紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【桜玉吉】の物語を追う[御緩漫玉日記編・後編]

2011-03-21 22:20:03 | ○○の物語を追う
前編からの続き


  玉吉、緊急入院



2005年1月3日。
玉吉は手術台の上で丸いランプを見ていました。
病名は「急性腹膜炎」。
手術した医師によると、「桜さんこれあと一日来るの遅かったら…」ということで、
それほどの急性だったようです。



ぼんやりしているうちに三時間ほどで手術も終わってしまい、
玉吉が混濁した頭で最初に考えたことは「しまった。せっかくの大ネタなのに」ということでした。
仕事熱心なんだかなんなんだか…。

あまりの急展開に気持ちが追いつけなかった玉吉でしたが、
リアルはその日の深夜にやってきます。



ものすごい画で、その日の深夜に訪れたリアルを表現する玉吉。
とにかくものすごくパニクったのだということは伝わってきます。

こうして、玉吉の2005年は始まったのです。



結局、一か月あまりの入院生活の末、玉吉無事退院!
死ななくてよかったですねぇ、本当に。


  脳内彼女の白鳥さん

作品上唐突に始まったこの「入院編」ですが、これまた唐突に登場してきた
新キャラクターがいました。



その名も「脳内彼女の白鳥さん」。
なんと、このコマが初登場です。前振りもなくさらっと登場しているのです。
ぱそみちゃんと破局したショックでいよいよ玉吉もおかしくなったか?
と思いきや、この白鳥さんはその後どんどんと謎の存在感を発揮していきます。



入院している玉吉のもとへ来ていちゃいちゃする白鳥さん。
まぁ、「脳内彼女」なので玉吉の妄想なのでしょう。微笑ましいですね。



手術の承諾書のため、玉吉の姉に連絡をとってくれる白鳥さん。
ん、あれ?
玉吉の妄想彼女のはずなのに、玉吉以外の人間にも関与しはじめたぞ…。



玉吉が無事退院してからも白鳥さんは登場します。
あれ、入院編だけの限定キャラじゃなかったのか。玉吉もひっぱるなー。

 今おつきあいをしている人です。 絵は全く似ていません。

・・・って、あれ?
「脳内彼女」のはずが、いつのまにか玉吉がリアルに付き合ってる人扱いになってる白鳥さん。



玉吉の仕事場にやってきた白鳥さん。
玉吉はちょりその白鳥さんに対してのリアクションをしきりに気にします。

おいおい、これはやっぱり・・・

そうなんでしょう。
多分、白鳥さんは玉吉にガチに出来た新しい恋人なのでしょう。
ただ、ぱそみちゃんとの思い出も未だに漫画としては消化しきれないでいる玉吉には、
「妄想彼女」という登場のさせ方でしか表現できなかった、とか。

で、ちょっと心の余裕ができた頃に、さらっと白鳥さんを「脳内彼女」から
「今おつきあいをしてる人」というポジションに移動させたのではないでしょうか。

むむ、ぼやかしすぎてよくわかりませんが、ともかくよかったですね玉吉先生!


  娘とのエピソード

娘さんとのエピソードは、本編中ではなく主にコミックビーム宣伝四コマで描かれます。
娘エピソードは基本微笑ましいものばかりで、鬱々殺伐とした漫玉に生まれたオアシスのようです。
(ファミ通に連載されてた4コマなので厳密には漫玉じゃないですが、漫玉の単行本には収録されてます)
これ見てちょっとほっこりしましょう。


2005年春。
娘の中学校入学式の話。
そうか、もう中学生かー。


娘とその友達の話。
娘たちも玉吉も年齢に合わずガキっぽいというエピソードです。


娘のクリスマスプレゼント用に買ったPS3を自分用にガメる玉吉。
ひでー。


  ペンネーム変更



ある日、玉吉はO村から本名の字画が最悪だと言われていまいます。
本名もそうだけどペンネームの「桜玉吉」の字画もかなり下の方だと言われ、
これに異様に頭にきた玉吉は、「今月をもってビーム誌上で桜玉吉ってペンネームやめた」と宣言。



なんと、O村の本名である「奥村勝彦」をペンネームとして名乗ります。
子供のケンカかっ!



