醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  353号  白井一道

2017-04-04 11:32:32 | 随筆・小説

 芭蕉の恋

句郎 伊勢の一有宅に招かれた芭蕉は奥さんの園女(そのめ)さんを称えて「暖簾の奥ものふかし北の梅」と俳諧の発句を詠んだ。
華女 この句は五七五になっていないんじゃないの。「暖簾の奥」、六音じゃないの。
句郎 あっ、そうなんだ。現在では、確かに「暖簾」は「のれん」と読むけれど、古語では「のうれん」と読むようなんだ。
華女 へぇー、初めて聞く話ね。
句郎 「暖簾」は唐音では「ノンレン」と読んだらしいが、「ノウレン」と転訛し、「ノレン」と読むようになったようだよ。
華女 あぁー、成程ね。分かったわ。「のうれんの おくものふかし きたのうめ」。五七五になっているわ。納得したわ。「北の梅」が寒そうで嫌ね。
句郎 昔、奥方を「北の方」と言っていたでしょ。
華女 「北の梅」とは、一有さんの奥さんを言っているのね。
句郎 そうだと思う。「奥ものふかし」とは、奥ゆかしくというような意味だと思うんだ。
華女 暖簾の奥に見える梅が立派で綺麗ですね。ということなのね。
句郎 一有さんは医業を営んでいたから、「暖簾」とは、今でいう医院の看板かな。伊勢の御典医だったようだから、さぞ立派な屋敷だったんじゃないかな。
華女 一有さんを支える立派な奥方様であられますことと、お世辞を芭蕉は言ったのね。
句郎 一有宅に招かれた芭蕉はこのような挨拶吟を詠んだんだと思う。
華女 芭蕉さんは世慣れた商売人のような人だったのね。
句郎 江戸元禄時代の俳諧師は、今でいうタレントみたいな商売人だったからね。
華女 俳諧師とは、一種の今でいう芸能人だったのね。
句郎 きっと、そうだよ。俳諧の連歌を一有さんとその奥さん園女さんと芭蕉、芭蕉を慕う俳人が参加して歌仙をあんだ。
華女 俳諧の連歌の会をしたのね。遊びね。
句郎 そう、遊び。当時の金持ちたちの遊びが俳諧だった。
華女 終わった後はお酒を楽しんだのね。
句郎 そうだったんだろうね。園女さんも俳諧をたしなみ、お酒の相手もできる女性だったんじゃないかな。芭蕉は園女さんを慕っていたようだからね。
華女 どうしてそんなことが分かるの。
句郎 芭蕉は元禄七年九月、病をおして園女邸を訪れ、「白菊の目に立て見る塵もなし」と詠んでいるからね。
華女 ほんとうに其女さんは白菊のように美しいと言っているの。
句郎 そうだと思う。園女さんも芭蕉を俳諧の師として尊敬していたんじゃないのかな。
華女 なんとなく分かるような気もするわ。
句郎 園女さんは「春の野に心ある人の素貌(すがお)哉」と詠んだ句が残っているからね。
華女 この句は、どのような意味なのかしら。
句郎 素顔とは、恋するサインらしい。だから春の野に恋をする女が独りいますよと、訴えているからね。この句は乙女の句じゃないよ。きっと成熟した立派な女性の句じゃないかと思うけどね。

醸楽庵だより  363号  白井一道

2017-04-03 11:27:39 | 随筆・小説
 
 豊洲は安全だ?

