*** june typhoon tokyo ***

【ガチ恋!】WINTER BREEZE 2016@渋谷Jz Brat



 音楽サイト【ガチ恋!】が主催する企画イヴェントの第2弾〈【ガチ恋!】Winter Breeze 2016〉にEspeciaが2015年夏の第1弾〈【ガチ恋!】SUMMER OF LOVE 2015〉に続いて登場。この時は4組のアイドルが集うライヴだったようだが、この第2弾では2015年12月に英コヴェントガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスの第1ソロコンサートマスター、ヴァスコ・ヴァッシレフの日本公演でバック・バンドを務めた経験もあるジャズ・バンド、Blu-Swingとのツーマン・イヴェント。会場は渋谷、セルリアンタワー東急ホテル2階のタワーサイドテラスにあるクラブハウス、JZ Brat SOUND OF TOKYO。スタンダードジャズからフュージョン、ソウル、ポップスなどをジャンルにとらわれずに質の高い生演奏を提供しているこのクラブでEspeciaがいかなるパフォーマンスを繰り広げるのかを楽しみにしながら、濃紺の夕闇に沈む渋谷の街へと歩みを進めた。

 

 先鋒はBlu-Swing。2008年にメジャー・デビューした5人組で、2015年8月の『FLASH』までオリジナル、リミックスなど数多くのアルバムを発表。楽曲提供や共演も多く重ね、各メンバーが腕利きとして作品やライヴサポートなどに参加している。これまでアルバム等をじっくりと聴いたことはなかったが、ジャミロクワイ、インコグニート、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズなどを支えてきたホーン奏者ウィンストン・ロリンズが作品に参加、トーチャード・ソウルのジョン・クリスチャン・ユーリックらに楽曲提供を受ける一方、アンジェラ・ジョンソンに楽曲提供するなどUKアシッド・ジャズ、クラブ・シーンとの人脈と親交があると以前に知り、個人的な嗜好と合致していたところもあり気になっていたバンドではあった。その時はEspeciaと共演するなどとは夢にも思わなかったが。

 2015年リリースのベスト・アルバム『SKY IS THE LIMIT』がiTunes JAZZチャートアルバム1位を獲得したことや【ガチ恋】サイトで“ジャズ・バンド”と紹介されていることもあって、“ジャズ vs アイドル”といったような構図も狙いとしてはあったのかもしれない。だが、このBlu-Swingはどうやら“生粋のジャズ・バンド”ではなさそうで、上述のUKアシッド・ジャズ云々の交流からも分かるように、どちらかというと出自はクラブ・ジャズという感じ。それは実際に生演奏を聴いたところでも変わらずだ。洗練され気品を帯びたサウンドとヴォーカルは、ティーンズたちで賑わう渋谷ではなく、もう一つの側面であるアダルトな夜の街に溶け込んでいくような雰囲気。会場のJz Bratに相応しいエレガントなクラブ・ジャズ・ポップスといった音を響かせていた。

 とはいえ、この日のステージでは音源と異なる印象もあった。特に小島翔のギターが軽快で明るい彩度を奏でていたためか、ハウス・テイストよりもジャズ・ボッサあるいはジャズ歌謡的な匂いが強かった。中盤で「ひとひら」に続いてピアノ・ハウス風の流麗なインストゥルメンタル「Pulse」を披露したりもしたが、歌モノはPARIS MATCHあたりのAORやシティ・ポップを包含したラウンジポップス色が強い気も。YU-RIの歌い回しがジャズ・ヴォーカル・スタイルに寄せているので、いわゆるアーバンな渋谷系ポップス的な“軽薄さ”はないが、たとえば阿川泰子のような艶やかさほどではないので、ジャズ・ヴォーカル・バンドまでには振り切れていない感じ。ジャズの際をくすぐるように触れながら、決して小難しい音鳴りはさせずにあくまでもポップに昇華する。そのあたりが彼らの個性といえるのかもしれない。
 ラスト前にコール&レスポンスとともに披露した「Sum」はMondo GrossoがBirdを客演に迎えた「Life」のような爽やかな夏の涼風を想起させるリズミカルなクラブ・ボッサ系の曲。このあたりをフィールドの軸の一つにしているのであれば、前述したUKアシッド・ジャズ勢と親和性も頷ける。

