小林真一の作品を拾い読み きらめく星座社公式ブログ

2007年デビューの作家 小林真一の本が立ち読みできるブログです。

【 『はぐれ狼が奔る』 俺が辞めたらいいんだろう より 】

2010-01-15 12:05:00 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01






・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 【俺が辞めたらいいんだろう】 』 (P9~P11)より・・・・・・

牧山春彦は突然会社を辞めた。
辞表を書いたわけじゃない。書きたくても辺りには手頃な用紙
も筆も無かった。目の前のテーブルにあるのは、ウイスキーの
ボトルと水差し、いい加減な「おつまみ」の皿と幾つかのグラス。
夜の蝶とは呼べない蛾に似た女たちと三人の中年男。
「ボクが辞めればいいんでしょう」。そう叫んだ春彦自身が、
自分がいま何を言っているのかの意識が無かった。春彦の正面
に座っていた野川の顔が歪んで見えた。同席していた宮崎と
藤原からニヤケ面が消え、ポカ~ンとした間抜け顔に変貌した。

嬌声を上げていた女たちが、時刻が止まったように黙りこくった。
沈黙を破ったのは野川だった。予想もしなかった春彦の宣言に
一瞬驚きのあまり我を失ったが、日本の大手商社の一角をしめる
世紀物産の常務取締役の肩書を持つ自分が、今どう対処すべき
なのか、その立場を思い出したようだった。
「なんてことを言い出すんだ。今の俺が会社と社員との板挟み
でどれだけ苦しんでいるか、それを一番理解してくれるのが牧山、
お前だと思えばこそ帰国を急がせた。繊維部門を統括する俺の
片腕にとウイーンで活躍中のお前を、あえて指名したんだ。その
俺の思いが分らんのか」
「わかりませんねぇ~、それなら何故ここに、この二人が居るん
ですか。こいつらこそが会社を苦境に追い込んだ害虫でしょうが。
この場が本当にボクの慰労のための席だとしたら、害虫二匹を
なぜ呼んだんです」
女たちの眼前で害虫呼ばわりをされた宮崎が青ざめ、藤原の方は
逆に顔を真っ赤に染めていきりたった。
「なんだとぅ~、害虫とはなんて言い草だ」
「そのものズバリだろうが、お前がハンブルグで行った悪行の数々、
ようも今日までクビにならずに済んだことだな。常務、こいつを
駆除せよと言われるのならお受けしましょう。なんでこんな害虫
どもが、今回の肩たたきから免れて、ただ五〇才を越えてライン
から外れているという理由だけの理由で、七人もの先輩をボクが
首切り浅右衛門の役を果たさねばならんのです。いつから世紀物産
はそんな薄情な会社に成り下がったんですか。あの竹下の馬鹿が
社長になってからとは知っています。野川さん、貴方までが竹下の
言うなりになるとはねぇ~。世紀物産ももう終りですなぁ~。そんな
に首切りせなあかんほど会社が傾いたんなら、ボクも余計なもんで
しょうから、真っ先に辞めようじゃないですかと、そう言ってる
だけじゃないですか。どこか可笑しいとこありますか」
ここは北新地の本通りじゃないにせよ、堂島上通りにあるクラブ
「以志原」である。満席にはほど遠いにせよ、四組ほどのグループ
客も入り、声のよく通る春彦の怒りにまかせたぶちまけを、他所の
トラブルは蜜の味と言わんばかりに、興味深かげに耳をすましている。



・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 【俺が辞めたらいいんだろう】 』 (P9~P11)より・・・・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ


【 『はぐれ狼が奔る』 運命の出会いより 】

2010-01-14 17:51:13 | はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
 

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01



・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る』 運命の出会い (P153~P157)より・・・・・・

