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2013年01月15日 | フィギュアスケート
 スターズ・オン・アイスの番宣番組としてテレビ東京が事前に制作した番組に関しては語る言葉を持ちません。
 スターズ・オン・アイスに出演している海外のスケーター、日本人も含めた世界選手権の過去の優勝者である現役選手(1名除く)に対してリスペクトのかけらも無い内容。失望しました。スタジオゲスト全員に幻滅。
 こんな下世話な番組を見て喜ぶのはこの番組で唯一持ち上げられている女子選手のファンだけです。失礼にもほどがある。テレビ東京ってこんなに程度の低い局だったんですか。

 しかし本題はそこではありません。
 バンクーバー五輪の時もそうでしたが、どうしてこの選手には高い点数が出るのか。なぜ高難度のジャンプを何度も跳んだのに点数が伸びないのか。こうした報道が繰り返されますが、それに対してメディアは明確な答えを与えることをしません。
 日本には国際スケート連盟(ISU)に指定され、実際に大きな国際大会で審判を務める人もいますが、彼らを呼んで詳しい解説を行ったり、そもそも基本であるフィギュアスケートのルールを一から解説するような報道が行われたことは、私の記憶する限り皆無に近いです。

 もちろん限られた報道時間の中でルールを説明するのは無理があるでしょうし、フィギュアスケートのルールは一見したところでは非常にわかりにくいものがあります。試合の解説でも解説者がそれを話そうとする前にゲストの芸能人のどうでもいいコメントに尺を取られたり、減点箇所を指摘しただけで、ある特定選手のファンから苦情がテレビ局や解説者に殺到するようでは、指摘できるものも指摘できないでしょう。

 フィギュアスケートに限らずある採点競技でもテレビ局が注目していた日本選手が3位になった時の夕方のニュース番組での報道はこんな感じでした。

 「××は着地まで完璧に決めた美しい演技をしましたが、『なぜか』得点は伸びず3位でした」

 その『なぜか』の部分を解説するのが報道の役目ではないのでしょうか。これでは不当に低く採点をされたように視聴者は受け取ってしまいます。
 その結果、やはり「採点競技は審判の主観が入るから順位なんてどうとでもできる」とネガティブなイメージを持たれてしまいます。

 報道の仕方ひとつで、競技にマイナスイメージがつくことに対して、フィギュアスケートの関係者はどれだけの危機感を持っているでしょうか。

 2002年のソルトレイクシティ五輪ペアでは、ベレズナヤ&シハルリゼ(ロシア)がフリーでわずかなミスをしたにも関わらず、ノーミスだったサレー&ペルティエ(カナダ)を押さえて優勝したことに対して、不正判定疑惑があるとして、北米メディアを中心とした盛大なバッシングが起こりました。
 結局不正を行ったとされるフランス人ジャッジが後日その行為を否定し、騒動はうやむやのままに終わり、ISU(国際スケート連盟)はロシアペアの金メダルを剥奪せず、カナダペアにも金メダルを授与することで丸く収めようとし、問題は解決されないままになっています。

 北米メディアは連日この不正疑惑を取り上げたため、フィギュアスケートに対する注目度は大いに上がりましたが、それは「フィギュアスケートは五輪という大きな舞台でも不正判定を行う競技である」というネガティブ・キャンペーンにほかなりませんでした。
 「実際に不正があったのか。ロシアペアの演技は優勝に値しないものだったのか」はこの際問題視されません。競技に詳しくない一般の視聴者には「フィギュアスケートは不正が起きた競技である」というイメージだけが先行します。
 
 その結果、北米ではフィギュアスケート人気は凋落しました。

 当たり前です。「どうせ不正があるんでしょ」と思われた競技を誰がまともに扱おうとしますか?
 誰が興味を持って見ようと思いますか?応援する気になりますか?

