昼、病院に戻る。
夜までやることはない。
週末だったこともあって
午後から友人が大量にやって来るとのメールが入る。
ダイバーヨッパちゃん、チンさん、チンさんの妻みちゃえ、その友達アヤちゃん
わたしの高校時代からの友人ナオコ、そして最後に学くん。
学くんはわたしが緊急連絡先に指定したので
止む無く携帯電話を持つことにしたのだった。
携帯ショップで契約を済ませてきたと言う。
それまで携帯所持を頑なに拒否してきたのだが観念したらしい。
初対面もいる中、旧知の仲のように姦しい面々。
「どうせ、真理の知り合いなんでしょ?だったら、気遣いは無用よね?」と
ナオコが言うとおりである。
和気藹々はいいけれど
あまりの賑やかさに・・・いや、うるささに
病室を出て病院の最上階にある展望レストランに連れて行く。
アルコールも入っていないのに
こんなに盛り上がれるのは
おばちゃんか彼らくらいか・・・。
とにかくよく喋り、よく笑った。
みんなが帰って、一息ついて・・・。
点滴の針を入れてもらう。
「腎機能を観察する必要があるんで
2時間おきに採尿しなければならないんですが
夜中もずっとは無理だと思うんですね。
で、副作用が出て苦しくなってからではちょっと不可能に近いんで
膀胱に管を通して採尿したいんですが・・・。」
え?やだ!・・・。
ひるむわたしにI医師は静かに言った。
「そうしてもらった方がいいですよ。」
きっとそれがベストな状態なのだろう。
でも、管で繋がられるのはわたしであって彼ではない。
しかし、屈するしかなかった。
慣れない点滴とカテーテルのおかげで眠れぬ夜を過す。
翌朝10時。
抗癌剤投与開始。
吐き気止め、精神安定剤も入れてもらう。
隣のYさんは先に済ませて退院していった。
それほど、副作用に苦しんでる様子は無かったが
便秘と食欲不振、倦怠感があるようだった。
寝ていることが多かった。
Oさんはわたしと同じ開始だった。
4回目の彼女は慣れたもので鼾をかいて昼寝もすれば
夜も熟睡している様子。
起きている間中、よく喋る。
「あたしは3日目から来るのよ(副作用が)。
そしたら、もう静かなもんよ~。
喋れないし、食べられないし、トイレに入りっぱなし。」
副作用の出方は人それぞれらしい。
初抗癌剤の感想・・・。体が重く感じる。
口の中がもわっとして唾液が粘つく・・・。
喉の渇きは凄かった。
水分はどんどん摂っていいとのことなので
体が欲するままに水分を補給する。
2日目、異常なし。Oさんも大変元気。
3日目、連続の輸液と水分摂取のせいで体がパンパンに浮腫んでくる。
体重が5キロも増える。
その夜、お喋りしている最中にOさんを突然の吐き気が襲う。
「あら、始っちゃったわ。」
わたしは異常なし。
翌朝、Oさんの吐き気はますますひどくなる一方のようだ。
朝食のパンとフルーツを口にしたが、全部戻してしまう。
わたしはというと何の変化も感じない。
いつものわたしのような気がする。
・・・というのは、なんだか自信がないからだ。
こんなに普通でいいのだろうか?
I医師:「元気がいいみたいなんで
大腸造影検査が入ってるんだけど、大丈夫かな?
行けそう?」
わたし:「元気だと思うんだけど、出来ますかね?
やったことないから分からないし・・・。」
I医師:「出来ればやってもらった方がいいんですよね。
これで予定の検査が全部終わることになりますから。」
わたし:「じゃ、やります。」
気軽に引き受けてしまったが・・・。
朝から検査食(どろどろのもの)に変更となった。
午後、東京のT子が面会に来てくれる。斉くんも来た。
「全然、元気そうだよ。元気なんでしょ?」
「うん。」
管に繋がれている不自由さはあるけれど、やっぱり元気なのだと思う。
どうやら気のせいではないようだ。
斉くんの報告ではわたしが家を空けてから
まめぢの下痢が続いているという。
しかも外でしない。
家のトイレ(まめぢ用)でしてしまう。
「昼休みも帰ってきて、3回外に連れて行ってやってるんだけど
外ではしないんだよね。」
ストレスが原因だろうか・・・。
電話のオンフックで声を聞かせることにする。
効き目があるかどうかは分からないが。
足袋は悪戯盛りで干してあったカラスミをかじってしまったそうだ。
「大きくなったきた。物凄い食欲だよ。」
会いたいな、2匹に・・・。
夜、錠剤と液体、2種類の下剤を飲む。
大腸造影検査のためだ。
管に繋がれたままのトイレ通いは思ったよりしんどい。
尿意は感じないはずなのに便座に座ると妙な感覚が尿道を走る。
ほとんど眠れない。便も出ない。出るものがない・・・。
朝、とどめの座薬。
とにかく大腸の中を空っぽにしておかなければならないらしい。
看護師:「便の状態を知りたいたいんで、出たら見せてくれますか?」
え?