ドクター・グランデル社はアウグスブルグに在るという。ミュンヘン中央駅から三十分ぐらいで行ける近距離だ。
ミュンヘンに留まっていてもやることもない。牧山はアウグスブルグに移動した。ハンブルグ駐在のころ、この町の外れにある紡績工場には、なんども足を運んだ事がある。当時利用したホテルに行くと部屋を用意してくれた。
フロントで、ドクター・グランデル社を知っているかと訊ねたら、もちろん知っているとの答えが返って来たのには驚いた。なんでも市で最も歴史の古い企業だそうである。このホテルからも近いらしい。市庁舎の裏手の通りにあるという。
例によって下見に行く。この町は石畳で出来ている。情緒はあるが靴で歩くのには適していない。カソリックの地域だから、どの町でも中心部に市庁舎がある。裏側に廻り何度か迷った末に漸く見つけた。日時計が社屋の壁にあり、それを見ると創業が西暦九八二年と記してあった。なるほど古い歴史がある会社なんだ。
市庁舎の真ん前に広場があり、季節柄テント掛けの屋外ビヤホールが店開きしていた。ビールの大ジョッキを注文し、ポテトサラダと焼ソーセージも頼むと腹いっぱいになった。

一夜が明けて九時になるのを待ち、昨夕確認したドクター・グランデル社を訪問した。プロトコールと呼ばれる受付で用件を述べると、すぐ隣の狭い部屋で待つように指示された。
やがて、がっしりとした体格の男が現われ、グロノスタイだと名乗り、三棟が続く一番遠い棟に案内された。そこにグロノスタイ氏の個室があり、彼が輸出の全般を仕切る課長だということであった。
いきなり、四冊のファイルを見せられた。美星堂、川之江製薬、五菱商事、旭光製菓の四社との往復書簡や会談記録が綴じこまれていた。
四社とも高名な企業である。これだけの有名企業が、すでに取引を申し入れて来ているのであった。なかでも、美星堂のファイルが最も分厚い。松岡という社長自らのサイン入りの書簡が多かった。松岡氏自身が三度訪れてもいた。
これは駄目だと牧山は諦めた。出遅れもいいとこだし、第一会社規模が違う。牧山は沖原と組んでスタートを切ったばかり。実績はゼロである。

呆然としていた牧山に、グロノスタイ氏が声をかけた。
「ヒルメシを食いに行こうぜ」
案内されたのは、すぐ近くの路地を入ったピザ屋だった。日本で言えば「うどん屋」といった感じの店である。
牧山はここでスパゲティ・ボンゴレを食べた。充分に美味であった。
グロノスタイ氏が聞く。
「人数は何人でやる」
「差し当たりはボク一人だ」
「使える資金は」
「せいぜい一千万円かな」
「どうやって売る。矢張り問屋を使うのか」
「いや、既存の販売ルートは使いたくない。今までの概念には無かったところを、新規に開拓したい」
「例えば」
「そうだな、例えば美容室だな」
オフイスに戻ったグロノスタイ氏は、やおら机の抽斗から、オレンジ色の箱を取り出して、
牧山に見せた。
「これはどうだ」
「これは何ですか」
「ウチが美容室専売品として出している商品だ。今さっきキミは美容室流通を考えると言っただろう。それなら、このビューティキャップなんかがぴったしの商品じゃないかと・・・」
「えっ、じゃあ、これをボクが扱っても良いのですか」
「やりたいから、ボクを訪ねて来たんじゃなかったのかい」
「それはそうだけど、いきなり四社、それも大手ばっかりのファイルを見せられて、ボクなんかの出る幕はないものと・・・」
「それがいいんだ。なによりキミは正直だ。差し当たり稼働人員は自分だけとか、用意した資金は一千万円だけとか、その場で即答してくれた。実に気持ちがいい。このファイルの連中は、何を聞いてもお互いの顔を見詰め合うだけで、その場でのイエス・ノーが無い。
すべては本社に持ち帰り、然るべくお答えするって調子で、何のために大勢で押しかけるのか判らん。いくら大企業か知らんが、ウチは大企業との取引は望んでいない。キミがやってくれるなら、最適のパートナーが出来上がることだろう」
「ここに、内面からヒフ・爪・髪を美しくするとありますが、そんなことが可能なんですか」
「それこそが、先代社長のグランデル博士のライフワークだった。内面と外面の双方が相俟って完全なコスメティックが出来上がる。ウチはドイツの美容専門サロン向けの、プロ用のスキンケア化粧品でもトップの座にある。そうだ、キミはシデスコって組織の名前を聞いたことがあるかい」
「シデスコ? いや、知りません」
「エステティックの意味は」
辞書を開いたら、審美とあったが、意味不明である。
「これからは、エステティックの時代だ。戦後すぐにヨーロッパの美容関係者が集まって、戦時中に女性たちが忘れさせられていた、美容の復活にポイントをおいた国際研究会が発足した。グランデル博士はその重鎮でもあった。今の国際組織の本部会長はウチの社員だ。来年は東京で、その大会が開催されると聞いた。その会長に会って見るかい」
「そりゃ、是非会わせてください」
グロノスタイ氏は、社内電話を掛けた。



