*** june typhoon tokyo ***

Janet Jackson@さいたまスーパーアリーナ


 “アイシテマス、トーキョー”で応える圧巻のジャネット・ヒストリー。

 2011年の〈ナンバー・ワンズ・アップ・アンド・クロース・ツアー〉で来日予定があったものの、当時「世界的な経済危機の影響」という理由によって(おそらく見込んでいたチケットが相当数売れ残ったのだと思う)来日がかなわなかったジャネット・ジャクソンが、新作『アンブレイカブル』の好調さも手伝って、実に2001年の〈オール・フォー・ユー・ツアー〉以来約14年ぶりに来日公演が決定。先にインテックス大阪で行なわれた公演に続く、さいたまスーパーアリーナでの〈アンブレイカブル・ワールド・ツアー〉初日公演を観賞した。

 当初は500レヴェルの席で観る予定だったが、どうやらソールドアウトとはいかなかったよう。入場時にジャネットがファンへの感謝を表わす意味で用意したカーネーションを受け取ると、200レヴェルのチケットとの引き換えを促されてチケットはAからSへグレードアップ。400レヴェル以降に広げずにコンパクトなエリアにしたこともあり、アリーナ、スタンドともに空席はそれほど見当たらず。DJがフロアの興奮を誘いながら煽ると、オーディエンスも次第に呼応していき、開演定刻から25分遅れた17時25分に暗転。ステージを隠すように覆われたカーテンスクリーンにヴィデオが映し出されると、中央にジャネットのシルエット。歓声が一段と大きくなると、ゆっくりと中央のカーテンスクリーンが上がっていき、ジャネットの約14年ぶりのステージが幕を開けた。

 構成は大きく分けて4セクション。椅子に腰かけながら歌うバラード・セクションの前後に、新作『アンブレイカブル』からの楽曲を含むヒット曲連発のオールタイムベスト的なセクションを配置。そして、アンコールだ。セクションの繋ぎには、おそらく鷲(『アンブレイカブル』収録曲に「ブラック・イーグル」があるので)をフィーチャーしたヴィデオをステージ前方に下ろされたカーテンスクリーンと背後に映し出していく。鷲は紋章や国旗などに描かれる鳥の王者であり、ジャネットを象徴したものだろうか。翼を広げて飛び立っていく鷲が大きく映し出されるなかで、ジャネットが俊英なダンサーたちを引き連れて、惜しげもなくヒット曲を連発。オープナーの「バーニングイットアップ!」を終えるとすぐに「ナスティ」「フィードバック」「ミス・ユー・マッチ」へと移行。80年代と00年代の楽曲を織り交ぜながらも、2015年現在に時代的錯誤をもたらすどころか、一気に聴かせ躍らせてしまうその訴求力と刺激性たるや。切れ味鋭いダンサーたちのパフォーマンスも秀逸で、激しい動作をもろともせずにクールに演じきってしまうあたりは、さすがジャネット・ダンサーズといったところだ。

 メドレーが多く、一曲をじっくりと聴きたいという人にはやや不満となるかと思いがちだが、次々と名曲のメロディやビートが鳴らされる怒涛の展開の前では杞憂に過ぎなかった。それだけこれまでに彼女が膨大なヒット曲を生み出してきたといえるが、その構成バランスも全く飽きさせることがない。もちろん、元来ジャネットは圧倒的な歌唱力で歌い上げるというタイプではなく、シャウトやウィスパーヴォイスを駆使したりしながらビートに添うようなヴォーカルワークで勝負するタイプ。それゆえ、ヴォーカリストのみがスポットライトを浴びるステージよりも、バンド、ダンサーなどと一体化したエンターテインメント性の高いステージでより才能を発揮する。ダンサーを引き連れての一糸乱れぬダンサーとの連係を繰り出したかと思えば、バラードでは椅子に腰かけながらシンガーとして真摯にメッセージを届け、ギターを大きくフィーチャーした曲ではギタリストとの絡みを見せる。ステージ上が一つの生命体であるかのように動静を包含したさまざまな脈を送り出すパフォーマンスには、紆余曲折ありながらも誰からもリスペクトされるエンターテイナーとしての確固たる矜持が窺えた。

 それにしても、オーケストラヒットを交えたシンセ・サウンドやグルーヴィなギターやベースが気持ちいいこと。80年代から90年代に数々の金字塔を打ち立て、2000年代に入っても引き続きシーンを牽引していったジャネット。やや楽曲数が少なかったとはいえ、『アンブレイカブル』という現時点での作風の楽曲がすんなりと世代の異なるこれまでのヒット曲と違和感なく羅列されるステージは、ジャネットが誰のものでもないオリジナルであり続けていることの証左であり、今も老若男女を問わず大きな刺激を与え続けている稀有な存在でもあるということ。“昔とった杵柄”だけではなく、2015年の時流に合わせただけでもない、2015年のジャネットでしか成し得ないタイムレスなサウンドやパフォーマンスを展開する姿に、体躯を動かし、歌い、喜々とせざるを得なかった。

