the Laughing Gnome

スポーツ・音楽・美術に関する話題。
庭園めぐりのような老人趣味についても。

「ベニスに死す」のファッション

2006-12-03 | ヨーロッパの神秘と旅情
「ベニスに死す」
先週の火曜日にNHK衛星にて放映があったのですが、見たのは3度目か4度目なんですけど、大体の内容は把握していますが、見るたびに見方が変わりますね。

あらすじ・概要はコチラ

最初見たときは内容はともかくビョルン・アンドレセンに目が行く→2度目は案外とビョルン、嫌なやつ。オッサンつきまとうのはイカンと思う、とまあ修行が足りん感想しか抱かない!そんな感じでしたが今回はオッサン側にもビョルン側にも立たずにかなり客観的に見ていたのですが、心なしか冒頭のベニスへの船旅のシーンの幻想的な映像がオッサン、もとい音楽家の先生の死出の旅路、コレラ蔓延する死の都ベニスの風景=この世とあの世の緩衝地帯、ビョルン扮するポーランド貴族のタジオ少年とその家族=美の化身、彼らを通して美しかった妻、若い日々を回想する、あえて言えば自己愛の投影対象。タジオ少年だけに限ると死へいざなう神の化身(?あるいは?)…という風にも取れるなあ、と思いました。また音楽家のオッサン=死期を悟りつつあったヴィスコンティ本人(1976年没。今年は生誕100年&没後30年だったのですね)とも取れ…。

とまあ、作品の内容についてはなかなかさまざまな解釈が可能ですが、映画の中のファッションもまた素晴らしいのです。





もはやこのような海水浴ファッションは現在では見ることは出来ません。





ビョルン・アンドレセン扮するタジオ少年のトレードマークであるセーラー服はヴィクトリア女王の息子であるエドワード7世の子供時代の肖像画に描かれたことから欧米で男の子の服装として流行しました。


幼少期のエドワード7世。

日本では1920年にフェリス和英女学校(横浜)、1921年に福岡女学院、金城学院(名古屋)が制服として採用したので女子学生の制服というイメージがありますね。

欧米においては子供服としては、10代はじめの子供ぐらいまでのものとされていたようですがタジオ少年を演じたビョルン・アンドレセンは当時15歳。実際、映画のオーディションでももっと年少の「12歳ぐらい」の少年を希望していたという話です。しかし彼ほどの逸材はいないということでアンドレセンがこの役に決まります。
しかし12歳ぐらいの少年がもしタジオ役であったらこの映画の印象はまた違ったものになっていたかも…。



その後、アンドレセン少年が辿った道のりは非常に険しいものでした。
同性愛者のヴィスコンティ映画の主役の美少年ということで常に同性愛のレッテルを貼られ(ヴィスコンティが発掘した若者は彼の愛人である場合が多いので…)、会ったこともないアメリカ映画界の大物の同性愛者の愛人という噂が立ったり…、パパラッチに追い掛け回され、もうウンザリ!!と映画界から引退しますが、1977年当たりから出身地のスウェーデンでテレビなどに出始め、俳優、ミュージシャンとしてかなり地味にあまり人目に出ない程度に活動しているようです。
一時期死亡説が流れ、それが定説となっていた時期もあったようですが…。これもヴィスコンティ死後の愛人・元愛人間のマスコミを介してのバトルとは無縁の話ではないようで、その一人がなぜか吹聴したのがきっかけ、というのがこの「死亡説」の起こり?とされているのがまた魑魅魍魎の映画界の雰囲気が察せられるエピソードです…。
しかしネット時代となってから一気に情報が増え、ヨーロッパでは母国をはじめやはり「あの人は今?!」の常連らしく、ドイツの雑誌に現在の姿が出ています(トップページは「ベニスに死す」の画像でありますが、その次をクリックすると現在の姿…が出てまいります)。


これは現代の男性でも普通に着られるアイテム、ですね。


日本で出演した明治チョコのCMだそうです。完全版を見たい。この服は「タジオ」を踏襲していますね。


なんと日本のみ出されたレコード。来日時(映画の翌年)に「俳優よりミュージシャンがいい」と語っていたというアンドレセン少年。日本でのみアルバムも出しているようです。果たして日本の印象はどうだったか知りませんが、日本のお家芸=ヨーロッパ映画・アメリカ映画のアイドルに日本でのみレコード出させる(他の例:ソフィー・マルソーなど多数。外国人の彼らのファンにとってはCMと並ぶ「お宝アイテム」か)の一環とはいえ、彼の夢はかなったわけですが…。歌詞は日本語。どうなんでしょ。
NHKのヴィスコンティ特集番組であの阿久悠先生作詞による別の曲が一部流れていましたが(当然日本語)、司会の男の話し声がうるさくてよく聞き取れず!!


