夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:Players<その2>

2011年01月23日 18時32分19秒 | ハルヒSS:長編
 
   (その1より)

      <Band On The Run>
 

9月1日・二学期開始

「おっはよ~、キョン!」
「よう、おはようハルヒ」

光陽園駅前で待ち合わせして登校、と言うスタイルは3年生になって確立したスタイルだ。 付き合い始めた最初の頃は互いの家に迎えに行ってたのだが、何せ早起きが苦手な俺だ。 2年生の終わりにはハルヒが俺の家に迎えに来ることが多くなった。
……それでは余りに申し訳ないので、駅前で待ち合わせして登校する事を2人で決めたのだ。 しかし暑い。 何でこうも暑いのかね、全く。

「昨日は楽しかったわね」
「ああ、どうせならもう1泊したい気分だったな」
「そうね、今日から学校じゃなかったらね」

昨日は朝9時に朝食、11時にチェック・アウト。 海遊館で半日過ごして夜は俺の家で夕食と、少し勉強して――2日間怠けてたからな……それからハルヒを家に送って行ったのだ。

長い坂を登りきり、約1ヶ月振りに教室に入る。
「おはよう、キョン」
「おっす国木田……って、すごい日焼けだな」
「おうよ、キョン」
「お前もか谷口、まさか海でナンパか?」
「その通り!」
「戦果は無かったけどね」
「それを言うなよ国木田……」  やれやれ、相変わらずだね、この2人は。
「おはようキョン君、涼宮さん♪」
「おはよう、涼子」
「お、朝倉か」
「一昨日のライブ、どうだった?」
「楽しかったわよ!」
「って、何でライブ行ったの知ってるんだ? まさか……」
「そう、ENOZから直々にチケット2枚貰って、どうしようか? って古泉君と相談したら『あの2人にあげましょう』って」 成程、機関の力って訳じゃ無かったのか。
「ちなみにENOZが文化祭に来るってのは内緒だから、宜しくねっ♪」
 

――所でハルヒが朝倉の事を『涼子』と言い出したのは、SOS団オブザーバーに朝倉が指名された時からだ。
団員にするかと思いきや、そうならなかったのは『SOS団は5人』と決めたのと、朝倉も内野に入る気が無かった。 て言うのもあるだろう。
確かに表向き、生徒会会長とクラス委員長の二足の草鞋だからな。 これに団活を加えると……まあ、朝倉の事だから全てこなせそうな気はするがね。

 
始業式が終わり放課後、ハルヒと2人で文芸部室へ向かう。
「ヤッホ~有希、古泉君、元気!?」
だから勢い良くドアを開けるな! ノックは……朝比奈さんが居ないから構わんが。
「こんにちは、お2人共。 元気そうで」
「…………」
「よう長門、古泉」
「今日から二学期よ! そして文化祭が近いわね。 今度はSOS団でバンドやろうと思うんだけど。 皆、どうかしら?」
「良いんじゃないでしょうか?」 流石イエスマン古泉。
「……構わない」 長門も否定はしないよな、基本的に。
「古泉、お前楽器出来るのか?」
「いいえ特に。 音楽の授業で習う楽器位、でしょうか」
「俺もだ古泉。 それじゃあ、どうするんだ?」
「そうですね、困りましたね」
「ギターは、あたしと有希で決まってるから、あとはベースとドラムよね」
「それ以前に楽器はどうするんだ?」
「楽器の方は僕が知り合いに問い合わせてみましょう」
「何時も悪いわね、古泉君」  それ以上の進展は無く団活は終了、4人揃って下校する。

