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難しいことばっかりだあー

労働法制と格差問題2

2007-01-19 08:47:56 | Weblog




労働法制と格差問題2


「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の法案提出を政府はあきらめたようだ。世論の反発が強く、サラリーマンを敵に回しては選挙に不利だという判断が優先されたようだ。

■「働く人、敵に回せぬ」世論読み誤った残業代ゼロ断念
2007年01月16日23時01分  (朝日新聞)

 一定条件の会社員の残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)の法案提出を見送ることになった背景には、夏の参院選を前に「サラリーマンを敵に回したくない」との与党の判断に加え、世論の反発を読み誤って、導入を急いだ政府の拙速な姿勢がある。だが、WEは、パート労働法改正や最低賃金の引き上げなど、一連の労働法制見直しとセットで調整してきた経緯があり、経済界の反発は必至。他の法案審議にも影響を与えそうだ。

自民党の中川秀直幹事長は16日の記者会見で、「新聞に『残業代ゼロ制度』などと書かれているようでは、制度の本来の内容、目的がまったく十分に説明、理解されているとは思えない」と指摘した。自民党国対幹部も15日、「試合終了だろう。(与党側と)相談もせずに法案を提出するしないを判断できるのか」と語り、公明党幹部も「我が党の雰囲気は極めて厳しい」。外堀は、ほぼ埋まった。

 しかし、官邸が当初から、WEへの反発の大きさをしっかり認識できていたわけではなかった。

 首相は5日、与党の慎重論について問う記者団に、「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と、制度が労働時間短縮につながると説明。WEは「少子化(対策)にとっても必要」と、法案提出を目指す考えを示していた。

柳沢厚労相は「(与党の反発には)誤解がある」と与党幹部らの説得に回ったが、格差問題などへの対応が迫られるなかで、「経済界寄り」の法案は野党に格好の攻撃材料を与えかねず、参院選に影響するとの懸念がさらに強まった。政府関係者は16日、与党側の「最後通告」に近い反発を前に、「根回しも足りないまま打ち上げ、説明が後手に回った。こういう状況になった以上、今国会は出せないということだ」と悔やんだ。<中略>

日本経団連幹部は「WEの見送りは、総理の決断だから仕方がない。だが、(パート労働法改正など)全部セットの話なんだから、全部なし、ということだ」と話す。

 一方、連合も「見送りは選挙目当て。参院選後は提出に向け再び動き出す」とみる。他の法案への影響を懸念し、「手放しで喜べない」のが本音だ。



■ 残業代の割増率引き上げ、与党が法案提出を要求へ

 与党は17日、政府が通常国会で目指す労働法制の見直しについて、法案として提出を見送るのは「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制に限定し、残業代の割増率(現行は25%増)引き上げなどの他の改革は、予定通り関連法案提出を政府に求める方針を決めた。


 同日の自民、公明両党の幹事長、政調会長らの会談で一致した。

 これを受け、厚生労働省は通常国会に働き方や賃金のあり方を見直すための労働関連法案を計5本提出する予定だ。

 厚労省は労使双方の要望のバランスをとるために、経済界が求めるホワイトカラー・エグゼンプション制と労働界が要請する残業代の割増率引き上げについて、「二つの改革はセット」と位置付け、同時成立を目指していた。

 だが、与党は、残業時間の抑制で長時間労働の改善などが期待できる割増率引き上げは、不可欠な改革と判断。安倍首相が見送りを明言したホワイトカラー・エグゼンプション制と、切り離すこととした。

 このほかに通常国会提出が予定される法案も、与党は「労働者の働く環境改善を目指すもの」と位置づけている。参院選を控え、労働界が望む改革を進め、サラリーマンの支持を得たいとの思惑もあるようだ。

 パートタイム労働法改正案は、期限のない契約で働くパート労働者など「正社員並みパート」は、賃金などの待遇面で正社員との差別を禁止するものだ。雇用対策・地域雇用開発促進法改正案は、若者の採用の拡大などを企業側の努力義務とする。地域によっては、生活保護費を下回るケースがある最低賃金の水準を引き上げる最低賃金法改正案も提出される。

