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ユリシーズとホテル・バタフライ

2008-10-17 12:46:11 | Scene いつか見た遠い空
無類の蝶好きだった父の命日が近づいているせいか、最近、蝶のことをよく思う。蝶を巡る話を幾つか。

↑これはうちの本棚にいる ユリシーズ ulysses(右)。
10年あまり前、取材で訪れたケアンズで初めてこの蝶に出逢った。
グレートバリアリーフの海みたいな鮮烈なブルーの閃きを
レインフォレストのしじまで目撃した瞬間、南半球にしかいないこの蝶に恋した。
数年前、原宿の雑貨セレクトショップでこの標本を見つけ、衝動買いした。


このユリシーズの栞は、「ホテル・バタフライ」という架空のホテルをイメージしたプロダクトを
展開しているデザインプロジェクトD-BROSのアイテムのひとつ。

(ちなみにこの本は父の蔵書より拝借。ドイツ人作家シュナックによる蝶の博物誌)

「ホテル・バタフライ」シリーズには、他にもこんなドアプレートやランチョンマット、
カップ&ソーサーなど種々のアイテムがあり、どれも機知溢れるデザイン。


そしてこちらが、その「ホテル・バタフライ」。
存在しない国にある 存在しない町の、存在しない湖の畔に佇む、予め存在しないホテル。


決して辿り着くことのできないホテル――と思いきや、
つい最近出た阿部海太郎さんの新譜「SOUNDTRACK FOR D-BROS」に収録されている
「ホテル・バタフライ」のためのサウンド・ストーリーを聴くと、
いつの間にかこのホテルの一室にいざなわれてしまう。

この中の「蝶の歌」という不思議な曲に ここのとこ魅入られている。


と、これはEsquire11月号のカメラ特集に出ていた上田義彦の写真。
東大総合研究博物館に収蔵されている明治時代の昆虫標本らしいが、あまりに凄惨な朽ち方に呆然。
ただ、上田義彦の撮る標本や剥製の写真には、忌まわしさやネクロフェラスな匂いは一切感じない。
寿命ある生きものたちの、分かち難く繋がっている生と死を静かに慈しむ視線に貫かれている。
この筐(標本箱)を写した筐(カメラ)は、いきものが朽ちていく変容そのものを封じ込めた
驚異の部屋なのかもしれない。
<愛用のピンキーリングも蝶々


以前もここで、蝶愛好家のについて触れたことがあるが、子供の頃から蝶の標本は見慣れている。
が、蝶の標本には残酷とかグロテスクといった印象を抱く人も多い。
初めてうち(実家)に遊びに来た友達は、たいてい飾ってある標本箱を見てぎょっとした顔をしたものだ。
でも中には、エレクトリックブルーの光を放つモルフォ蝶を目敏く見つけ、
「きれい」と瞳を輝かせる子も。青光る鱗粉は、時を経てなおしずかに輝き続けている。



母の短歌より「亡夫の手に集めし蝶の標本の樟脳を取り換う心込めつつ」

若き日の父。捕虫網を実に巧みに操り、一瞥しただけで、蝶の種類や雌雄を言い当てた。
11月頭に6年目の命日を迎える。

これは父の形見の捕虫網と、捕獲した蝶を保管する油紙の詰まったブリキの三角筒。
(今春、日干しにした時の写真。興味深げに嗅ぎまわっていた在りし日のニキの後ろ頭にじーん。。)



父の影響か、私自身も大学時代に“コピー”という課題でフェイクな昆虫標本を創ったことがある。
そして気付けば、身の回りにも蝶をモチーフにした雑貨やアクセサリーが方々に。
これはえとさんに先日もらったマグネットの蝶。ユリシーズに似ているけど違う。何だろう?


これは随分前に神保町の文房堂で買ったドイツ製のマグネット蝶。たぶんオオカバマダラ。
澁澤龍彦邸の書斎に同じ蝶が飾ってある写真を見たことがある。
(背景はM.アントニオーニ「欲望」のポーランド版ポストカード)


窓に貼ったカラスアゲハのシールとともに、再び、在りし日のニキ(あれから5カ月)。

ただし、本物の蝶は、こんな風に翅を広げてはとまらない。
もし翅を広げて静止していたら、それは蛾だ。昔、父にそう教わった。
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コメント
 
 
 
綺麗な蝶々 (すみ太)
2008-10-18 18:59:05
ユリシーズ・・・勉強になりました。
随分昔、多分10代の頃に観たドラマを思い出しました。母子家庭のお話で、息子の学校でのうち履きのズックに蝶々の刺繍がしてあって・・・「蝶々の母の物語」ってタイトルだったような。。。
母はキャリアウーマンで、たんたんとした話だったのですが、内容も忘れてますが、姉と「いいドラマだったね。」と話した記憶があります。
 
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