【掲載日:平成22年8月31日】
言問はぬ 木すら紫陽花 諸弟らが
練の村戸に あざむかえけり
恋疲れの家持
〈やはり 寄る辺は 大嬢
浮気の虫に取りつかれ 可哀想をした〉
一重山 隔れるものを 月夜よみ 門に出で立ち 妹か待つらむ
《山一つ 離れてるのに 月好から 門出てお前 待ってんやろか》
―大伴家持―〈巻四・七六五〉
路遠み 来じとは知れる ものからに 然そ待つらむ 君が目を欲り
《道遠て 来られんはずと 思うても 待ってはります あんた逢いとて》
―藤原郎女―〈巻四・七六六〉
返し文は あろうことか 大嬢の友からであった
添えられた文に
《恭仁京での 一部始終
坂上郎女さま 殊のほか お冠り
大嬢さまを 竹田の庄へ引き取り
家持様との縁 もはやこれまでと
目下 似つかわしき殿方 お見立て中》
仰天 家持 慌てての問い文
返る便りは 何事無げに
《家持様を お慕い申し
ひたすら お帰りお待ち申しおります
心変わりなぞ とんと心得ぬばかりにて》
人眼多み 逢はなくのみそ 情さへ 妹を忘れて わが思はなくに
《人眼避け 逢わへんだけや 心まで お前忘れて 仕舞たん違うで》
―大伴家持―〈巻四・七七〇〉
偽りも 似つきてそする 顕しくも まこと吾妹子 われに恋ひめや
《嘘つくん 尤もらしに 言うもんや 真実にお前 わし好きなんか》
―大伴家持―〈巻四・七七一〉
夢にだに 見えむとわれは ほどけども 逢はずし思へば 諾見えずあらむ
《夢でもと 思てるのんに 逢わんとこ 思てんかして 夢出て来んわ》
―大伴家持―〈巻四・七七二〉
家持 恭仁の地にて 名うての占い師に
大嬢の心 如何にと 問うてみる
言問はぬ 木すら紫陽花 諸弟らが 練の村戸に あざむかえけり
《紫陽花も 色変えるのに 占い師 心変ってへんて 言うのん嘘や》
―大伴家持―〈巻四・七七三〉
百千たび 恋ふと言ふとも 諸弟らが 練のことばは われは信まじ
《百千も 恋してる言う 占いが 出てもこのわし 信用せんで》
―大伴家持―〈巻四・七七四〉
竹田の庄
坂上郎女 大嬢 藤原郎女が 集うていた
「占い師の諸弟 うまくやってくれているかのう
少しは 家持殿 懲りたであろうか」
何知らぬ 家持の困惑顔を思い
笑み交わす女三人
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