 
9月2日・昨夜は大雨。 打って変わって青空が広がる朝、水溜りに照り返す日差しの眩しい事といったらありゃしない。 今日は更に蒸し暑くなりそうだ。
 
「…………」
この3点リーダは長門のものでは無い。 俺の席の後ろの奴、そう、ハルヒだ。 朝から放課後に至るまで何を黙ってるのかと思ったら。
「あら涼宮さん、何やってるの?」
「お、朝倉か。 今日のハルヒは1日中だんまりなんだ。 何やら真っ白なノートを目の前にして」
「作詞よ」
「「え?」」
「文化祭のバンドの曲を作ってるのよ」 そうだったのか。
「手伝おっか?」
「え?」
「曲作り。 わたしの家、少しだけど楽器とかあるし」
「本当!? さっすが涼子、SOS団のオブザーバーは伊達じゃ無いわね!」
「所で朝倉は何か弾けるのか?」 どーせ愚問だろうよ。 何せヒューマノイド・インターフェース、しかも長門曰く『彼女は優秀』ってからして
「何でも出来るわよ♪」 やっぱりね。
「じゃあ一緒にバンドやらない?」
「良いわよ!」 あっさり返事しやがった、良いのかよ!
「放課後、涼子の家に行くけど、良い?」
「構わないけど、生徒会の仕事が終わってからね」
「ついでに古泉君にも一緒に来る様、伝言頼める?」
「解ったわ」
「長門には、団活の時伝えれば良いか」
放課後、生徒会会議終了まで俺、ハルヒ、長門は文芸部室で待機。 古泉・朝倉と合流して――
 
「初めて入るな」 長門と同じマンションの505号室
「入ったら?」
「お邪魔します」
「失礼します」 朝倉先導の下、リビングに通されると
「「「おお~っ!!」」」
驚く俺、ハルヒ、古泉。 長門は……別に驚きはしないか、来た事あるだろうし。
キーボード×2、ショルダーキーボード×1、ギター×3、その他周辺機器……下手なスタジオより機材あるんじゃ無いのか? これ。
「ちなみに赤と白のギターは長門さんのだから」 そうなのか、長門。
「……ギターは素晴らしい」 確かに、本を読んでばかり居るよりは良いと思うぞ。
「……歯で弾いたり燃やしたり」 コラーっ!! 何だその間違った知識は!? そりゃ何処のジミヘンだよ?
「……ジョーク」 ですよね~。
 
朝倉の家にある機材のリストは
キーボード:YAMAHA D-TECK
               KX-5(ショルダーキーボード)
       KORG M50-61
ギター:YAMAHA MG-M(青)
     ギブソン EDS-1275<SG-Wネック>(赤)
     フェンダー ストラトキャスター(白)
その他:シーケンサー・アンプ・周辺機器         
 
「ヤマハの製品が多い気がしますが」 確かにそうだな、古泉。
「両親がヤマハに勤めててね、楽器製作の為の木材調達でカナダに行ってるの」 そうか、だからヤマハ製品が……って、嘘つけ!!
本当にカナダに行って無いだろ朝倉! しかも、お前の親玉は――え、黙ってろって? そりゃあハルヒの目の前で本当の事は言えないしな、やれやれ。
「そうだったの!?」 納得しちゃったよ、ハルヒ!! まあ良いか、そう言う事にしておこう。
「……ちなみにKORGもヤマハ関連」 薀蓄ありがとう長門。
「有希!」
「……何?」
「赤い方のギター借りて良い?」
「……構わない」
ハルヒがSG-Wネックを抱える。 どれどれ? まあ長門はイメージ的に白いギターが似合ってるし、ハルヒは赤の方が
「うむ、似合ってるぞハルヒ」
「え、な、何言ってるのキョン!?」 うわ、口が滑った。 何言ってるんだ俺?
「所でベースはどうするんだ?」
「僕の知り合いで北口駅前にスタジオを持ってる人が居まして……涼宮さん、今から彼をお借りして宜しいでしょうか?」
「え? 別に構わないわよ、古泉君」
「今からわたし達は曲作りするから」
「朝倉・長門、ハルヒを頼んだぞ」

 
光陽園駅から電車に乗り、祝川駅で本線に乗り換え、やって来ました北口駅。 何が楽しくて野郎2人で。
「こちらです」 古泉に言われるがままに着いて行った先は、ビルの一角にある貸しスタジオ
「楽器のレンタルもやっておりまして……ギターやキーボードもあったのですが、必要無くなりましたね」
「あそこまで朝倉や長門が持ってるとは思わなかったからな」
「立場無いですね」
「落ち込むな古泉、負担が減ったと考えろよ」
「有難うございます」
「所で、残ったパートどうする?」
「そうですね、互いに未知の分野ですしね。 クジ引きで決めましょうか?」
「そうだな、その方が後腐れ無さそうだし」 ――そして決まったのが
 
