【掲載日:平成22年9月7日】
霍公鳥 思はずありき 木の暗の
かくなるまでに なにか来鳴かぬ
家持は 書持相手に 歌作り錬磨に余念がない
「兄上 夏も近い故 題材を『ほととぎす』とし
場面は 『鳴き待ち』としましょう」
霍公鳥 待てど来鳴かず 菖蒲草 玉に貫く日を いまだ遠みか
《ほととぎす 待ってるのんに まだ鳴かん 菖蒲薬玉する 日ィ来んからか》
―大伴家持―〈巻八・一四九〇〉
わが屋戸に 月おし照れり 霍公鳥 心あらば今夜 来鳴き響もせ
《家の庭 月照っとるで ほととぎす せっかくやから 鳴きに来んかい》
―大伴書持―〈巻八・一四八〇〉
霍公鳥 思はずありき 木の暗の かくなるまでに なにか来鳴かぬ
《なんでまた 木ィの茂みが 濃なるまで 鳴きに来んのや なあほととぎす》
―大伴家持―〈巻八・一四八七〉
歌づくりは 書持に一日の長がある
「わしのは どうも見劣りがしてならぬわ
そちの書持の名 強ちでは ないのう
一廉の歌人には そちがなったらどうじゃ」
「何を 言われます
大伴家を 背負って立つは 兄上
始めたばかりの 修錬
弱音を吐いて 如何なされます」
「さあ ほととぎすも 鳴きたく思うておりますぞ」
あしひきの 木の間立ち潜く 霍公鳥 かく聞きそめて 後恋ひむかも
《初聞きは 木の間潜りの ほととぎす 聞いたその声 忘れられへん》
―大伴家持―〈巻八・一四九五〉
何処には 鳴きもしにけむ 霍公鳥 吾家の里に 今日のみそ鳴く
《他所でもう 鳴いてたんやろ ほととぎす やっと此里来て 鳴いてくれたな》
―大伴家持―〈巻八・一四八八〉
卯の花も いまだ咲かねば 霍公鳥 佐保の山辺に 来鳴き響もす
《卯の花が まだ咲かへんで ほととぎす 佐保の山来て 咲けて鳴いてる》
―大伴家持―〈巻八・一四七七〉
卯の花の 過ぎば惜しみか 霍公鳥 雨間もおかず 此間ゆ鳴き渡る
《卯の花の 散るん惜しいか ほととぎす 雨降る中を 鳴き渡りよる》
―大伴家持―〈巻八・一四九一〉
夏山の 木末の繁に 霍公鳥 鳴き響むなる 声の遥けさ
《夏山の 繁る梢で ほととぎす 鳴き響くんが はるか聞こえる》
―大伴家持―〈巻八・一四九四〉
家持・書持 兄弟の絆
歌の遣り取りが 深めて行く
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