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特集:日銀包括緩和、社債買入れでは「歪み」発生との指摘も

2010-12-08 19:42:49 | 日記
 [東京 8日 ロイター] 日銀が打ち出した基金による資産買い入れは、これまでのところリスクプレミアムを縮小させることに成功している。不動産投資信託(J─REIT)の利回り水準は、リーマン・ショック前の水準まで戻った。

 ただ中央銀行がリスク資産を購入するというインパクトは大きく、社債などでは金利形成をゆがめているとの批判もある。リスク資産価格の上昇が実体経済にどのような影響を与えるかというトランジッション・メカニズムも明確ではなく、「正常化」なのか「歪みの形成」なのか評価は定まっていない。

 <J─REITは正常化との見方> 

 日銀によるリスク資産買い入れのアナウンスメント効果が鮮明になっているのはJ─REIT市場。東証REIT指数は、日銀がJ─REITの買い入れを表明した10月4日の安値から12月8日の高値まで約12.7%上昇。これは同期間の日経平均の上昇率9.6%を上回っている。

 J─REITの買い入れ額は500億円と事前予想を下回り、市場からは失望する見方も出たが株価の調整は一時的だった。「日銀がJ─REITを保有する行為は実質的に中央銀行による保証とも取れる。直接的な需給への効果より市場に与えた安心感の方が大きい」(野村証券の荒木智浩アナリスト)という。 

 買い手は地銀、生保などの国内金融機関や投資信託とみられている。国内金融機関は手元資金を潤沢に抱えている一方で、企業の資金借入需要が低迷していることから、余剰資金をこれまで国債や社債に振り向けてきたが、極端な利回りの低下を受けて、相対的に高利回りのJ─REITに目を向け始めた。「現物の不動産市況が必ずしも良い状況とは言えず、運用担当者が上層部を説得してJ─REIT購入に踏み切る理論武装が不足していたが、日銀の買い入れ表明は格好の材料になった」(みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏)との見方もある。

 日銀では格付けが「AA」格相当以上のうち信用力などに問題がない銘柄を購入するとしているが、実際は「A」以下の幅広い銘柄に買いが入っている。東京海上アセットマネジメント投信や野村アセットマネジメントなどによるJ─REITファンドの設定が相次いだこともREIT市場全体を下支えした。

 公的機関による市場介入は、正常な価格形成をゆがめるとの指摘もあるが、現状は過度に拡大したリスクプレミアムが低下している途上との見方が多い。8日現在、J─REITの加重平均利回りは約4.8%。一方で10年国債利回りは約1.2%であり、イールドスプレッド(分配金利回り―長期金利)は3.6%と依然高水準だが、リーマン・ショック前の水準に戻っている。

 米国では、REITのイールドスプレッドがすでにゼロ近辺で推移している。米国REITの場合は、付加価値の高いデベロッパー機能などが含まれ、成長期待のプレミアムが付いているため、単純比較はできないが、「J─REITのトラックレコードをみても過去には2%台のスプレッドが長期間続いていた。スプレッド3%割れまでは買われる余地がある」(野村証券の荒木氏)とみられている。 

 <日銀社債買入で歪める金利形成、官民の債券利回りに逆転現象> 

 日銀が12月3日に初通告した社債等買入オペ。「運用難を助長させるような政策だ」とある大手生命保険の債券担当者は評する。投資家はカネ余りで運用難にあるため、日銀が社債購入者となれば、需給をますますひっ迫させるという。魅力ある運用対象が少なくなることへの不満が出ている。

 買入対象は、社債でBBB格相当以上、残存1─2年かつ信用力その他に問題のない銘柄。オペ結果は最低落札利回りが0.151%、平均落札利回りが0.185%。新発2年国債利回りの3日引け値0.185%を踏まえると、銘柄によっては国債利回りとほぼ同水準、もしくは下回るという通常ではありえない水準で売却されたと推測がつく。 

 応札額も2698億円と落札額1000億円の約2.7倍にとどまり「市場参加者が低い利回りで入らないとみて応札したら、オペに入ってしまった面もあるのではないか」(国内金融機関)という。

 BNPパリバ証券・チーフクレジットアナリストの中空麻奈氏は「金融マーケットが混乱していれば、買い取ってもらいたいという需要が生まれるが、現状は信用不安が高まるなど本当にクレジットを買い取ってもらいたい局面にない。積極的に応札しようとするインセンティブが働きにくい」とオペを分析する。 

 クレジット市場では、日銀が10月5日の金融政策決定会合で社債買い入れを打ち出して以降、社債のリスクプレミアムが縮小することを見越した取引が目についた。実際に残存期間が短い大手電機メーカーの社債が国債を下回る利回り水準で取引されるなど、いわゆる官と民の債券間で利回り逆転現象が発生している。「既発債のスプレッドをさらにタイト化させるだけにとどまらず、新発債のスプレッドも必要以上に押しつぶした。日銀が目標とする信用リスクプレミアムの縮小が限度を越え、信用リスクに見合ったスプレッド体系が崩れた」(投信投資顧問)として、マーケット機能の歪(ゆが)みを懸念する声もある。 

 投資家が本当に買い取って欲しいのは、武富士の経営破綻の余波を受けて信用不安が顕在化した消費者金融銘柄をはじめ、財務リスクが根強い銘柄だ。三井住友銀行・キャピタル・マーケット・アナリストの上雅弘氏は「日銀は包括緩和で量を選択せずに質で勝負した。社債買入オペはクレジットスプレッドの縮小を通じて一定の効果を期待できるが、一方で買入基準が厳しいためオペ効果を低減させているのも事実。資金調達環境が厳しい企業に資金が行きわたりにくいという点で、もう少し改善余地があったのではないか」とみる。 

 日銀は12月10日にコマーシャルペーパー(CP)等買入オペ1000億円を通告する。社債同様に残高を5000億円程度まで積み上げる計画だ。ただ、買入対象となる日銀適格担保の範囲でa─2格相当以上の格付けを持つ企業の資金繰りに大きな懸念が発生していない中で、その効果を疑問視する声が出ている。日銀が包括緩和の一環で打ち出した社債やCPの買入オペだが「回数をこなすにつれて、応札額が買入額に届かない札割れが常態化する可能性も否定できない」(国内金融機関)との声がささやかれている。 

 (ロイター日本語ニュース 河口浩一、星裕康、片山直幸、編集:伊賀大記)

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