おっさんじゃないぜ!

気が付くと周りはしょぼいおっさんだらけ・・・オレもそうか?いや、ちゃうぜ!・・・きっと・・・

原作おはなしーその7「鍵」

2016年10月21日 15時32分30秒 | ジバクレイ達の世界

時の堰(ときのせき)第七章「鍵」

「各々方(おのおのがた)、千代姫の婿殿の貞時殿の力を借りて天子の一人を討ち果たしたぞ!」

監物がそう声を上げると、一同が歓喜を上げた。

「では、ご一同、皆で塔に向かい天子を討とうぞ!」

一行は日の光を背に塔へ向かう。
やがて工場の外へ出たサヨ達の目の前に大きな天へと続く塔が目に入った。

「おお、大きいの。こう近くで見ると廃墟な監獄といった風体じゃな。」

照基が言うように塔は小さな窓が不規則に並んでいて、石を積み上げて作った不格好な外壁で、中の様子が伺えないような造りになっている。

目の前には堅硬な壮大な大きな扉があった。

家重が扉に手をかけてみるが押しても引いてもビクともしない、

ふと扉の傍をみると六つの凹型のようなものが見え、それがサークル条に並んでおり、中心にレバーがあった。
また、工場のようなシンボルの下に、監物がさっき拾った歯車のようなものの形をした凹型がある。
ふと、懐から取り出し、はめてみるとカチッと音がして埋め込まれてしまった。

レバーを上げようとしたが、ロックが掛かっているようで上がらない。

中畑君がそれを見て、塔の鍵ではないかと言う。

確かに良く見ると先ほどはめた凹型の上には工場のように見えるシンボルの他に、それぞれ町、山、沼地、草原、雑木林といったシンボルが見える。

レンはそれぞれのエリアに天子がいて、その天子がそれぞれの塔の鍵を持っているのではないかと推測した。

一同はそうに違いないという結論に達し、まず、隣の町エリアの天子を探す事にする。

「工場内とおなじく、天子を横に広く探すか。」

監物がそういうと、工場内での検索部隊が再び編成され、町を探索した。
さすがに塔に近い為か天子はすぐに見つけられた。

「皆、天子から身を隠し待っておれ。手出しは無用じゃ。」

監物、うらら、照基、家重にレンが加わった戦闘部隊は天子に向かった。

やがて明るい光が見えて来て、監物がレンに「レン殿は切り札じゃ。なので先にワシら四人で挑む。そして不利に見えたら手助け願いたい。こういう策でいかがかな。」監物は皆にそう告げると顔を合わせ工場と同様に照基と家重が天子の後方にまわり、監物とうららが天子の正面に出た。

「罪人がどうしたことか。再び神の前に跪くのか。」

天子は二人を見てそう言って手を差し伸べた。この天子は武器らしいものを全く持っていない。丸腰だ。なぜ?

「ひるむな!問答無用じゃ!行くぞ!」

監物はそう叫ぶと四人は一斉に飛びかかった。

「ほう。四対一とは立派な作戦です。」

天子はそういうと素手で監物とうららの刀を掴みそのまま照基と家重に向かって二人を投げ飛ばした。

「きゃ!」「ぐっ!」「ぎぇ!」「うぉ!」四人の短い絶叫が響いた。

「おお、美しい絶望のハーモニー。」

天子はそういうと立ち上がり身構える四人に向かって刀傷を負って半分切れている血だらけの両手を差し出し、「天子に絶望しましたか。私は天子の中でも塔の天子に続いて強いのです。」そう言い、「さあ、罪人は永遠の罰を受けなさい。」と続けた。

「あやつ、刀を素手で掴むから切れて流血しておるぞ!」家重が驚いている。

その姿にうららも驚いた。「あんなダメージを受けてて何いってんの。」

監物と照基は顔を合わせ頷くと低く構えた。

「何の。打ち倒してくれるわ!」照基がそう叫ぶと天子に飛びかかっていく。

「みな!行け!切り刻め!」

監物がそう絶叫すると他の三人は一斉に天子に飛びかかった。

照基の刀が天子を刻み、家重の一刀が天子を刺す。監物の刀が天子を胴から両断し、うららの同田貫が天子の頭を縦に割った。

「やったか!」

四人が振り返ると切り刻まれた天子が全身から血を噴き出して肉片と化している。

天子の肉片はブルブルと小刻みに震え。唯一切れてない口から震える声が聞こえた。

「天子は何でも受け入れるのです。」

「えっ!何?」うららはそう思わず言った。

天子の肉片はブルブルと動いて集まり、血だらけの部位がくっつき、血だらけのゾンビのような姿で整形されていく。

「さあ、私がお前達に罰を与えましょう。今までよりより苦しく、痛く、恐ろしい、狂気に満ちた罰を。」

なんだ。こいつは。切り刻まれたのに元に戻ってしまう。陰から見ていた兵達も監物達も皆、恐怖に包まれた。切り刻んだ手応えはあった。あれでダメージがないとは信じられん。こいつは不死身か。