 特に終盤、「ブラック・キャット」「イフ」「リズム・ネイション」というファンにはお馴染みのクライマックスに、今回は「スクリーム」を組み込んできた。兄であり“キング・オブ・ポップ”の異名をとったマイケル・ジャクソンとのコラボレーション曲を、メドレーではありながら加えた意味は何だったのだろうか。新作『アンブレイカブル』を久々にジャム&ルイスと手掛けたということで、彼らがプロデュースに参与した「スクリーム」を入れた……ということもなくはないが、やはりこれはジャネットからのメッセージだろう。2009年にこの世に別れを告げた兄マイケルへ、「もう心配しなくても大丈夫」という心情を兄とコラボレーションした楽曲に託したのだろう。曲中に天を指さし“マイケル”と叫ぶ瞬間が、それを物語っているように感じた。
 マイケルは2009年、50歳で死去。ジャネットは49歳で、あと一つ年を重ねると兄マイケルと同じになる時期というのもそう。ジャム&ルイスと組んで手掛けた『アンブレイカブル』に相当自信を深めたのだろう、「もう悲しんでばかりの時間は終わったわ、もうこれからは私が引き継いでいく、壊れることなんてない」という真摯なメッセージが「スクリーム」に溢れていたように思う。

 そして“5、4、3……”のカウントダウンから「リズム・ネイション」へ。全盛期にも劣らぬキレのダンスとやや音域が下がったことでマイケルの声色に似てきたヴォーカルとともに、ステージを、ジャネットを注視せざるを得ない迫力で圧巻のエンディング。ライトが連続でフラッシュした後に一気に暗転するやいなや、歓声や叫びがフロアに渦巻いていた。
 アンコールは『アンブレイカブル』から2曲。日本への感謝を含めて“イッツ・オール・アバウト・ラヴ”と愛の大切さを語りかけ、ファンの心を満たしての幕となった。

 次々と流れてくる楽曲に知らず知らず体を揺らしている自身は、名曲揃いのステージということもあるが、やはり“リズム・ネイション”に属しているのだなと感慨。『アンブレイカブル』の中でも好きな「ナイト」がなかったのは少し残念だったが、それはあくまでも理想の理想。これだけ多くのヒットを持つアーティストのステージでは、個人の理想を完璧に応える選曲などはほとんどありえないはずだ。
 ジャネットを眼前に捉えながら“We are a part of the Rhythme Nation!”と歌った高揚の熱を身体に覚えたまま饗宴に沸いたさいたまスーパーアリーナを後にしたこと、これこそが充実した時間を過ごせた何よりの動かぬ証拠にほかならないのだから。

◇◇◇

<SET LIST>
00 VIDEO INTRODUCTION(contains from“Funny How Time Flies (When You're Having Fun)”“Nasty”“Rock with U”“Every Time”“Rhythm Nation”“Scream”)
01 BURNITUP!(contains of“Lose Control”by Missy Elliott)(*)
02 ~Medley #1~
  Nasty(contains of“I Don't Fuck with You”by Big Sean feat. E-40)
  Feedback
  Miss You Much
  Alright
  You Want This
03 ~Medley #2~
  Control
  What Have You Done for Me Lately
  The Pleasure Principle
04 ~Medley #3~
  Escapade
  When I Think of You
  All for You
05 All Nite(Don't Stop)
06 Love Will Never Do(Without You)
07 ~DJ INTERMISSION~
08 After You Fall(*)
09 ~Medley #4~
  Again
  Come Back to Me
  Let's Wait A while
  I Get Lonely
10 Any Time, Any Place(contains of“Poetic Justice”by Kendrick Lamar)
11 No Sleeep(*)
12 Got 'til It's Gone
13 That's the Way Love Goes(contains of“Classic Man”by Jidenna feat. Roman GianArthur)
14 Together Again
15 The Best Things in Life Are Free
16 Throb
17 Black Cat
18 If
19 ~Medley #5~
  Scream
  Rhythm Nation
≪ENCORE≫
20 Shoulda Known Better(*)
21 Unbreakable(*)

(*)Song from album of“UNBREAKABLE”


<MEMBER>
Janet Jackson(vo)

Errol Connely(g)
Maurice DeLoach(DJ)
Demetrius Henry(Electric Musician)
Lil' John Roberts(ds)
Eric Smith(b)
Onitsha Shaw(back vo)
Jill Zadeh(back vo)
Devine Evans(Contributions to Introductory Music Arrangement)

Adam Blackstone(MD)
Daniel Jones(MD/Key)

Dominique Battiste(dancer)
Bianca Bruten(dancer)
Allison Buczkowski(dancer)
Alexandra Carson(dancer)
Melanie Mah(dancer)
Mishay Petronelli(dancer)
China Taylor(dancer)

Kyndall Harris(dancer)
Taylor Hatala(dancer)

◇◇◇


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