持続する夢

つれづれにふと気づいたことなど書き留めてみようかと
・観劇生活はえきさいてぃんぐに・日常生活はゆるゆると

審判 2/3

2005-10-18 22:23:15 | 演劇:2005年観劇感想編
彼は問い続ける。自分の罪を。強いまなざしをこちらに向けて、下る審判を待ち侘びている。こちらといえば。万が一にも彼と視線を合わせてしまったりしないように、目をそらすので精一杯だ。当事者になることの怖さに、後ろの席を選んでもいるのにね。

ヴァホフは。殺害にも食肉にも、積極的に加わったのではない。もう一人の生存者・ルーヴィンは、誰よりも最初に食糧に向き合った。丁寧に解体し、しり込みする同胞に配布まで行った。最初に取り決めた作戦に、誰よりも忠実だった。不器用なほど真摯に、すべてを全身で受け止め続けて。ついには自分自身を壊してしまう。
ヴァホフの正気は。耳を、心を、都合よく塞いだことによる。それをどこかで恥じているからこそ、ルーヴィンを尊重していると本心で吐く。それでも。生き残りが、ふたりになったとき。彼は、凶器の準備を始める。先に亡くなった同胞の大腿骨を、石の床で研ぎすます。

加藤健一氏によって、描き続けられる地獄絵図は。60日目を迎えて、終焉に向かう。
彼らを発見をした中尉は、吐き続けていたとヴァホフが言う。その行動を責めるでもなく、判事に己への哀れみを請うのでもなく。本当に、なんでもないことのように。
かの場所は、今は無い。中尉が、ダイナマイトをもってして破壊してしまったから。ヴァホフは、こうも言う。あの時。同時に心の中からも消滅させてしまえれば良かったのに、心象に残してしまったと。両の手で、いとおしげに大腿骨製のナイフを撫でながら。

彼は何度も主張する。自身の正気を。正気だと認められることを望み、その上で裁きを受けたいと願う。自分自身は「有罪」だとも言う。ただし、「罪の性質」を知らせろと迫る。そして。。答えがでないのなら。「戦場に戻してください」と言うのだ。「銃を持って戦わせてください」と請うのだ。ここで、強く思う。・・・彼は正気だ。・・・戦場の中にいられる間は。と。
地下室に迷い込んだ小鳥のエピソード。小鳥ですら、すぐには脱出できず。ばたつく羽音を耳にして。同胞はパニックを起こしたという。すでに地下室の外の世界を受け入れることができず、全身で拒絶する姿をヴァホフは証言した。彼自身すら。救い出されたときに、歩いた樺の木の下の情景を。葉の匂いに包まれながらも、ひどく遠いもののように感じていた。

正しい審判を下すために、彼の証言に耳を傾けなければならない我々。身じろぎすら憚られる緊迫した空気の中で、聞くだけでも苦痛な事実。他の誰にも語り得ない事実。極限におかれた人間のとった行動。それを。安穏と生きる者に裁けるわけが無い。彼の罪は、彼以外に裁く権利を持たない。だが、誰かが彼を裁かなければ。彼は救われない。

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