(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

ep第30話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-10-25 23:19:16 | ガラスの・・・Fiction
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日が沈むとまだまだ寒さが身にしみる4月初旬、
都内の閑静な高級住宅街にある看板のないレストランには
珍しいメンバーが集まっていた。

「お久しぶりです!境さん。」
先月無事に名古屋での紅天女公演を終えたマヤは、
既に実年齢より幼く見えるほどの屈託のない笑顔で挨拶した。
「やあマヤちゃん、元気そうだね!」
笑顔でこたえる境凪砂とは、去年の映画撮影以来の再会だ。
「この前の紅天女東京公演も観させてもらったよ。」
そうしてしばらくの間役者同士、最近の活動や舞台の話で盛り上がる脇では
「大変ご無沙汰しておりました」
「いえいえこちらこそ、撮影中はいろいろお心遣い頂いて恐縮です」
境とマヤが出演する映画『微風(そよかぜ)のかたち』監督、
是永幸秀と速水真澄が挨拶を交わしていた。

この業界人御用達な隠れ家は
駅から少し離れていることもあり、一般人の目につきにくく
また、完全個室として他の客と顔を合わせることなく
出入りできるので重宝されている。
とはいってもかなりの高級店、
マヤはもちろん初めてだ。
「すごくきれい!食べるのがもったいない」
創作フレンチのコース料理にいちいち感激しながら、
マヤの口は止まることなくおしゃべりと咀嚼を繰り返し、
場の雰囲気を楽しくする。
「相変わらずだね、マヤちゃん」
にこやかに微笑みながらマヤを、そしてその横の真澄に
柔らかな視線を投げかける境に
「こんな時になんですが、少し仕事の話を」
真澄が切り出した。
「そうでした、そうでした。うっかり楽しい食事会を満喫して
 終わるところでした」
是永がそういって笑う。

今日ここにこの4人が集まったのは、
もちろん昨年撮影され今年公開予定の映画『微風(そよかぜ)のかたち』に関して。
「来週末、宜しくお願いします。」
海外の国際映画祭への出品が認められた本作、
来週末から開催される映画祭に参加するため、
4人はフランスに発つ予定であり、
今日はそのささやかな壮行会を兼ねた顔合わせ会である。
「マヤちゃん、レッドカーペットは初めて?」
保護者のような大人の男達に囲まれて
ただでさえ小さなマヤがいよいよ子どものようにみえる。
実際境も是永も、自分の子どもとまではいかないが
まるで姪っ子を見るかのようにほのぼのとした
目でマヤに話しかけていた。
「ないですないです。というより海外も行ったことないです。」
「パスポートもこの前取ったばかりだしな。」
「そーなんです、ひどいんですよ速水さん、
 せっかくだから紅天女の格好で取ったらどうだなんて。」
「でもそうすると実際とのギャップで入国審査に引っかかるからだめだなと
 すぐにあきらめただろう。」
「それがひどいっていってるんです!
 いつまでたっても人をチビちゃんだってバカにして・・・」
「大丈夫。チビちゃんかどうかまではパスポートの写真では
 分からないから安心しろ。」
「ぐぬぬぬ。」
本気で悔しそうに歯ぎしりをするマヤの様子がおかしくて
境は思わず吹き出した。
「ははは!マヤちゃん、どんなに頑張っても速水社長にはかなわないよ」
「・・・失礼しました。お二人ともとても紳士でいらっしゃるから
 つい居心地がよくてみっともない所を見せました」
マヤ、君も大人の女優なんだからもう少しおしとやかになれないものなのか、
と言って更にマヤの怒りに火を注いで楽しそうな速水の様子を
微笑ましくみていた是永だったが、一方でこれが噂に聞く
冷血鬼社長なのかという疑問も感じていた。
「で、どうですか是永監督。映画の出来は。」
賞は狙えますか?と問う速水の表情は
さっきまでとは打って変わって真剣な仕事の顔そのものだった。
「私のような映画制作現場に疎い人間からこんなことを言われるのは
 心外だと思いますが・・・」
私は取れると思っています、はっきりとそういう真澄の視線に
是永も境も一瞬たじろぐ。
「・・・・だから北島マヤを出したんです」
多くを語らない速水、しかしその目は雄弁に
自信とそして信頼の感情を示していた。
「大都芸能の大切な大切な看板女優をお借りしたという
 責任と期待は十分に理解しているつもりです。」
そういって口元にうっすらと微笑みを浮かべる是永もまた、
多くを語らずとも作品の出来に確信を持っていた。
「マヤちゃんの舞台を見た時、ああこれでようやく賞を狙えると
 思ったんです。」