「いかん!こやつの術中に嵌められてしまう!皆々方、恐れを捨てよ!立ち向かえ!」

監物はそう叫ぶと再び天子を切り刻んだ。

天子の腕が胴から離れ、その首も胴から離れている。
しかしながら飛んだ首から天子の声が聞こえる。

「天子は苦楽の全てを受け入れるのです。お前達も私の罰を受け入れなさい。」

切り刻まれた腕も、飛んだ首もブルブル震えながら一カ所に集まり、元の形に形成される。
あたりは狂気に満ちた天子の笑い声が響いてる。

レンは迷っていた。ここでオレが出て行っても天子の倒し方も解らないままでは戦力にならないだろう。オレの槍も皆と同じくただこの天子をただいたずらに切り刻むだけで、今の状態と変わらない。どうする!貞時!

レンがそう悩んでいる間にもうらら達は天子をいたずらに切り刻んでいる。監物の刀が、照基の刀が、家重の刀が幾度も天子を切り刻み、天子は再生して行く。

「切り刻みなさい。その刻んだ分だけ罪人の罰は重くなるのです。」

天子の甲高い狂気に満ちた声が響く。

「綾瀬さん!影だ!そいつの影の動きがおかしい!」

突然、中畑君がレンの背後から駆けつけ、前に立ちはだかり叫んだ!

四人は天子の足下に注視した。その瞬間、天子の影が立ち上がり、中畑君目がけて飛んだ。真っ黒な影は漆黒の剣を振り上げ、呆気にとられている中畑君の頭上に振り下ろした。

「余計な事に良く気がつく罪人ですね。罰として消滅しなさい。」

金属音が響いた。漆黒の天子の剣はレンの槍で受けられている。中畑君はその後方でポカンとしている。

「本体は影だったか。切り刻まれていたのはマペットか。」

レンはそういうと素早く槍を返し、漆黒の天子を両断した。漆黒の天子の恐怖に満ちた顔が見えた。天子の絶叫とともに、レンには「貞時さま!」と天子が驚愕した声が聞こえ、切り刻まれたマペットと共に蒸発していく。

「レン殿、中畑殿、大事ないか!」

監物達が駆け寄って来た。

「中畑君、大丈夫。」うららがそういうと、気丈にも、「ボクも役に立って良かった。」と言う。

「天子を見ていたら、あれだけダメージを受けているのにすぐに再生してしまうのはオカシイと思って、何か不自然なものはないか探していたら、影の動きがオカシかったんだよ。まるで下から人形を操っているかのような影の動きだったので、影が本体だと思ったんだ。」

中畑君はそういうと、レンに「レン君がいてくれて助かったよ。影が一瞬で飛んで来た時は呆気にとられて動けなかったから。」と言った。

「今回は中畑殿の手柄じゃな。その中畑殿を守って天子を討ち果たしたレン殿も大きな手柄じゃ。」

監物がそういうとレンは「いや、今回は中畑君の手柄ですよ。だって、オレはどう戦えばいいか解らなかったし、中畑君が影だといって影が飛び出て来たから結果的に戦っただけですから。」と中畑君の顔を見て頷き言った。

「しかし、天子がオレを見て”貞時さま!”と呼んだのですよ。貞時殿は天子の仲間なのでしょうか。」

レンは訝しげな顔をしながら皆にそういうと、監物が「貞時さまと天子がそう呼んだのじゃな。という事は貞時殿、つまりレン殿は天子の上の者という事じゃろ。仲間というより天子より上のものという事じゃろうて。」と続けた。

「レン!強いね!かっこいい!中畑君も凄いね!すてき!」キヨミがそういうと、「中畑君。大活躍!」とサヨが言う。

白井さんが歯車のような形の塔の鍵の二つ目を拾って来て監物に渡した。

「これでまた塔に近づいたね。」白井さんはそういうと中畑君の手をぎゅっと握り。「頼もしい仲間だね。」といって、レンの手もぎゅっと握った。中畑君もレンもちょっと恥ずかしそうだったがちょっと距離があった二人に連帯感が感じられてきた。

「さあ、ここでの天子は打ち倒したぞ。塔に戻って鍵を容れるかの。」監物はそういうと一同は塔に戻り町のシンボルの場所に鍵を容れた。

「さあ、残りは四つじゃ。では、我らが得意な山に向かうとしようぞ。」

監物がそういうと町の隣の山岳エリアに向かった。

工場や町同様に横に広く天子を探した。いままでの二人には後光が差していたので天子の所在がわかりやすかったので今回も同じだろうと思っていた。

「ワケ様!」

インカムからサヨの声が聞こえた。

「千代姫様。どうしてお一人でここへおられるのですか。」

士郎の声も聞こえる。

「えっ。何?どうしたの。」

うららがそう囁くと、「ワケ様。どうしたの。」とサヨの声がする。

監物、レン、照基、家重は共にいるうららを見た。

「千代はここにおるぞ。どうした。」

監物がそう囁くと士郎達がいる中央に向かって五人は駆け出した。

「ワケ様!何するの!」

「千代姫様!どうされたのですか!サヨ姫をお離しください!」

サヨの声と士郎の声が聞こえる。

「キャー!」吉良さんと白井さんの叫び声が聞こえ、「綾瀬さん!どうしたんだ!」中畑君の声も聞こえた。

何だ!どうしたんだ!うららはここに居る。サヨ達はどうしたんだ!

