*** june typhoon tokyo ***

Kimbra@Billboard Live TOKYO


 客演したゴティエのシングル「サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ」が1300万枚超セールス、8週連続全米1位、4週連続全英1位を経て2012年年間全米シングル1位となったことで世界的に注目され、2013年のグラミーで最優秀レコード、最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスを受賞するなど、現代のポップ・スターへと成長したニュージーランド出身のキンブラが初来日。東京公演の2日目を観賞した。

 日本では、前述のゴティエ客演曲や2ndアルバム『ゴールデン・エコー』収録の「90sミュージック」(MVでは日本への親愛ぶりも窺える)や「ミラクル」(オリヴィア・ニュートン・ジョン「フィジカル」風のフックが印象的)でアンテナに引っ掛かったファンも少なくないと思うが、蓋を開けてみると既発となる1stアルバム『ヴァウズ』や2ndアルバム『ゴールデン・エコー』収録曲からは僅か3曲のみで、残りは未発表曲および新曲という斬新なラインナップ。仮に「90sミュージック」「ミラクル」あたりを期待していたとしたら、やや拍子抜けだったと感じる人もいたかもしれない。しかしながら、そのような日本向けのキラー・チューンを除きながらも、映像とライティングの巧妙な演出を駆使してファンタジックかつエキセントリックなキンブラ・ワールドを構築。彼女のヴァラエティに富んだプロダクションに感嘆することになったのではないか。



 ステージは左にギターとキーボードを操るティモン・マーティン、右にベースとキーボードを担当するロングヘアのスペンサー・ザーン、中央にキンブラという布陣。キンブラの周辺はシーケンサーなどタッチパネルの電子機器で固められ、ポップというよりもエレクトロニクスなセット。シフォンかオーガンジーのようなシースルーの布地を施した薄いピンク地のロングドレスに身に纏ったキンブラが登場すると、観客からは拍手。たどたどしい日本語で「ワタシノナマエハ、キンブラデス」などMCでは少しずつ日本語を混ぜながらフロアとのコミュニケーションを図っていく。

 ただ、曲に入れば、一切の妥協や媚び売りはなし。ギリシア調の塑像や人間の頭をデザイン化したものや、人間の目からボタボタ落ちる涙をはじくiPod風のポータブル音楽プレイヤーといったもの、幾何学的なカラーパターン、海や山などの大自然、一部に瓦屋根も見える住居群から宇宙空間まで、森羅万象をグラフィック化したCG映像をスクリーンに流しながら、時にインダストリアルに、時にエクスペリメンタルに、エレクトロニックなアプローチで彼女なりの幻想的な世界を構築していく。近々リリースが予定されている3rdアルバムに収録予定の新曲「グッド・ウォー」「ヒューマン」(この時には「ツギノキョクハ、ヒューマンデス」とのMCあり)も披露。特に「グッド・ウォー」の時には、マシンガンかライフルを模した銃がスペースコロニーのようにも見える骨組みや水玉模様の丸みを帯びた戦闘機、亀の甲羅風の色合いの戦車などがピンクとスカイブルーのパステルカラーの空を進むような映像も流れるなど、コンセプチュアルな演出もあった。



 ヴォーカルワークについてはそこまで奇抜さはなかったものの、ロリータヴォイスで突き抜けるように歌ったり、髪を振り乱してシャウトするなどの奔放ぶりを見せる瞬間はビョークあたりの佇まいも感じた。少ない旧譜曲でも中盤で披露した「セトル・ダウン」なども、アコースティックとテクニカルな要素が入り混じり、自らが“スペシャルな難解なヴァージョン”と発するほど原曲とは異なるアレンジになるなど、かなり“アグレッシヴ”な内容に。とはいえ、次の「アズ・ユー・アー」では一転、伸びやかなヴォーカルで美しく歌い上げたり、2016年にリリースされ次作のリード・シングルになると思われる「スウィート・リリーフ」ではダンサブルに描くなど、彼女が有するさまざまな個性の引き出しが次々と開けられていくような非日常的な感覚に、驚きを隠せないというのが正直なところかもしれない。一見奇抜に思えて、実は繊細に計算されたエレクトロニクスなステージには、未知なるものへの期待や不安と、妄想と現実の狭間を自由に往来する奇妙でコンシャスな世界が漂っていた。キンブラとは表現方法は異なり、ソウルやディスコに重心を寄せているものの、ラディカルな姿勢と気品を携えて高いクリエイティヴィティを発揮しているという点では、カナダ・トロント出身のシンガー・ソングライター、メイリー・トッドあたりの近似性をも感じさせた。キンブラは「90sミュージック」などで、メイリー・トッドは80年代ポップを独自に継承するスタイルでと、ともにポップスを独自に解釈しながら包含していくスタンスもある。

 空想的あるいは幻想的なアプローチで展開しながらも、その中でチクリと現代の問題や闇にも触れるアイロニーや笑いにするファニーな一面、叫び飛ばすようなロックなアティテュードなど、ミニマルな構成ながらも無限の世界を投影したステージ。本人自ら「また日本へ戻ってくる」との発言もあったが、3rdアルバム・リリース後の再来日にどのような演出や解釈がなされるのか、多分に期待をもっていいと思う。今回のステージで『ゴールデン・エコー』を期待してスカされた人も、まずは、近々リリースされるだろう3rdアルバムを聴いてから、今回のパフォーマンスをジャッジしても遅くはないはずだ。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Order & Breaks 2
02 Version of Me
03 Hi Def
04 Black Sky
05 Good War
06 Human
07 Settle Down (*1)
08 As You Are (*2)
09 Love In High
10 Everybody Knows
11 Past Love
12 Two Way Street (*1)
13 Top of The World
14 Sweet Relief

(*1)song from album“Vows”
(*2)song from album“The Golden Echo”

<MEMBER>
Kimbra(vo)

Timon Martin(g,key)
Spencer Zahn(b,key)


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コメント一覧

野球狂。
ご自愛ください~
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
Hide Grooveさん、お久しぶりです。まだまだ体調は芳しくないようですが、お休み出来る時は無理せず休息してくださいね。

>彼女のとっちらかった個性が加味されると、どこへ向かっていくのか想定出来ない魔力も潜んでます
ああ、これは言い得て妙かもしれません。危なっかしいスリル感が恍惚へ向かうヤツですね。

>En Vogue
ライヴツアーを精力的にしているようですから、もう少しかかるのかもしれませんね。お蔵入りにならないといいですが、ディアンジェロやマックスウェル並みに出る出る詐欺はしないと思うので、もう少し待ちましょうかね(笑)

Hide Groove
野球狂。さん、久しぶりです
いきなり本題に入ります。
近未来的なエレクトロRandB、『Sweet ~』ハマりましたよ。個性を強く打ち出しているようで、どこか引きの美学がCOOLですね。
たとえば80年代中盤からジャム&ルイスがSOS BANDで実験的に製作したアルバムを、現代版に解釈したような質感も感じてます。
温故知新が近未来風味で料理されたサウンドの成功例👍
また彼女のとっちらかった個性が加味されると、どこへ向かっていくのか想定出来ない魔力も潜んでます。

春から寝不足とストレスを抱き抱えて、フラフラですが心地好いトラックが耳に飛び込んできて、野球狂。さんのセレクトに感謝🎵

ところでEn Vogue新作アルバムを待ち続けてるこのストレスは間もなく解消されるのでしょうか?
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