オセアニア生まれロンドン経由の進化系ネオソウル。
ハイエイタス・カイヨーテ、キングに続くネオソウルの注目株としてジャイルス・ピーターソンらが称賛する、ニュージーランド生まれ、オーストラリア・ブリスベン出身のシンガー・ソングライター。2015年にはディスクロージャー『カラカル』にグレゴリー・ポーター、サム・スミス、ロード、ザ・ウィークエンド、ミゲルらとともに客演したことでも注目され、自身のデビュー・アルバム『クローク』もソウル/R&Bシーンで話題のジョーダン・ラカイの初来日公演に急遽足を運んだ。会場は東京・コットンクラブ、2ndショウ。
ステージ背後のワインレッドのカーテン幕にデビュー・アルバム『クローク』のジャケット・イラストを模したような鮮やかな色彩のライトが照らされるなか、左にドラムのジム・マクレイ、中央に黒人ギタリストのシェルドン・アグゥー、右手にジョーダン・ラカイが佇む。ジョーダンはキーボード2台とラップトップを駆使。当初出演予定だったベースのトム・ガイが揃うと『クローク』の収録メンバーとなるところだったが、今回は事情によりベースレスでのステージ。だが、ベース不在のハンデも感じさせないシルキーでモダンな空間を創生していった。
『クローク』はディアンジェロ以降のネオソウルとジェイムス・ブレイクあたりのエレクトロ/ダブステップの融合などとも喩えられていたが、ライヴ・パフォーマンスはそれほどミニマルというか、アンビエント/エクスペリメンタルといった感はなし。男性版一人キングというのが引き合いに出されているなかでは近い印象か。最もそう思わせるのは、彼のシルキーでスムースな声質とヴォーカルワークからだろう。電子ピアノの音鳴りはまさしくネオソウルで、根源にはスティーヴィー・ワンダー、ディアンジェロが窺えるが、どっぷりとネオソウルにアプローチしているという訳ではなく、レゲエやヒップホップの色も随所に。これは2013年のデビューEP『フランクリンズ・ルーム』の「セルフィッシュ」や翌年のEP『グルーヴ・カース』での「ストリート・ライト」などにレゲエのバックビートが見られるし、同じく『グルーヴ・カース』には「ア・トライブ・コールド・ガヴァメント」というATCQフォロワーまるわかりな曲名もあるなど、既に良い意味での現代的な雑食性がもたらされていた。そのさまざまな要素を実験的に取り込むというスタンスはステージでも醸し出され、図太くはないが明瞭でしなやかな線を描くドラム・ビートに乗せて歌うリズムは、ヒップホップを通過してきた世代のヴォーカル。時に鍵盤を離し、手振りを加えながら歌う姿はラップ・スタイルのそれで、スムースな上モノと繰り出される歌唱はヒップホップ・ソウルとの近似値も。ヒップホップとネオソウルの溶解という視点で言えば、ゾー!やオフォーリン・エクスチェンジ周辺への親しみも感じた。そして、ロバート・グラスパー。グラスパーがブラック・ミュージックとジャズの橋渡しをなした手法で、ネオソウルとヒップホップやレゲエ、そしてジャズなどを寄り添わせたとも言えそう。
マクレイのややラフなコンタクトも入り混じったドラミング、シェルドン・アグゥーのヴィンテージなギター使いにエレピの構図は、まさにネオソウル仕立てだが、本場US風ではなくどことなくもの憂げなムードが覆うのは、育ったオーストラリアがコモンウェルス(英連邦)なのと、実際にロンドンに拠点を移した環境の変化が大きいのだろう。アシッド・ジャズやUKブラックの面影やダビーな音色がちらほらと顔を出すのも、ロンドン以降の心境の変化も付加されていると感じさせた。シャーデーがヒップホップやネオソウルに手を染めた感覚に近い印象だ。
最近ジャズからR&Bへと歩みを寄せたホセ・ジェイムスやジャズとエレクトロニックに重心を置くフライング・ロータスらとの共演で知られるジャズ・ドラマーのリチャード・スペイヴンが『クローク』にはゲスト参加しているが、そのあたりの人脈からも影響を受けたような新世代のモダンなネオソウルを日々構築し、その一端は当ステージでも見て取れた。序盤の「ミッドナイト・ミスチーフ」からフューチャリスティックなネオソウル・ショウを展開。だが、そのグルーヴには“ネオ”と冠するのも少々気が引けるほどの新機軸を孕んでいた。メロウな肌あたりながらも、秘かに雑食性や欲望を忍ばせた静なる躍動の炎には、さらなる音楽的貪欲の影も見えた。実際、別名義となるダン・カイのEP『ジョイ、イーズ、ライトネス』ではディープなハウスにも手を染めているようで、現時点からの変化も予兆させる。西ロンドンにはインコグニートのヴォーカルでも活躍するトニー・モムレルが参加したクラブ・ジャズ・ユニットのリール・ピープルや、ロンドンからロサンゼルスへ渡ってソウル/ジャズ/ファンクをアーバンなフィルターでクラブ/ハウス・ミュージックと溶け合わせ、シックなダンス・サウンドを奏でるマーク・ド・クライヴ-ロウらがいるが、そのあたりの拡張性も期待出来るかもしれない。
ベースレスというハプニングや初来日での緊張もあったか、曲間の控えめなMCでは初々しさで包まれた。ラストはステージ中央に赴き、自らギターを弾いてのメロウ・グルーヴで幕。和やかな曲間も含め、心地良さが終始フロアに横溢していた。だが、ドラムのリズムカウントが始まる導入では一転、ゾクッとするようなパッションを背後に首を振り頭を揺らしながらの情感溢れる歌唱へと移行する姿も。単にネオソウルとして括れない彼のポテンシャルの全貌を知るには、どうやらいましばらく追い続けていく必要がありそうだ。
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<SET LIST> ※ reference 20161116 London,Eng
Midnight Mischief
A Tribe Called Government
Snitch
My Time
Alright
Add The Bassline
Imagine
The Light
Selfish
Blame It on the Youth
Cupid's Cheese
Rooftop
Theta State
Lost Myself
≪Encore≫
Tawo
Talk to Me
<MEMBER>
Jordan Rakei(vo,key,g)
Sheldon Agwu(g)
Jim Macrae(ds)
Tom Guy(b)(cancel)
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