ずっと温めてきた脚本、
主演は何年も前から境凪砂だと決めていた。
大学時代からの腐れ縁、誰よりも自分を映画監督として
見てくれている友人、同志。
いつか彼が主演の映画を撮りたい。そしてその時はその作品で
賞を獲りたい。
是永は10年近くそう思い続けてきた。
「そもそもが地味な脚本ですからね。万人受けするような
 かわいらしいだけの客寄せパンダ女優を起用するつもりは毛頭なかった。」
しかしいい作品にしようと思えば思うほど、
言葉を発せず感情を伝える少女あかねを演じられる女優を
見つけることができなかった。
「めずらしいんじゃないですか?社長自ら渡仏して映画祭に参加されるのは」
「ええ。諸々別件での仕事もありますので。」
そういいながら無意識なのだろう、ちらりと隣のマヤの方に
視線を寄越した速水の表情に、なんとなく真意を察する気がした。
「速水社長には、申し訳ない事をしたかもしれない。」
「といいますと?」
「大都芸能の秘蔵っ子、しかも紅天女女優でもある北島マヤを
 助演女優として使うという贅沢をしてしまって・・・」
「監督!そんなことないです!私、演じられればどんな役でも幸せだし、
 それよりなにより、あかね役大好きです!」
しばらく境との話に花を咲かせていたマヤが、是永の言葉を敏感に
とらえて反論する。
「ま、北島マヤはこういうタイプの女優ですし、大都としても
 是永監督作品に関われて本当に光栄に思っていますよ。」
よく考えれば自分よりずっと年下の青年である速水だったが、
こうして腹の底を決して見せない話し方をする姿は
すでに何十年と経済界を生き抜いてきたような老獪さをにじませる。
「僕ももしかしたら速水社長と同じ気持ちかもしれない・・・」
そういって笑う是永
「と、いいますと?」
「僕がこの映画を撮った理由はただ一つ、境に一つ勲章を与えたかった」
世界で一番輝く、何かを。

**
「お互い肩身が狭い時代になりましたね」
コース料理も終盤、デザートまで進んだタイミングで、
真澄と境凪砂はテラス横に設けられた喫煙ルームで
一服していた。
「昔は会議は白煙に包まれながらというのが当たり前でしたが」
「僕も子供のころ颯爽とタバコをくわえる男優の仕草にあこがれて
 吸い始めたんですよ。」
それがいざその職業についた途端、世の中は健康ブーム、禁煙ブームで
ドラマでもなかなかそんなシーンが出ることはなくなった。
「今じゃただのヤニくさいおじさんですよ。」
そういって快活に笑う境はその言葉とは反対にとても様になっている。
「速水社長、映画いかがでしたか?」
境が先日の関係者試写会の感想を問う。
「そうですね・・・・。」
真澄は大きくタバコを吸いこむと、ゆっくり煙を吐き出した。
「是永監督らしい、感情の抑揚が風景描写と同化した
 後味のいい作品だと思いました、これなら・・・」
真澄は一瞬言葉を切ってタバコを一吸いした。
「少なくとも監督の最も望むものは手に入るのではないでしょうか」
「ほうっ・・」
境はちらりと室内でマヤとなにやら楽しそうに話をしている
是永に視線をやった。
自分より何歳も年下とはいえ、芸能界の裏も表も知り尽くした
男がはっきりと自信めいた言葉を口にするのは、憶測以上の重みがある。

