アシッド・ジャズの代表的なグループ、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ(BNH)のブルーノート東京公演を観賞。最終日の2ndショウ。BNHはついこの5月、渋谷のDUO MUSIC EXCHANGEで来日公演をしたが(その時の記事はこちら)、半年もしないうちに再び来日ステージを開催してくれた。しかも、ここ数年はビルボードライブ公演が多かったが、初めてのブルーノート公演となった。ちなみに、これまでに観賞したBNHのライヴは以下の通り。
2003年06月、新宿リキッドルーム公演(6年ぶりの来日)
2006年12月、ラフォーレミュージアム六本木公演(その時の記事→☆)
2007年11月、ビルボードライブ公演(その時の記事→☆)
2008年12月、ビルボードライブ公演(その時の記事→☆)
2010年02月、ビルボードライブ公演(その時の記事→☆)
2011年11月、ビルボードライブ公演(その時の記事→☆)
2013年05月、DUO MUSIC EXCHANGE公演(その時の記事→☆)
2011年のビルボードライブ東京公演では、当初は“オリジナル”ヘヴィーズのエンディア・ダヴェンポートをフィーチャーする予定だったが、急遽ハニー・ラロシェルがヴォーカルを代行したステージとなった。エンディアとは腐れ縁のごとく付いたり離れたりしてきた経緯があるので、今となってはさほど驚きもなかったが、この5月のDUOでの公演はエンディアがヴォーカリストだったので、またエンディアでやっていくかと思いきや、BNH初のブルーノート公演はドーン・ジョセフとなった。
ドーンはカリブ系の血を持ったイギリス人女性シンガー・ソングライターで、カイリー・ミノーグやマイケル・ボルトン、クレイグ・デイヴィッド、フィル・コリンズなどのバック・コーラスなどを務めた経験があるらしい。どこかで聞いた名前だと思っていたが、調べたらUKソウル/R&Bシンガー・ソングライター、ネイト・ジェームスの1stシングル「セット・ザ・トーン」や同名タイトルのアルバム収録曲でアン・ヴォーグのドーン・ロビンソンが参加した「アイル・ディクライン」のライティングに名を連ね、バック・ヴォーカルとしても参加していた人。BNHのアルバム『フォワード』では「ア・リトル・ファンク・イン・ユア・ポケット」「ライフスタイル」「ライツ」(「ライツ」の冒頭の歌唱は一瞬MONDAY満ちるかと思ったが)でリード・ヴォーカルを執っているから、ハニー・ラロシェルのように急遽という訳ではなく、継続的なヴォーカリストとしてのフィーチャーだと思う。
そのドーン・ジョセフがヘヴィーズとしてかなり良い化学反応をみせた。ヘヴィーズといえばやはりエンディア・ダヴェンポートでないと、と思う人は数多くいるだろう。この公演でも、「久しぶりに行こうと思ったら、ヴォーカルがエンディアじゃない……」という声もちらほら聞いた。だが、それでヘヴィーズのライヴを回避したとしたら、随分ともったいないことをしたのではないか。そう思わせる熱気に溢れた空間が、このステージにはあった。
メンバーは左より、左前列にベースのアンドリュー・レヴィ、中央奥にドラムのヤン・キンケイド、右前列にギターのサイモン・バーソロミューとヘヴィーズが顔を並べる。中央前列にヴォーカルのドーン・ジョセフだ。それに加えて、金色のセミロングヘアを揺らしながら幻想的な鍵盤を弾いたマット・スティールが左後列、中央やや右寄り後列にパーカッション&バック・ヴォーカルのリリー・ゴンサレス、右手後方にサックスのアンドリュー・ロスとトランペットのサイモン・フィンチが並ぶ。マット・スティールとリリー・ゴンザレスは5月のDUO公演でも来日していた。特に、トランペットのサイモン・フィンチが観客をホットにさせるソロ・パートを多く奏でて、熱気をさらにもう一つ上の段階へと押し上げていた。
ドーンは最初ケープみたいなフードを被ってミステリアスに登場。そのフードを外すと、赤い髪を編み込んだヘアスタイルが露わに。また前面の裾(股下)を大胆にカットしたワンピースドレス(貫頭衣風ともいえるか)を羽織る感覚で着ていたので、ジャンプをするとインナーパンツ(といっても、本当のアンダーウェアではないと思うが)が見えてしまうくらいの短さ。そんなセクシーさもちらつかせながら、歌い始めると熱情的なヴォーカルを繰り出してくる。テーブルの上はもちろん、客席の中へなだれ込んでハグやハイタッチ、時には挑発的なジェスチャーなどを交えながら、オーディエンスの熱をさらに上昇させていた。その一方で、自らがヘヴィーズの名曲を歌い、それに呼応する日本の観客を見て、この上ない喜びと興奮が宿ったゆえ、上記のようなパフォーマンスへ自然となってしまったのかもしれない。
個人的な思い入れが大いにあることは認めたうえで、やはり、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズには胸躍らせる何かを常に持ち得ているのだと思う。実は、今回のセット・リストは、アンドリューがマイケル・ジャクソン「今夜はドント・ストップ」風のベース・ラインをかましたり、マット・スティールがボサ・ノヴァやレゲエ調のキーボードを鳴らしたりと、さまざまなアレンジがあったにせよ、5月のDUO公演とセット・リストは同じなのだ。それどころか、ここ近年は、「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」から「ドリーム・カム・トゥルー」で幕となるパターンばかりである。時にはいつもとは異なる楽曲もと思う人もいるだろう。自分もそういう気持ちも持たなくはない。
ただ、そう思っていても、一度あのファンキーなグルーヴが打ち出されると、ヴォーカリストが誰だとか、演奏技術がどうだとか、曲構成がどうだとか、そういう些細なことが一気に吹き飛んでしまうものが、彼らのステージにはある。どこからか“Let's get FUNK!”が叫ばれると、ただただそのファンキーなリズムと胸躍らせるサウンド、快感をほとばしらせるグルーヴで、観客やそのフロアにグッド・ヴァイブレーションが渦を巻くのだ。
以前と変わらない“偉大なるマンネリ”とドーン・ジョセフという“新たな潮流”の化学変化は、ヘヴィーズに次なるステージへの“前進”をもたらしめた。人々の心を揺るがす普遍的なグルーヴを動力にした“ファンキー・シップ”は、音楽の友という客を乗せて、また一つ先の未来へゆっくりと航海を進めているに違いない。
エンディアがヴォーカルでないと泣かずに、ドーンとともに新たなファンクを体感したいと思うが吉なのだ。
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<SET LIST>
01 FORWARD
02 BACK TO LOVE
03 NEVER STOP
04 DREAM ON DREAMER
05 MIDNIGHT AT THE OASIS
06 SUNLIGHT
07 HEAVEN
08 GIMME ONE OF THOSE
09 SOMETIMES
10 SPEND SOME TIME
11 ADDICTED
12 STAY THIS WAY
13 YOU ARE THE UNIVERSE
14 DREAM COME TRUE
<MEMBER>
Jan Kincaid(ds,key)
Simon Bartholomew(g)
Andrew Levy(b)
Dawn Joseph(vo)
Simon Finch(tp)
Andrew Ross(sax)
Matt Steele(key)
Lily Gonzalez(back vo,per)
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The Brand New Heavies - Sunlight (Live in Hannover, Germany 2013)