先日のブログ「50年で解決しないのであれば、50年計画で解決を試みよう!」で北方領土に関するコメントを書いた。その後、日系ビジネスオンラインの袴田茂樹さんの解説記事「ロシア高官が驚いた日本のナイーブさ~北方領土に関するプーチン発言の真意と日本の誤解~」を読んで少々驚いた。
この記事は無料ではあるがユーザ登録しないと読めない記事のようだから、要点だけを抜粋するだけに留めておく。この記事の重要なところは、袴田さんが直接ロシア語の原文を読む形で、各国マスコミ代表とプーチン氏との記者会見で実際にどのような発言をしたのか、及び首相の公式サイトには何と書かれているのかを解説している。つまり、部分的に切り取られて翻訳された極々一部の情報を垂れ流す日本のマスコミとは一線を画した分析をしていることになる。この記事によると、ポイントは2点あるとのことだ。そのポイントとは、1956年の日ソ共同宣言に記載されている内容は、(1)平和条約締結後に歯舞、色丹を「引き渡す」と書いてあるがそれは「(主権を日本に)返還」ではなく異なる意味と解釈できる、(2)さらにその引渡しも無条件ではなく条件付である(その条件も明確にはなっていないので、後から何とでも言える)、という特徴を有しており、プーチンはその立場に立っているということである。
以下は外務省のホームページにある北方領土に関連した交渉の記録のまとめである。当然ではあるが良く整理されている。
外務省ホームページ
「日ソ・日露間の平和条約締結交渉」
日本の立場とその根拠が示されているが、この中の1956年の日ソ共同宣言に関する記載でも、「返還」ではなく「引渡し」となっており、ソ連側が意図してその様な地雷を仕込んだかどうかは分からないが、確かに微妙な状況なのかも知れない。しかも、ここでは2島についてしか言及していないので、その後のゴルバチョフ、エリツィンの時代になって初めて4島について言及されることになる。外務省ホームページを見れば、1993年の東京宣言にて「(イ)領土問題を、北方四島の帰属に関する問題であると位置付け、(ロ)四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化するとの手順を明確化し、(ハ)領土問題を、1)歴史的・法的事実に立脚し、2)両国の間で合意の上作成された諸文書、及び、3)法と正義の原則を基礎として解決する、との明確な交渉指針を示した。」としているが、1956年の日ソ共同宣言は日本及びソ連の各国会に相当する機関で批准されているので国際的な法的拘束力を伴うものであるが、東京宣言に関してはそこまでの法的拘束力がないものとして取られているようである。ただ、2001年1月のイルクーツク首脳会談では当時のプーチン大統領も4島についての前向きな発言があるので、この時点では日本としても少しは前向きの姿勢を示したとも受け取れる。しかし、今回の「引き分け」発言では、それよりも大分後退したというのが現状だろう。リファレンスレベルがメドベージェフ大統領のスタンスであれば、大きく前進とも捉えられなくもないが・・・。
この様に見ていくと、確かに状況はお先真っ暗の様にも見える。戦後60年以上も経っても、ソ連&ロシアは一度も北方領土の主権の返還について言及していないとなると、それは非常に悲観的にならざるを得ない状況である。この様な前提を理解した上で、袴田さんは今回の「引き分け」発言の真意は「領土問題の解決」を目指す意思表示ではなく、小平的な「領土問題の棚上げ」を目指す発言だと読み解いている。しかも、日本の外務省が当時の小平の「棚上げ発言」を喜んだのと同様に、日本のマスコミが今回の「引き分け」発言を好意的に迎えたことに警鐘を鳴らしている。
今日の国会でもこの件が話題となり、野田総理は「4島のうちの2島の面積は7%だ。残り93%が来ないということでは引き分けにならない」と語り、2島返還での解決は目指さない考えを示したようだ。国会での答弁をちゃんと聞いていないので分からないが、定量的な島の面積を引き合いに出すことは、一方では「では50%なら引き分けなのか?」という話に展開されかねないので、総理が発言する以上は間違ったメッセージとして受け取られないような細心の注意が必要だ。しかも、北方領土の様に排他的経済水域EEZなどに大きな影響を与える地域は、島の面積よりも領海の面積がどの様に変るかの方が重要である場合が多い。国土の面積で見れば小さな島国である日本が、実は領海の面積では世界でも有数であるという実情は、これまで資源を持たない国と言われている日本が資源大国となるチャンスを秘めている。だからこそ、中国も韓国も、小さな島(尖閣や竹島)に対して躍起になってくるのである。だから野田総理にはもっとしたたかになって欲しいのであるが、一方で野党の議員に対しても、同様にしたたかになってもらわないと困る。領土問題に対する総理の失言は、野党にとっては一見プラスに感じられるかも知れないが、明らかに国益を損ねるので得点稼ぎに領土問題を利用してはいけない。与党も野党もなく、国家として一致団結して一糸の乱れもない決意を示すぐらいの国会答弁を望みたい。
少々話が逸れてしまったが、ただここで忘れてはならないのは、袴田さんも指摘しているようにロシアがこの様に領土問題に言及する背景は、一方ではロシアへの付入る隙が間違いなくあることを示している。だからこそ、その隙を細かに分析して作戦を練ることができる参謀が必要なのである。