句郎 築地は豊洲に移るのかなぁー。
華女 私はやめてもらいたいと思うわ。だって、有毒物質が地下から絶えず水に交じって絶えず沸いてきているんでしょ。
句郎 その水で魚を洗ったりするわけじゃないんだから安全だと言っている専門家がいるらしいよ。
華女 豊洲は安全だと言う専門家の人たちが責任を取ってくれるの。もし有毒物に汚染された魚類が出回り、被害を受けた消費者が出た場合、その責任を東京都の役人たちは取るのかしら。
句郎 確かにそれは怪しいよね。福島の原発被災者、特に帰宅困難地域に自宅を持っていた人々の場合、唯一の財産であった宅地の価値がゼロになってしまった人々の財産は全額補償されたのかな。
華女 そうよね。家財道具一式を一瞬にしてすべて失ってしまったのよね。
句郎 確かに、原発は絶対安全だと政府は言っていたからな。
華女 そうよ。絶対なんてすべてにないのよ。原発は絶対安全だと言っていた専門家たちは何の責任も取っていないんじゃないのかしら。
句郎 政府や専門家という人々は基本的に無責任だからね。
華女 専門家が安全だからと言うから安全だと言うのを聞いて国民一人一人が判断することが大事なのよ。私は専門家という人々の発言を信じないということよ。
句郎 やけに厳しいね。
華女 そうよ。だってそうでしょ。被害が出たときには責任をとらないんだから。
句郎 華女さんは誰を信じるの。
華女 それは私が信じられる人の発言を信じたいのよ。例えば、政府や東京都の役人たちが推薦する専門家ではなく、その専門家たちに批判的な専門家もいるわけでしょ。
句郎 少数かもしれないけれど、優秀な専門家がいることは確かだよね。
華女 私はそういう方々の意見を尊重したいと思っているの。
句郎 まぁー、そうかもしれないね。原子力を推進してきた日本を代表する大企業の東芝がとてつもない赤字を抱えてしまったのは、どうも原子力を推進しようとしたためかもしれないからね。
華女 そうでしょ。築地の豊洲移転もそうよ。
句郎 豊洲は安全だと言う専門家の発言を信じてはならないということなの。
華女 そうよ。豊洲は安全だと声を大にして言う人の言葉を信じたら、大変な被害をうけるということよ。だってその人々は結果に対して責任は取らないんでしょ。
句郎 確かに揮発性の有毒物質が地震などによってできたコンクリートの隙間などから魚を取引する場所に出てくる可能性を100%阻止するするなんてきっとできないだろうからね。
華女 そういうことよ。だから、豊洲に移転するのじゃなく、築地は築地で新しく整備しなおせばいいのよ。だって主要幹線道路の下で地下鉄建設だってできたんでしょ。
句郎 確かに知恵を絞れば、築地での再建は可能かもしれないなぁー。
華女 築地ブランドも維持できるし、いいじゃないの。良い魚を選び出す競り市は残さなければ築地は築地じゃなくなってしまうわよ。

醸楽庵だより  361号  白井一道

2017-04-02 12:24:30 | 随筆・小説

 芭蕉の教え 「句は俳意確かに詠むべし」

句郎 芭蕉は弟子の去来に「一句は手強く、俳意たしかに作すべし」と述べている。この「俳意」とは何を言ってるのかな。
華女 「俳」には滑稽という意味があるんじゃないの。だから面白さが句にはなければダメだと言っているのじゃないの。
句郎 「俳意」とは面白さね。そうか、俳句は笑い。なるほどね。
華女 更に芭蕉は何と言っているの。
句郎 芭蕉はもう一人の弟子、凡兆に「俳諧もさすがに和歌の一体也。一句にしほりの有様に作すべし」と、教えている。
華女 面白さ、笑いだけじゃだめだと、言っているのね。俳諧も和歌と一体だから、和歌のような高貴が必要だということかしらね。
句郎 「しほりの有様に作すべし」とは、和歌性のことを言っているのかもしれないな。
華女 和歌が詠んだ美意識とは「もののあはれ」と言われているものじゃないの。
句郎 そう言えば、復本一郎氏が『江戸俳句夜話』の中で述べている。「しをり」は、「あはれ」が句に形象化されることを指す芭蕉俳句の美的用語と説明している。
華女 そうなの。私が今、述べたようなことを復本一郎さんもおっしゃっているのね。
句郎 芭蕉の俳句とは、日本伝統の美意識「もののあわれ」を面白く、まじめに表現したものなのかもしれないな。
華女 そうなのかもしれないわよ。だから芭蕉は現代俳句の祖と言われているんじゃないの。
句郎 「蛤の生けるかひあれ年の暮」という芭蕉四九歳の年の暮れに詠まれた句があるんだ。この句を読むと確かに「面白み」に包まれて「もののあはれ」が表現されているように感じるな。
華女 そうよね。蛤は蓋を閉めたまま、生涯を終えられればいいけれど、お正月になると煮られて蓋を開けられ、食べられてしまうのよね。
句郎 まさに「もののあはれ」かな。生き甲斐のある人生など本当にあるのだろうか。苦しみばかりでそんなものはありゃしない。そう思いながらも生き甲斐のある人生であってほしいと願っているんじゃないのかな。
華女 「蛤の生けるかひあれ」という語句が笑いよね。
句郎 蛤を擬人化してるのが笑いなんだろうね。下五に「年の暮」がくると「蛤」の「あはれ」が表現されてくる。「笑い」の裏には深い悲しみがある。
女 なんかチェーホフの戯曲を思い出したわ。
句郎 喜劇の裏には悲劇があるという話かな。
華女 そうよ。チェーホフの戯曲はすべて喜劇だと聞いたわ。でもこの喜劇は残酷な悲劇なのよ。
句郎 芭蕉の句の中にチェーホフが表現した世界があるなんて、凄いことだね。
華女 もしかしたら、芭蕉の俳句には近代性があるのかしら。
句郎 チェーホフのような壮大な人間ドラマが芭蕉の俳句にあるとは思わないけれども、現代社会に生きる人間の喜びと悲しみとが表現されている句があるようにも感ずるな。
華女 「もののあはれ」とは無常観のことでしょ。
句郎 この日本の美意識を笑いで表現したのが、芭蕉の俳句だったのかも。

