メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

どんな映画なの?

2009年11月17日 20時57分41秒 | いただいた感想より

 全国公開の日が近づいてきました。
 すばらしい観客の方々との出会いを期待したいものです。

 しかし、この『マイマイ新子と千年の魔法』公式サイトの中で、原作者・樹のぶ子さんは、この映画についてこのように述べておられます。



『マイマイ新子と千年の魔法』は、アニメであってアニメではありません。
少なくともアニメらしいアニメではないのです。
人は空を飛ばず、空想上の生物は活躍しません。
現実から逃避した物語で遊びたい人は、きっと失望しますから、見ないでください。
おまけに泣きたいぐらいに古い。切ないほどに身近です。
ここに描かれている人物は、過去、現在、未来のすべてに、生きて実在しているフツウのアナタだからです。
新子の魔法は、一度かかると永遠に覚めません。覚めない魔法……なぜならスクリーンから与えられたものではなく、見る者の心の中で、切なく懐かしく、しみじみと起きた変化であり、人の思いは時を越えて行き来できるという確かな発見だからです。
私たちはいま、大自然の危機に直面し、生き迷っています。
そんな時こそ、古い教科書のページを捲って、私達はどこから来たのかを確認するべきではないでしょうか。



 いっそ「見ないでください」とは。
 そんな「アニメらしいアニメではないアニメ」とはどんな映画なのでしょうか。
 ヒントとして、試写会で寄せられたご感想を紹介してみたいと思います。

 今回の感想文は、日本大学文理学部の横田正夫教授からいただいたものです。
 横田先生は、日大芸術学部映画学科を卒業したのち心理学の方面に進まれ、宮崎駿・高畑勲・押井守・今敏・川本喜八郎などの作品に対する心理学的考察に関する論文、著書も多数著わしておられます。 
           (ネタバレ箇所は省略してあります)

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 昨日『マイマイ新子と千年の魔法』を拝見いたしました。
 大変面白く、また感心し、最近涙もろくなっており、その例に漏れず、恥ずかしながら、涙をためて見ておりました。

 子どものための作品でありながら、これほど死が身近に口をあけている、というアニメーションにはこれまであまり出会ってきていないように思います。
(中略 映画中で描かれるいくつかの死について)
 そして、人との別れも描かれる。
(中略 映画中で描かれるいくつかの別れについて)
 こうした死と別れが描かれるのは、千年前も今も、いきなり引き裂かれる奈落が身近なものとしてありながら、それでも明日を信じて生きることを訴えたいからのようでありました。

 そうした死や別れを、子ども心にリアルに感じさせるのに、子どもたちが感じる空間の広やかさがあるように思います。
 アニメーションで、この作品ほど、空が広いと感じたことはありません。目線が低く、俯瞰気味であり、想像の目線で水中からも見ることがあり、鳥瞰図としても世界を見てしまう。
 こうした様々な視点の設定は、大人の高さからものを見ているのではないという感じを体験させてくれていました。本来狭いであろう田舎道も、新子の想像の目で見ると広々として牛車がゆっくりと辿れるほどの広やかさである。新子たちの作る池も、広々としている。おそらく大人がそこに介在すると惨めなほど小さく、輝きの少ない貧弱なものになることでしょう。
 子どもの頃に感じた、世界の広やかさが、そして時には圧倒的な迫力が、見事に再現されていることに、素直に感動してしまいました。
 
 千年前の想像についても、当初は新子のものであったのが、いつしか貴伊子にも共有されている。想像世界(物語)を共有するというところに、友情が成り立つ、というのも面白く感じます。孤独な心が、どの様にして、他者と共感を成り立たせるか。

(中略 映画中では、どの様にして他者との共感を成り立たせているか)
 アニメーションの中に示される様々な工夫が、子どもの身近に口を開く奈落に子どもが落ちてしまわないようにする手がかりを与えていることが大変よいことと思います。
 こうしたアニメーションがもっと欲しいものです。

 片渕さんの『アリーテ姫』で描かれたアリーテ姫の孤独が、ここでは友情を持てるほど、広やかになった。さしずめ貴伊子がその発展型でしょうか。どちらも心の中で物語の発展に苦労をしていました。
 しかし、それにしてもまだ死や別れ(孤独を呼び寄せるもの)は身近にある、と個人的には感じました。孤独な面を持っていない人には、人との出会いの機微を、優しく描けないのでしょう。そして慎重に出会いに対処する術も描けないのでしょう。こんなことも感じました。

 よい作品に出会えたことに感謝するとともに、多くの人に見て欲しいと切に思います。

                    横田正夫
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