天使の図書館ブログ

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Grand Stroke-1-

2012-08-13 | エースをねらえ!

(※漫画「エースをねらえ!」の二次小説です。内容にネタバレ☆等を含みますので、一応ご注意くださいm(_ _)m)


 10日くらい留守にしてたのかなって思うんですけど、この間更新してなくてもアクセス数に変化がないというか、むしろ上がっててびっくりしました(^^;)

「エースをねらえ!」系の検索なのかどうかっていうのはわからないんですけどね

 なんにしても、遊びに来てくださった方、本当にありがとうございますm(_ _)m

 そんでもってこの留守にしてる間、やることいっぱいあって忙しかったんですけど――にも関わらず、ひろみと宗方コーチの話を1本書き上げたという(これもエース愛ゆえ♪^^)

 タイトルのGrand Strokeは、Ground Strokeの間違いじゃね?と思われるかもしれないんですけど、そもそもあんまし深い意味ないと思っておいてくださいというか、「恋のアドバンテージは誰の手に!?」と、タイトルどっちにするかですごく悩みました(うそつけ☆笑)

 なんにしてもこの小説は、宗方コーチとひろみがウィンブルドンで試合を戦っていく&やがて結ばれるという過程を描いた夢小説です

 そもそもわたし、ウィンブルドン限定でテニスが好きというあたり、すでに本物のテニスファンではないんですよね

 なので、前回書いた「いつも二人で。」もそうですけど、今回もまたテニスの描写についてはものっそテキトー☆&試合の描写とか間違ってるんじゃね?という感じだと思います(^^;) 

 まあ、間違い等を指摘してくださる方がいらっしゃったら、直そうとは思うんですけど、自分的に宗方コーチが生きていて、ひろみとウィンブルドンで勝ち進んでいく姿が見たかった(書きたかった☆)、そんでもってその過程でふたりに結ばれて欲しかったという、この小説にはわたしのそんな夢がみっちり詰まってるような感じかも(笑)

 そんなわけで、もしここまでお読みになった方で趣味嗜好が合わないと感じた方は、何も見なかったことにしてブラウザを閉じられることをお薦めしますm(_ _)m

 なんにしてもわたし、明日というか、今日からすでに引き続き忙しいので、更新のほうはどうなるやらさっぱりわかりません(もしかしたら物凄いとびとび更新になるかも

 ついでにこの小説はやたら無駄に長いです

 んーと、今回の-1-に関しては、言い訳事項ってなんだろうなあ。。。

 読み返してみて自分的に、文章がちょっとゴチャゴチャ☆してる印象だったんですけど、まあ最後まで読んでいただいた時に、このあたりのことはああ繋がる……みたいに思ってもらえると幸いです的なww

 あと、これはかなりどーでもいいことなんですけど、「いつも二人で。」で宗方コーチとひろみが食べてた缶詰のお肉は、実は鹿さんの肉です(←これはトナカイ☆笑)

 そんで、宗方コーチは「熊の肉か猪の味つけ肉だろ?」と言い、ひろみは「鯨のお肉ですよね!?」と言い張り、答えを知ってる関彰はゲラゲラ笑いだすっていうよーな場面を入れようかと思ってたんですけど……なんかうまく入りませんでした(っていうか、ほんとどうでもいいエピソードだなと思って省いたというか^^;)

 なんにしても、わたしと同じ宗方コーチひろみ派の方に読んでいただけるとすごく嬉しいです♪

 それではまた~!!



       Grand Stroke-1-


          Side:ひろみ

 ――入らない。球が入らない。どうしても、サーブが決まらない。

「一体何をやってるんだ、岡は!?」

「あれで日本の代表選手ですって。笑っちゃうわ」

「なんであんなのが第一線で活躍してるんだろうな」

 ――どうしてなの!?きのうまで、練習ではうまくいってたのに……あたし、本当に一生懸命トレーニングを積んでここまでやってきたんです!!それなのに、どうして!?

