(その3より)
<Moonlight>
「ちょ、ちょっとキョン。 な、何やってんのよ!!」
何、ってハルヒを車内に入れちまったな。 発車間際に。
「あ、あたしは次で降りるから……」
「……ゃだ」
「え?」
「嫌だ! 行かないでくれ、ハルヒ!!」
「き、キョン?」
「行って欲しくねーんだよ! ハルヒ、俺は気付いちまったんだよ。 いや、思い出したんだよ。 ハルヒと一緒に居て楽しかった事に。
そして忘れる事が出来なかったんだよ。 ハルヒと一緒に居た時間、思い出を」
「キョ、キョン!?」
「ハルヒっ、俺は、お前の事が好きだ! 離れたく無いんだよ!!」
「……んの、バカキョン!!」
「は、ハルヒ?」
「おっそいのよ! 何よ今頃になって!!」 遅い? まさか、こいつ彼氏が居るとか!?
「あんたと出会って、あんたの一言でSOS団作ってから、何かにつけて一緒に居てくれて。 気が付いたら、あんたに依存してたのよ、甘えてたのよ。 やれやれって言いながら、あたしの事見てくれて。 時には怒ったりしたけど、優しく見守ってくれて。
あんた無しでは、あたしは駄目になる。 そう思ったからSOS団を解散して、東京に行って、自分を見つめ直そうと……実際、やりたい事あったからね」
「宇宙関係、か」
「……忘れられる、と思ってたわ。 ちなみに同窓会、『忙しい』って断ったのは嘘。 だって研究所、夏休みじゃない」
「そうだよな、単純に信じてたぞ」
「もし同窓会に出て、あんたに、もし会ったら。 何もかも……溢れて来そうで」
「ハル……ヒ?」
「そうよ、あたしも、あんたが好き! キョンが好きなのよ!!」
「そう、だったのか」
「何でもっと、早く言ってくれなかったのよ! このバカキョン!!」
「何で、って言われても……」
「ニブキョン!!」
「……否定、出来ねーな」
「エロキョン!!」
「な、何故だ? 何故エロなんだ!?」
「だ、だって、さっきから何で、あたしを抱きしめてんのよ!」
うかつ……東京駅で、こいつを引き寄せた時、そのまま抱きしめていたからな。 んで、ハルヒだって別に離れようとしてないし。
「駄目なのか」
「今更な質問ね」
「じゃあ、このままで良いか?」
「……うん」
「品川、過ぎちまったな」
「そうね。 じゃあ新横浜で降りるわ」
「来いよ」
「え?」
「このまま、俺の家まで来いよ」
「『俺の家』って、有希のマンションでしょ」
「あーもう! 何でこんな時に屁理屈言うかね?」
「うっさいわね! 屁理屈でも言わないと、やってられないわよ!!」
「なぁハルヒ、一つ聞いて良いか」
「な、何よキョン。 改まって」
「……照れ隠し、か?」
「……そ、そうよ。 文句ある!?」
「ぷぷっ」
「わ、笑うなら笑いなさいよキョン!!」
「すまん、俺も、こう言う場面に慣れてなくてな」
「――佐々木さんと付き合ってたんじゃないの?」
な、何故ハルヒがそれを知っている!? 言った覚えは無かったのに。
「あ、あぁ。 そうだが」
「朝倉経由で有希から聞いたわ」 あの、おしゃべりインターフェースめ!
「そう言うお前こそ、何で古泉を……」
「ちょ、ちょっと。 何でそれを?」
「古泉本人から聞いた。 昨日だけどな」
「……古泉君、元気?」
「あぁ、近々結婚するらしいぞ」
「そう、良い事じゃない!」
車内改札が回って来た。 ハルヒは当然ながら入場券しか所持していなかったので――勿論、払いましたよ俺が。
指定取ったけど一席じゃあ、どちらかだけ座るってのも何だし。 ずっとデッキに居たさ、互いに離れたく無かったしな。
「あ!」
「どうしたハルヒ」
「有希に連絡しないと」
「そうだな。 心配してるかもな、長門」
「じゃあ連絡するから――あ、もしもし有希? え、そうよ。 キョンと一緒よ……解ってた? うん、確かに新幹線の中だけど――」
流石は長門だ、何もかもお見通しか。 窓の外を見れば、月明かりに照らされた富士山が鮮やかに映し出されて……。
ハルヒが長門との電話を終え、程なくして
「ん?」
俺の携帯が鳴っていた。 誰かと思えば
『もしも~し、キョン君♪』
「何だ、朝倉か」
『んも~っ、何だとは失礼ね!』
「悪い悪い。 今、帰ってる所だ」
『知ってるわよ、長門さんから聞いたし。 あ、約束覚えてる?』
「……すまん、何だっけ」
『忘れたの!? まぁ良いわ。 それより迎えに行こうか? 新大阪に』
「本当か? 悪いな。 あ、ハルヒに代わろうか」
「え、あたし?」
「ほら」
「あ、うん……朝倉? 久し振りね――え、迎えに来てくれるの!? 悪いわね……今? キョン、ここ何処!?」
「ここか? 外が暗くて解らん。 兎に角、新大阪には11時過ぎに着くって言ってくれ」
「了解! で、あのね……」
どうやら長電話になりそうだ。 って、この二人、こんなに仲良かったっけ!?