「なんと!」士郎達の前に到着した五人はサヨを押さえつけているうららを見た。

「えっ!」

うららはハッとして思わず声を上げたが、次の瞬間サヨを押さえつけているうららに飛びかかっていった。
瞬間、押さえつけているうららがサヨに変わった。うららは躊躇して刀を抜かず着地してしまった。

今度はサヨがサヨを押さえつけている。何なんだこれは。皆がそう思ったとき、サヨを押さえつけているサヨがその口を開いた。

「罪人たちよ。どうして罰を受けていないのですか。罪人は呪縛されつづけるはずですが。」

何なんだこいつは。皆が動揺している。サヨは「離せ!離せ!」と言って暴れている。サヨがサヨを押さえつけている皆どうして良いか解らず躊躇している。

「この者は罪人ではないようですが、私の裁きを受けて、難を背負ってください。」

サヨを押さえるサヨはそういうと監物の姿に変わり、刀を抜いた。

「待て!お主はなんじゃ!」

監物がそういうと不気味な大きな笑い声が響き、「罪人に知る権利はありません。」と言って刀をサヨの首元に当てた。

サヨは押さえつける監物の顔を見上げ、「イヤー!」と叫んで「助けて!城代!やめて!城代!」と続けて叫んだ。一同には何が起こっているのか解らなくなっている。監物も自分の姿を見直してどうして良いのか解らず躊躇したままだった。

「さあ、罪人の皆とはお別れの時が来たよ。」

サヨを押さえつけている監物が優しくそういうとサヨの首元の刀を引き上げた。

「ひぃ!」サヨの叫び声と共に金属音が大きく響いた。

サヨを押さえつけている監物の右手から刀が落ちている。目の前にはレンが槍を構え立ちはだかっている。「やめてってサヨが言ってんだろ!」レンがそう言うとサヨを押さえつけている監物の表情が凍り付いた。

レンはすかさずサヨを掴んでいた監物の手をはたき落とし、サヨを抱き寄せるとそのまま士郎に渡した。
サヨを押さえつけていた監物はあからさまに動揺している。

「貞時様!」

サヨを離した監物がそう叫んだ。

「なぜ外道に!」

「今じゃ!」そう監物が叫んで監物に突っ込んで行く。うららも照基も家重も。

レンを貞時と呼んだ監物はその姿を後光に包まれた天子に変えた。
レンの姿を見て動揺してしまった天子だったが、何とか攻撃を防いで、その場を逃げようとしている。
レンは振り返ると槍を大きく構え逃げ出す天子に向かって強く放った。

「うりゃーっ!」

レンの槍は空気を切り裂き逃げる天子の後ろ姿に突っ込んだ。

「貞時様!お赦しを!」

あたりに天子の断末魔の叫びが響いた。

天子は蒸発し、消え失せていく。


「レン!ありがとう!また、助けてくれたんだね。」

サヨが泣きそうな顔でレンを見つめる。

「いや、オレじゃなくっても助けるでしょ。」レンはそういうと小さく「お赦しくださいって・・・」とつぶやき「何もんなんだ貞時って。」と考え込んでいた。

「レン殿やったの!これで鍵二つゲットじゃ。」監物はそういい、「婿殿は頼もしいのお。サヨ殿。」と笑いながらサヨを抱き上げた。
サヨは”うんうん”と頷き、「でも、城代。酷いよ。やめて。助けてって言ってるのに。」とちょっとムッとして監物を見た。

「いやいや、あれはワシに化けた天子でワシじゃないぞ。」

監物が慌てて答えると「本当に怖かったんだから。」と言って強面の顔に抱きついた。

「いつも優しい城代。だめだよ助けてくれなきゃ。」

サヨはそういうと、「城代。下ろして。」と言って、レンを呼んで手をつないで天子の歯車を拾いに行った。

「レン。この感じで残りの天子の歯車も手に入れて、塔の天子をやっつけて、あの日の朝に戻ろうね。そして皆救うんだ。それがアタシの夢。レンと一緒に戻る事、それがアタシの希望。」

逢魔が時の山中は暗く気味が悪かったが、サヨの姿を見ていると何でも叶えられる気がする。

皆を救うんだ。

レンの心もサヨと一緒だった。

コメント
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