 これらは、人件費の増加など企業負担につながりやすいため、経済界からの強い反発が予想される。

 一方、ホワイトカラー・エグゼンプション制は、年収900万円以上で管理職に近い事務職のサラリーマンを対象に、1日8時間の労働時間規制から外し、労働時間を自由にする代わりに残業代をゼロにするという内容だった。

 厚労省などは「多様な働き方の実現につながる」と説明していたが、国民の間には「残業代がカットされ収入が激減するのではないか」との不安が広がった。ただ、実際に収入が減るかどうかは労使交渉にもよるため、明確ではない。

 与党は近く、雇用問題に関する協議会を設置し、通常国会提出予定の労働関連法案の内容をさらに精査する方針だ。

(2007年1月17日21時11分 読売新聞)引用おわり


 労働時間規制をめぐる改革の流れは、パート労働者の待遇改善、時間外の割増率の引き上げなどとセットで話し合われてきたようだ。労使双方が譲歩する形でしか改革が進まないということであろう。しかし、最初に「残業代ゼロ」という制度が話題になったことが今回の騒動の手痛い失敗の原因だ。安倍政権が打ち出した「再チャレンジ」政策とこれらの労働政策がどう結びつくのかも不透明だ。パート労働者の待遇改善や最低賃金法の改正は格差是正のために必要な措置である。であるならば、「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を見送ったから、他の法改正も見送るというのは筋が通らない。


■成果主義で手取り月2万円 社員の訴え、和解し制度改正       2006年01月21日17時39分

 成果主義で給与が大幅に減り、手取りが月約2万円になった富士火災海上保険(本社・大阪市中央区)の男性社員(53)が、従来通りの額の支払いを求めて法的手段に訴えた結果、同社と和解して解決金が支払われた。同社は併せて給与の最低水準を引き上げる制度改正も決めた。

 男性は昨年7月、東京地裁に賃金支払いの仮処分を申し立てた。前月に口座に振り込まれた手取り額が2万2632円しかなかったため、「生存権を侵し、憲法に違反する」と訴えた。

 そうした事態を招いたのは富士火災が00年に導入した新しい給与体系だ。歩合制で営業成績が上がれば翌月に「増加手当」が支給され、下がれば翌年度の給与から一定額がペナルティーとして差し引かれる。04年には家族手当や住宅手当が廃止された。 男性の6月の給与は本給と諸手当の計約19万円からペナルティー分の約7万4000円が差し引かれ、額面約11万5000円。ここから社会保険料などが引かれ、実際に口座に振り込まれたのは2万2632円だった。 男性は「これでは死ねと言われているに等しい」と、直前3カ月の給与の平均額(額面約22万円)の支払いなどを求めて仮処分を申請した。

 富士火災側は(1)6月には別に臨時給与(手取り約12万円)も支払われており、直ちに生活が脅かされる状況ではない(2)新しい給与制度は多数派組合の同意の上で導入された――などとして全面的に争う姿勢を示した。 男性には妻と長男、長女がおり、係争中は労組からの借り入れや預金の取り崩しでしのいだという。男性が仮処分を取り下げ、本訴訟の提訴を準備していた11月になって和解が成立した。

 男性の代理人の萱野一樹弁護士によると、和解は(1)富士火災が解決金を支払う(2)営業系の全社員を対象に最低賃金法に定める最低賃金の1.4倍以上を支払う――との内容。(2)が適用されれば男性には最低でも額面で14万円程度が支払われるという。
 〈富士火災の話〉 コメントは差し控えたい。  <引用おわり>


 この記事はちょうど一年前の新聞記事から取り上げたものである。「成果主義」賃金が新たなワーキング・プアを生み出しているという例である。
 ついでに、次の記事も一年前のものである。