自己申告じゃ駄目なの?
今までの経過から言って
「もう、なんでもありなんじゃないの?・・・。」
と、思う人がいるかも知れない。
しかし、わたしはこういうことに絶対に慣れないタイプだ。
採尿管をぶら下げて廊下を歩かなければならないというだけで
既にストレスなのだ。
だから胃に穴が空くのだろう・・・。
全く損な性分だ。
何回目かの検便でやっとOK.が出る。
検査室から呼び出しがあって、案内の人が迎えに来てくれる。
採尿袋を下げて外来を通らなければならない。
袋状のカバーを被せてあるが
待合室にいる人々の視線が気になる。
点滴台を転がしながら検査室へ。
看護師が検査着に着替えてくれと言う。
検査着に着替えなきゃならない検査は
負担の大きなものであることが経験上分かってきた。
点滴と採尿管をはずす。
ジョイントにキャップをしてくれる。
検査台に乗ると台が移動して仰向けの状態になる。
腸の動きを止める筋肉注射をされる。
「はい、横向きになって身体の力を抜いてください。」
体の力を抜かなきゃならない検査も負担大。
覚悟する。
大腸造影検査とは・・・お尻の穴に管を差し入れ
空気とバリウムを注入し
様々な角度からレントゲン撮影をするというものだ。
説明を聞いただけで辛そう。
検査が始った。
技師の指示に従って検査台の上をゴロゴロ転がる。
微妙に傾斜のある設定の台の上で身体を動かすのは結構難しい。
転がるといってもカメラの下に中心をおいてのことだ。
ふと気づくと検査着が濡れていくような感覚がする。
技師:「何か濡れてませんか?」
技師はガラス張りの別室でカメラや台をコントロールしており
指示はマイクを通して行われるのだ。
濡れているような画像に見えたものか。
確認してみると
採尿管のキャップが外れている!!
採尿管が入っている膀胱は垂れ流しだ。
尿が溜まったという感覚も無ければ
放尿しているという感覚もないので気付くのが遅れた。
技師が慌てて看護師を呼ぶ。
新しいキャップをつけてもらい、今度はテープで留めてもらう。
技師:「申し訳ありませんが、このまま検査を続けさせてくれませんか?」
え?着替えずに、そのまま?
拒否権は発動せず。
結局、冷たくびしょ濡れの検査着のまま
おしっこまみれで30分。
わたしは台の上で転がっていたのだった。
疲労困憊、ぐったりして部屋に帰るとすぐに点滴と採尿管が繋がれ、
下剤を飲むよう指示される。
今度はお尻から入れたバリウムを出すためだ。
忙しい。
すきっ腹に下剤は厳しかった。
夕方、山ちゃんの友人S君が面会に来てくれる。
家に何回が遊びに来てくれている常連さんだ。
彼は医療機器の会社に勤めていて
毎日のようにこの病院に通って来ているのだそうだ。
食事時、Tちゃんが来てくれる。
約束したラフパンツを持ってきてくれた。
こうして、頻繁に見舞い客が来てくれるのは
どんなに気が紛れることだろう。
夜の回診、I医師がやって来る。
I医師:「検査どうでした?」
わたし:「結構ハードな検査でしたよ!」
I医師:「そうなんだよね~。で、技師さん怒ってませんでした?」
わたし:「は?」
I医師:「いや、点滴や採尿管つけたままで検査に出す事って無いからねぇ。
普通の人でも大変な検査なんですよね、あれ。」
軽くアドレナリンが燃えた。
抗癌剤投与はこうして何事もなく終わった。
大腸造影検査の後遺症はバリウム出しの下剤。
便がいつも通りの色になるまで飲まねばならなかったが
結局粘膜が切れて血便が出たのでドクターストップ。
それでいいのか?