醸楽庵だより  360号  白井一道

2017-04-01 10:31:28 | 随筆・小説

 籠池さん 100万円は夢・幻だったのか

句郎 森友学園問題は、籠池氏を国会に証人喚問して終わりになるのかと思いきやまだまだ後を引きそうだね。
華女 テレビを付けると次々五月雨式に少しづつ新しい事実が出てきているようよ。
句郎 問題の本質は、国有財産の土地をただ同然の値段で一私学に売却したということだよね。
華女 問題の始まりは何だったの。
句郎 大阪・豊中市の市議さんが疑問に思って森友学園建設予定地の国有地がいくらで売られたのかを調べようとしたことが始まりだった。
華女 その結果、8億円の値引きがあることを知ったのね。
句郎 そのことを知った豊中市の同僚の共産党市議さんが朝日新聞の記者に話し、記事にしてもらった。
華女 その結果、森友問題が全国的な問題になっていったのね。
句郎 安倍政権は森友学園が行っている教育を広めていきたいと考えていたふしがあるようなんだ。
華女 それはどんな教育なのかしら。
句郎 教育勅語を子供たちに教えるような教育かな。
華女 それはどんな教育なのかしら。
句郎 国民は国のために何ができるかを考え働くような人間になれと、いうような教育かな。
華女 それは憲法が言っている教育とは、違うわ。
句郎 そうだよね。一人一人の国民は自分の人格と人間性を豊かにするために教育を受ける権利を国は保証しなくちゃならないというのが、憲法の精神だよね。
華女 本当にそうあってほしいと思うわ。
句郎 日本国憲法に反する教育をしようとする籠池氏を安倍政権はサポートしようとしたんじゃないのかな。それが百万円寄付疑惑なんじゃないのかな。
華女 そうなんだ。籠池氏側が政治家に献金するんじゃなく、逆だったのね。
句郎 籠池氏の国会での証言は歯切れが良かったよね。嘘を言うと罰せられるんだよと、何回も確認されても「事実は小説よりも奇なり。私の言うていることが正しゅうございます」と発言していたからね。
華女 この発言を聞くと本当だったんだと思っちゃうわね。
句郎 総理からの寄付、夢のような出来事に籠池氏は舞い上がり、まさに神風が吹いたと思ったんだろうね。
華女 誰だってそう思うんじゃないのかしら。
句郎 ところが、総理安倍はそんな寄付はしていないと、国会で答弁する。あの百万円は夢・幻だったのか、あの百万円はどこに行ったのかと、籠池氏は調べはしなかったのかな。
華女 もうすでに使ってしまったので、跡形もない。
句郎 籠池氏は本当に夢を見ていたのかもしれないなぁー。
華女 そうなのよ。「瑞穂の国記念小学院」は夢・幻の世界の出来事だったのよ。
句郎 きっと、そうなんだよ。現日本国憲法に反するような学校を造り、国に奉仕する国民を養成する教育をしようとしてもそんなことは夢・幻の世界のことなんだと教えているのが森友学園問題なんじゃないかな。
華女 私もそうだと思うわ。