以前、外務省のラスプーチンと言われた佐藤優は、真偽は定かではないが、1991年の8月ソ連クーデターの際に、ソ連の地方新聞を原文で読みあさり、ゴルバチョフ大統領の居場所を分析したとされている。一方で、最近の在モスクワの大使館の職員は、2010年秋にメドベージェフ大統領が「北方領土を訪問することはない」と誤った分析をし、その分析能力のお粗末さが話題となった。つまり、分析力が勝負を分ける世界で、現在はその能力が相当劣化している可能性が否めない。だから、喫緊の課題として、この様な分析と戦略を立てる人材の確保・育成が求められる。それができる人材なら、ケチケチしないで年収3000万円を与えても惜しくはない。生え抜きの官僚でも民間からの引き抜きでも良いから、主要な国(得に中国、ロシア、アメリカ、北朝鮮)に対しては、マスコミも官僚叩きよりも有能な人材確保に好意的になって欲しい。
日本とロシアの平和条約締結は、多分、まだまだ先になるだろう。
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以下は外務省のホームページにある北方領土に関連した交渉の記録のまとめである。当然ではあるが良く整理されている。
外務省ホームページ
「日ソ・日露間の平和条約締結交渉」
日本の立場とその根拠が示されているが、この中の1956年の日ソ共同宣言に関する記載でも、「返還」ではなく「引渡し」となっており、ソ連側が意図してその様な地雷を仕込んだかどうかは分からないが、確かに微妙な状況なのかも知れない。しかも、ここでは2島についてしか言及していないので、その後のゴルバチョフ、エリツィンの時代になって初めて4島について言及されることになる。外務省ホームページを見れば、1993年の東京宣言にて「(イ)領土問題を、北方四島の帰属に関する問題であると位置付け、(ロ)四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化するとの手順を明確化し、(ハ)領土問題を、1)歴史的・法的事実に立脚し、2)両国の間で合意の上作成された諸文書、及び、3)法と正義の原則を基礎として解決する、との明確な交渉指針を示した。」としているが、1956年の日ソ共同宣言は日本及びソ連の各国会に相当する機関で批准されているので国際的な法的拘束力を伴うものであるが、東京宣言に関してはそこまでの法的拘束力がないものとして取られているようである。ただ、2001年1月のイルクーツク首脳会談では当時のプーチン大統領も4島についての前向きな発言があるので、この時点では日本としても少しは前向きの姿勢を示したとも受け取れる。しかし、今回の「引き分け」発言では、それよりも大分後退したというのが現状だろう。リファレンスレベルがメドベージェフ大統領のスタンスであれば、大きく前進とも捉えられなくもないが・・・。
この様に見ていくと、確かに状況はお先真っ暗の様にも見える。戦後60年以上も経っても、ソ連&ロシアは一度も北方領土の主権の返還について言及していないとなると、それは非常に悲観的にならざるを得ない状況である。この様な前提を理解した上で、袴田さんは今回の「引き分け」発言の真意は「領土問題の解決」を目指す意思表示ではなく、小平的な「領土問題の棚上げ」を目指す発言だと読み解いている。しかも、日本の外務省が当時の小平の「棚上げ発言」を喜んだのと同様に、日本のマスコミが今回の「引き分け」発言を好意的に迎えたことに警鐘を鳴らしている。
今日の国会でもこの件が話題となり、野田総理は「4島のうちの2島の面積は7%だ。残り93%が来ないということでは引き分けにならない」と語り、2島返還での解決は目指さない考えを示したようだ。国会での答弁をちゃんと聞いていないので分からないが、定量的な島の面積を引き合いに出すことは、一方では「では50%なら引き分けなのか?」という話に展開されかねないので、総理が発言する以上は間違ったメッセージとして受け取られないような細心の注意が必要だ。しかも、北方領土の様に排他的経済水域EEZなどに大きな影響を与える地域は、島の面積よりも領海の面積がどの様に変るかの方が重要である場合が多い。国土の面積で見れば小さな島国である日本が、実は領海の面積では世界でも有数であるという実情は、これまで資源を持たない国と言われている日本が資源大国となるチャンスを秘めている。だからこそ、中国も韓国も、小さな島(尖閣や竹島)に対して躍起になってくるのである。だから野田総理にはもっとしたたかになって欲しいのであるが、一方で野党の議員に対しても、同様にしたたかになってもらわないと困る。領土問題に対する総理の失言は、野党にとっては一見プラスに感じられるかも知れないが、明らかに国益を損ねるので得点稼ぎに領土問題を利用してはいけない。与党も野党もなく、国家として一致団結して一糸の乱れもない決意を示すぐらいの国会答弁を望みたい。
少々話が逸れてしまったが、ただここで忘れてはならないのは、袴田さんも指摘しているようにロシアがこの様に領土問題に言及する背景は、一方ではロシアへの付入る隙が間違いなくあることを示している。だからこそ、その隙を細かに分析して作戦を練ることができる参謀が必要なのである。
以前、外務省のラスプーチンと言われた佐藤優は、真偽は定かではないが、1991年の8月ソ連クーデターの際に、ソ連の地方新聞を原文で読みあさり、ゴルバチョフ大統領の居場所を分析したとされている。一方で、最近の在モスクワの大使館の職員は、2010年秋にメドベージェフ大統領が「北方領土を訪問することはない」と誤った分析をし、その分析能力のお粗末さが話題となった。つまり、分析力が勝負を分ける世界で、現在はその能力が相当劣化している可能性が否めない。だから、喫緊の課題として、この様な分析と戦略を立てる人材の確保・育成が求められる。それができる人材なら、ケチケチしないで年収3000万円を与えても惜しくはない。生え抜きの官僚でも民間からの引き抜きでも良いから、主要な国(得に中国、ロシア、アメリカ、北朝鮮)に対しては、マスコミも官僚叩きよりも有能な人材確保に好意的になって欲しい。
日本とロシアの平和条約締結は、多分、まだまだ先になるだろう。
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