「みっともないぞ、引っこめ!!」

「せめてワンポイントくらい取ってみせろ!!」

「日本の代表選手として、恥を知れ!!」

 ――あたしは一生懸命やってるのに、どうして誰もわかってくれないの!?球がネットを越えないのは、あたしのせいじゃない!!あたしが悪いわけじゃない!!だって、こんなに精一杯頑張ってるんだもの!!決してあたしのせいなんかじゃ……。

 この時、暗い闇に包まれたコートの中に、一筋の光が差した。

「岡、俺を見ろ。コーチの俺を信頼しろ。そんな程度のことで動揺するような訓練を、俺がおまえに授けたか!?俺を信じるんだ、岡。俺がおまえを信じているように、おまえも俺を信じろ。わかったな!?」

「はい、コーチ!!」


 ……あたしはこの時、夢の中だけでなく、現実の世界でもムニャムニャと「はい、コーチ」と呟きながら目を覚ましていた。

「なんだ、夢かあ。嫌になっちゃうなあ、もう。なんであんな夢を見たのか、自分でもわかってるだけに、やりきれないっていうか。アイテテテ」

 筋肉痛の痛みが残る体を叱咤して起き、あたしはパジャマを脱いでトレーニングウェアに着替えた。朝の5時、3分前――今ではもう、目覚まし時計が鳴る前に体が自然と起きるのが普通になってしまっている。

 いつもの海沿いの道をロードワークとして5キロほど走っていると、毎日見慣れているはずの風景が、実は少しずつ違っていることにふと気づく瞬間があって、あたしはそんな時、息の上がる苦しさを束の間忘れることが出来ていた。

 汽笛の音、潮の香り、カモメの鳴き声……そんなのは本当に、いつも同じなのだけれど、季節ごとに花壇の花が違って咲いていたりとか、もっと言うなら、道に生える緑の樹や葉の色が、実は一枚一枚違う<緑>なのだと気づいたのも、ほんのつい最近のこと。

 一見して見ると、どの葉もまったく同じ緑に見えたとしても、空に薄い水色や濃く青い日があるみたいに、光の加減などによって、それは本当に微妙に違うのだ。

 特に陽気のいい時には、その生命力の瑞々しさが自分の口や鼻からとりこまれてくるような気がして、清々しい気持ちでいっぱいになる――そしてこう思う。

(ああ、自然って素晴らしい!生きてるって素晴らしい!テニスが出来るって、素晴らしい!!)

 なーんてね。なんにしても、こんな<小さな御褒美>でもないことには、毎日ロードワークなんて続けてられない。それから誰もいない公園のベンチで腹筋をし、そこでようやく一休みして、水を飲む――嗚呼、美味しい!!普段はこんなに<水>が美味しいなんて思うこと、滅多にないかもしれない。でもこの時ばかりは、本当に格別な水の味を味わうことが出来る。

「さーあてっとお。宗方コーチが基礎トレーニングの見直しをしてくださったから、それに沿ってあと三時間ほど、自主トレしないとね」

 そうして基礎体力作りのメニューがすべて終わった頃くらいに――竜崎理事が会長を務めるスポーツクラブへ、宗方コーチがやってくる。そして言うまでもなく、特訓に継ぐ特訓のまた特訓……と相成るってわけ。

「こんな程度の球も受けられなくて、おまえはそれでもプロかっ!!」

 時々、『宗方コーチ、そのセリフ言うのいいかげん飽きませんか?』と突っこみたくなるくらい、コーチは繰り返しこのお言葉をお吐きになる。

 ちなみに、今朝のような夢をあたしが見たのは――夢に見るくらい、宗方コーチの練習中に飛ぶ罵声が激しいから、それが観客の声として聞こえてきたというわけではなく……宗方コーチは、夢の中でと同じように、いつでも唯一のあたしの味方だった。

 仮に、試合を観にきた観客に野次られようと、世間の人々やマスコミに叩かれようと、宗方コーチだけがあたしの味方でさえいてくれたら、あたしはそのことを支えに十分プロとして、テニスの世界で生きていくことが出来るだろう。

