*** june typhoon tokyo ***

HONNE@Shibuya WWW X


 クールな佇まいから一変、エナジーを見せたステージでの“ホンネ”。

 温もりあるエレクトロなソウル/ポップ作風と日本を意識したバンド/レーベル名で話題の英・ロンドン出身のデュオ、ホンネ。ホンネは日本語の“本音”、レーベル名のタテマエ・レコーディングスは“建前”を由来としている彼ら。2016年にメジャー・デビュー作『ウォーム・オン・ア・コールド・ナイト』(邦題『寒い夜の暖かさ』)をリリースし、同年11月にはビルボードライブで初来日を果たしているが、2017年は大型野外フェス〈SUMMER SONIC〉出演とともに、同フェス開催前後に行なわれる「サマーソニック・エクストラ」として単独公演を開催。会場は東京・渋谷のWWW X。チケット発売日からしばらく経ってもチケットには余裕があった状態だったが、サマソニ出演によって興味を持った人たちが駆け込みで来場したのか、フロアはなかなかの盛況ぶり。20代半ばから30代後半の層が中心。白人系外国人と日本人女性のカップルもちらほら。特に女性ファンが多かったのはルックスの良さも手伝っているようだ。

 中央左にキーボードとギターを操るシャイなジェイムス・ハッチ、中央右にメイン・ヴォーカルのアンディ・クラッターバック。その周囲を左からベースのアマドゥ・コロマ、中央奥にドラムのデュエイン・サンフォード、右にバックヴォーカルのナオミ・スカーレットが陣取る。面白いのは、ホンネの二人以外は黒人系(非白人系)だといういこと。彼らのサウンドはアーバンなナイト・シティ・ポップという佇まいだが、そこにソウルフルなムードを強く感じるのはツアーバンドの面々の音楽的な“ブラックネス”の影響もあるか。



 開演定刻の19時となると暗転し、それまで流れていたBGMをぶった切って新たに流れてきたのはマイケル・ジャクソンの「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」。これにフロアの多くがそれほど反応を見せないでいるあたり、客層が若く、ブラック・ミュージック経由のファンが主流でなかったとみえる。音源を聴いてどこかR&Bっぽさを感じていながら、はっきりとは掴めていなかったのだが、この演出に出くわして、その音鳴りは彼らがマイケル・フォロワーであることにも依拠すると感じた次第。「P.Y.T.」をまるまるフルコーラス流した後、メンバーがステージイン。幻想的な青色のライティングが微かにステージに注がれるなかで、東京での一夜限りの単独公演がスタートした。

 当初はもっとAOR/シティ・ポップ寄りのエレクトロ・ソウルを展開すると思っていたが、滑らかなヴォーカルと浮遊感漂う鍵盤による上モノが鳴るなかで、シンガロングやコール&レスポンスありのバンド・スタイルを意外にも提示。ただ、ロック然としていないのは、ベースとドラムが“黒い”グルーヴをしっかりとうねらせていたから。特にデュエイン・サンフォードが叩き出すドラムは、90年代R&Bやニュージャックスウィングあたりのブラコン(ブラックコンテンポラリー)の薫りが伝わるリズム。前述した出囃子的なBGMに「P.Y.T.」を起用したのと同様、ホンネの二人のディレクションにおいて彼らがブラック・ミュージックやマイケル・ジャクソンの影響下にあることを確信。色合いは異なるが、非黒人系ヴォーカル&ソウルフルなサウンドというと、マルーン5や英ソウル・バンドのママズ・ガンあたりを想起するが、ホンネはそこまでファンキー濃度は高くなく、ノスタルジーやウェットな肌質が滲むUK出自らしいエレクトロニックR&B。そこまでディープではないが、ジェイムス・ブレイクやシャーデー風のアートワークやサウンドで話題となったカナダ出身とデンマーク出身からなるロサンゼルス発のソウル・ユニット、ライあたりの風情もちらつく。