「ヤッホ~、キョン君・涼宮さん。 こっちよ~!!」
「おう、朝倉。 出迎え、ご苦労」
「何を偉そうに言ってるのキョン! あ、朝倉。 顔合わせるのは十年振りよね」
「元気そうで何よりね♪ あ、車こっちだから」
「青いRX-8だったよな」
「ふ~ん、珍しいのに乗ってるわね」
「あ、キョン君。 今日は後ろね♪」
「げっ、マジか!?」
「そうよ。 それとも涼宮さんを後ろに乗せる気?」
「……解りました」
やれやれ、仕方無いな。 迎えに来てもらった手前、文句も言えん。
新御堂筋を南下し、国道2号へ向かう。 深夜帯のせいか車の流れはスムーズだ。
ハルヒと朝倉の会話が弾んでいる後ろで取り残された俺は、久々の探索で疲れた身体を休め、気が付いたら……。
「「おっきろ~! 着いたわよキョン」君!!」
「うわっ!?」 何時の間に寝てたんだ、俺?
「車、しまって来るから、先に部屋に行ってて。 涼宮さん、着替え後から持って行くから」
「サンキュ、涼子!」
あれ、呼び方、変わってるな。 何処まで仲良くなったんだ?
さて、やって参りました708号室
「お邪魔するわね!」
「どうぞ、ご遠慮なく」
「結構、片付いてるのね。 独身男性の部屋だから、もっと散らかってるかと思ってた」
「そうか? 確かに仕事ばかりで、週末はゴロゴロするだけだから、散らかりようが無いと言えば無いのだがな」
「ふ~ん、そうなの」
「で、寝床だが。 俺のベッドを使ってくれ。 俺はソファーで寝るから」
「良いの? それで」
「……本音、言って良いか」
「言ってみなさい、隠し事はしないで!」
「……一緒に寝て良いか」
「……エロキョン」
やれやれ。 想定通りの返事だが、駄目じゃないって事は、その、良いって事だよな?
「ばか……察しなさいよ」
おおっ、照れる仕草。 可愛いな、正直たまりません。
「それより風呂、入るだろ」
「うん、入るけど……一緒に入る?」
うおっ、アウトだ! ストラック・アウトだっ!! 上目使いっ、もう辛抱ならん! これで断る奴は居ない、断言する!!
は、バカップルだって? 上等だ! 目指すは世界一のバカップルぅ!!
「……キョン、あんた壊れ過ぎ」
「……すまん、浮かれ過ぎた。 支度して来る」
「支度出来たぞー、来いよ」
「う、うん」
恥ずかしがってるな、だったら言わなければ良いのに。
「やっぱ先に入れよ、俺は後にするから」
「き、キョンは佐々木さんと、お風呂、入った事ある?」
なんだよハルヒ、過去を気にしてるのか? 何か、らしく無いよな。 しかし、此処で嘘を言っても仕方あるまい。
「ん、あ、あぁ。 あるぞ、そりゃ……成り行きでな」
「じゃあ、しちゃった?」
「……ったんだよ」
「ふぇ?」
「勃たなかったんだよ! 出来なかったさ!! そりゃ何度か雰囲気で……でもなぁ『本気で好きでない相手』と、出来なかったんだよ。 あぁ、情け無いさ、男としてはな。 でも、自分に嘘は付けなかったんだよ!!」
「キョン」
「……そう言うハルヒは、どうなんだよ」
今度は俺のターンだ。 十年過ぎて、こんなに美人になって――そりゃあ元々、可愛いかったが。 更に魅力が増していれば男の一人や二人……。
「……かったわよ」
「え?」
「何も無かったわよ! 居る訳無いじゃない!! そりゃ下らない男が、あたしの外見だけ見てホイホイ寄って来たけど、あんた以上の男なんて居なかったわ。 裸はおろか、下着姿だって許してないわ。 勿論、唇だって!!」
「ハルヒ」