 ついでに申し添えておくと、去年も今年に入ってからも、あたしの戦績自体はとてもいい……というか、そう悪くない。ウィンブルドンでベスト8に残ったこともそうだし、世界ランキングのほうは現在、27位。<日本人女子>としては、それこそなかなかの成績だったと言えると思う。けれど、この終わりなき戦いをいつまで続けていけるのか、またランキングを落とさずに保持していけるのか――そのことに対するプレッシャーが、あんな夢をあたしに見せたに違いなかった。

「宗方コーチ、あたし今朝、すっごくいい夢を見たんです」

 いつもながらの厳しくキツい練習を終え、ベンチに座って汗をぬぐいながら、あたしはそうコーチに話しかけた。

「そうか。どんな夢だ?」

「どこのコートかはわからないんですけど、芝のコートのまわりが全部緑のフェンスに囲まれてて……その向こうはすべて真っ暗闇なんです。そしてその闇の中から、「岡、おまえなんか引っこんじまえ!!」だの、「日本の代表として恥を知れ!!」だのいう罵声が次から次へと飛んでくるんですよ。しかも、あたし自身がその言葉に動揺するあまり、ヘボいサーブやショットしか打てなくて、球が全然ネットを越えないんです。当然、その度に観客がまたブーブー言いだすしで、本当にもう、散々でした」

「で、その夢の一体どこが、<いい夢>なんだ?」

 あたしが思っていたとおり、宗方コーチは呆れたような顔をしている。

「ここからがこの夢のいいところなんですよ、コーチ」と、あたしは笑った。「あたし、その時に『自分はもう駄目だ』って思いました。打っても打っても、球はネットを越えないし、サーブを打てばフォルトばかりで……でも、その時に闇の中から光が差して、コーチの声が聴こえてきたんです。『おまえを信じている俺を信じろ』って。あたし、そのコーチの言葉ですっかり目が覚めて、すべての迷いが解けました。そして、次の一打で絶対にエースをとるって、自信を持ってトスを上げたところで、目が覚めたんです。どうですか?すごくいい夢でしょう?」

「……………」

 宗方コーチは黙ったままだったけれど、そんなのはいつものことなので、あたしはまったく気にしない。それから、ウィンブルドンまでのスケジュール調整について話したあと、あたしはスポーツクラブの前で宗方コーチと別れた。

 ――今年の一月に、関彰(せき あきら)さんというプロの陶芸家の方が所有する古民家へ出かけて以降、あたしとコーチの間に、特にこれといった師と弟子以上の進展はない。

 あたしは良い試合をして、ベストな戦績を残すことでコーチの恩義に報いたいと思っているし、色恋沙汰についてはその次に考える……ということに、心を決めたのだ。

 それというのも、四月にもう一度あの古民家を訪れて、今度はコーチの友人である彰さんにも会ったというのが、もしかしたら理由として大きかったかもしれない。

 家の和室には、帰りがけに彰さんからもらった、甲州野梅の描かれた壺が、掛け軸の下にずっと飾ってある。桐の箱に入れられ、紫の風呂敷に包まれたそれを差しだされた時、「こんなに高価なもの、いただけません」と、当然あたしは断ろうとした。

「受けとってやれ、岡。こいつには陶器を焼くことくらいしか、他に能がないんだから」

「えっ、で、でも、そんな……」

「テニス以外に能のない奴に言われたかねえな。でもまあ、自分で言うのもなんだが、こいつは美術品としちゃ、ちょっとした値打ちもんだ。ひろみちゃんがいつかお嫁にいく時にでも、嫁入り道具にするといいや」

「は、はあ……」

 関彰さんという人は、類は友を呼ぶと言うべきか――タイプ的に、大悟さんととても雰囲気の似た人だった。といっても、容姿のほうは、ひょろりと背が高くて細長い感じなのだけれど……普段の話し方はおちゃらけているようでも、いざ陶器作りをはじめると顔つきがまったく変わるという、そんな感じの人だった。

 何よりびっくりしたのが、その細長い針金のような体の中で、彰さんの足が右と左でまったく太さが違うということだったろうか。つまり、蹴ろくろを回す側の足だけが、やたらと筋肉がついていて太いのだ。