   ベース:俺    ドラムス:古泉  だ
 
「今日は遅くなってしまいました。 練習は明日からにしましょう」
「そうだな、わざわざ悪かったな古泉」  そして俺と古泉が使う機材は
 
ベース:リッケンバッカー 4001 (マホガニー)
ドラムス:Pearl Carbonply Maple
 
他にも色々あった様だが、お蔵入りか。 仕方無い。  それから暫くは
平日の団活:ハルヒ・長門・朝倉――曲作り
        俺・古泉――担当楽器の練習
土曜の探索:中止
土日:午前中――勉強(高3の受験シーズンだからな)
    午後――バンド活動
となった。 え、朝比奈さん? 忘れてないぞ……何やら大学のミスコンで優勝してしまって、学園祭に向けて色々忙しいらしい。 よって、それが終わるまで探索には参加出来ない、と言う事だ。 入学半年でミスコンで優勝してしまうとは、さすが朝比奈さん、と言うべきか。
「文化祭、バンド見に行きますね。 楽しみにしてます」 こう言われては気合を入れて練習せねばなるまい。

 
野郎2人で練習を始めて一週間、早速カベにぶち当たった。
「どうしました?」
「古泉、指が自由に動いてくれん」
「コード押さえるのって難しそうですね」
「ああ、左手の指って思い通りに動いてくれないもんだな」
「左手ですか……少し待って貰えますか?」
「おう」 古泉が部屋を出る。 何やらスタジオの倉庫に入った様だ。 暫くして
「これを使ってみて下さい」
「何だ、普通のベースじゃ無いのか?」
「『左利き用』のベースです」
「『左利き用』だと?」
「はい、右手でコードを押さえる方が楽だと思いまして」 逆転の発想、なのか? とりあえず持ってみるか。 
成程、野球の右打席でバントの構えをすると思えば、そんなに違和感は無いかな? ふむ、確かに左手でコードを押さえるよりは自由に指が動く気がする。 しかも、このベース軽いし。
「サンキュ、古泉」
「どういたしまして」
 
機材変更・ベース:カールヘフナー 500-1 <バイオリン・ベース:レフティー>
 

そして9月中旬のある日
「出来たわ!!」
「何がだ、ハルヒ」
「曲よ!」
「おっ、マジか!?」
放課後、久々に5人で下校。 朝倉の家に向かう
「とりあえず聞いてみて!」
「ここでか? 周りに迷惑じゃないのか」
「大丈夫よ、防音対策バッチリだから♪」
「ドラムとベースのパートは、どうなってますか?」
「……とりあえず打ち込みで済ませた」
 
完成した曲のリストは
    ・Punkish Regular
    ・Under Mebius Full
    ・小指でぎゅっ!
    ・ハレ晴レユカイ
どれも作詞:ハルヒ 作曲:ハルヒ・朝倉 編曲:朝倉・長門 だそうだ。
 
「それぞれリード・ボーカルも決めたから」
「さすが涼宮さん。 既にそこまで決めたのですか」
「まず1曲目はあたし、2曲目は有希、3曲目は涼子、4曲目は3人で歌うわ!」
良かったよ、俺の歌が無くて。 ベース演奏もマスターして無いのに、更に歌えと言われたら困っていたぞ。
「所で長門」
「……何?」
「お前、歌えるのか?」
「……問題無い」
「そうか、楽しみにしてるぞ」
 
 
翌日
「ちょっと、キョン!」
「何だ谷口、朝っぱらから大きな声で。 ついに彼女でも出来たか?」
「違うわい!! そんな事より、これを見ろよ!」 どれどれ……ほう、谷口。 お前、音楽雑誌なんか読むのか?
「良いから5ページ目を見ろよ!」
ふむ、巻頭特集『ENOZ・アリーナツアー決定!』 って、おい
「この写真は何だ、キョン!!」
『全国ツアー最終日・ZEPP大阪でのライブ:飛び入り参加した2人』 ……俺とハルヒじゃね~か、これ。 しかも見開き2P使って!
「何時の間に行ったんだよ、ENOZのライブなんて。 今やプラチナ・チケットだぞ! しかも夫婦揃ってこんな雑誌に……」
「どきなさい谷口!!」
「をろあ!!」 哀れ谷口。 ハルヒよ、雑誌が見たいなら一言言えば済むだろ。
 
その日の5限目終了後
『<ピンポンパンポーン> 3年5組の朝倉涼子さん、朝倉涼子さん。 至急、校長室へ来て下さい』
「え!? わ、わたし?」
「どうした朝倉、何かやったのか?」
「知らないわよ。 兎に角、行って来るわ」
「涼子、校長のセクハラやSOS団への干渉があったら、あたしに言いなさいよ!!」 
それはね~よ、ハルヒ。 大方、学校行事に関する何かだろう。 今月末までは生徒会長なんだし。
 