 ただ、個人的にはもう少々“毒気”があっても良かったような気もした。洗練された渋谷系ポップスといえば、国岡真由美と宮内和之のユニット、ICEの名が浮かぶが、彼らの楽曲がクセになるのは表向きはソフィスティケイトなアーバン・ポップスだが、その実はロック、ブルース、ソウル、ファンクなどへの影響がありながらも、それらを出来るだけ隠して強く匂わせずにスタイリッシュなファンク・ロック・ポップに仕立て上げたところだろう。それゆえ、どこかしらに“黒さ”やファンキーなグルーヴがそこかしこに感じられたのだが、Blu-Swingは澄明かつ上質な佇まいが多くを占めていて、颯爽過ぎるきらいも。とはいえ、それはあくまでも“黒さ”を好む個人的な嗜好の範疇であって、彼らのクオリティには何ら影響のないことだ。クラブユースな曲風を軸としていたが、バンドが鳴らすサウンドはクラブシーンを飛び越えた辣腕軍団であることには変わりない。


 
 Blu-Swingの洒脱なステージの後を受けたのが大阪・堀江系ガールズ・グループ、Especia。この日はBlu-SwingやJz Bratに合わせてか、前半はアダルトな楽曲をチョイス。“仕掛け”としては面白い着想だとは思ったが、個人的には少々期待にそぐわない出来だった。

 ここで、Blu-Swingと比べてEspeciaの実力派はまだまだ……という感想を持つファンもいるかと思うが、それは野暮な話だろう。経験値も実力差も既に知れている両者を比較してもあまり意味はなく、ナンセンスというもの。単純にジャンルが異なるというだけでなく、通常なら相容れないような今回の組み合わせは、いわば異種格闘技戦と同じ。興奮度という意味では、どちらのジャンルが勝ったかというよりも互いにそれぞれが相手の懐に入りながらも自身のパフォーマンスを出し切れるかどうかが重要で、それがエンタテインメント、すなわちフロアの熱を高める起爆剤となり得るからだ。要するに、演奏や歌のテクニックやスキルが高ければ必ずフロアを感動させるに至る、という訳ではないということ。極端なことを言えば、寸分の狂いなく音を鳴らす自動演奏の鍵盤がそれほど心に響かないのと原理は同じで、多少演奏や歌が乱れていても訴求力のあるパフォーマンスを繰り出せれば、人の気持ちは揺れ動くのだ。

 その意味では前半のEspeciaは、残念ながら道を迷った来訪者のように地に足が着いていなかった。このところのライヴやイヴェントの連続での疲労がパフォーマンスを下げているのか、自身たちのスキル(特に歌唱力)の不安定さを必要以上に露見させないためなのか分からないが、冒頭の「雨のパーラー(S&L Remix)」よりバックのオケにヴォーカルの声量が負けていて、何か恐る恐る歌っている感じがした。特に、全編英語詞の「Rittenhouse Square」は最たるもので、声量もそうだが、英語詞を確実に歌おうとし過ぎていて、詞を追っていることで精一杯なようだった。さらには、脇田もなりの声が不調で高音などがかすれてしまう場面もあって、グループ全体のバランスも崩れていたと思う。

 だが、喉が不調で声が出ないからだとか、ピッチがずれていたなどということは、実はそれほど重くのしかかることではない。最も重要なことは、自分たちらしいパフォーマンスをやり切れるかどうか。多少歌詞を言い間違えたりピッチが外れることがパフォーマンスの質を下げる決定打ではなくて、その楽曲が持つ意味や思いを気持ちとともに歌声に乗せられるかどうかが最重要なんだと思う。先ほどの「Rittenhouse Square」でいえば、英語の歌詞を追うことに一杯になっていて、彼女らが伝えたい歌の世界観がたどたどしいくらいしか伝わってこない。実際、英語の発音などは(良ければ良いに越したことはないが)それが正しいか正しくないかなどはどうでもよくて、気持ちを込めて自らの魂で歌えているかが大切なのだと思う。その熱がフロアのオーディエンスに伝導して、心や身体を揺り動かすのだから。その点で、折角のアダルトなラインナップも、その魅力は半減してしまっていたと感ぜざるをえなかった。