点滴が終わって浮腫みが引いたわたしの体重は6キロ減だった。
痩せるはずだ。この2日間、下剤しか呑んでいない。
相変わらず激しい嘔吐を繰り返すOさんは立ち上がることも出来ない。
ぴんぴんしている自分が何だか申し訳ない。
巡回してくる看護師や医師たちはわたしに向かい
口を揃えて「あなたは元気だね~。食欲もあるし・・・。」と言う。
まるで揶揄されているようで腹が立つ。
しかし、笑顔は絶やさない。
正直言って、少し疲れてきた。
夜までやることはない。
週末だったこともあって
午後から友人が大量にやって来るとのメールが入る。
ダイバーヨッパちゃん、チンさん、チンさんの妻みちゃえ、その友達アヤちゃん
わたしの高校時代からの友人ナオコ、そして最後に学くん。
学くんはわたしが緊急連絡先に指定したので
止む無く携帯電話を持つことにしたのだった。
携帯ショップで契約を済ませてきたと言う。
それまで携帯所持を頑なに拒否してきたのだが観念したらしい。
初対面もいる中、旧知の仲のように姦しい面々。
「どうせ、真理の知り合いなんでしょ?だったら、気遣いは無用よね?」と
ナオコが言うとおりである。
和気藹々はいいけれど
あまりの賑やかさに・・・いや、うるささに
病室を出て病院の最上階にある展望レストランに連れて行く。
アルコールも入っていないのに
こんなに盛り上がれるのは
おばちゃんか彼らくらいか・・・。
とにかくよく喋り、よく笑った。
みんなが帰って、一息ついて・・・。
点滴の針を入れてもらう。
「腎機能を観察する必要があるんで
2時間おきに採尿しなければならないんですが
夜中もずっとは無理だと思うんですね。
で、副作用が出て苦しくなってからではちょっと不可能に近いんで
膀胱に管を通して採尿したいんですが・・・。」
え?やだ!・・・。
ひるむわたしにI医師は静かに言った。
「そうしてもらった方がいいですよ。」
きっとそれがベストな状態なのだろう。
でも、管で繋がられるのはわたしであって彼ではない。
しかし、屈するしかなかった。
慣れない点滴とカテーテルのおかげで眠れぬ夜を過す。
翌朝10時。
抗癌剤投与開始。
吐き気止め、精神安定剤も入れてもらう。
隣のYさんは先に済ませて退院していった。
それほど、副作用に苦しんでる様子は無かったが
便秘と食欲不振、倦怠感があるようだった。
寝ていることが多かった。
Oさんはわたしと同じ開始だった。
4回目の彼女は慣れたもので鼾をかいて昼寝もすれば
夜も熟睡している様子。
起きている間中、よく喋る。
「あたしは3日目から来るのよ(副作用が)。
そしたら、もう静かなもんよ~。
喋れないし、食べられないし、トイレに入りっぱなし。」
副作用の出方は人それぞれらしい。
初抗癌剤の感想・・・。体が重く感じる。
口の中がもわっとして唾液が粘つく・・・。
喉の渇きは凄かった。
水分はどんどん摂っていいとのことなので
体が欲するままに水分を補給する。
2日目、異常なし。Oさんも大変元気。
3日目、連続の輸液と水分摂取のせいで体がパンパンに浮腫んでくる。
体重が5キロも増える。
その夜、お喋りしている最中にOさんを突然の吐き気が襲う。
「あら、始っちゃったわ。」
わたしは異常なし。
翌朝、Oさんの吐き気はますますひどくなる一方のようだ。
朝食のパンとフルーツを口にしたが、全部戻してしまう。
わたしはというと何の変化も感じない。
いつものわたしのような気がする。
・・・というのは、なんだか自信がないからだ。
こんなに普通でいいのだろうか?
I医師:「元気がいいみたいなんで
大腸造影検査が入ってるんだけど、大丈夫かな?
行けそう?」
わたし:「元気だと思うんだけど、出来ますかね?
やったことないから分からないし・・・。」
I医師:「出来ればやってもらった方がいいんですよね。
これで予定の検査が全部終わることになりますから。」
わたし:「じゃ、やります。」
気軽に引き受けてしまったが・・・。
朝から検査食(どろどろのもの)に変更となった。
午後、東京のT子が面会に来てくれる。斉くんも来た。
「全然、元気そうだよ。元気なんでしょ?」
「うん。」
管に繋がれている不自由さはあるけれど、やっぱり元気なのだと思う。
どうやら気のせいではないようだ。
斉くんの報告ではわたしが家を空けてから
まめぢの下痢が続いているという。
しかも外でしない。
家のトイレ(まめぢ用)でしてしまう。
「昼休みも帰ってきて、3回外に連れて行ってやってるんだけど
外ではしないんだよね。」
ストレスが原因だろうか・・・。
電話のオンフックで声を聞かせることにする。
効き目があるかどうかは分からないが。
足袋は悪戯盛りで干してあったカラスミをかじってしまったそうだ。
「大きくなったきた。物凄い食欲だよ。」
会いたいな、2匹に・・・。
夜、錠剤と液体、2種類の下剤を飲む。
大腸造影検査のためだ。
管に繋がれたままのトイレ通いは思ったよりしんどい。
尿意は感じないはずなのに便座に座ると妙な感覚が尿道を走る。
ほとんど眠れない。便も出ない。出るものがない・・・。
朝、とどめの座薬。
とにかく大腸の中を空っぽにしておかなければならないらしい。
看護師:「便の状態を知りたいたいんで、出たら見せてくれますか?」
え?