 その足を見た瞬間にあたしは思った。嗚呼、これが本当にプロということなんだな、なんて……しかも、一度蹴ろくろを回しはじめると、まわりの一切が何も見えない・聴こえないというくらい、彰さんの集中力は凄かった。

 そしてその時に、こう思った。これが宗方コーチの言っていた、『命懸けの遊び』ということなんだなって。あたしも、コートでボールを打つ時に、同じくらいの集中力が欲しいと思う。それこそ観客の野次なんか、まるで気にならなくなるくらい……。

 彰さんが変に気を遣って、「俺のことはいいから、向こうの部屋で布団をふたつ並べて寝るといい」なんて言われたのには参ったけれど、この日の夜――ふたりが囲炉裏を囲んでお酒を飲んでいた時の会話を、あたしはほんの偶然から耳にしてしまっていた。

「それで、いつかあの娘がプロのテニスプレイヤーとして引退したら、結婚を考えてるってことなのかい?」

「何を言う。俺と岡はそんな関係じゃない。あくまでも師と弟子、それ以上でもなければそれ以下でもない」

「それだけねえ。俺にはそうは思えねえな。仮にもしあの娘が、その師弟関係とやらを超えたいと言ってきたら、仁、おまえはどうする?」

 ――この時、あたしは布団の中でドキッとした。ふたりはもちろん、あたしが眠っているとばかり思って、すぐ隣の部屋でこんな会話をしているのだ。

「それは、その時に考えるさ。だが、岡もおそらくわかっているだろう……それがいかに危険な賭けかということくらいは。テニスだけでなく、他のあらゆるスポーツ種目でも、コーチと選手が恋仲になるなんていうのは、実によくある話だ。結果として、それが選手にプラスになることもあれば、マイナスになることもある。彰、昔おまえは「俺は陶芸の神と結婚してる」と冗談めかして言ったことがあったろう?俺が思うには――岡もまた、そういう精神状態にあるのがベストだと思っている。今は出来ればテニスのことにだけ集中し、テニスのことだけ考えていて欲しい……だが、それを邪魔する思いが生じた時には、俺は岡のコーチとして、自分の身の処し方を考えねばなるまい」

「なるほど。けどまあ、見てる側としてはじれってえ展開だな、それは。『自分たちはこんなに愛しあってます』っていう、いかにもな雰囲気があるのに、いざ話を聞いてみると「自分たちはそんな関係じゃない」とかさ。ま、気持ちはわからんでもないがな。ある魂の観点から見た場合、結婚するとか、妻と夫という関係になるとか、肉体関係を持つなんてのは、ゴミ屑程度のくだらんことだ。また同時に、このゴミ屑程度のことが、至高の精神状態をも生じさせるわけだが――どちらに転ぶかは、仁、今おまえが言ったとおり、ある意味<賭け>でもある。あの娘はおまえがただの男だとわかった途端に、師に対する尊敬の気持ちを失うかもしれないし、おまえもまた、あの娘がただの女になった途端に、それまであったあの娘に対する強い興味を失うかもわからん。つまりは、そういうことだろ?」

「いや、俺が岡ひろみというテニスプレイヤーに対して、興味を失うということは絶対にない。そうではなくて、俺が怖れているのはな、彰。自分がここまで磨き上げた宝石を、自分の手で駄目にするかもしれないということだ。うまく言えないが、テニスに限らず、女子のスポーツ選手が男とつきあいはじめたり、結婚した途端に駄目になるというのは、あまりによくある話すぎる。それは昔おまえが言っていた、「陶芸の神よりも女のほうを大切にすると、向こうが嫉妬していい作品を作らせないようになる」っていうのに、もしかしたら似てるかもしれない。岡はまだ、精神状態として「テニスを愛している」といったところだ。これからまだ「テニスからも愛される」というところまで、もう一段上の、高いところを登っていく必要がある……少なくともその極意を掴むまではな、俺は岡とそういう関係になるつもりはない」