 しかしながら、後半のEspeciaはどうだろう。会場にようやく慣れてきたのかもしれないが、彼女たちらしさがみるみるうちに芽生えてきて、歌にもしっかりとグルーヴが生まれていた。脇田は相変わらず高音が辛そうな場面が散見されたが、それがあっても全体として彼女らの楽曲が持つ“旨味”を出せていた。それほどステージ数を踏めていないはずの新曲「Over Time」でも小粋に弾むグルーヴをそれぞれの体躯で捉えていたし、それに続く「Boogie Aroma(CARTA Ver.)」への流れも良かった。その修正力は、意識してたかどうかは分からないが、彼女らがこれまで多くのステージで積み重ねてきた経験の賜物だろう。大人びた(でも大人になり切れていない)顔色で演じたかと思えば、笑みを振り撒き、観ている方が楽しさを実感するパフォーマンスまで、その多彩な表情の豊かさのなかで彼女らの世代には縁遠いシャレた楽曲を演じるというのが彼女たちの持ち味だとすれば、終盤のパフォーマンスは前半とは比べものにならなかった。彼女たち自身が本当の意味でステージを楽しめているかどうか。当然、ここで言う“楽しめる”というのは“ただ楽しく出来た”の意味ではなく、表現したい、伝えたいという楽しさだが、彼女らのバロメーターはそこに尽きるのではないか。それはフィールドや共演相手が異なろうとも変わらない、普遍的なものなのだと思う。

 本編ラストは「ミッドナイトConfusion」。個人的には当ステージの雰囲気にやや外れた選曲かと思ったのだが、どうやら主催者の好きな楽曲を考慮してセレクトしたとのこと。このツーマンを企画した功労として、感謝の形を表わしたということなのだろう。
 アンコールはBlu-Swingとともに「Mount Up」。手練手管のBlu-Swingをバックに従えて歌う「Mount Up」は、この日一番の貴重な経験になったはずだ。

 重大な発表を終え、5人体制で過ごせる2月末まであと1ヵ月。心身共に非常に難しい時期でもあろうが、ここにきて大きな課題を突き付けられた。だが、その半面、思いがけない成長ぶりも窺えたのも事実。このステージがさらなる跳躍の前の深い踏み込みとなるはず……そんな思いを過ぎらせながら、夜の渋谷を後にした。



◇◇◇

<SET LIST>
≪Blu-Swing≫
01 Fly High
02 Sunset
03 ひとひら
04 Pulse
05 Find Your Way
06 Syndrome
07 Chain of Life
08 Sum
09 Fabulous

≪Especia≫
00 Intro(from“GUSTO”)
01 雨のパーラー(S&L Remix)
02 MIDAS TOUCH
03 トワイライト・パームビーチ
04 Rittenhouse Square
05 海辺のサティ(va Bien Edit)
06 Aviator(Alternate Version)
07 Over Time(New Song)
08 Boogie Aroma(CARTA Ver.)
09 ミッドナイトConfusion
≪ENCORE≫
10 Mount Up(with Blu-Swing)

<MEMBER>
Blu-Swing are:
田中裕梨(vo)/YU-RI
小島翔(g)/SHOW KOJIMA
蓮池真治(b)/SHINJI HASUIKE
中村祐介(key)/YUSUKE NAKAMURA
宮本“ブータン”知聡(ds)/TOMOAKI “BHUTAN” MIYAMOTO

Especia are:
冨永悠香/Haruka Tominaga
三ノ宮ちか/Chika Sannomiya
三瀬ちひろ/Chihiro Mise
脇田もなり/Monari Wakita
森絵莉加/Erika Mori



◇◇◇

BLU-SWING - FLASH


SUNSET - BLU-SWING


Especia - 海辺のサティ(Vexation Edit)


Especia - ミッドナイトConfusion







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