・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る』 運命の出会い (P153~P157)より・・・・・・

Banner_03 にほんブログ村 本ブログへ ←応援よろしくお願いします



                 


【『 はぐれ狼が奔る』 二百名の美容師がモルモット志願 より】

2008-09-22 18:38:16 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01

 



・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る』 二百名の美容師がモルモット志願 (P225~P228)より・・・・・・

予想以上に美味い天麩羅に満足した牧山は、まだ不慣れな新事務所に戻り、再びボノラート関係の計算に戻る。
この商品は、まだ売出し前なのに、早くも予約注文が入るほどの人気となっている。二月に福岡でセミナーを開いたときに、会場から一人の美容師が立ち上り、
「先生、このビューティキャップには、痩せる効果もありますか」
「それは無理でしょう。肝機能が高まるから、脂肪分解の力は高まるでしょうが、肥満した身体の脂肪を取ることまでは無理です」
「このドイツの会社、こんな凄い商品の開発力があるんだったら、痩せるのに役立つ商品も持ってるんじゃないのですか」
「それなら、軍の病院で二十名の肥満兵の臨床データ付きのすぐれ物があります」
会場が沸いた。
「えっ!あるんですか。あるんだったら、もっと早く教えてくれたらよかったのに」
それで大騒ぎとなった。
「あるにはあるんです。だけど物凄く不味い。これじゃ日本人は見向きもしないと、もっと味の良いものを開発するよう、ドイツ人と遣り合ってるんです」
「不味いってどれぐらい」
「効果はあるんですね」
「オブラートにくるんで飲んでも、効果はあるんでしょう」
「それだったら、どんなに不味くても、ワタシは欲しい」
「ワタシも」「ワタシも」。
そんな経緯があって、三十名分だけをテスト用に取り寄せて分け与えたら、なんと全員が痩せたのには驚いた。

そのハナシが飛び火して、東京でも名古屋でも広島でもと、あわせて二百名の美容師が自らモルモット役を買って出て、ただ一人の例外もなく全員が痩せた。ボノラートには、ビタミンやミネラルもたっぷり含有されているから、誰も不健康な痩せ方はしない。
最初に福岡で質問した人なんか、九十キロもの巨体だったのが、四月半ばに再び福岡に行ったら、
「先生、ワタシのこと覚えています」
目の前に居るのは、ごく普通サイズの女性である。
「二月に、最初の質問をしたのがワタシです」
信じられなかった。九十キロが一週置きに休みながら続けたら、今はなんと五十キロ台になったんだという。
「今度、熊本に来てください。九十キロ・クラブのメンバーをご紹介しますから」
九十キロが六十キロを割った彼女の変身を目のあたりにしたが、他に巨体の一個連隊が、今では全員が普通のサイズなんだという。


「キミの要求のポイントが理解できん。美味いスープなら、レストランで注文しろ。ウチにあるのは、体内の過剰な脂肪の燃焼を促進するパウダーだ」
「その双方が求められるのが日本の市場なんだ」
「日本人は要求が過多だ」
「その通りだ。ドイツ人みたいに単純じゃない。それだけビジネスが難しいんだ」
グロノスタイ氏との、喧嘩に近い遣り取りの末に、味付けを日本でやる。ドイツからは味付け加工無しの原末で出荷することで同意したのだった。