「ふう~ん。なるほど。けど、まだいいよな、おまえらスポーツ選手ってのははっきりさっぱりしててさ。俺なんか、このままいったら無期限で一生結婚できないかもわからんぜ。俺が何より恐れてるのは――仁のいうその<極意>とやらが去っていくっていうことだからな。ま、俺も陶芸の世界じゃ、ちっとは名が知れてるから……突然へんちくりんなものをつくりはじめたとしても、見る目のない奴らは「これぞ芸術!」なんて、褒めてくれるかもしれない。けど、そこに前まであった魂がこもらなくなったら、陶芸家としちゃ終わりだ。芸術の神って奴は気まぐれなもんで、こっちから一度手を離したら、二度と向こうからは来てくれないかもしれないんだ……どうだ、仁?テニスの神って奴にも、そんな気まぐれなところがあるもんなのか?」

「さて、どうかな。勝負は時の運というが、俺は時々、テニスコートには神じゃなく、プレイヤーの足を引っ張る悪魔がいるんじゃないかって気のすることがあるがな」

 ここで彰さんとコーチは互いに声を合わせて笑い、そうしてから、寝ているあたしのことを気遣うように、黙りこんでいた。

 ――テニスを愛するだけでなく、テニスからも愛される……この言葉は、あたしにとって衝撃的だった。そして、あたしがその<極意>のようなものを掴んだとしたら、コーチはあたしをテニスプレイヤーとしてだけでなく、<女>としても見てくれるかもしれないのだ。

 ああ、そうか、そうなんだと、あたしはこの時布団の中で思った。あたしはテニスを愛している、だからこんなにも過酷なトレーニングに耐え、こんなにも頑張っている、もし今あたしが宗方コーチに男性としての愛を求めたとしたら――それはつまり、こういうことではないだろうか?そうやって極限まで努力していることに対する、応分の報酬を与えてほしいと、求めるも同然のことなのだ。でも、コーチが言っているのは「おまえのテニスに対する愛情はその程度のものなのか」という、そういうことだったに違いない。

 そしてこの夜以来……あたしの頭と心の中から、「自分がテニスを愛するだけでなく、テニスからも愛されるにはどうしたらいいか」という問いが、離れていかなくなった。

 かつて昔、あたしはこう考えたことがある。プレイに対する執着と、無我の境地というのは、共存するものなのか、と。プロのテニスプレイヤーとなってからも、その禅問答にも似た問いは、あたしの心の中に存在し続けていた。

 走るわたし、構えるわたし、打つわたし、エースを狙うわたし、わたし、わたし、わたし……どこもかしこも自分だらけ。だからこんなにも苦しいのか、つらいのかと悩み続けた問いに、プロになってから、あるひとつの小さな答えが出た。

 苦しい、つらい、足が重い、こんなになってまで、自分は果たして本当に何かを成し得ることが出来るのだろうかと思う時――まわり中真っ暗闇だった精神状態に、光の差す瞬間がある。最初、その光の訪れがあった時には、たまたま偶然だと思った。でもまた同じように、苦しい、つらい、足が重い、もう走れないと感じた時、再び闇を裂いて、光が現れ出でたのだ。そうした瞬間の訪れを何度も経験するうちに、だんだんあたしはこう思うようになっていった。今は苦しくてもつらくても、必ずまた光が来る、それは絶対に来るべきものだし、どんなに遅くなっても待つ価値のあるものなのだ、と。

 もちろん、今はまだ、あたしには宗方コーチのおっしゃる、「テニスからも愛される」ということがどういうことなのかまではわからない。でも、少なくともあるひとつのことだけは理解できた……そのことがわかるようになるまでは、宗方コーチに対し、監督としての愛情以上のものを求めてはいけないこと、自分はまだまだ成長不足で、コーチには<女>として全然手が届いていないのだと……。

 以来、あたしの中である種の迷いが吹っ切れた。昔、宗方コーチが「待つ価値があれば、男は待つ。待たせるだけの女になれ」と言っていたように――むしろ逆に宗方コーチのほうこそが、あたしのほうを追ってくるくらいの女にならなければ。

 まあ、そんなことを言っても、今のところそれは、あたしにとってグランドスラムを達成するにも等しい、「そんなことが自分に可能だろうか?」、「そんな日が本当にいつか訪れるのだろうか?」としか思えない、難事業ではあったのだけれど。



 >>続く。





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