そして始まる「奥村勝彦」名義での連載。
でもなんか作風が絶望的に変わってるんですけど、玉吉…じゃなかった、勝彦先生ェ・・・



たかが名前。されど名は体を表すとも云う。
玉吉は奥村勝彦と名乗ることでその名と同化してしまい、それが漫玉の急激な作風の変化に
つながったのでした。
あらためて「奥村勝彦」という名を恐ろしく感じる玉吉。

ペンネームを変えてからというもの、玉吉に不幸が立て続けに襲い掛かります。



その不幸のひとつとして、これまたさらっと、白鳥さんと破局していたことが告げられます。
「奥村勝彦」に夢中で白鳥さんをほったらかしにして、久々かかってきた電話も
修羅場中でぞんざいに扱ったら、二日後メールでフラれたのだとか。

いやいや、それべつに「奥村勝彦」のせいじゃねーから!
って、それよりも白鳥さんに言いよってた「あのヒト」が、たまにTVに映る人でしかも妻子持ち
ということの方が気になります・・・。



玉吉をフッた白鳥さんは、後日仕事場にあらわれて「やはりあなたを見すてておけない」と告げますが、
玉吉は「それは無理」ときっぱり拒絶。以後、白鳥さんは作品に登場しなくなります。
結局、最後まで白鳥さんなる人物が何者なのか明かされることがないままでした。



と、これまで負の連鎖のように続いた一連のペンネーム騒動は思わぬかたちで幕を下ろします。
O村の「こいつの字画最悪」で幕を開けたこの騒動、O村は玉吉の本名である「野澤」を
「野沢」として字画を調べていたのだ。
それに気付かない玉吉も玉吉ですが、それはさておき、もし「野澤」の字画が良かった場合、
これまで玉吉が心に深いダメージを負ってまで続けてきたネタがすべて茶番になってしまう
じゃないですか!

おそるおそる、O村に「野澤」で字画を調べ直してもらう玉吉。

O村 「おっ!いいじゃん!やったな! 野澤だといいんでやんの。良かったな!」
玉吉 「わあ~い、やったあ!んじゃボク最低じゃないね!なら奥村勝彦いらないから返すよ」
玉吉 「んで、オレの漫画どー落とし前つけるつもりだコラ!?」
O村 「そんなこた てめえで考えろボケ」


この一連の騒動で心に深いダメ―ジを負った玉吉は、「しばらく死んできます。放っておいてー」と
オチを付け、「もうこの件については何も考えない事にした」と騒動をしめくくりました。


  深く過去を振り返る作風

ペンネーム変更騒動終了後の【御緩漫玉日記】の作風は急激に変化しました。



深い過去を振り返る作品になってしまったのです。
今まではトクコ篇など、すこし前を振り返る作風は合間に挟んだものの、
基本的には現在進行形とでもいうような日記漫画の体をとっていた漫玉が、
ペンネーム騒動後は、玉吉の小学生の頃や高校生の頃など、より深い過去へと
埋没していくような作風となりました。



絵のタッチも荒々しくなって、少し見づらくなった感じがします。
思い出したようにトクコ篇を少しやったりもしていましたが、長続きはせずに
やはり深い過去の話が描かれました。



そして、ある回でついに・・・





玉吉、ついに連載リタイア・・・
長期のお休み決定!

最終回で、自身の漫画作業について語ります。

玉吉いわく、無意識の自分が反逆して漫画を描いているのだそうです。
奴(無意識の自分)は解き放たれた「自由な人」で、社会性も客観性も希薄。
玉吉が嫌悪してフタをした自分の中の嫌なものが時間をかけて発酵したレアで
ギトギトしたものが奴の正体、なのだそうです。

解き放たれた人は時に大傑作の音楽を造るけど、解き放たれた人が描く漫画は
絶望的につまらない。やはり、漫画は自律してナンボのようです。


玉吉としてもそれはわかっているのですが、「奴」は締め切りの最後の最後で
しゃしゃり出てきて出来てるネームを書き直したり、絵にホワイトを塗りたくったりします。
一度、締め切り当日に完成してた線画のCGイラストの男女十数人の中から二名の男女を選び
コテコテのスーパーリアリズムで描き直されていたことがあり、玉吉はこれを目の当たりにしたとき、

「休もう。」

と決心したのだそうです。



見開きで「ご免」と謝る玉吉。
今度戻ってくる玉吉は、「奴」の方だったりして…
と怖いことを併記していた玉吉でしたが、御緩漫玉日記の連載が終了した2007年1月から
はや4年余りが過ぎた現在において、桜玉吉の次の連載は始まる素振りがありません・・・。

玉吉先生ェ、我々は4年待ちました!
いまでも復活を信じて待ってます・・・ッ!