・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る』 二百名の美容師がモルモット志願 (P225~P228)より・・・・・・

Banner_03 にほんブログ村 本ブログへ ←応援よろしくお願いします


【 『 はぐれ狼が奔る 』 ヒーローを救えより 】

2008-06-17 17:11:46 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 ヒーローを救え より・・・

「牧山ではあるけど、何か用でもあったかい」

「いえ、上司の中川から、一連の失礼の段を
くれぐれもお詫びせよ。今夜中にもお邪魔する
ようにと申し付かりまして、私は人事課長の
山野でございます。ご迷惑でなければ今から
でもそちらに伺ってお詫びしたいと、今ここに
中川も居るのでございますが」

「大変迷惑な話で、お断りします」

「中川専務が居るのなら、こうお伝えください。
牧山は専務のご希望通りの、どうしようもない
破廉恥漢で、早速ホテルのバーで見つけた
可愛い子ちゃんと仲良しになって、今からもっと
仲良しになろうとしている最中ですってな。
専務が喜びそうなニュースだろうが。てなわけ
で邪魔すんなよな。二度と電話なんかするな」

かおりの部屋に戻ると、牧山の声が聞こえて
いたらしく、

「嬉しいわ、可愛い子ちゃんだなんて」

「だって、可愛いもん。他に言い方ない
じゃないか」

「会社からだったのね。こんな時間なのに」

「なに、ボクが怒って何をしでかすか、社長も
重役連中も、息をひそめてビクビクしてるって
ことさ」

「いったい、何があったの」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 ヒーローを救え より・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ


【 『 はぐれ狼が奔る 』 トカゲの尻尾切りより 】

2008-06-17 15:53:03 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 トカゲの尻尾切り より・・・

「週刊誌だとっ」

「それが分っていて、なぜ止めない。
なんのために、繊維担当から引上げて、専務昇格含みで
人事担当にしたのか意味がないじゃないか。
今の牧山は我を忘れている。まさに群から離れた狼だ。
中川や大沢に噛み付くのはまだしも、かつての直属の
上司にまで噛み付くほど、常軌を忘れたわけじゃあるまい。
何だったらキミだけじゃなく、オレも参加して牧山の慰労を
やると伝えて、週刊四季の方は断らせろ。
社長直々の慰労会が入ったからといえば、先方もキャンセル
仕方なしと納得するんじゃないか」

ここらの展開まで、牧山は読んでいた。

野川が苦渋に充ちた顔で、竹下の意向を伝えたところ、
意外にも牧山は応じたのである。

「なんだ、さっきまで先約ありと強硬だったじゃないか」

「強硬を貫いた方がいいのなら、そうしますが」

「いや、そりゃ困る」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 トカゲの尻尾切り より・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ


【 『はぐれ狼が奔る』 手痛い出資金詐欺に より 】

2008-06-17 15:25:46 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る




・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 手痛い出資金詐欺に より・・・


「これは山川がつるんでるな」
と石田が言う。

「キミとの共同出資も、最初から取り込み詐欺のつもりだったんだろうな。
こんな筋書きは沖原には出来すぎだ。裏で操ったのは山川幸助だろう。
手形屋に入れた担保は、ありゃ沖原本人の物じゃない。奥さんの
実家がやっていたメリヤス工場の後を宅地にして、沖原のために
実家の親父さんが建てた家だ。たぶん奥さんも知らんうちに沖原が
持ち出したんだろう。あいつも罪なことするなぁ~」

しばらく経って、山川から電話があった。

「山川さん? どちらの?」

「おい、ええ加減にせえよ、そないに大勢の山川と付き合いあるんか」
と凄む。

「なんや高槻の不良か、沖原どこに匿うてんのや」

「何を、お前誰に向かってモノ言うとんねん」

「だから高槻のワルによ。今から府警本部に連絡取って、お前んとこ
家捜しさせたろか」

牧山が府警本部の警視正と付き合いがあることを山川は思い出した
ようだった。

「パスポート返したれや」

「それ見ろ、お前が黒幕だってこと、今認めたな」

電話が切れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 手痛い出資金詐欺に より・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ


【 『はぐれ狼が奔る』 動物園のライオン より 】

2008-06-17 14:56:27 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01



・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 動物園のライオン より・・・

丸大が囁く。

「ここの客、皆偉い人たちばかりのようですね」

牧山は声をひそめたりしない。

「ああ、そうだな。ライオンばかりだな」

「やはりライオンですか」
と丸大はあくまで小声。

「ライオンたって、動物園のライオンだ。腹が減ったら園丁がエサを持って来る。
それが当たり前と思っている。そのうち年齢がいって毛並みが悪くなったら、
元のサバンナに戻されても、手前でエサなんか取れん、
哀れなライオンだよ。キミはまあ野良犬だな。オレだって野良犬だ。
手前のエサぐらいどうとでもする誇り高き野良犬だ」

揚げたての天麩羅が次々と差し出されるのを食べながら、つと横を
見たら、なんと丸大のやつは、折角の揚げたてに箸をつけようともせず、
俯いて漬物でご飯を食べていた。

流石に小声となり、

「お前、何やってんだ、天麩羅は揚げたてを食べるのが、職人さんに
対する礼儀だぞ」

丸大はやっと、恐る恐る天麩羅に箸を運んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 動物園のライオン より・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ



【 『はぐれ狼が奔る』 癒しのエンジェルより 】

2008-06-17 14:27:25 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01

アルプスの小川
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2008-01-01





・・・・・・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 癒しのエンジェル(P40) より・・・・

バーテンが

「あちらのお客様からです」

と小声で囁く。
ブラ水を目の前に上げ、一口啜る前に女性の方を見やる。女性は
ニッコリしながら自分のグラスを取り上げ、乾杯の合図を寄越す。

綺麗な女性だ。娼婦には見えない。

メモを読む。「ご一緒しません」と書かれてあった。女性の方を見ると、
メモを読んだと知って、再度乾杯の合図を寄越した。

長尾からさんざんオンナ学を叩きこまれた後だ。

牧山も普通の牧山じゃなくなっている。ブラ水のグラスを持ち、
席を移す。女性の隣にだ。

(おいおい、春彦。今夜はやけに大胆じゃないか)


♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ


【 『はぐれ狼が奔る』 人事開発室という名の牢獄より 】

2008-06-17 14:00:16 | はぐれ狼が奔る
はぐれ狼が奔る

はぐれ狼が奔る
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2007-12-01



・・・・・・『 はぐれ狼が奔る 』 人事開発室という名の牢獄(P108~P109) より・・・・・・

アムフォーレの存在を知ったのは、牧山ならではの冒険からだった。
港の辺りには、えてして隠れ家のような店がある。そう直感して、
総領事館から禁止されている地域に入り、クルマを停めてウロウロして
見せたら、思った通り、典型的なマドロス風が黒メガネで近づいて来た。

「お前、そこで何をウロウロしてる」

「いや、この辺りに面白い店があると聞いて・・・」

「日本の駐在員か」

「そうだ」

「いつもは、何処へ行く」

「レーパーバーンだ」

「お座なりでつまらんだろう」

「その通り、もう飽き飽きした」

「ようし、分った。お前はいいヤツのようだ」

で、例の隠し窓のドアを開けさせ、黒人の仕切り女に「オレの
ダチだ。
大事に扱え」と紹介してくれたのだった。

「これはという来客だけ案内しました。黒田さんを入れて十人ぐらい
だけですよ。しかし黒田さん、よくやるよなぁ」

「もう言うなって」

黒田とはそんな仲であった。



・・・・・・『はぐれ狼が奔る』人事開発室という名の牢獄(P108~P109)より・・・・・

♪クリックお願いします♪

Banner_03

ブログランキング・にほんブログ村へ