「そういえば境さん、今年の紅天女東京公演ご覧いただいたんでしたね。」
いかがでしたか?と問われた境は、数か月前のマヤの舞台の事を思い出すように
柔らかく瞼を閉じた。
「ええ・・・実は一昨年の舞台も見ているんです。
 もしかしたら共演するかもしれないって
 聞いていたので・・・。
 実際初めて見る紅天女はそれはそれは噂にたがわぬ
 素晴らしさでしたからね、
 一体あの荘厳な天女様とはいったいどんな女優なんだろうと
 ドキドキしていました。」

しかし映画撮影で会った女優は、紅天女の雰囲気など一切なかった。
気にしないようにと思いながらいつの間にか『紅天女』という幻の名作の威厳に
とりつかれかけていた自分に気づかされるような、そんな気すらしたほどだ。

「でも、マヤちゃんがどんな人か、いくらか知った目で見た紅天女は、
 去年以上に幽玄で厳か、それでいて女性的な魅惑すら増している気がして、
 本当に北島マヤなのか、しばらく信じられませんでしたよ。」
そういってゆっくりと開けた瞳には、どこを見るともなく視線を漂わせた
真澄の微笑が映った。

「なんていうか・・・映画の共演を経て、勝手に身内のような気になっていたのかも
 しれません。
 北島マヤはこんな素晴らしい才能のある女優なんだよ、と知ってるつもりに・・。
 それが打ちのめされたというか、僕がほんの数か月一緒に撮影をしたくらいで
 その才能のほどを理解できるはずもなかったんだと頭をガンっと打たれたようで」
そういって照れ笑いを浮かべる境に、軽く会釈をするように真澄はお礼を言った。
「そういって頂けると、事務所の社長としてこれ以上ありがたいことはありません。」
「速水社長、いったい彼女はどうやってあんな難しい役を体得したんでしょうね。」
そういって境はふーーっと煙を吐いた。
「失礼ながら、普段のマヤちゃんとみていると全く想像ができないんですよ。
 あんな風に身も心も捧げて慈しみ、憤り、そして健気に一人の男を愛し、
 自然と生きる天女の姿が・・・。」
本当に失礼な事を・・・と再度恐縮する境だったがその言葉に偽りはなかった。
北島マヤはまるで役柄が憑依したかのようにそのものになりきって演じるという。
そのため、役作りができるまでが大変だということを、業界関係者からも
聞いていた。
実際の所、映画撮影時にはマヤは既にある程度あかねの役を理解していたようで、
境や監督とのやりとりのなかでさらにその魅力を膨らませていったように見える。
「速水社長は、彼女がとても小さなころからご存じなんですよね。」
「ええ、彼女がまだ中学生の頃からですからね。」
「彼女はとても不思議な魅力がある・・・。もちろん紅天女もだけれど、
 僕は今回この映画で共演して、北島マヤという女優に俄然興味を持ちました。」
あ、変な意味じゃありませんから、と境は牽制するような速水の視線を制した。
「僕の勝手な推測ですが、彼女が紅天女を演じることは必然だったのではないでしょうか。
 少し話を聞いただけで詳しいことは分かりませんが、彼女が女優を目指して
 幼いころに独り立ちをして、きっといろんな苦労があったと思います・・・」
嬉しいことも、悲しいことも・・・・
真澄はじっとその言葉を聞くだけだった。
「そんなすべての実生活での経験があったからこそ、彼女は今紅天女として
 大舞台で大きく羽を広げられる。そんな気が舞台を観ていてしたんです。」
若干22歳、しかし北島マヤの過ごしてきた22年の密度は、他人が
推し量ることのできないくらい濃密な22年だっただろう。
「速水さん、僕は彼女にとても感謝しています。」
最後のタバコを灰皿でもみ消すと、境はなにか吹っ切れたような
笑顔で真澄に向かって言った。
「彼女は僕に新たな目標を見せてくれた。僕の役者としての人生において
 大きなそしてとてもやりがいのある仕事を教えてくれました。」
部屋の中のマヤを一瞥すると、境はまるで少年のような
キラキラした目で、はっきりと告げた。
「僕はいつか彼女の紅天女と同じ舞台に立ちますよ。」
女優としての北島マヤに感化された境の
清々しい表情を、
真澄はどこか眩しげな顔で見返していた。