 
――結局、朝倉は6限終了まで戻って来なかった。
 

     <I’ll Follow The Sun>
 
放課後、ひとまず教室で朝倉を待つ俺とハルヒ
「一体、何があったのかしら」
「さあな。 行き先は解ってるんだから、取りあえず待とう」
「そうね……」 そして10分後
「あ、ゴメンね。 待っててくれたの? 涼宮さん、キョン君」
「まあな、ハルヒがやたら心配してたからな」
「うっさいわねキョン。 あんたは心配じゃ無かったの?」
「大丈夫って言っただろ。 大体、朝倉だぞ。 お前じゃあるまい……イテっ!」 ほっぺをつねるなハルヒ。 あ~痛てぇ。
「イチャついてる所悪いけど、今日の練習は中止にして、今から部室にきて!」
はいよ、朝倉。 って、誰が誰とイチャついてるって? おわっ、引っ張るなハルヒ! そんなに急がなくても良いだろ!?
「有希と古泉君は?」
「先に部室で待ってるわ」 部室のドアを開ける。 そこに居たのは長門に古泉、そして
「「「「やっほ~!!」」」」
「「え!?」」 ENOZの4人!? どうして此処に?
「今度の文化祭についての打ち合わせに来たのよ」
「あ、朝倉さん。 さっきは校長室に呼び出してゴメンね、授業中だったのに」
「それで涼宮さん、この前の返事は?」
「え……は、はい。 O.K.です!」
「「そうこなくっちゃ!」」
「「良かった、断られたらどうしようと思った」」 あら、反応が分かれましたね。
「あたし達、SOS団もバンド組むんですよ。 この5人で」
「面白くなりそうね。 ねえ涼宮さん」
「何ですか、榎本さん」
「どうせなら全員でジョイントしない?」 え!? ハルヒだけで無く……俺達全員でか?
「その方が盛り上がるわよ、どうかしら?」
「僕は構いませんよ」
「……問題無い」
「そうよね、折角誘ってくれたんだし」 やれやれ、全会一致ですか。
「決まったみたいね。 それじゃ宜しくね!」
「は、はいっ」
 
――何となくハルヒが戸惑っている様に見えたのは、俺の気のせいだったろうか?
  
ENOZメンバーが帰った後「今からバンド練習始めても中途半端」と言う理由で、残りの時間は勉強会に。 中間テストも近いしな。
 
 
5人で下校し光陽園駅前で解散
「なあ、ハルヒ」
「何よ」
「少し話をしないか?」
「良いわよ」
「何か飲むか」
「う~ん、ミルクティー!」
「了解!」 自販機で2人分の飲み物を購入する
「なあハルヒ。 これは俺の気のせいかも知れんが、何か悩んでるのか?」
「えっ!?」
「あ、いや……別に無理に話さなくても良いが、少し気になってな」
「ふふっ、心配してくれてるんだ。 嬉しいな」
「まあな。 こう見えても彼氏なんだぜ」
「……ばか」
 
季節は少しづつ秋らしさを増す頃――夕焼けが世界を赤く染めて
 
「実はねキョン、やっぱり迷惑掛かるのかなって思って」
「何がだ?」
「バンド。 だってキョンも古泉君も楽器やった事無いって言ってたし、有希や涼子にも勝手に話を進めて迷惑だったかな、って」
「いや、一応皆の意見聞いたろ?」
「そうなんだけど……」
「なあハルヒ、そんな理由だったら不安になる事無いぞ。 告白した時の事、覚えてるか?」
「…………」
「長門や古泉、朝比奈さん、もちろん俺も。 そして朝倉を含めて良いかな、お前のやる事は賛成してるし、嫌なら嫌って言ってるさ」
「……キョン」
「自信を持て! なんて言わないけどさ、折角1つになって進み始めてるんだ。 皆を信じて行っても良いんじゃ無いのか」
「…………」 黙ってしまったな、失敗したかな――
「うおっしゃあ~!!」
「のわっ。 な、何だハルヒ!?」
「そうよね、団長のあたしがウジウジしてても仕方無いもんね!」
「ハルヒ?」
「さあキョン! 明日っからバリバリ練習するから、あたしに着いて来なさい!!」
「うわ、今から引っ張ってどうするんだよ!」
 
やれやれ、スイッチを入れてしまったか。 まあ、ハルヒはこれ位元気があった方が良いよな。
 


   (その3へ続く)


 

コメントを投稿