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【映画感想・マ行】 ミュンヘン ★★★★

2006-02-07 | 【映画感想・マ行】
ストーリー:
1972年9月5日、ミュンヘン・オリンピック開催中に、
パレスチナゲリラ“ブラック・セプテンバー 黒い九月”
によるイスラエル選手団襲撃事件が起こる。
人質となった選手11名は全員死亡。
これに激怒したイスラエル機密情報機関“モサド”は、
秘密裏に暗殺チームを編成、首謀者11名の殺害を企てる。
リーダーに任命されたアフナーは、
仲間4人とともに殺害を実行していくが、
次第に自分たちの任務に疑問を感じ始めていく。
(goo映画より引用)

出演:
エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、
ジェフリー・ラッシュ、マチュー・カソヴィッツ
監督:
スティーブン・スピルバーグ

『シンドラーのリスト』、『プライベート・ライアン』、
この2大傑作に続く、スピルバーグのシリアスドラマである。
間違いなく、『ミュンヘン』もこれら作品群の仲間入りができる力作だ。

事件当時のニュース映像を駆使し、単純に事件の暗殺の実態を描いたのではない。
メインテーマは、暗殺者となったアブナーの心の変化を描いたドラマだ。
アブナーは間もなく子供が産まれそうな妻を置いて、暗殺者となる。
仲間は4人集められ、ヨーロッパ国内に散らばる首謀者達を殺しにかかる。
最初の時は、殺すことに違和感というか喉がつかえそうな何かがあった。
その違和感を紛らわすために、得意の料理をすることでフラストレーションを解き放っていた。
料理する品数は半端じゃなく多い。無我夢中になることで忘れようとしたのだろう。

しかし、人間は慣れというのは怖いもので、殺すことに対し罪悪感が消えていく。
女暗殺者に仲間が殺された後、女へ復讐を成し遂げるあたりがその典型的な例。
仲間の1人が「ユダヤ人としての誇り」と語る場面がある。
民族ではなく、人間としての誇り。彼はそれすらも感じないほど麻痺していたのだ。

更に狙う人間がいれば、狙われる人間もいる。
アブナーも狙われる立場になることで、今度は死そのものに恐怖を抱く。
首謀者を殺った時のように、自分もベッドに横たわった瞬間、
木っ端微塵になるのではと思い、夜も眠れず、
寝るときはクローゼット内で拳銃を握り締めている。
アブナーの変化した心、荒んだ心の行き着く先が「HOME」である。
つまりは、家であり家族。彼はそこで人間として再生を図ろうとするのだ。

人間は家を求めていると思う。落ち着く場所であるから。
映画の内でもパレスチナ人とユダヤ人は、イスラエル内の領土を争っている。
それは、帰る場所である家で静かにしていたいと思っている。
映画のバックグラウンドとアブナーの心理は似ているのではないか?

もう1つ描きたい内容は、世界の実情そのものだ。
ターゲットの人間を次々と抹殺していった後、
新たなる指導者が現れ、イスラエルに対して攻撃を仕掛けていく。
その新たなる指導者を消し去っても、また別の指導者が現れてくる。
指導者としての質も、どんどん悪質で陰湿な人物がリーダーとなる。
「復讐が復讐を呼ぶ」という悪循環は、今の世界も何ら変わっていない。

これも何度も繰り返しさけばれていることで新味はないが、
有名監督がそれを露呈することによって、再認識することができる。
言わば、スピルバーグはこの映画のオピニオンリーダーのようにも思える。

変化だけでなく、一級のスリラーとしているのも凄い。
ターゲットを狙う時の緊張感、そこに織り交ぜられるユーモアも忘れられない。
更には、スピルバーグの残虐描写も至る所で見受けられる。

上映時間2時間44分はあっという間と思える作りの巧さに驚かされる。
宣伝に謳われているような感動作ではなくて、世界の現実の姿を見せてくれる作品なのだ。


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