**
「マヤちゃん、お腹痛くならないの?」
「え?どうしてですか?」
マヤの前にはコースの締めくくりのデザートが二人分並んでいる。
「速水さん、甘いもの苦手なんです。」
残すのはもったいないから・・・と言いながらおいしそうに
ほおばる。
恐らく速水も甘い物好きなマヤの習性はとうにご存じとばかり、
自身にオーダーしたデザートはマヤのものとは異なる種類の
もののようだ。
「はっはっは、マヤちゃんにかかると天下の速水社長も形無しだね。」
そう言って是永はちらりと喫煙ルームにいる真澄の方に視線を投げた。
「普段はマネージャーさんに食べ過ぎちゃダメ!って言われてるんですけど・・・」
でもフランス言ったら我慢できる自信ないな・・・といいながら
顔を赤くするマヤに是永も笑いが止まらない。
「はっはっは、マヤちゃんにとってはレッドカーペットよりお菓子か!」
フォークを加えて恨めしそうに見るマヤの表情にひとしきり
笑った後、是永は再びマヤに問いかけた。
「海外は初めてだって言っていたね。不安じゃない?」
「いえ、是永監督や境さんも一緒ですし・・・・むしろ不安なのは・・・」
どれほど高いヒールを履かせられるかです・・・とマヤはまた是永を笑わせた。
「いや、なんといってもレッドカーペットは女優が主役だからね。
 マヤちゃんはいったいどんな衣裳で現れるのか楽しみだよ。」
「あんまり煽らないで下さい・・・監督。」
映画の中での"あかね"は、化粧っ気のない素朴な田舎娘。
どちらかといえば地のイメージのままでいれたので・・・と
言いながらデザートを食べるマヤのくるくるかわる表情が是永には
面白い。
「あのプレゼントは喜んでもらえた?」
是永からの質問に、一瞬何のことかと止まったマヤだったが、
それが映画撮影中に製作した灰皿の事だと気付くと、
とっさに喫煙ルームの方に目をやってしまった。
「あ、えと・・・」
「あんなにヘビースモーカーじゃちょっと小さすぎたかもね」
そういって笑う是永から二人の関係を邪推する様子は微塵も
感じられず、マヤは少しほっとしながら、
「でも、タバコは吸いすぎないほうがいいですから、やっぱり・・・」
と控えめに答えた。
「ははは、そうだね、その言葉そっくりそのまま境にも
 言ってやりたいよ」
そのあとしばらく是永と境の若気のいたりに関する話題で
盛り上がっていたが、
「マヤちゃんは、どうしてそんなに速水社長のことを信頼しているの?」
という質問に、再び声をつまらせた。
「え?」
「僕なんて、速水社長よりずっと年上のはずなのに、あの威圧感には
 正直いつまでたっても慣れないというか、緊張しちゃうけど。」
「ああ・・・、でもこれでも随分大人しくなったみたいです、私」
「え?」
「出会ったころは、私もうんと子どもだったこともあるんですけど
 すごく反抗して、ひどいことばっかり言ってました」
ま、速水さんも速水さんで今より5倍はいじわるでしたけどね!と
いいながら、速水のデザートにフォークをつき立てる様子が
あまりに可愛らしく、是永は思わず笑ってしまった。
「・・・感謝してるんです」
私がこうして今、演劇の仕事を続けていられるのも全て、
速水さんが支えてくれていたからだから。
演技への道に挫折したのは、速水さんのせいだったかもしれない、
だけど、
失いかけた演技への情熱を取り戻させてくれたのも
結局の所、速水さんだったから。
「皆さんが、速水さんのこと仕事に厳しい人だって思うのは
 すごくよくわかるんです、だって私も速水さんのこと
 冷血漢の仕事虫だってずっと思ってましたから。でも、
 速水さんほど演劇界のこと分かっていて、大切に思っている人も
 いないって、最近分かってきたんです。だから・・・私
 是永監督や境さんと仕事できたんです!」
黒目がちな目を潤ませながらはっきりとそう口にするマヤの奥に
紅天女の情熱を見た気がして、是永は一瞬背筋がピリついた気がした。

