東京でカラヴァッジョ 日記

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馬渕明子著『国立西洋美術館の7年8か月 - 館長から見た国立美術館の活動』

2023年04月24日 | 書籍
馬渕明子氏。
 2013年8月1日に、国立美術館理事長、国立西洋美術館長に就任。理事長は2017年3月まで、館長は2021年3月まで務める。
 
 表題は、『国立西洋美術館研究紀要』No.26(2022.3)所収の馬渕氏の論文である。
 
『国立西洋美術館の7年8か月 - 館長から見た国立美術館の活動』
http://id.nii.ac.jp/1263/00000764/
 
 
 以下は、項立てである。

・国立美術館と文化財機構の統合問題

・松方コレクション展と『松方コレクション総作品目録』
 
・企画展
 
・世界遺産登録とル・コルビュジエへのオマージュ
 
・購入と寄贈
 
・学芸課の仕事内容
 
・企画展とメディアの関係
 
・人事
 
・海外との交流
 
・データベース
 
・文化審議会と美術品補償制度
 
・おわりに
 
 
 この手の話は、私的にこれまでほとんど読んだことはなかったので、非常に興味深い。
 以下、2項のごく一部を抜粋する。
 
 
「企画展」より
 いわゆるブロックバスター展というものに分類される展覧会も、なかったわけではない。学芸員の世界では集客目的と言われてあまり評判のよくないものだが、美術館を運営するうえで、集客と収益は無視できないもので、特に法人として5館全体の収益がノルマに達するように指導されているため、各館で努力しなければならない。そういう意味で国立西洋美術館と国立新美術館は他館の赤字を埋めるという役割を果たしてきたと思う。もちろん当館が赤字になったときもあったが、私の在任中はほぼ黒字を続けることができた。展覧会のラインナップは要するにバランスだと思う。学術的に重要だが地味なものや、ブロックバスターも織り交ぜて、研究成果と収益のバランスを取ってゆくべきで、このことは理事長在任中も繰り返し他館にも訴えてきたが、あまり理解してもらえなかった。ただ、国立国際美術館は、現代美術を扱う館であるにも拘わらず、『兵馬俑展』『クラーナハ展』『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』なども収益を考えて引き受けてくれた。
 
 
「購入と寄贈」より
 購入には当然予算というものが必要であるが、私の就任した2013年頃からかなり大きな額の購入が可能となった。それは作品を所蔵している国立4館で一定の額をもらい、内部で調整しながら購入するというものである。それぞれに異なるコレクションと収集方針を持ち、なおかつこの予算を使わないと買えない高額の候補作品が対象となるので、毎回決定に関わる会議は白熱した。とりわけこの購入予算が通常の予算に組み込まれた2016年度以前は、翌年に予算が下りるかどうかもわからないため、各館は必死になった。そのことで、作品の真贋はもとより価格の適正さ、来歴や状態の調査も丁寧になっていったことは結果として、購入の精度を上げるよい経験となった。国立西洋美術館の場合は、ほとんどが海外の画商を経て購入するため、資料は充実したものを提出してくれる。それをもとにオークション記録などをチェックして、申し出価格が高いかどうかを見極める経験をしていたが、他館では西洋美術の作品でも国内の画商からのオファーが多く、価格の適正度に疑念を抱くこともあった。
 
 
 
 国立美術館は、日本の美術館のなかでトップ層に位置する美術館なのだろうけれども、トップ層に位置する美術館として、その使命を果たすためには、課題山積状態にあることがうかがわれる。


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