kochikika ノート

旧「こちら某中堅企業企画室」。リーマン話、時事の話、パリーグ話など。ぼちぼちやってます。

再びゆかりタンとIPO審査についての話

2006-03-12 00:55:46 | 産業紙から



こちらのエントリの続編というわけじゃないのですが、再びフジサンケイビジネスアイにて、佐藤ゆかり氏の寄稿記事が掲載(3月9日)されましたので、ご紹介。佐藤優氏の話も面白かったのですが、今回はゆかりタンの方のみ。
(「永田町発 わたしの視点 衆議院議員 佐藤ゆかり」)

ライブドア事件は、金融自由化時代の変遷の光と影を映す象徴的な出来事であろう。
確かに、資本市場のグローバル化と金融工学の発達とともに、自由化の流れや、また既得権益をなくすため事前審査から事後監視型行政への移行は、逆戻りできない重要な施策である。

しかし、規制緩和と事後監視体制の強化は一対として行うべきであり、市場の自由化が進む一方で、磐石な事後監視体制の構築が出るならば、金融市場の公正性に対する信頼を損ね、日本の資本市場の国際競争力をも損ねる結果になりかねない。

実は冒頭のこのニ段落で、総論として今回の氏の寄稿記事は言い尽くされています。見出しにあるように「自由化と監視は一対」ということですね。

もうこれについてはあまり言うことはないというか、今回の記事では、後段の個別論点の方に興味を惹かれました。

企業の収益性のファンダメンタルな回復と、(ライブドアのように)決算を意識した会計上の短期的な利益捻出とが、特に個人投資家にとり、同じ土俵で識別困難な市場であれば問題だ。

国の事後監視体制の今後の強化の必要性を述べた上で、さらに東証側にも、より厳格な上場審査などの善処策が求められるだろう。

新興市場の上場査定には、経営者の倫理観や経営理念などの人格的資質、また企業としての将来性やガバナンス体制などに関する十分な査定が、一部上場審査と比べなおさら重要である。

事前審査から事後監視型行政へ移行が進むなか、事前審査の欠落や監視体制の不足によって、適切な投資判断に向けた情報収集コストを、むやみに行政から投資家の手に移転するような結果になってはならない。

つまり氏は新興市場のIPO審査を厳しくするべきではないかとしているのですね。

この辺は日米が両極端で困ります。
日本は90年代前半までは、新興市場(あの頃は店頭市場)上場には経常利益で3億円くらいが必要でしたが、現在は赤字でも上場可能という市場がある一方、NASDAQでは上場企業は10億円くらいの経常利益に加え、監査法人に1億円くらい支払って、内部統制を整えている状況です。

投資家サイドから見れば、NASDAQくらいの企業規模になれば安心ということになるのでしょうが、これでは上場可能な企業が限られてきますし、市場の活性化の面や“ジャパニーズドリーム”実現の面でもいかがなものかと。

一方で日本の状況ですが、仕事でIPO準備を経験した折、既に消えてしまった孫さんが立ち上げた取引所から「上場するならウチの市場に」とセールス電話があったことがありました。
あの頃は「日本経済、もう頼みはベンチャーしかない状態」でしたが、景気の影響で公的な取引所の上場基準が実質的に左右されてしまう状態というのは好ましくなかろうと。

最近は上場=資金調達の手段という本来の論理が大手を振っている状態なのですが、上場というのは社会的信用の獲得という「昭和の論理」が復活してもいいのかなと思います。氏の言うように、敷居は現状より高くしても良かろうと。

「ほどほどがよい」とする当ブログの意見としては、まずIPO審査については、90年代前半と同様、社内管理体制構築に必要な間接人員を確保した上で継続的な黒字が見込める規模くらいに利益水準を引き上げる。
しかし上場先が新興市場であれば、上場後の内部統制にかかる規制などは“まけてやる”。その代わり分割やファイナンス可能な額を制限する。
大規模なファイナンスをしたければ、東証一部など伝統ある取引所に行ってもらう。ここは徹底的な内部統制のみならず、適正なCSRをも求めてもいいくらい。

今もそうだといえばそうなのですが、改めて取引所に明確な「ランク」を設けることで、投資家には「新興市場はリスクが高い」という当たり前の話を、こうしたシステムを通じて認識してもらう一方、ファイナンス額を制限することで、万が一の被害を少なくしてやる。

また、氏の言う投資家保護(=企業への管理コスト要請)については、全市場に適用する必要もなく、各市場のレベルごとでこちらも段差をつける。
氏は「情報収集コストを、むやみに行政から投資家の手に移転するような結果になってはならない」と仰るが、多少は自己責任の余地を残さないと、成長してナンボの新興企業にもコスト負担でブレーキがかかるし、不遜ながら、投資家も鍛えられないのではないかと。

要するに、現状は上場に関する階段がいびつなんですよね。
一段目の新興市場へのIPO時は低い段差で、上場後は新会社法やSOX法なんかで管理コストは高い段差になる。で、ファイナンスにかかる規制としては段差がなく、東証一部、二部へはそれほど高くない段差になる。さらにそれらの段差は、景気情勢によって高くなったり、低くなったりする。
まあ、この辺、段差を造って、その高さは同じにならしていこうということです。

しかし氏の言う「新興市場の上場査定には、経営者の倫理観や経営理念などの人格的資質・・・」というのは、なかなか難しいでしょうね。
審査の席にTシャツ姿で現れる経営者は上場不可になるとか。逆に審査する方はどうなんだという話もあるし。

でも、万が一実現したら、これを知りたい投資家もいるでしょうね。
if  ついでですが、審査の結果について、取引所側に情報公開してもらいたいものです。何か、あのプロ野球新規参入の時を連想させますが。



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