20歳前後のアンドレセン??彼は1955年生まれです。

1971年11月5日号の「anan」グラビア
映画出演時よりも大人っぽくなっています。また本人出演のチョコレートの広告も(写真は金ボタンのミリタリーファッションで、これも「タジオ」を踏襲した感じ)

来日時のオフ写真群
かなりラフな写真。いかにも北欧の兄ちゃん風。「両親?」とされている人達は親類か何かの人でしょう。彼は父親は行方知れず、母は自殺、祖母に育てられる、というなんとも幸薄い少年だったのですから(これホント)…


ロシアンなタジオ君の服(タジオ君は当時ロシア領のポーランドの貴族という設定)


タジオ君の御母堂。


演ずるは後期ヴィスコンティ映画の常連シルヴァーナ・マンガーノ


この方は若い頃はセクシー女優だったそうです。


おそらくパゾリーニ監督の「テオレマ」でのマンガーノ。
ヴィスコンティの「ルートヴィヒ」ではあまり出番はないですが狡猾そうなワーグナー夫人を、「家族の肖像」では醜悪なブルジョワで親ファシストの女を演じています(このクソ女の役は当初オードリー・ヘップバーンを予定していたとの事。それも見たかった気はします)。なんだかちょっと怖い感じでイタリアの江波杏子という感じです(笑)。

ちなみに「ベニスに死す」撮影中、ヴィスコンティはこの「タジオの母」のイメージについて自分の母親像と同じような感じを要求したそうで、「母のベールの被り方はこうだった」など何かにつけて「母はこうだった」と言うのでマンガーノさんはとても「気持ち悪かった」そうです(笑)。



最後に忘れちゃいけない、音楽家の先生アッシェンバッハ氏(ダーク・ボガード)の帽子。これは高級品のパナマ帽で、高級なものは柔らかいので被り続けると型が崩れてくるそうです。まあもっとも現代においてパナマ帽を被る機会もそうはないのでしょうが…。

この当時(1911年ごろという設定)の人々は皆室内でも帽子を被っていて、女性の帽子は華やかです。しかし現代のしかも日本人がマネをすると日曜の競馬番組に出てくる女性やアパホテルの社長のような珍妙なことになってしまうので注意が必要です。



















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4 コメント

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火曜でしたか (かめちき)
2006-12-06 20:27:56
気にしていたのに逃してしまいました。
ファッションに注目した今回の記事、力作ですね。興味深く拝見しました。
たしかにセーラー服に始まって水着にいたるまでファッションが強烈に印象に残る作品ですね。
アンドレセン少年の現在の姿、クリックする手が緊張で震えました。…これは変わったというべきでしょうか、面影を残したというべきでしょうか。あの人は今?!の常連というのも判る気がします。
明治チョコのCMはさすがに記憶にありません
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かめきちさま (Isolar)
2006-12-06 20:44:09
コメントどうもありがとうございます。

>現在の姿

私が初めてこの映画を見た頃(90年代半ば)はまだ「死亡説」と「93年ごろ映画出演」というような情報が入り混じっていましたが、今はネット時代なのでスウェーデンの子供映画の端役で出ているところ(ピアニストの役でしたが、ちょっと微妙な再会…)とか妙なところで見かけるようになりました。
でも近くにいる1955年前後に生まれた人を見れば今の姿にも納得がいくような…。でも最初の現在の写真はかなりショックを受けますよね^^;。
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チェコから (横山佳美)
2009-06-18 22:33:03
こんにちは。初めてメールいたします。
チェコのプラハに在住の横山と申します。
知り合いのチェコ人舞台監督がアンドレセンが日本でだしたレコードの音源を探していて協力しているのですが、なかなか見つかりません。
音源が見れる聞けるサイトなど、ご存知ではないでしょうか。
もしご存知でしたら、教えて頂けないでしょうか。
ちなみに、その舞台監督もアンドレセン並みに美男子で、色々な役もこなす俳優で自分と通じるところを感じているらしく、音源の入手を切望中なのです。
ご協力いただけましたら大変幸甚です。
勝手なお願いをして申し訳ございませんがどうぞよろしくお願いいたします。
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横山様 (Isolar)
2009-06-18 23:14:38
コメントありがとうございます。
生憎私はレコードプレイヤー自体を持っておりませんので、アンドレセンのレコードも持っていません。
お役に立てず申し訳ありません。
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