「実はね昨日の夜、夢を見たの。 パソコンでレポート纏めてる時、少し疲れて――そしたら北高に、あんたとあたしが居て。 笑っちゃうわ。 だって、その夢に出て来たあんたもあたしも、北高の制服を着てて……何もかも、あの頃と同じだったわ」
「そうか」
やっぱり、同じ時間に同じ物を見ていたんだ。 閉鎖空間……しかし何故、今になって。
「そう言えば同窓会は今日なんだ。 皆、元気かな。 キョンは? なんて思ってたら、あんな夢見たから驚いたわ。 あ、有希が起こしてくれて夢は途中で終わったんだけど――」
そこまでシンクロしてたんだ。 二人のインターフェースが起こす所まで。
「そして今朝、有希に起こされ『キョンが、こっちに向かって来てる』って言われて、居てもたってもいられなくなって、東京駅に急いだわ。 だって、だって……」
「なぁ、ハルヒ」
「な、何?」
「何だ、その……今更焦る必要は無いんだからさ」
「うん」
「キスから始めないか?」
――忘れていたが、そう言えばあいつは『世話焼きの委員長』だったよな。
クラスに馴染もうとしないハルヒを気に掛け、『あっちの世界』では長門の面倒を見て……今じゃあ俺の部屋に毎日の様に来て食事を作ってくれたり洗濯をしたり。
合鍵も持っていたっけ? そして、さっき「ハルヒの着替えを持って来る」って言ってたな。
「キョン君、何処に行ったのかしら。 見当たらないけど……涼宮さん、もう、お風呂入ってる? 着替え持ってきたから、此処に置いて……」
「「…………」」
「ご、御免なさい。 お取り込み中だったみたいね」
「「…………」」
「ご、ごゆっくりぃ~っ」 行ってしまったか
「「…………」」
「なぁ、ハルヒ」
「な、何?」
「風呂、先に入れよ」
「う、うん」
<夜空ノムコウ>
翌日、ハルヒと朝倉が作ってくれた朝食を三人で食べていると
「ねぇキョン」
「何だ、ハルヒ」
「結婚するわよ!!」
……いきなり何を言い出すかと思ったら。 一応、質問しておくか。
「誰が」
「あたしが」
「誰と」
「あんたと」
「そりゃあ、まぁ、このまま行けば結婚してゴールインだろうな」
「おめでとうキョン君・涼宮s……じゃなかった、ハルヒさん♪」
「で、ハルヒ。 何時するんだ?」
「今日よ!!」
「「は!?」」
「思い立ったが吉日よ! さっさと市役所に行くわよ!!」
待てーい! 気が早いぞ!! いくら何でも。 そりゃ俺はハルヒと――結婚するならハルヒと、なんだろうし。 断る理由は全く無いが。
「待てハルヒ」
「な、何よ。 結婚するの嫌なの?」
「そうじゃ無い。 段取りも何も決めてないし、そもそも互いの親への挨拶とか」
「今から行くわよ!!」 やれやれ、言うと思ってましたよ。
「落ち着け。 せめて朝ごはん食べ終わってからにしろ」
その日の午前中、俺の家とハルヒの家を梯子して、互いの両親に挨拶をし、結婚をしたいと報告する。
両家共、夕食の献立を決めるより簡単に答えを出して……即答ですか。 勿論O,K,だとよ。 反対されるのも困るが、こうもアッサリ話が進んでしまうのも、これまた味気ない。
昼食は互いの両親交えて高級レストランでランチをする事に。 話が弾むのは結構なんだが、俺を置いて結婚式の日取りやら何やら決まったのは、何だかなぁ。
そう言えば俺の妹か? 社会人二年目で、今、付き合ってる彼氏と朝からデートなんだと。 まあ、この騒ぎに妹までプラスされたら――あぁ、考えたくも無い。
やれやれだ、実に、やれやれだ。
そして会食後、俺とハルヒは市役所へ向かう。 相変わらずの照りつける日差し、それを避けるように庁舎に入り、窓口へ……。