 MCはそれほどなかったが、時折アンディが日本語でのMCを披露。“サンドウィッチヲタベテマシタ”“写真ヲ撮リタイデスカ?”などと観客に問いかけると、ジェイムスが“それはどういう意味?”と尋ね、さらにアンディが“君も(日本語で)何か言ってごらんよ”というと、“いやぁ……”と困りながらはにかむジェイムスというやり取りが微笑ましさを生む。アンディが盛り上がる東京の観客へ向けて“スキデス、スキダ……”と今の気持ちの最適解を探していると、観客から“アイシテル”の声を受けて“アイシテル!”とレスポンスするという光景には、黄色い歓声が沸き起こっていた。

 それだけでなく、その歓声は随所に。「ジャスト・ダンス」のようなフューチャー・エレクトロ・ファンクで沸くのは解かるのだが、ミディアム・スローやそこそこ落ち着いたタイプの楽曲でもロック・アンセムへの反応並みに手を挙げて歓声が上がるのは、サマソニ経由のフェス感がフロアを支配していたのかも。自分は行けなかったので推測でしかないが、昨年のビルボードライブ公演ではおそらくそういった反応はそれほどなかったのではないかと思う。



 ただ、彼らもオーディエンスとのコミュニケーションは考えているようで、ハンドクラップやフィンガースナップ(「グッド・トゥギャザー」の時だったか)を促したり、本編ラストで客演した同郷のイジー・ビズ役をナオミ・スカーレットが演じた「サムワン・ザット・ラヴズ・ユー」では手を左右に振らせるなど、単にムーディなサウンドを鳴らすだけで終わらせないステージ・パフォーマンスで観客の心をグッと寄せていた。アンコールラストの「ウォーム・オン・ア・コールド・ナイト」は文字どおり夜更けや朝方の雰囲気に相応しいクールでアンニュイな“ナイト・ソウル”だが、ここではフロアの二分割にして観客にシンガロングさせたりと、打って変わって活力あるものに。時にギターを手にジェイムスが観客へ迫り出して煽る場面などはロック・バンドのそれで、作風はシンセ・キーボードを軸とした打ち込みを土台としているものの、ライヴでは生来持ち得ているバンド・スタイルへの趣向を現していて、歌い踊るオーディエンスとの良好な空間を創り上げたいというパーティライクな心情も窺えた。

 この日はサマソニでの興奮の続きがフロアに渦巻いたという一面もあると思う。これが一時的なスマッシュヒットで終わるのか、長きに亘って根付くのかは、今のところ何とも言えない。とはいえ、ソウルやブラック・ミュージックの好事家周辺を中心に沸いているだけというのも惜しい話で、バンドを好む若い層への訴求を持ちながら、R&Bやソウル、シティ・ポップ、AORあたりを透過した彼らならではのエレクトロ・ソウルを構築していくことを期待したい。音源がクールでライヴがエネルギッシュというギャップもいい。日本でのR&B/ソウル・シーンはことさらムーヴメントを作り出すような伝播力や訴求力が決して高いとは言えず、マイノリティのまま終わることが多いので、その壁を新たな形で突き破ってもらいたいところだ。新作や次の来日時にどのようなアクセントが加わっているのか、興味深く待ちたいと思う。


◇◇◇
<SET LIST>

00 INTRODUCTION
01 Treat You Right(*)
02 Coastal Love(*)
03 Til' The Evening(*)
04 Top To Toe
05 The Night(*)
06 Good Together(*)
07 It Ain't Wrong Loving You(*)
08 Loves The Jobs You Hate
09 No Place Like Home
10 One At A Time Please(*)
11 Just Dance
12 3AM
13 Gone Are The Days
14 Someone That Loves You(*)
≪ENCORE≫
15 Woman
16 All In The Value(*)
17 Warm On A Cold Night(*)

(*): song from album“WARM ON A COLD NIGHT”(Import)

<MEMBER>
Andy Clutterbuck(vo,g)
James Hatcher(vo,key,g)

Naomi Scarlett(back vo)
Amadu Koroma(b)
Duayne Sanford(ds)


◇◇◇


















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