背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

バッドタイミング or グッドタイミング?

2011年03月06日 07時25分25秒 | 【図書館危機】以降
見当もつかん。
ホワイトデーって、いったい何を贈ればいいんだ?


手塚は苦悩していた。
先月の14日、コンビニでホットチョコレートを奢ってくれた柴崎に、何を返したらいいのかさっぱり思いつかないからだ。
可愛らしい菓子が一般的のようだが、とてもじゃないがあの女がアメやマシュマロといった返礼を気に入るとは思わない。そんなものを贈ったが最後、鼻でせせら笑いさえしそうだ。「このあたしにそんなお返しを用意するなんて、安く見繕われたもんだわねー」とかなんとか言って。
そんなことになったら致命的だ。
これまで異性からバレンタインにチョコや贈り物を受け取ることはあっても、それに対してお礼をしたことがない。ツケが回ってきた。
アドバイスをもらいたくても、周囲にもらせばきっと「誰か意中の人がいるのか」とあれこれ勘ぐられる事必至だし、きっと柴崎はそういうことを誰かに訊ねる事さえ潔しとしないだろう。
ああ。面倒くさい女だ。
「何よ、にやにやして」
不意に隣から声が飛んできた。郁がけげんそうにこちらを見ている。
椅子の背もたれに背中を預けていた手塚が「俺、今笑ってたか」と顎の辺りをさすった。
自覚はなかったが。
「笑ってた。なんだかしあわせそーに。思い出し笑い?」
休憩中でよかった。上官二人は外している。
手塚はほっとしつつ口元を引き締めた。椅子の上、背筋を正す。
「いや別に」
柴崎のことを考えていたなんて悟られるわけにはいかない。まあ、この鈍い同期に悟られることもないだろうけれども。
と、そこまで考えて、ふと
「なあ、女ってさ、ホワイトデーって何もらうと嬉しいもんだ?」
魔が差したというかなんというか、訊いてしまった。
郁が見たこともない異星人を見るような目つきでまじまじと手塚を凝視する。
「それって……」
「一般論。一般論としてだ。答えたくないんならそれでいい」
「一般論ねえ。まああんたがあたしを女扱いしてくれたよしみで、答えてあげるけど」
郁がデスクにひじをついて手の甲に顎をのっける。んー、としばらく考えて、
「好きな人からもらえるんなら、なんでもいいかなあ」
それを聞いた手塚ががくりと肩を落とす。
「……まったく参考にならん」
手塚はため息をついた。
「えーなんでよ。だってそうだもん」
好きな人がくれるんなら、あたしだったら何でもいいな。
と、そこだけ小声でつぶやくように。見るとほんのり頬が桜色だ。
へえ、こいつでもこんな乙女な表情(かお)をするんだな。と少し意外に感じつつ、
「なんでもいいって回答が一番厄介なんだよ。女っていつもそうな。なんでもいい。どれでもいい。手塚くんの好きなもので、とか」
そのくせ俺のチョイスに付き合ってデートやらなにやらすごした後に、決まって向こうから別れを切り出すんだよな。
手塚君とは合わないと思うんだ、とか。何度聞いたせりふか。
「手塚も結構不毛なおつきあいばかりなんだねー」
「男とろくにつきあったことのないお前に言われたくない!」
「ひど! そんなこと言うんなら、柴崎にばらすよ! あんたがうじうじホワイトデーのお返しのこと悩んでたって」
郁が激高する。手塚は顔色を変えた。
「な、なん」
「ぐちゃぐちゃ言ってないで本人から直接聞けばいいでしょ。それが一番手っ取り早い。あたしなんかに探り入れてないでさあ」
っとに男らしくないんだから。郁の鼻息は荒い。
手塚は狼狽した。
「なんで柴崎の名前がここに出てくるんだ」
「ばっか。あんたがお返しのことまじで悩んであたしに相談までしてくるんなら相手は柴崎しかいないっしょ。ばればれだよ、んなの」
ぼぼぼぼぼ。音を立てて手塚の顔から火が出た。
まさかまさか、郁にばれていたとは。晴天の霹靂。
「うわ、わっかりやす~い」
「み、見るなよ」
完全に優位に立った郁は、意地悪く手塚に絡む。
「柴崎に見せてあげたいわ。今の可愛い手塚を」
「~~」
我慢しきれず手塚は椅子を引いた。戸口へどかどか大またで向かう。
「あれ、どこ行くの」
「トイレだ! 文句あるか」
噛み付くように怒鳴ってドアノブに手をかけた、そのタイミングで、
「こんにちはー、笠原います?」
ドアが開き、柴崎が現れた。手塚と鉢合わせする。
「!」
顎が外れるほど驚愕したのは手塚。ぴょんと5センチは優に飛び上がる。
「あれー、グットタイミングだね柴崎」
にやあああ。人の悪い笑みを絵に描いたような郁の顔。
「グットタイミング?」
柴崎が小首をかしげる。柴崎の耳に入ってはまずい。
「わっばか」
混乱した手塚は目の前の柴崎の口を手でふさいだ。柴崎の目が大きく見開かれる。
「あっすまん」
慌てて今度は彼女の耳を両手でふさぐ。いきなりの接触に柴崎はなすがままというか、呆然としている。さすがに郁があきれて、
「……手塚あんたパニクってるからってべたべた触りすぎ」
「うるさい!」
逆切れして郁を一喝。そして手塚は柴崎の肩に手を回し、強引にドアの外へ促す。
「ちょ、ちょっとなんなの」
困惑しきった顔で柴崎が手塚を仰ぐ。訳がわからない。
自分が何のタイミングでこの部屋に来てしまったのか。なぜ手塚は茹蛸みたいになってるのか。
なんで自分に触れる指や手が、こんなに熱いのか。
「いいから」
「だってあたし笠原に用があって」
「保留。頼むから今は待ってくれ」
手塚はそそくさと部屋を出た。柴崎の背中を軽く押して。
柴崎はぶうぶう言いながらも手塚に従った。
ドアが閉まり、後には郁が一人残された。
「ふふーん。まさにグッドタイミングだね」
してやったりの顔で、椅子の背もたれにぐぐっと身を預ける。
心の中グッジョブと自分に親指をつき立ててみせる。
きっと柴崎は追及するだろう。自分が来る前、なんのやりとりをしていたのか。
あの柴崎のことだ、手塚が言い逃れできる余地はない。
「がんばれ、手塚。何がほしいのかは直で本人に聞くのが一番よ」
ハッピー・ホワイトデーになるといいね、と郁は誰にともなくつぶやいた。

(fin)

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2 コメント

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郁ナイス!! (yasumo)
2011-05-20 16:04:43
今回郁ちゃんナイスな仕事しました!!
と思います。
返信する
ありがとうございます (あだち)
2011-05-21 08:48:51
>yasumoさま
はじめまして。コメントありがとうございます。
でも、うちの郁ちゃんは脇に徹して手柴をプッシュすることが多くてなんだか申し訳なく感じるのです… 
返信する

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