メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

マイマイ・フランス便り(2)

2010年02月11日 06時37分00秒 | 日記
 2月9日の朝は雪が舞っていました。
 大阪へはいていったズボンそのままだったので、縄田さんが持っていたフランス語会話の本の例文を指差して、洗濯出し。

 今夜の上映会場であるフォーラム・ド・ジマージュまではパリの街中を歩いてゆくつもりだったのですが、やってきたバスに飛び乗りました。


 フォーラム・ド・ジマージュは、2001年12月に自分の前作である『アリーテ姫』を上映してもらった会場です。当時とは館長が替わっていて、新女性館長の方針でピンク色を主体とした派手な内装に変えられていました。フォーラム・ド・ジマージュのプログラムには、貴伊子の笑顔が大きく載っています。

 到着するとまず、今夜の上映映像の事前チェックを行いました。映写フレームが1:1.33のもの、1:1.85のもの、1:2.35のものなど雑多だったので、間違って縦に伸びたりつぶれたりする映像を上映してしまわないために。
 
 このあと、内臓肉料理の店へ行って昼食を済ませてしまうと、次は取材対応です。『マイマイ新子と千年の魔法』についてマスコミ10媒体のインタビューが順番に、のべ4時間以上にわたってみっちり行われました。ビデオカメラを回されたり、写真に撮られたりしながら。

 ちょっと感動的だったのは、フランスでの配給会社KAZE社の担当者オレリーさんが、『マイマイ新子と千年の魔法』にたっぷり肩入れしてくれていて、フランス独自のプレスシートを作ってくださっていたことでした。マスコミ各社への事前情報伝達や試写もうまく行われていて、きちんと作品への興味を抱かれていて、トンチンカンな質問はまったくありません。この映画については、こちらにも話すことはたっぷりあるので、つい一媒体あたりの時間が延びがちになります。「防府」とか「周防」とか何回口にしたことか。

 そのせいで夕食の時間がなくなってしまい、フォーラム内の軽食コーナーであわただしく豆のサラダなんかを詰め込んでいると、今夜の上映のために観客が訪れ始め、中に旧知の人々の顔をたくさん見つけることができました。
 ジャック・コロンバ監督は、『やぶにらみの暴君』のポール・グリモーのスタッフの出身。その作品である長篇アニメーション映画『ロビンソンと仲間たち』が、パリや東京日仏会館で、『アリーテ姫』とカップリング上映されて以来、後塵を拝させてもらっています。苦労して資金を集めて映画を作り、上映にもまた苦労されているのですが、肝のすわり具合が堂々としているところに憧れてしまいます。前回パリを訪れたときには、街中を案内してもらったりもしました。
 グザビエ・カワ=ト=ポールさんは、フォーラム・ド・ジマージュの前館長で、やはり2001年の『アリーテ姫』上映の際にお世話になった方です。実は本職は中世史の研究家で、この方が『アリーテ姫』で描かれたヨーロッパ中世の描写を、まあ、あそこまで調べてやってるのはフランスの実写映画でもあまりないよ、と褒めてくださったことから、こちらも図に乗って、じゃあ今度は日本の歴史的時代を舞台にとって同じことをしてみよう、と『マイマイ新子と千年の魔法』に挑む気持ちを固めることができたわけでした。今日は『マイマイ新子と千年の魔法』はないんだけど、というと、ブリュッセルの映画祭で見るから大丈夫、とのこと。


 19時から24時まで、片渕の作家紹介のための上映ということになっているわけで、前半が影響を受けたさまざまなアニメーション作品の紹介、後半がこれまでの自作の抜粋という構成で、それぞれに自分自身の口から簡単な解説を行う、ということなのですが、なんでパリまで来てこんな臆面もないことになってるのだか。観客の中には若い人もいますが、かなり多数が本格的な年配の方に占められていて、いささか気持ちが動揺します。
 場所はまさに、9年前『アリーテ姫』を上映してもらった同じホールです。


 自分の人生の一番古い記憶は、『わんぱく王子の大蛇退治』の大塚康生さん、月岡貞夫さんの担当シーンを二歳七か月で観たことです。そのお二人に、大学で、実社会に出て最初に演出するとき、それぞれ師匠になっていただけたのは、偶然にしてもほどがあります。
 さらに、影響を受けた宮崎駿さんの代表作として『長靴をはいた猫』、高畑勲さんの『母をたずねて三千里』のそれぞれ抜粋を。

 次いで、海外作家ノーマン・マクラーレン、ユーリ・ノルシュテイン、アレクサンドル・ペトロフ、ベルナール・パラシオス各氏の短編を、これらは抜粋でなく全編を上映してもらいました。
 ノルシュテインさんは、片渕がラピュタ阿佐ヶ谷でノルシュテイン大賞の審査員の末席に連ねさせていただいたとき直接何度となくお話を伺うことができました。
 自分が一番大好きなアニメーション作品を一本、と問われれば、間違いなく『黄金の森の美女』をあげるのですが、その作者パラシオスさんには来日時にお目にかかってもらったことがあります。
 マクラーレンにはさすがに遠い世界の人なのですが、以前ノーマン・マクラーレン全集のDVDが出たときに、おこがましくもライナーに一言書かせてもらったことがありました。
 ペトロフさんとも面識はないのですが、実はザグレブ・アニメーションフェスティバルのコンペティションでそれぞれの作品が並んで上映されたことがありました。どうしたことか、今回は喜んでフィルムを貸す、といってくださった由。ほんとうにどうなっているのでしょうか。
 雲の上に行きかけた上映ラインナップを自分の方に引き戻すため、前半最後の一本は、学生以来の友人はらひろしさんの8ミリ映画作品『セメダインボンドは永遠に』。錚々たる作品群のあとに学生8ミリ映画を並べちゃってるのですが、ちゃんと笑いが起こっているところがすごいなあ。

 後半はまず『名探偵ホームズ』『NEMO パイロットフィルム』『魔女の宅急便』『MEMORIES 大砲の街』と、関わって来た作品を抜粋でたどり、それから自作の『名犬ラッシ ー』『アリーテ姫』『ACE COMBAT 04』『ブラック・ラグーン』の抜粋や予告編を並べました。
 最後の最後に『マイマイ新子と千年の魔法』の90秒予告編を流し、この映画の日本における現状を述べました。そして、明日からの映画祭で本編の上映がありますので、と。日本人の観客は作品世界にシンクロしてなぜだかしらないけど泣いてしまう、というのだが、果たしてフランス人相手にその効果が通用するかどうかは未知数、などと喋っていると、あとですでに試写で見たという人が来て、「大丈夫。自分もちょっと泣いたから」
 客席に日本人の方もおられて、『マイマイ新子と千年の魔法』がネットですごく話題になっていて、帰国したら必ず観ますから、と。
 終了、午前0時。

 翻訳しながら解説ため多くの言葉を費やしくれたイランさんもクタクタ。ずっとノートをとり続けた縄田記者もクタクタ。
 お昼以来、まったくフォーラムの外に出ていなかったのですが、雪はいつの間にかやんでいました。せっかくパリまで来て、ずっとあのピンクの空間に閉じこもっていたとは、奇妙なパリ体験だ、とコロンバさんにいわれてしまいました。
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