 「正義は為されるべきだ」として北米メディアの扇動に乗った北米フィギュアスケートの関係者たちは、結果的に自分たちで自分たちの首を絞めました。

 これだけが理由とは言えませんが、アメリカの2大アイスショーの一つ、チャンピオンズ・オン・アイスが倒産。
 スターズ・オン・アイスも年々公演数は激減していき、冠スポンサーだったスマッカーズもスポンサーから外れました。
 グランプリシリーズのスケートアメリカは例年観客が少なくガラガラ。ロサンゼルス開催だった2009年世界選手権は、アメリカでの放映権になかなか買い手がつかず、ISUに嫌味を言われる始末。
 こんな状況で現役を続けても、プロスケーターに転向しても、全く旨味がないから、アメリカの現役選手たちは全米出場の成績を手にIBリーグへの進学を狙い、大学進学と同時に学業を優先してフェイドアウトする選手がほとんどです。
 男子シングルでバンクーバー五輪金を取ったエヴァン・ライサチェクも実際のところ北米でのフィギュアスケート人気の回復には貢献できず、中途半端な位置にいます。
 長い間アメリカ女子をけん引してきたミシェル・クワンもサーシャ・コーエンもスケート界から徐々に距離を置きだし、セカンドキャリアへの道を歩み出しています。
 現役でもプロでも道が無い。スター選手となれる存在も道半ばでフェイドアウト。この状況で競技を盛り上げていくのは至難の業でしょう。
 

 さて翻って日本の状況です。
 フィギュアスケートは現在、空前のブームだったのがバンクーバー五輪の結果でやや落ち着いて下降線に入っている状況ですが、ソチ五輪に向けてもうひと儲けしたいメディアにとってはこの競技を消費しつくす最後のチャンスです。
 彼らとスポンサーがお気に入りの選手が勝ってくれれば文句は無いでしょうが、そうでなかった場合、バンクーバー五輪の時同様、お気に入りの選手が勝てなかった理由を、その選手に原因を求めず外部要因に責任転嫁するだろうというのが現状の報道からは目に見えています。五輪の結果だけでなく今後試合が行われるたびにこの報道は繰り返されるでしょう。
 多くのスポンサーがついている彼女の商品価値をソチ五輪までは落とすわけにはいかないでしょうから。

 そうなると「この競技は不正が横行している。勝たせたい選手は最初から決まっている。それ以外の選手には不利なルール、採点が為される」という報道が繰り返し繰り返し、視聴者には刷り込まれることになります。
 これを訂正し採点について正しい解説をしなければいけない責任は、まず第一にJSF(日本スケート連盟)にあると思いますが、そのJSFがこうした報道に迎合しているきらいがあります。
 解説を務めている現役コーチもJSFの意向を無視することで、自分の教え子に迷惑がかかっては困るのか、口を濁し曖昧な発言に終始するか、もしくは積極的に不正判定があるようなことを匂わせ競技のマイナスイメージを広げることに加担しています。
 2002年のソルトレイクシティ五輪の時の北米の関係者と何が違いますか?

 メディアは別にいいんです。彼らは視聴率の取れる、話題になる、スポンサーを引き連れてくるコンテンツがあればそれでいいのであって、フィギュアスケートがそうでなかったら、また別の新しい何かを持ち上げるだけ。
 持ち上げたら落とすのが常とう手段ですから、おそらく見切りをつけたら積極的にフィギュアスケートのネガティブイメージを広めてくれるでしょう。

 ですがフィギュアスケートは?
 信用を得るには長い時間がかかるけれど、信用を失うのは一瞬です。

 ソチ五輪の後も競技は続き選手たちはいるんです。
 一時のあぶく銭のために競技そのものの未来も捨てますか?
 マイナー競技であるこの競技を有名にし、その人気を永続的なものにして、競技振興のためにスケートリンクの存続活動やチャリティ、スケート教室を開いたり、ショーで滑っている多くの選手やプロスケーターの努力を無にするつもりですか?

 「なんでこんな点が出るのかわからない」「この件に関してはノーコメント」
 国際大会に日本代表として出ていたのにもかかわらず、競技者としての矜持のかけらもない、同時代で戦っている選手や競技に対するリスペクトも全く感じられない、こんな人間のコメントを野放しにして、陰謀論者を調子づかせる前にISUもJSFもきちんと点数が出る理由を説明すべきだし、メディア出演する関係者にも発言に対する自重を求めるべきです。

 仮に本当に不当な判定があったのだとしたら、きちんとその証拠を揃えしかるべきところに訴えるべきでしょう。
 曖昧な印象操作で世論を誘導することがどんなに姑息で卑怯なことなのかわかっているのでしょうか?
 それによって被害をこうむる選手を作り上げるなんて本来あってはならないことです。
 自分がしていることがどんなに恥知らずなことなのかを認識すべき。
 

 現在の特定選手に肩入れするばかりに、日本の国内外問わずほかの選手を貶め、不正があるようなミスリードを行う報道は、競技の未来そのものを殺します。
 すべてが手遅れになる前に修正をかける必要があるでしょう。

 
 一人の選手と一緒に競技そのものも心中させるつもりですか?