現体制プレラストで見せた“フェーズ3”の渾身。
MIGMA SHELTERによるサイケ&トランスの酔狂の余波を微かに感じながら、渋谷CLUB CRAWLでの〈SEE IT NOW YEAH vol.2〉のトリを飾るウテギャこと校庭カメラギャルの登壇を待っていると、BGMとして流れてきたのはアラン・ドロンとジャン・ギャバンが共演した犯罪アクション映画『地下室のメロディー』のテーマ「金への賛歌」。カジノの舞台裏に忍び込み、10億フランを強奪するため地下金庫を襲撃する青年たちを描いた1963年公開の名作と、渋谷のクラブの地下に集うファンやオタク、リスナーや音楽好事家の心までを“盗み取る”ほどのライヴするというウテギャの意気込みになぞらえたかどうかは分からないが、機材トラブルが続いたにも関わらず、いやトラブルが寧ろカウンターとなってフロアの一体感を生み出した、そんなライヴだったのではないか。
pataco & pataco(パタコ アンド パタコ)とramy t talata(ラミタ タラッタ)からなるガールズ・ラップ・クルー、校庭カメラギャルを初めて観たのは、つい先日7月末の中目黒solfaでのライヴ・イヴェント〈今日も963と…〉(その時の記事→「校庭カメラギャル@中目黒solfa」)だったが、pataco & patacoが8月13日のイヴェント出演をもって活動を引退。よってこのステージが現体制での“ラス前”公演となり、これまで応援してきたファンにとっては感慨深さも公演毎に募るなか、「全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい」の途中で機材トラブルによる音源ストップという思いがけない不運がステージ上の二人を襲う。当初はトークで場を持たせながら音源の復旧を待つも、叶わず。あれこれ試案して、観客からのクラップに乗せてア・カペラで進行していくことに。フロアからのクラップを受け、高波を待っていたサーファーのごとくramy t talataが舌鋒鋭くフロウをかますと、フロアのヴォルテージもさらにギアが上昇。ア・カペラでフロアの空気を切り裂くなか音源が一時的に復旧する偶発的演出も加わって、pataco & patacoの“ラス前”の感傷に浸るムードは消え、眼前の彼女たちの一挙手一投足を五感で感じようとするオーディエンスとのリアルな共感(交感と言い換えてもいい)が迸る空間と化していた。
その効果を引き続き狙ったのか、やはり音源トラブルが改善されないままで終わったのかは判断がつかないが、この日ラストの「その程度」では終盤、“地味でふがいない私を変えにきたんだよ / 東京って街に”“ラミタタラッタとパタコアンドパタコ / 今はこの2人だ 輝いてやるぜ”の渾身の叫びを受けて、終盤からは再び音源なしのミュート・スタイルでステージを続行。フロアからは自然発生的にクラップが打ち鳴らされ、そのリズムにクラウドするようにramy t talataが繰り出す“プロップスやマネー”“ヘイトアンドラブ”などのフレーズに、pataco & patacoの先導のもと“その程度”で応えるオーディエンスという図式は、「その程度」でのライヴ・スタイルの一つではあるが、音源トラブルというハプニングも手伝って、決して予定調和ではないコール&レスポンスという形の演者と観客との生の意思疎通が萌芽し、渦巻いた瞬間(“We could do it party”=パーティをやってやるぜ)だったといえよう。
だが、思い返してみれば、それまでにも彼女たちの心意気を感ずる場面はそこここに散らばっていて、中盤で披露された「ボビーとシャンパン」にもその一つが窺えた。ramy t talataのフックの“終わってたまっか フェイズスリー”あたりのフロウには鬼気迫るものが垣間見られたし、ラストまで楽しくやり遂げたいと誓ったpataco & patacoも“パタコだマザコン ゲマイセルバッ”を“パタコは最高!~”と言い換えるなど、限りある現体制のなかで“その瞬間を生きる”ことに徹する彼女たちなりの幕引きの美学を無意識のうちに体現していたような気がした。THE BLUE HEARTSは「リンダリンダ」にて“ドブネズミみたいに美しくなりたい / 写真には写らない美しさがあるから”と歌ったが、もちろんスタイルや質が異なるのはもちろん、クルーとしての完成度も訴求力が発展途上であることは承知の上で言えば、「リンダリンダ」よろしく彼女たちにもさまざまなものが足りないなかで何か一つでも響かせることをしてやろうという意志と、終わらない以上はステージを最後まで全力でやり遂げる(しかも楽しく)という“一所懸命”の心意気が存分に発揮されていたように思う。
彼女たちは日本語ヒップホップ・クルーというにも、ヒップホップ・アイドルというにもやや違和感を覚える不思議な立ち位置にいる。そして、名前に冠するようにいわゆる通例的な“ギャル”でもない。しかしながら、少女から大人へと移り変わらねばならない思春期に抱える葛藤や苦悩を、二人でしか生み出しえないグルーヴに昇華させている姿は、刹那や未完成ならではの儚さや無常を感じる一方で非常に魅力的でもある。そこには、表現するフォーマットとして単にラップを選んでいるだけで、ヒップホップかどうか、ギャルかどうかなどということは些末な話題に過ぎない。
今の二人だけでしか描けない“ギャル”ワールドの終幕も近づいているが、“終わってたまっか フェイズスリー”の精神でラストまで走り尽せるかどうか。その“フェイズスリー”の結末の行方は、二日後の13日、中目黒solfaにて。迷っているならば、是非足を運んで、彼女たちの叫びの真偽を確かめてもらいたい。
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<SET LIST>
≪あヴぁんだんど≫
≪校庭カメラアクトレス≫
≪せのしすたぁ≫
≪MIGMA SHELTER≫
≪校庭カメラギャル≫
00 INTRODUCTION(Hymne L'argent ~“Mélodie en sous sol”Film Score by Michel Magne)
01 チルチルイキル
02 GAL HANDS UP
03 ボビーとシャンパン
04 全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい
05 全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい(Retake)
06 その程度
<MEMBER>
KOUTEI CAMERA GAL are:
パタコ アンド パタコ / pataco & pataco
ラミタ タラッタ / ramy t talata
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■ 校庭カメラギャル/スマイルアゲイン(2017/04/26)
TPSTK-010 tapestok records
01 第三段階はじめるよー
02 ギャルライフ ~お風呂マットは大事~
03 ゴー!ギャル ~ほんとうのギャルを求めて~
04 みんないい人だって言ってるけど実際はアイツサイコパスだしヤバい
05 全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい(re:gal)
06 ギャルバーガー
07 ギャルウォッシュ
08 ボビーとシャンパン(re:gal)
09 ギャルドリーム
10 ストレイトギャルストーリー
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※ 音割れが酷く不快なことこの上ないので、映像のみで雰囲気を楽しんでください(ア・カペラ・パートはそこそこ聴けます)