黄金色の日々(書庫)

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ローマ法王になる日まで

2017-06-27 00:46:48 | 映画感想



現ローマ法王フランシスコ。無信仰の私が興味をひかれたのは、ヴィゴと同じくアルゼンチンのサッカーチーム、サン・ロレンソのファンであるのを知った時というライトなきっかけ(汗) けれど2014年に行ったイタリアで、ヴァチカン見学のみツアーに参加し、ガイドさんから聞いた法王のエピソードにかなり惹きつけられました。
とにかく逸話が多い人。歴代法王が使った豪華な部屋を辞退し、各国から枢機卿が訪れた際に泊めるホテルの一室を使っているそう。「わたしは他の聖職者と一緒にいることに慣れている」 一人で豪華な部屋なんか必要ないということでしょう。、参照
こちらにもあるように、すぐに自分で電話しちゃうので、かけられた方は大騒ぎになる(笑)

街に出た際はツーショにも応じるとか、このようなポーズでの親しみやすさが大人気。
けれど実際これまでにない大改革をヴァチカンに行っていて、内外共に敵視する輩は数知れず。2000万人ものフォロワーがいるツィッターで生の声をハッキリと発信している! ローマ教皇フランシスコの率直すぎる10の発言

人間的にも興味が尽きないこのお方が、どんな半生を送ってきたか。それを描いた作品。

いやもう、アルゼンチンでこんなことが、わずか40年前に行われていたとは…。まずそれがショックでしたよ。
今もなお戦争をしている地域はあるし、ナチスによる残虐な歴史は誰もが多かれ少なかれ知ってる。けれどその30年後のアルゼンチンにおける軍事独裁政権について知らない人は多いでしょう。私もでした。
40年と言えば10代20代の人には昔だろうけど、スターウォーズの一作目が公開された頃ですよ? ミュージカルで有名な「エビータ」、エヴァ・ペロンの夫ホアン・ペロンが亡くなった後。1976年から1983年の7年間で、死亡または行方不明者が3万人。3万人って! 
“または”というのはつまり、消息不明のままで亡骸が発見されていない。その数の不明者ってどういうことなのか。それは映画を見るとわかります。

軍事政権を描くのが目的の話ではないので、暴力描写が露骨に続くわけではないけれど、映らず匂わせる部分もあり心は痛む。かなり淡々とした描写で進むので、退屈したという感想もあるけれど、通して見ればフランシスコ法王となるホルヘ・マリオ・ペルゴリオが戦い抜いてきたことがわかる。むろん精神と信念においての戦いを。
汚い戦争と呼ばれたこの政権下、カトリック教会の関与も指摘されていて、その面から今も法王を批判している人もいる。多くの司祭も犠牲になったこの時代を生き抜いたのは、少なからず上からの指示に逆らわずにやり過ごしたこともあるから。その葛藤も描かれています。教会も階級社会。昇進が早かった優秀なペルゴリオも、中間管理職としての板挟みを味わい尽くしてる。救いを求める人々と、ことなかれで軍に逆らわぬ上級司教との間で。

貧しい人々に食事と教えの集会を提供している知り合いの神父二人(一人はペルゴリオの指導者だった人)が当局に睨まれ、上からのお達しで彼らを説得に行く。彼らに気持ちは同調しているので内心は苦しい。けれどそのまま命に従わなかった二人は軍に拉致され拷問を受ける。ペルゴリオは海軍大将に掛け合い、大統領官邸でのミサで直訴までする。行動の人であり、スレスレの駆け引きもできる人だ。
それでも解放された神父二人はPTSDにより衰弱しきり、そこの尼僧にあなたは何もしなかったと揶揄されて、「尼僧の分際で!」と言ってしまったりもする。「私を脅迫したわね!」と言われてすぐに反省し、「私にできることは何でもする」と言って二人の海外逃亡の航空券を用意する。
そういう人間臭い、聖人ではない部分も描かれてる。(食ってかかるこの尼さんも実際すごい) 清貧に暮らして自分で洗濯もしている彼が航空券を用意するのだって大変だっただろうけど、尼さんから見れば“信念に従い正しい道を歩んで犠牲になったお二人”と比べて、上部におもね保身に走ってるだけなのだろう。

有名なコルベ神父のように、自分の命を差し出して一人の人間を救ったのも、動乱を生き抜き、矛盾と焦燥を抱えても自分がその時にできることを続け、ついに世界をも動かす改革ができる頂点にたったのも、その人その人に与えられた使命。ペルゴリオは後の方の運命を持っていた。
彼の親しい人も行方不明になる。その顛末は相当ショックでむしろ唖然とした。なんでそこまで手間暇かけるんだよ?!と思ったけど、それが「行方不明者が万単位」ということなんだとわかった。完全なノンフィクションではないのだけどこの部分は事実だそうで、法王はいつ真実を知ったんだろう。辛かっただろうほんとに。こういう時代を生きた人が法王になるのは実際初めてだろう。自分に暗殺計画があると聞いても全然びくともしないのは当然だ…。

絶望や悲しみを味わいながらも務めを果たしていく若き日のペルゴリオの姿を、アルゼンチンの俳優ロドリゴ・デ・ラ・セルナが好演。枢機卿になってからの老ペルゴリオを演じたセルヒオ・エルナンデスもいい味わいです。前法王ベネディクト16世の辞任をラジオで聞いて唖然としているシーンが良かった。質素な部屋で質素な食事をしていた時なのだが、パンとスープ? パンをスープに浸したパン粥かな。そのボールだけ。彼の生活が見て取れる。
ベネディクト16世が辞任したのは高齢のための体調への懸念が理由とされているけど、実際は噴出したヴァチカンのスキャンダルの責任を問われたというのもある。それが昨年度のアカデミー作品賞受賞の『スポットライト 世紀のスクープ』で描かれたカトリック教会の性的虐待事件

これを受けて大失墜したヴァチカンの威信を取り戻す役目も負った新法王。就任初のヴァチカン広場での第一声が「みなさん、こんばんは」だったという庶民に寄り添う面と、苦難の歴史を生き戦ってきた激しさをあわせ持つフランシスコ法王。
布教映画ではないし、これを見てキリスト教に対し何か思うよりも、苦難を乗り越えてきた一人の人間としてのペルゴリオ~フランシスコ法王には心打たれると思います。これからどんな改革と言動をしていくのか。
自由の国のトップにあの人が選ばれ、良きも悪しきも歴史の流れに大きく関わってきたキリスト教の総本山の頂点に、こういう人が選ばれた。
世界の変容期に立ち会ってるんだと感じます。軍事政権崩壊後に訪れたドイツで出会った「結び目を解くマリア」。自分ができる限り、この世の沢山の結び目を解いていくことを、法王は誓っているのかもしれません。


映画『ローマ法王になる日まで』予告編




Wiki参照 とても長い。
映画の監督ダニエーレ・ルケッティのインタビュー。こちらはわかりやすく伝わります。
「庶民派」法王の成長物語

タンゴが流れるモノクロのエンドロールは秀逸。

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