「随分と話が弾んでるようだな」
いつの間にか戻ってきた真澄が、マヤの頭をぽんと叩いた。
「ええ、マヤちゃんから速水社長の話を聞かせてもらってました」
「・・・ちゃんと褒めてましたから、安心してください」
「それはどうも。その割には何だかおかしな言葉が聞こえた気がするが・・・」
冷血漢とか、仕事虫とか・・・という真澄に必死に言い訳をするマヤの顔はいつもの
あどけないマヤに戻っていて、
是永は何となく目のあった境とアイコンタクトを交わすのだった。

**
「何だか、不思議な2人だったな」
帰りのハイヤーの中、どちらからともなく先ほどのマヤと真澄の
話題になる是永と境。
「初対面の印象とはずいぶん違う・・・」
「そうですね。特に速水社長があんな気さくな人だとは思いませんでした」
「そうだよなーー。でもま、あの気難しい黒沼さんも速水社長のことは
 随分と信頼しているみたいだし、マヤちゃんも言ってたけど、
 あの人も演劇にはひとかたならぬ情熱を持っているのかもしれないな。」
「でも、意外でした。かつてマヤちゃんが芸能界を追放されたのは
 あの速水社長の策略だったとか・・・。それなのにマヤちゃんは
 速水社長のこと許してるというか、むしろ速水社長のほうがそのことを
 気にしてるような気すら・・・」
「・・・速水社長、婚約解消したんだっけ」
「ええ、確か鷹通グループの御令嬢と・・・」
「ふむむ。仕事の鬼はまだしばらく家庭より仕事・・・というわけか」
それとも・・・
「是永さん、何考えてます?」
「いや、柄にもなく少し飲みすぎたらしい・・・。なあ、境」
「はい?」
「なんとか、余計な雑音に惑わされず、穏やかにしっかりとその時を
 迎えてほしいもんだな」
「・・・・ええ、そうですね」

