TVでボールの「キレ」を感じる

つい先日のことだが、プロ野球を視察中に、新人の記者からこんな質問をいただいた。「鹿取さん、よく“ボールがキレてる”なんて聞きますが、キレとは物理的な現象で説明するとどういうことになるんですかね?」

確かに。一般的に「あのピッチャーは今日ボールがキレてる」などというが、ボールの“キレ”について、ちゃんと説明されている機会にはあまり出くわしたことがない。
「キレ」とは、投手としての特長やスタイルを語るものではなく、状態や調子を見るのに重要なポイントである。野球観戦するうえでもこれがわかれば、より突っ込んで観戦を楽しめるので、一度ここで解説しておこうと思う。

キレとは、簡単にいえばボールの回転(スピン)のことである。キレているボールは回転がするどく、ストレートの場合、手元でホップするようなボールとなる。ただ、キレの現象は、変化球で見た方がわかりやすい。
例えばカーブの場合、ボールの回転数が多いから、激しく曲がるかというとそういうことではない。現象としてどうなるかというと、ギリギリまでストレートの軌道で、ベース付近で急に曲がり始めるということだ。
ボールの球筋が読めないのと同時にキレのあるボールには力があり、強く押し込んでくる。簡単には打ち返せないものとなるのだ。
反対にキレのない状態では、ボールが早くから曲がり始めてしまうということになる。これは、球筋を簡単に読まれてしまい打たれやすくなるのと同時に、とくに私のようなサイドスローの場合では、早くから見切られてしまい、ボールを振られなくなってしまうということだ。私も晩年はよくこれに苦しめられた。
いつもと変わらない調子でカーブを投げているはずなのに、打者がボールを振ってくれない。カーブはストライクゾーンを外れ「ボール」となる。自分の意に反し、カーブは早くから曲がり始めてしまっていたのだ。

では、ボールのキレは一体なにが生み出すのかというと、筋力はもちろん、球をリリースする直前までの身体の可動域の連動性など、結構専門的な話になってしまうので、それはまた別の機会に譲ろうと思う。

とにかく、キレのよい球を投げるピッチャーを見ているのは気持ちがよい。
最近のプラズマテレビでは、素速い動きもボケることなく鮮明に写し出すので、高速でスピンするボールをそのまま体感することができる。打者のギリギリで劇的に変化するボールの軌道と速度を感じとれることは、スリルもあっておもしろい。
ただ、この快感は、物理的に優れたボールを見ているだけで感じとれるものではないと思った時、すごく当たり前のことに気がついた。

前言を撤回するわけではないが“キレのよいボール”とは、身体能力の高い投手が理想的な状態で理想的なフォームで放れば生まれるかというとそんなことはない。ボール・リリースの直前まで身体を総動員して“動け”と命令する投手の“気迫”が大きく左右しているのだ。
その投手の気迫まで感じとれるので、快感が増幅するのだ。

今さらながらだが、同じシーンでも映像の精度が高いかそうでないかで伝わる印象は大きく違う。それは情報量に差があるからだ。現場の空気を細部まで見逃さず、丸ごと楽しむ一歩進んだTV野球観戦、ぜひ一度、お試しあれ。
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