その窓口で俺達を待っていた人物は
「やぁ、キョン、久し振りだね」
あぁ、そう言えば、こいつ市役所に勤めてるんだったな。
「佐々木か、久し振りだな。 元気そうで何よりだ」
「ふふっ、涼宮さんも一緒だね」
「こんにちは、佐々木さん」
「で、だ、佐々木……」
「皆まで言わなくても良いよ、キョン。 待っていたよ」 ん、待っていた? どう言う事だ。
「キミが涼宮さんと二人で此処に来たと言う事は、『これ』が欲しいんだよね」
佐々木が差し出した一枚の紙、それは
『婚姻届』
「実の所、もっと早く来るかと思って居たから。 正直、待ちくたびれていたよ」
「佐々木……」
「なんてね。 冗談はさて置き、書いて来たら?」
「おう」
一度ウチに戻り、婚姻届を記入し、市役所に戻る。
「確かに受け取ったよ。 キョン・ハルヒさん――おめでとう! お幸せに!!」
「「ありがとう、佐々木」さん」
そして夕方六時、昨日と同じ北口駅前の居酒屋。 急遽『プレ披露宴』が行われる事になった。 いやはや勢いと言うのは恐ろしいね。 突然の開催の割に大勢参加してくれた事に更に驚いたよ。
午前中の新幹線で駆けつけてくれた長門、市役所勤めが終わって来てくれた佐々木・国木田、そして古泉・谷口・阪中・朝倉・橘。 更に旧SOS団・名誉顧問の鶴屋さん、そして喜緑さん、よりによってデートを途中で切り上げてやって来た俺の妹、その妹に呼ばれたミヨキチまで……軽く呼んだだけなのに、こんなに来てくれて、嬉しい事この上無い。 え、誰か忘れて無いかって? うん、朝比奈さん、か。 大変残念な事に「今日も仕事ですぅ~」と連絡が入り――サービス業の悲しいさだめなのよね、これって。
「ハルヒさん・長門さん、大阪駅まで送りますよ」
「だから古泉、お酒飲まなかったのか」
「悪いわね、古泉君!」
「……乗って行く」
夜11時を回り、解散。
いやぁ、盛り上がった! 昨夜の同窓会より確実にな。
「しかし古泉、今から大阪駅まで送るとなると、あの夜行に乗るにしても中途半端に早くないか?」
「今回は飛ばしませんよ、安全運転です。 それに」
「何だ?」
「『会うべき人』が居るじゃないですか」
「朝比奈さん、か」
「ご明察。 さあ、行きますよ」
助手席に長門、後部座席に俺とハルヒを乗せて、今度は古泉の愛車で一路、大阪駅へ。
「あ、キョン君・ハルヒさん、ご結婚おめでとうございます! 長門さん・古泉君、お久し振りね」
大阪駅・みどりの窓口。 これまた昨夜と同じく朝比奈さんのお出迎え――SOS団が11年振りに揃った瞬間だ。 って言っても30分足らずの短い間だけどな。
「はい『サンライズ・ツイン(二人用・B寝台個室)』取りましたから、気をつけて帰って下さいね」
「ありがとう、みくるちゃん!!」
「……夜行寝台、個室……楽しみ」
「窓口、他の人に交代して貰って、わたしもホームまで見送りにいきますぅ」
長距離列車ホーム。 昨日と違うのは、俺が見送る立場にある、と言う事だ。
「キョン! こっちの仕事をさっさと片付けたら、直ぐに戻って来るから、待ってなさいよ!!」
「へいへい。 特に俺は慌てる事が無いから、気長に待ってるぜ」
「……早く会いたくないの?」
「いや、むしろ今、離れたくない位だが」
「あのぅ、お二人さん」 どうしました?朝比奈さん
「お取り込み中、申し訳ありませんが」 何だ古泉、良いムードに水を差すな
「……出発時刻」
うわ、長門、すまん! ほら早く乗れハルヒ、扉が閉まるぞ!!