  現在の桜玉吉

2011年3月21日現在、コミックビームには桜玉吉の姿はありません。
イラストの仕事はちょくちょく引き受けているようで、
たとえば、2009年には「月刊アニメージュ」の連載企画「中村悠一がバルキリーをプロデュース」
という企画で、【マクロスF】の主人公の声優をつとめた中村悠一さんの要望によって
イラストを描く玉吉の姿がうかがえます↓

アニメージュ合同プロジェクト 中村悠一さんがバルキリーをプロデュース


また、ファミ通にて隔週くらいで掲載されるコミックビームの宣伝4コマをちょいちょい描いています。



これはファミ通2011年3月10日・17日合併号に掲載された4コマ。
すくなくとも、この時点ではかろうじて生きていることがわかります。

イラストや4コマでは収入も細々としたものになってしまうでしょうが、
それしかできていないということは、やはりまだ「奴」を飼い慣らしていないということでしょうか。
うーむ・・・。

と、まあこんな感じで現在の玉吉に追いついてしまったため、この記事はひとまず完結ということになります。
ですが、桜玉吉が復活したあかつきには、この記事の続きも書けることでしょう。
桜玉吉の物語はまだ終わっていません。
これからも、まだまだ続いてゆくのです!

【2012.3.21 追記】
コミックビーム2012年4月号の
「LIFE with YOU,3.11 ~ともに生きよう3.11」という特別企画にて、
桜玉吉の5年ぶりとなる新作が発表されました。
東日本大震災が起こった2011年3月11日の玉吉の様子を
描いた20ページの日記漫画です。

そこには、元気に走り回る玉吉の姿が・・・!



・・・。
あんまり元気そうじゃないかもしれません。

この作品の最終頁には、「玉吉さんは近日中に再登場の予定であります!」
と編集注があったので、完全復活間近!?
待ってます!


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21 コメント

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Unknown (taka)
2011-03-24 22:11:31
更新お疲れ様でした。
なんだか切ない気分になりました。

そうか……玉吉さんの娘さんって恐らくもう
19歳くらいになってるんですよね。

しあわせのかたちの
「娘さんが初めてパパと呼んでくれた」ネタを
思い出すと隔世の感がありますねー。

御緩はトクコさん話がほぼぶった切りなのが
かなりもったいない気がしました。
あの作風を突き詰めたらまた別のジャンルに
なりそうだったのに……。
返信する
Unknown ()
2011-03-26 00:22:30
更新終わったと同時にさびしくなりました・・・。
玉吉先生ェ・・・。

>娘さん

それくらいになりますよね。
ビーム宣伝4コマで、娘さんが玉吉先生の漫画を読むようになった
とかで「しあわせのかたち」を読んでましたけど、
その他の漫画を結局娘さんが読んだのかが気になります。

>トクコ篇

玉吉先生自身も、新しいことにチャレンジしたのがあのシリーズでしたね。
たしかにもったいない!
結局、負の力に飲みこまれてうまくいかなかった
わけですが、克服できるといいんですけどね、負の力を。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-09-02 07:42:52
桜玉吉先生まだ復活してないのかな?ってググッたらこちらに辿り着きました。そっか~まだ休養中か・・残念。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-09-08 01:40:04
隔週か月1ぐらいのペースで
週刊アスキーに漫画載ってますよ!
「ゲイツちゃん」がキーッ!ってなる漫画。w
返信する
Unknown ( )
2011-09-10 16:36:52
生きてるならそれでいいさ
返信する
Unknown ()
2011-09-11 01:35:16
たしかに、生きているならそれだけで充分・・・。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-09-14 01:43:06
調布のコンビニで働いてた時、玉吉さん特定したけど
父親の不幸で実家に戻ってはや数年
元気にしてるかなあ・・・・・
返信する
Unknown (01)
2011-09-18 17:07:02
読者や知人・家族等色んな人から愛されてるのにそれに気付かない傾向があるのが罪深い。
幸せの形が完成していたのに、それに疑問をぶつけ自分で壊してしまう事で鬱病になっていく過程がよく分かる。
ぺそみちゃんやら白鳥さんみたいに、心に疾患を持ってそうな女に親近感を持ってはさらに泥沼にはまっていくのもせつない。
暗い心の闇のような話の中でO村、ヒロポン、ちょりその友情だけが光っているなぁ。
返信する
Unknown ()
2011-09-18 18:42:32
>玉吉さん特定

やっぱりカルピスソーダ大量に買ってたんでしょうか。
お父様の不幸は知りませんでした。
ファミ通4コマで、とりあえず元気に生きていることはわかりますが。

>鬱

こればっかりはどうしようもないんでしょうね、きっと。
O村、ヒロポン、ちょりその友情は暗い話のなかで光ってますよね。
とりあえず孤独じゃないから救いがあるように思えます
返信する
Unknown (とおる)
2012-02-01 17:33:48
桜玉吉の本が無性に読みたくなり、
最新刊を見逃していないかとたどり着いたは
こちらのページ。

御ゆるり漫玉日記三巻が出ていたとは
つゆ知らず。

返信する

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