シンガポールのソウル/ジャズ・バンド、ザ・スティーヴ・マクィーンズのジャパン・ツアーが10月18日(水)の東京・南青山の月見ル君想フを皮切りに、名古屋、大阪と開催。その3公演は2015年に〈サマーソニック〉で来日した時に共演した日本のバンド、ZA FEEDOとのジョイントツアーだったが、ツアーラストは横浜・モーション・ブルー・ヨコハマでの単独公演〈The Steve McQueens Japan tour Final One Man Show〉。月曜の夜に横浜の赤レンガ倉庫というなかなか都内からは足を伸ばしにくいロケーションではあったが、急遽もろもろ調整して急ぎ足でベイエリアへ向かった。
ザ・スティーヴ・マクィーンズは2013年に結成。バンド名はもちろん、映画俳優のスッティーヴ・マックイーンから。翌年にアシッド・ジャズ・ユニット、インコグニートの総帥ブルーイがシンガポールを来訪し、ワークショップをした際に彼らを見い出し、1stアルバム『シーモンスター』をプロデュースに至った。キーボードのジョシュア・ワン、ベースのジェイス・スン、ドラムのアーロン・ジェイムス・リー、紅一点のヴォーカルのジニー・ブループを中心に構成され、当初はサックスもメンバーに加わっていた。幾度かメンバーの加入脱退を重ね、今回はギターにアンドリュー・リンも含めた5人編成。30分の休憩時間を挟んだ二部制でのステージとなった。
彼らを知ったのは、前述のブルーイが見い出したということに反応して。当初はインコグニート同様、アシッド・ジャズ・バンドと思ったが、ザ・スティーヴ・マクィーンズはどちらかといえばジャズのスタンスに近い。エリカ・バドゥあたりのオーガニックなネオソウルをフュージョンやスムース・ジャズ的なアプローチで彩ったレトロ・モダンな色合いが強く、ネオソウルとジャズとを橋渡しするという意味ではロバート・グラスパーのエクスペリメントのアティテュードに近いともいえる。ただ、ロバート・グラスパーよりも“ヴィンテージ”なムードのソウル・ジャズとしてアウトプットされているところが、彼らの個性なのだろう。現行ネオソウル/R&Bをモダンジャズというフィルターでドリップした、温かみと気品が詰まったヴィンテージなソウル・ジャズといったらいいか。
そのなかでもヴォーカルのジニー・ブループの圧倒的な存在感が目を引く。ショートカットで小柄の彼女がストールを巻いて登場した時は、立ち姿もちょこんとして可愛らしい佇まいだったが、演奏が始まると一変。ストールを取り、バストトップとパンツにシースルーのトップスを合わせた衣装となったが、それがほとんど気にならないほどに見聴き入ってしまうほどのヴォーカルワークとパフォーマンス。手を大きく伸ばしたり、身体をくねらせたりと、その所作はヴォーカリストというよりもむしろアクトレスという感もあり、“音をバックに声とともに演ずる表現者”と言った方がしっくりくるほどの迫力と訴求力を携えていた。前半のラストに演じたスティーヴィー・ワンダーが書き、ルーファス&チャカ・カーンが歌った「テル・ミー・サムシング・グッド」のカヴァーでの腹の底から感情を絞り出すかのような唸りを伴った歌唱などにもそれは顕著だった。チャカ・カーンというよりもティナ・ターナーといった方が近い唸りだったが。
バンドメンバーは年齢層も幅広く、それぞれに特徴があった。おそらくサウンド構築で大きな役割を担っているのが、生ピアノとキーボードを担ったジョシュア・ワンだろう。生ピアノでは瑞々しく洗練された鍵捌きでフロアの空気の透明度を高めたかと思えば、電子鍵盤では横揺れのリズムを強調したインプロヴィゼーション度の高い演奏で中毒性が増していくようなグルーヴを構築していく。アンドリュー・リンは時に内なる炎を燃やすようなパッションを宿したギターソロで曲にエッジを効かせ、ジェイス・スンは素朴な表情で淡々としながらも重過ぎず軽過ぎもしないボトムを敷いて、フットワークに長けた変調に対応しやすい下地を生み出していく。アーロン・ジェイムス・リーはフェザータッチのごとく寄り添うドラミングと歯切れのよい音鳴りとを巧みに絡ませて、心地良いグルーヴやリズムをもたらして、ジニーの翼を広げてあちらこちらへと舞うようなヴォーカルの自由度をサポートしていた。
ステージはワールド・デビュー作『シーモンスター』や新作『テラリウム』を中心に、EP『アインシュタイン・モーメンツ』やカヴァーなどで構成。いずれもエキセントリックな顔を持ち合わせながらも分厚いソウルのエナジーを芯に据えた、ジャズ/ソウルと真正面に向き合ったパフォーマンスで、彼らのユニークなインプロヴィゼーションによって、他にはないオリジナリティを発揮していた。ハイエイタス・カイヨーテに近い作風とも言われているようだが、個人的には似て非なりという印象を強く持った。
変化に恐れることなく多彩なアプローチを施しながらも、芯にあるジャズやソウルには逃げずにチャレンジしていくような野心が彼らには窺えた。演奏を終えた表情からはシャイなアジア系民族の顔になるのだが、内からジワジワと浸透・浸食していくグルーヴと瞬間的に惹き込まれるジニーの豊かな描出の要素との雑食具合がまた絶妙。シンガポールにはなかなか存在しないタイプのバンドということだが、それは世界でも同様だろう。表面的な過激さはないが、心へズシリと響く強烈なインパクトを持ったバンドだといえる。次回にはどんな変化をもたらしてくれるかが楽しみだ。
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<MEMBER>
The Steve McQueens are:
Joshua Wan(p,key)
Ginny Bloop(vo)
Jase Sng(b)
Aaron James Lee(ds)
Andrew Lim(g)
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