長い14両編成の列車を、テールランプが見えなくなるまで見送る。
「行っちまったな」
「直ぐに戻ってきますよ」 そうだよな、古泉。
「キョン君とハルヒさんが望むなら」
え、朝比奈さん? ハルヒが願うなら別として、俺にそんな力、ありませんよ。
「え、あ、それよりわたし、仕事に戻りますので……キョン君・古泉君、気を付けて帰ってね」
「仕事、頑張って下さい。 朝比奈さん」
「お気遣い、ありがとうございます」
改札を出て、古泉の車へと向かう
「缶コーヒーでも、どうだ?」
「宜しいのですか?」
「酒飲めなかった上に、送迎までして貰って申し訳ないからな」
「それでは、お言葉に甘えて」
「そう言えば、もうすぐ結婚する。 って言ってたな」
「はい。 機関のスポンサーの一つ、琴吹家のご令嬢です。 クリスマス・イブに結婚予定ですが……貴方に先を越されてしまいましたね」
「約十年も付き合っているのか、長いよな」
「いやいや、貴方がた程、ではありませんよ」
「何を言ってる古泉、俺達は付き合って一日しか……」
「でも、心の奥では繋がってたと思いますよ。 そう、出会ってから、ずっと――」
「そうかもな」
「えぇ、そうですよ」
真夜中の高速道路、男同士のドライブ。 少し寄り道しても良いぞ、古泉。 こうして男二人で語り合う機会も、この先、少なくなるだろうしな。
<エピローグ・In The Life>
「ふふっ、キョン。 また来たね」
「あぁ、話は聞いてると思うが……」
「あれから、まだ一年過ぎて無いよ。 あ、用件は『これ』だったね」
「話が早いな。 流石は佐々木だ」
そして、差し出された一枚の紙を受け取る――
お盆休みが終わり、出社した俺と朝倉にニュースが飛び込んで来た。 何と、俺の会社の航空宇宙部門と、ハルヒの研究施設との合同プロジェクトが急遽、立ち上がったのだ。
しかも、聞いて驚け! 何と俺が、このプロジェクトのリーダーとなっちまった。 良いのか? 本当に良いのか!?
「実行するのは他のメンバーがやるから、君はスケジュールや人事面の調整を頼むよ。 なに、気楽にやってくれれば良いよ」
と上司に言われたが、よりによって何でこの大事な時期に……え、何が『大事な時期』かって?
『結婚式』 ですよ、 『 結 婚 式 』 !!
ハルヒの誕生日が10月8日、俺の誕生日が10月11日。 その間の9日か10日に結婚式をやるわよ!! とハルヒが言い出して。
結局『元・体育の日』の10日に決まった訳だが……部署移動の辞令が出るのが10月1日じゃねーか!?
やれやれだ、あぁやれやれだ、やれやれだ。
長門もプロジェクトチームの一員としてウチの会社に出向、朝倉も同じく異動となった。 まあ、この二人が居るのは何かと心強いがな。
結婚式。 「ど派手にやるわよ!!」 と言い出すかと思えば、ハルヒの意向は正反対だった。 俺達二人と互いの両親と俺の妹だけの、ささやかな会食。 完全な地味婚であった。
しかし披露宴は盛大に行われた。 ディナークルーズ船貸切だと? 一体誰の差し金だ、これは。
「おや、僕は何も知りませんよ」
何も聞いて無いぞ古泉、って……テメーが黒幕か!!
ちなみに新居は、俺が長門から譲り受けた、あのマンションの708号室。 長門からの『プレゼント』だそうな。
確か、俺が此処に住む時「将来的に必要」って言ったのは、この事だったのか? 長門。
そして、その長門は朝倉と共に505号室に住む事に。 そう言えば長門、彼氏はどうした?
「別れた」 な、何ですと!?
「……代わりで満たされる訳では無かったから」 うむ、良く解らんが、長門がそれで良いなら構わないと思うぞ。
新婚旅行は宇宙旅行でも無く、世界一周でも無く、国内旅行。 しかも飛行機を使わずに、だった。
そして結婚を機に、ハルヒは研究施設を辞めた。 プロジェクトに関しては施設を辞めても色々とアドバイスをくれるから、かなり助かっている。
クリスマス・イブ、古泉の結婚式。 下手な芸能人の結婚式より盛大、且つ派手に行われた披露宴……新婦の友人一同によるバンド演奏にハルヒと長門が飛び入り参加して――ハルヒ、無茶するなよ。 全く、自分一人の身体じゃ無いんだぞ。
「あたしは大丈夫よ! キョン、あんたは心配し過ぎ!!」
やれやれ、過保護なのかね、俺ってば。
年が明け、月日が流れ、7月7日・七夕
「ハルヒさんは大丈夫なのかい?」
「あぁ、母子共に順調だ。 で無ければ、俺は此処には来ないだろ」
「確かに、言えてるわね」 佐々木に手渡された一枚の紙に記入しながら――
「キョンも父親になるんだね、おめでとう」
「サンキュ、佐々木。 まだ父親って言う自覚は無いけどな」
「ふふっ、そうかい? キョンなら良い父親になれるよ。 わたしが保証するわ」
「ありがとよ、『親友』」
「『親友』……か。 うん、それで良いのかもね。 そして此処に居て、キミの書いた書類を受理する役目も悪くないよ。 キミが幸せなら、わたしは……」
「佐々木」
「あ、それより、お子さんの名前は?」
「そうそう、子供の名前はなぁ――」
<Decade&xxx> ~Fin~
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