自己申告じゃ駄目なの?
今までの経過から言って
「もう、なんでもありなんじゃないの?・・・。」
と、思う人がいるかも知れない。
しかし、わたしはこういうことに絶対に慣れないタイプだ。
採尿管をぶら下げて廊下を歩かなければならないというだけで
既にストレスなのだ。
だから胃に穴が空くのだろう・・・。
全く損な性分だ。
何回目かの検便でやっとOK.が出る。
検査室から呼び出しがあって、案内の人が迎えに来てくれる。
採尿袋を下げて外来を通らなければならない。
袋状のカバーを被せてあるが
待合室にいる人々の視線が気になる。
点滴台を転がしながら検査室へ。
看護師が検査着に着替えてくれと言う。
検査着に着替えなきゃならない検査は
負担の大きなものであることが経験上分かってきた。
点滴と採尿管をはずす。
ジョイントにキャップをしてくれる。
検査台に乗ると台が移動して仰向けの状態になる。
腸の動きを止める筋肉注射をされる。
「はい、横向きになって身体の力を抜いてください。」
体の力を抜かなきゃならない検査も負担大。
覚悟する。
大腸造影検査とは・・・お尻の穴に管を差し入れ
空気とバリウムを注入し
様々な角度からレントゲン撮影をするというものだ。
説明を聞いただけで辛そう。
検査が始った。
技師の指示に従って検査台の上をゴロゴロ転がる。
微妙に傾斜のある設定の台の上で身体を動かすのは結構難しい。
転がるといってもカメラの下に中心をおいてのことだ。
ふと気づくと検査着が濡れていくような感覚がする。
技師:「何か濡れてませんか?」
技師はガラス張りの別室でカメラや台をコントロールしており
指示はマイクを通して行われるのだ。
濡れているような画像に見えたものか。
確認してみると
採尿管のキャップが外れている!!
採尿管が入っている膀胱は垂れ流しだ。
尿が溜まったという感覚も無ければ
放尿しているという感覚もないので気付くのが遅れた。
技師が慌てて看護師を呼ぶ。
新しいキャップをつけてもらい、今度はテープで留めてもらう。
技師:「申し訳ありませんが、このまま検査を続けさせてくれませんか?」
え?着替えずに、そのまま?
拒否権は発動せず。
結局、冷たくびしょ濡れの検査着のまま
おしっこまみれで30分。
わたしは台の上で転がっていたのだった。
疲労困憊、ぐったりして部屋に帰るとすぐに点滴と採尿管が繋がれ、
下剤を飲むよう指示される。
今度はお尻から入れたバリウムを出すためだ。
忙しい。
すきっ腹に下剤は厳しかった。
夕方、山ちゃんの友人S君が面会に来てくれる。
家に何回が遊びに来てくれている常連さんだ。
彼は医療機器の会社に勤めていて
毎日のようにこの病院に通って来ているのだそうだ。
食事時、Tちゃんが来てくれる。
約束したラフパンツを持ってきてくれた。
こうして、頻繁に見舞い客が来てくれるのは
どんなに気が紛れることだろう。
夜の回診、I医師がやって来る。
I医師:「検査どうでした?」
わたし:「結構ハードな検査でしたよ!」
I医師:「そうなんだよね~。で、技師さん怒ってませんでした?」
わたし:「は?」
I医師:「いや、点滴や採尿管つけたままで検査に出す事って無いからねぇ。
普通の人でも大変な検査なんですよね、あれ。」
軽くアドレナリンが燃えた。
抗癌剤投与はこうして何事もなく終わった。
大腸造影検査の後遺症はバリウム出しの下剤。
便がいつも通りの色になるまで飲まねばならなかったが
結局粘膜が切れて血便が出たのでドクターストップ。
それでいいのか?
点滴が終わって浮腫みが引いたわたしの体重は6キロ減だった。
痩せるはずだ。この2日間、下剤しか呑んでいない。
相変わらず激しい嘔吐を繰り返すOさんは立ち上がることも出来ない。
ぴんぴんしている自分が何だか申し訳ない。
巡回してくる看護師や医師たちはわたしに向かい
口を揃えて「あなたは元気だね~。食欲もあるし・・・。」と言う。
まるで揶揄されているようで腹が立つ。
しかし、笑顔は絶やさない。
正直言って、少し疲れてきた。