■「ぼくたちが死んでもお父さんは仕事に行くんだね、と息子に言われた。店長だって人間らしく暮らしたい」
 先月22日、日本マクドナルドを相手取って訴訟を起こした店長、高野広志さん(44)は言う。未払い残業代785万円と慰謝料300万円の請求を通じ、1日8時間、週40時間の労働基準法を店長にも認めるよう求めた。
 87年に入社した高野さんは03年から埼玉県内の店舗の店長に。近くにライバル店ができて客が減り、目標の利益を確保するためにアルバイ トを減らした。午前4時に起きて、通勤に1時間かけて6時には店に入る。午後11時まで店長業務と接客もこなし、閉店後は売り上げを確認。帰宅は午前1時で3時間の睡眠を取る。
 こんな厳しい日々の繰り返しで脳梗塞(こうそく)の初期症状も出た。だが、会社は「管理職は労基法の対象外」とし残業代を出さない。日本マクドナルドには労組がないため、相談の場がなかった。  判例では、労基法から除外されるのは出退勤の自由があるなど経営者に近い管理職に限られる。「時間に縛られている店長まで管理職として労基法からはずす例が増えている。これが過酷な長時間労働の土壌になっている」と原告側の小川英郎弁護士は主張する。 <引用終わり>


これは一種の「ホワイトカラー・エグゼンプション」であって、店長=管理職だから労基法の適用を受けないという経営者側の論理である。店長といっても現場責任者として厳しいノルマを課され、長時間労働は当たり前の上、さらに成果主義賃金で十分な収入が保障されているわけではない。


■キヤノンの偽装請負、労働者が正社員化申し入れ
2006年10月18日13時22分(朝日新聞の記事から)

 キヤノンの工場で働く人材会社の請負労働者が、違法な「偽装請負」の状態で働かされてきたとして、労働組合を結成し、18日、正社員として雇用するようキヤノンに申し入れた。キヤノンで10年働いている労働者もいるといい、「正社員になって、いいものづくりをしたい」と訴えている。

 宇都宮光学機器事業所でレンズの製造などに携わる4人が18日昼、労働組合東京ユニオンのメンバーらとともに、東京都大田区のキヤノン本社を訪れ、要求書を会社側に手渡した。

 要求書によると、組合に入ったのは17人。17人は、今年5月までの1年間は派遣労働者として働いたが、それ以外の期間は、キヤノンから製品の生産を請け負った人材会社の労働者として働いた。ところが、その間も、「実際はキヤノン側の指揮命令を受ける偽装請負が続いていた」という。

 偽装請負は実質的には派遣状態とみなされる。17人は1年以上働いているので、労働者派遣法で定めるメーカー側の直接雇用の申し込み義務が適用されると主張している。

 キヤノンで6年半働いているという男性(31)は「世界一のレンズを自分たちが造っているという誇りがある。できることなら正社員になってこれからもそれを造り続けたい」と述べた。

 キヤノンでは、宇都宮工場や子会社の大分キヤノンなどで偽装請負が発覚し、労働局から昨年文書指導を受けた。今年8月には「外部要員管理適正化委員会」を設置し、年内をめどに偽装請負の解消を目指している。
<引用おわり>


キャノン会長の御手洗富士夫は日本経団連会長でもある。キャノンが生産拠点を海外に移転せずに業績を伸ばしてきた背景には、こういうカラクリがあったということである。わざわざ中国などに工場を作らなくても安価な労働力を利用する方法があるということだ。キャノンだけではなく、松下や東芝、日立といった日本の有名メーカーの多くが「偽装請負」をやっていた。

長期不況で正社員になれなかった20代から30代の若者が、こうした請負労働者となって低賃金労働を強いられてきたという構図が浮かび上がる。こうした若者は請負労働者として人材派遣会社から派遣され、会社の寮に入れられて、収入から寮費や食費を天引きされると、手元に残るのはわずかなお金であるという。まさに絵に描いたような「ワーキングプア」である。

御手洗会長は、請負労働についての法制度の不備を主張しているが、こうした法制度のスキマをついた不当なやり方に対する反省の弁はない。財界トップの企業が率先して日本社会の格差拡大を牽引していたのである。


(設問1)「成果主義賃金」のメリット・デメリットを使用者側・労働者側それぞれの立場からまとめなさい。

(設問2)安倍政権の「再チャレンジ」政策と労働法制の改革はどう結びつくのか。