世界の移民政策、移住労働と日本

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イギリスの移民政策: インド・レストラン業界、コック不足解消に一歩前進

2008年09月11日 | ヨーロッパの移民政策
イギリスはここ5年ほど、大掛かりな移民政策の転換とそれに伴う行政改革を行った。この改革は、1990年代に爆発的に増えた難民申請に対応できず、システムがパンクし、自国の入国管理システムが崩壊する寸前までいたったところに(明らかに崩壊したとコメントする研究者や政治家もいたが)起因する。ポイントシステム、高度人材枠、農業に従事する季節労働プログラムなどのさまざまな受け入れ枠を導入し、この世界では関係者からその斬新さと合理的アプローチに賞賛の声があがっている(といっても移民政策が100%パーフェクトであることはありえないのでいろいろ批判もあると思うが)。

改革の全容は内務省のウェブサイトをみていただくこととするが、従来コックの受け入れスキームとなっていた1)業種別枠(セクタースキーム)、2)職務研修・見習い枠、3)ワーキングホリデーなどが全面的に見直された。あくまで短期の受け入れであるこれらの枠を利用した外国人労働者のうち、ヴィザが切れてもオーバーステイするケースが多く見られた国籍グループからの受け入れは、特に制限されることとなった。ここに南アジア諸国も含まれる。EU労働者の優先受け入れもEU域外労働者の就労機会を大きく減らす原因となった。

すでにご存知の方も多いと思うが、イギリスのインド料理レストランの大半はバングラデシュ人によって経営されている。ロンドンに限らず他の地域でも同様だ。↓の記事を読んだ最初の感想としては、このニュースは実はインド人より、バングラデシュ人コックにとって朗報なのだということだ。

実は私がバングラデシュに住んでいた時のアパートの家主はイギリス在住で、ロンドンのバングラデシュレストランオーナー協会の会長だった。よくダッカに来ては、「コックがいなくてとても困っている、イギリスの内務省にも、駐バングラデシュイのギリス大使にも申し入れをしているのだけれど、さっぱりた。イギリスの入管はポーランド人を雇えといわれるけれど、ポーランド人は南アジアの料理なんてわからないし、スパイスに巻かれて逃げてしまうよ」とこぼしていた。

実際に不足している人材を海外に頼ること、特にエスニックレストランにおける勤務は特殊技能として外国人の就労が比較的認められやすい分野であることは確かだ。ただ残る大きな課題ははその就労環境だ。バングラデシュからイギリスに呼び寄せられるコックたちの賃金はいくらだろうか。イギリスで5年働けば永住許可が下りる。それを悪用してただ働きを強いるレストランオーナーが後を絶たないのも確かで、それがイギリス政府がコック受け入れを凍結する大きな理由でもあった。呼び寄せられるコックとしても、賃金が払われなくても、衣食住だけ面倒みてもらえるならば5年間ただ働きをしてでもイギリスの永住権が欲しいのが本音であろう。ただイギリス政府としても、国内で賃金の払われない強制労働のような事態が起きていることを許容し続けることはできない。だからこそ、今回のコック受け入れ再開は、一定の賃金水準の遵守という条件つきなのだ。途上国から夢みてやってくるコックが労働者として人として一定の水準の生活が送れるような賃金設定が望まれる。

英インド・レストラン業界、コック不足解消に一歩前進
2008/09/10 Wednesday 14:34:19 JST

ボイスオブインディア

〈ロンドン〉イギリスにおいて今や35億ポンド(約6613億円)産業となっているインド・レストラン業界は9日、ほっと一息ついたはずだ。イギリスの移民諮問委員会(MAC)の発表によると、IT分野ではインドを含め非欧州連合国の人材に対して門戸が閉ざされるものの、熟練コックに関しては欧州連合国以外からも雇えることになるからだ。

イギリスでのインド・レストラン業界はこれまで、深刻なコック不足で青息吐息の状況だった。移民法改正のあおりを受け、インド本土からコックを雇うのが難しくなったため、多くのレストランが閉鎖に追い込まれてきたのだ。

ロンドンとグラスゴーではレストラン経営者と従業員が大々的なデモを行って窮状を公に訴えたこともあり、内務省の移民諮問委員会は「熟練コック」を人材が不足している職業の一つとしてリストに登録した。

それによりレストラン経営者は今後、インド本土からコックを雇い入れることが可能になる見込みだ。

移民諮問委員会のキース・ベスト委員長は、非欧州連合国のコックの雇用に関して法を緩める手続きが進行中であることを明言、「熟練コックが人材不足リストに登録されたことを喜ばしく思っています」と歓迎の意を表した。

「ただし、法改正によって、熟練コックを雇い入れることが逆に負担になるといった状況が生まれるのを避けるため、現在レストラン経営者を対象にヒアリングを行っています。“コックの最低賃金を一時間8.10ポンド(約1550円)にする”という条項は、経営者にとっては厳しいかもしれません。業界のニーズに合わせられるよう、さらなる折衝が必要となるでしょう」と委員長は、業界の再活性化を支援するため、建設的かつ慎重な検討が必要であることを強調した。

委員長によると、イギリスのインド・レストラン業界では現在、「数千人」の熟練コックが不足しているという。




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3 コメント

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勉強になります。 (udon102)
2008-09-14 09:15:23
どこを読んでもためになります。ブログの内容が本になったら、買います。

私は日本語教師をしていまして、国内の外国人と関わる仕事をしているので、移民の問題には興味があります。

今、インドネシア介護士、看護師のことについて勉強をしています。

受け入れに反対する立場、日本の看護師団体の皆さんの言うことは当然だと思います。外国人を入れるより、まず自分たちの待遇の改善が先、ということ。

世界ではどう対応しているのでしょう。

もし、「そのことはここに書いてあるから読め」というのがあれば、教えていただければと思います。

すみません、不躾に。

よろしくお願いします。
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市場テスト (ブログ管理者)
2008-09-14 11:37:23
移民を送り出す国の現状や世界の移民政策の傾向についての情報をまとめることで、日本の移民政策議論に一つのアングルを提供できれば、というのが本ブログの趣旨です。

お問い合わせの看護師の受け入れの問題ですが、受け入れするのもしないのも受入国の裁量で、マーケットの状態をみながら臨機応変に対応するのが基本だとおもいます。フィリピンや中米諸国などから一時大量の看護師を雇用したイギリスも、ここ数年は外国人雇用を凍結しています。看護師が足りているのかいないのか、定期的に市場テストなどを行うことで、需給を計ることでそれは可能でしょう。

適切な移民政策・外国人労働政策を実施するには、ただ門戸を開けばよいというものでもありません。開けたり閉めたり、手間隙とお金がかかるものです。
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ありがとうございました。 (udon102)
2008-09-16 19:37:26
適切なご回答ありがとうございました。
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