【掲載日:平成22年1月6日】
白波の 千重に来寄する 住吉の
岸の黄土に にほひて行かな
「千年殿 先の難波行幸の歌 あれは 徴罰ものぞ 恋女房が 詠われて居らぬ」
鯨魚取り 浜辺を清み うちなびき 生ふる玉藻に
朝凪に 千重波寄せ 夕凪に 五百重波寄す
《靡くよに 清い浜辺に 生える藻に 朝波寄せる 夕方も》
辺つ波の いやしくしくに 月にけに 日に日に見とも 今のみに
飽き足らめやも 白波の い開き廻れる 住吉の浜
《その波みたい 次々と 毎月毎日 見に来たい 今の満足 するだけじゃ
もったいないな 白波の 花が咲いてる 住吉浜辺》
―車持千年―〔巻六・九三一〕
白波の 千重に来寄する 住吉の 岸の黄土に にほひて行かな
《次々と 白波寄せる 住吉の 黄色の土で 服染めようや》〔住吉の黄土は染料として有名〕
―車持千年―〔巻六・九三二〕
「これは したり 我輩とて 女房恋しの 歌ばかしではないわ
金村殿こそ いつもいつも 実直ぶっての歌ばかり
偶には 戯れ歌など ご披露に及んでは 如何じゃ」
「申したな 我輩 そんな朴念仁ではないぞ」
大君の 境ひたまふと 山守すゑ 守るとふ山に 入らずは止まじ
《天領や 言うて締め出し 番置いて 監視してても 入らで措くか》
〔女官にだって 声を掛けるで〕
見渡せば 近きものから 石隠り かがよふ珠を 取らずは止まじ
《覗き見て 近い思ても 岩の陰 輝く真珠 取らんと措くか》
〔女官言うても 物にしたるで〕
韓衣 服楢の里の 島松に 玉をし付けむ 好き人もがも
《庭の松 キナラの里の 名木や 似合う玉欲し 良え男欲しな》
〔ええ女には 似合男が要るで〕
さ男鹿の 鳴くなる山を 越え行かむ 日だにや君に はた逢はざらむ
《鹿でさえ つれ呼び求め 鳴く言うに 旅出るあんた 逢わんといくか》
―笠金村歌中―〔巻六・九五〇~九五三〕
「これは これは これだと 後の世に 我輩の歌かと 取り違えられるやも 知れぬ」
千年は カラカラと 笑う
神亀五年〔728〕着々と進む 難波宮造営工事
検分を兼ねての行幸
従駕の官人たちの 華やぎにつられ
金村も 千年も 浮かれていた
同席の 膳王 微笑みながら 静かに詠う
朝には 海辺に漁し 夕されば 倭へ越ゆる 雁し羨しも
《朝のうち 海で餌取り 夕方は 大和へ帰る 雁羨まし》
―膳 王―〔巻六・九五四〕
明くる 神亀六年〔729〕二月
長屋王の変により 父に連座し死を賜る 膳王
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