**
「・・・おじゃま、します・・・。」
「何言ってるんだ、マヤ。ここは君の家だろう」
「え、だって・・・」
先月、マヤが名古屋公演から戻ってくると、
マヤの自宅は大きく様変わりしていた。
マヤの生活していたフロアは大きなAVルームとトレーニング設備、
そして防音壁と鏡に囲まれた稽古部屋にかわっていた。
その代わり、今まで大都として管理していた最上階のフロアが
生活拠点として整えられている。
最上階の部屋へは、専用カードキーを持ったものだけが止まるエレベーター、
さらに、下の旧マヤ部屋からつながる内階段が設置されていた。
「まだ慣れてないのか、誕生日プレゼントに・・・」
「だって、言いましたよね、わたし。い、いきなり一緒に住むのは・・・」
抗議しかけたマヤをぎゅっと抱きしめて続きの言葉を封じた真澄は
耳元でささやくように
「君はうれしくないのか?おれはこうやって一つ屋根の下に君と一緒に
 帰れる日をどれほど楽しみにしていたか・・・」
と、マヤの耳を赤くさせた。
「・・・しいですけど・・・」
「ん?何?きこえない」
「うれしいです!私も!」
半ばやけくそに叫ぶマヤに、こっちはそんなに防音になってないぞと
笑いながらマヤを抱えるように窓際に連れて行った。
「見てみろ、マヤ・・・」
そういったマヤと真澄の眼下には、キラキラと輝く夜の都会の
街並が、そして空には少し欠けた月が昇っていた。
「来週からは君もフランス、戻ってきたらすぐに取材や仕事に追われる日々、
 こっとこうして一緒に過ごせる時間をとるのは、今よりずっと難しくなるだろう。」
だからこそ、せめて空気だけでも君と一緒の場所にいることを感じていたい。
「速水さん、私本当ははずかしくて、その・・・せっかく一緒に住んでも、
 私家事とか一切出来ないし、あの、速水さんのお世話できないから、
 あの・・・、速水さんに呆れられちゃうんじゃないかって・・・」
「そんなことを気にして君は俺と一緒に住むのを拒んでいたのか?」
「い、いやそれだけじゃないですけど、いやそれが大半というか」
「ふっ、安心したまえ。もとい君にそんなことを期待してなどいない」
「・・、もちろんそうだとは思ってますけど」
それでもせっかく一緒に生活するのなら少しは、というマヤの
健気な乙女心を知ってかしらずか、真澄はからかうように
「これは単なる俺のワガママだ」
北島マヤ、天性の女優としてこれから一回りもふた回りも大きく成長するに
違いないこの存在
「所属事務所社長として、君がより多くの人に愛されることを促進しなければ
 ならない俺にとって、君を俺だけのものにしたい独占欲を満たす
 せめてもの場所が欲しかった。」
心置きなくこの胸に君を抱き、その鼓動を肌で感じられる2人だけの場所。
「これまで俺は、本当の自分などないと思っていた。」
隠すまでもなく、冷血漢の仕事の鬼、それが俺の本来の姿。
優しさなどうわべだけ、全ての言動は社の利益に繋がる、
損得の計りで物事の優劣をつけることなど当たり前、
「それがいつの間にか、君といることで安らぎを覚え、反対に
 仕事の仮面をかぶらねばならないほどだ。」
この責任どう取ってくれる・・・そういって甘く睨む真澄の顔は
どこまでも美しく、マヤは優しくその頬に手を寄せた。
「そんな速水さんも好きです」
マヤの天然爆弾は今日も真澄の心を撃ち抜く。
「まったく、君ってやつは・・・」

夜はまだ長い。

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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
ぐふ。ずいぶんと久しぶりのUPとなってしまいました。
断続的に書いてはいました。でもどうにもしまりがなくて、
この次の話も飛び飛びで書いていたりしたら、
どんどんマヤと真澄のいちゃいちゃシーンがなくなって、
耐えきれなくてこの話の最後に付け加えようと思ったら
一気に書きあがりました。

でも一応2話+イチャイチャぐらいでいこうと思っていたのに、
久しぶり過ぎて、29話でも結構仲睦まじくしていたことに
読み返して気付きました。が~ん。
~~~~~~~~~~~~~~~~

4 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-10-29 20:38:15
待ってました!
返信する
本当に ((み))
2015-10-29 20:52:45
お待たせしっぱなしで・・・
ある程度先まで構想できてるだけにもどかしい・・・です。
最近はアメトーークのガラかめ回見返しながら
モチベーション上げてます。
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待ってます (まり姉)
2016-03-27 14:00:10
こんにちわ。続きはまだですか?早く読みたいです。こんなコメントでごめんなさい。でもほんとに読みたいです。貴方を信じて待ってます。
返信する
放置していてすみません ((み))
2016-03-28 10:59:26
まり姉様
ほんとにほんとに、更新していない状況で
申し訳ないです。
ちゃんと書きます!あげます!
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