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省エネの注目技術「ヒートポンプ」とは?
― 最近、空調機器や給湯器などの資料を見ると、「ヒートポンプ」という言葉をよく見かけます。これはどういうものでしょうか。
ヒートポンプは、温度の低いところから温度の高いところへ熱を運ぶ機械のことです。
ヒートポンプの仕組は簡単な実験で説明できます。
まず、ピストン付の丈夫なシリンダーを用意します。シリンダーの底に燃えやすい木くず、あるいはマッチの先端を入れておいて、ピストンにぐっと力を入れて圧縮すると、発火します。圧縮された空気は著しく高温になるのです。
逆に、ピストンを引くと、内部にはわずかに霧が発生します。温度が下がって空気中の水蒸気が凝縮して小さな水滴になるのです。気体が圧縮されると温度が上がり、膨張すると温度が下がります。
圧縮・膨張しやすい「冷媒」と呼ばれる物質をこの原理で循環させ、温度の低いときに冷媒に吸収した熱のエネルギーを、温度の高くなったときに外部に吐き出す―それがヒートポンプです。
―エアコンもヒートポンプを使っていますね。
エアコン(図2)では、このピストンにモーターが付いていて、電力で動かします。室外機や室内機は空気を吹き出すのにファンを使いますから、ここでも電力を消費します。投入した電力の合計で、取り出せる熱エネルギーを割り算した値をCOP(Coefficient of Performance)と呼びます。
エネルギーにも「質」の違い
― ヒートポンプを用いたエアコンや給湯器は、COPが高いといわれています。
電熱器で空気や水を温めるのに比べれば、効率が高いのは事実です。しかし、過大評価をしていることが少なくありません。例えば、ヒートポンプを使った機器の広告で「1の電力で2~3の熱エネルギーが得られる」といったうたい文句をよく見ますが、その計算は必ずしも実態を反映していません。
そもそも電力と熱は、エネルギーの「質」が全く違います。電力はモーターやファンを動かすことができるエネルギーです。しかし、熱エネルギーは電力の3倍あっても、モーターは動かせない。
その「質」をエネルギーに組み込んだ概念がエクセルギーです。
― 初めて聞く言葉です。
1955年にスロベニアのゾラン・ラントという学者がつくった言葉です。概念そのものは1900年頃からありました。エクセルギーは「外に取り出せる仕事」とか「有効エネルギー」などとも呼ばれたことがあります。
例えば、20リットルのタンクと5リットルタンクがあって、両方に水温20度の水が満たされているとしましょう。(図3)。このとき、20リットルの水を40度にするのと同じ熱エネルギーを5リットルの水に加えると、100度に達します。手をひたせば20リットルのほうはお風呂ぐらいの温かさですが、5リットルのほうはやけどしてしまう。
つまり、エネルギーは同じでも、得られる熱さには大きな差がある。まさに「質」が違うのです。この違いを表せるのがエクセルギーと考えてもらえばいいでしょう。
―エクセルギーをCOPに当てはめるとどうなりますか。
さきほどのヒートポンプの例でいうと、1という投入電力に対し、熱エネルギーは2~3でしたが、エクセルギーだと0.15~0.2ぐらい。つまり、ヒートポンプ冷房では、電力の85を消費して15という冷たさをつくっている。エアコンは、電力として投入したエクセルギーの中から冷たさのエクセルギー(冷エクセルギー)と温かさのエクセルギー(温エクセルギー)を取り出して、振り分けているだけなんです。
―効率が低いんですね・・・。
がっかりしすぎですよ(笑)。冷房・暖房に限らず、私たちの身体も植物の光合成も、投入したエクセルギーから取り出せるエクセルギーの割合は大体同じようなものなんです。だから、そういうものと理解したうえで、ヒートポンプは「ヒートポンプだからこそ行えること」に上手に使っていかなくてはなりません。
まずはパッシブで考える
―ヒートポンプのような環境技術を「アクティブ」技術とし、伝統的な「パッシブ」技術と分けて紹介していることがよくあります。使う人によって言葉の定義が違うようにも思えますが・・・。
パッシブとアクティブの違いは明らかです。ひとことでいうと、パッシブとは建物に穴を開けることに尽きます。穴を開けて建物に光を入れ、風を抜く。穴の開け閉め以外は成り行きにまかせるのがパッシブ技術です。人類史とともに発展してきた技術です。
これに対して、アクティブは動力を使う技術。ポンプもファンも、電灯照明も、動力利用の原理はさほど変わりません。これらはすべてアクティブ技術です。
― 省エネ住宅は今後、どちらの方向に向かうべきなのでしょう。
パッシブとアクティブを、二項対立で考える必要はありません。技術者の思考は、とかくアクティブに向いがちでしたが、これからはまず、パッシブ技術で何ができるかを考え、その効果を高めるためにアクティブ技術を使うような発想が大切になっていきます。
例えば、先ほどのヒートポンプ。ヒートポンプの特長はエクセルギーを運べることです。地表から2~3mの地中の温度は年平均外気温ぐらいで安定しています。これは冬には温エクセルギーが地中に埋蔵されていることを意味します。
これらを室内に運ぶのにヒートポンプを使えばよいわけです。
冬の床暖房は表面温度が25度ぐらいあればいいですし、給湯温度せいぜい40度。そのためにガスを燃やしたり、電力を熱に変えたりするのはもったいない。
― 電力やガスの使用を減らしても、快適な環境はつくれますか。
多くの人は、「電力やガスをたくさん使うことが快適性をもたらす」と思い込んでいます。しかし、私たちがこれまで研究してきたことを総合すると、それは誤解です。人の身体についてエクセルギーの収支を計算してみると、エクセルギーの消費が小さくなるのは、冬では床や壁の表面温度が「高め」で、空気温は「やや低め」の場合です。夏はその逆です。
エネルギーをたくさん使うのでなく、できるだけ小さく使うことで快適な環境をつくること。それは、建築に携わる人たちにとって、これからの極めて重要な仕事ですし、面白い技術的な課題がたくさんあるのではないでしょうか。
宿谷昌則:東京都市大学教授
(日経アーキテクチュアNo.972 P112.より引用) 』
・・イツモアリガトウ
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