続きをUPしたというほうが正しいのかな?笑
連休の合間にでも覗いてやってくださいね

ではでは~
返信する

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