夜明けのダイナー(仮題)

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SS:涼宮ハルヒの蒼氓(後編)

2011年05月10日 23時14分10秒 | ハルヒSS:中短編

  (前編より)  

 
  <12月23日>
  
今日は月曜日、終業式前の短縮授業。 
凍てつく寒さの中、相変わらずの登山道をたった半日の為に登り始める。 やれやれ。
 
「キョン君、お早うございますぅ」
「おっはよ~! キョン君、今日も寒いっさね~」
「あ、お早うございます。 朝比奈さん・鶴屋さん」 
何とまあ都合よく、通学路でこの二人に会えるとは。 これって、もしかしてハルヒの力……な訳無いか。
「お二人共、突然で申し訳ありませんが、明日の夜、スケジュール空いてますか」
「おや、少年。 クリスマス・イブにお誘いかいっ?」
「ふぇ、と、特に予定は……」
「もし良かったら、同級生のマンションで、クリスマス・パーティーをしたいと思いまして。 俺の他に六人位来るのですが」
「ほう、それはめがっさ盛り上がりそうだねぇ」
「そうですねぇ。 それよりも、わたし達が行って良いんですかぁ?」
「えぇ、それはもう!!」
マイ・スィート・エンジェルと共に聖夜を過ごせるなら、その後、何が起こっても……って、これ以上、世界が変化してもらっても困るがね。
一先ず時間と場所を伝える。 すると
「所で、パーティーをするに当たって、買い物とかは良いんかい?」
「あ、そうですね」
「今日の放課後なんて、どうですかぁ?」
「他のメンバーに聞いてみます」 
そして玄関でこの二人と別れて、教室へ向かう。
 
授業前に朝倉・谷口・国木田に放課後の買出しの件を伝え、三人共、賛成してくれ朝倉は「長門さんには、わたしが伝えるから♪」ってな訳で早速一年六組の教室へ向かって行った。
続いて俺はハルヒと古泉にメールをした。 携帯の番号とメールアドレスは21日に会った時の別れ際に教えて貰って居たのだ。
 
 
放課後、光陽園駅前
「ジョ~ン! こっちよ~!!」
「お待ちしておりました、北高の皆さん」
「待たせたな、ハルヒ・古泉」
「げっ、涼宮じゃねーか!?」
「谷口、この人がキョンの言ってた涼宮ハルヒって言う人?」
「いや~、初対面だね! 光陽園のお二人さんっ、宜しく頼むっさ!!」
「ふぇ、よ、宜しくお願いしますぅ」
「……は、初めまして」
「丁度、電車来たわよ。 行きましょ♪」
 
北高の正門前で合流していた俺・谷口・国木田・長門・朝倉・朝比奈さん・鶴屋さんと、此処で合流したハルヒ・古泉と向かった先は
    
『鶴屋北口ガーデンス』

向かう途中の電車の中で互いに自己紹介をし、お約束と言うべきかハルヒが朝比奈さんをいじり、「これはデジャヴか?」と思ったり、長門が大人数を前に戸惑って居るのを朝倉がフォローしたり、谷口が鼻の下を伸ばしているのを国木田が嗜めたり……見慣れた光景と見慣れぬ雰囲気が混在して、何とも言えない気分だ。

 
クリスマス一色のショッピングセンターの人混みの中、ここからは男性陣がパーティーグッズ調達、女性陣が食材調達と二手に分かれる事となった。
「古泉、とか言ったな」
「はい。 何でしょう谷口君」
「お前、涼宮ハルヒと付き合ってるのか?」
「「え!?」」 
思わず古泉とハモっちまったじゃねーか。 何言ってるんだ谷口の奴。
「涼宮は止めとけ。 中学時代の話を知ってるか?」
「さぁ、僕は今年、こちらに引っ越して来たばかりなもので……」
「谷口」
「何だよ、キョン」
「そんな事はどうでも良いだろ」
「そうだよ谷口。 早く買い物しないと、待ち合わせに遅れちゃうよ」
買い物が終了次第、再び合流し長門のマンションまで荷物を運ぶ手筈となって居るからな。
男性陣も更に二手に分かれ、谷口・国木田は部屋の飾りを、俺と古泉はサンタの衣装やらを探す事になった。
 
「なぁ、古泉」
「何でしょう」
「……本当の所、どうなんだ」
「先程の件、ですか?」
「話が早いな。 こっちの古泉も基本は同じ、か」
「別の世界の僕が、どの様な人物かは理解出来ませんが、現在の僕は僕以外の何者でもありませんよ。 あ、失礼。 涼宮さんとの事、でしたね」
「あぁ、すまんな。 個人的な興味だ。 話し辛い様だったら構わんぞ」
「いえ、別に。 涼宮さんは僕の属性に興味があるだけ、ですよ」
「向こうのハルヒも同じだったよ。 北高に転入するなり、SOS団に引き込んだからな。 まぁ、向こうの古泉としては丁度良かったそうだ。 ハルヒの監視の為のエージェント、なんだからな」
「当然ながら僕は違いますよ。 単なる転入生です。 尤も、最近では飽きられ気味、と言った所でしょうか」
「それじゃあ、付き合ってる訳では」
「はい、残念ながら」
「残念?」
「えぇ、残念ですよ。 何故なら僕は涼宮さんが好きだからですよ。 未だ伝えてはいませんけどね、この気持ちは……」
 
 
「遅っそいわよ! ジョン・古泉君!!」
「悪かったな、ハルヒ」
「申し訳ありません皆様、遅くなりまして」
まぁ、此処で「罰金!!」とか言わないだけマシか。 やれやれ……
さて、全員揃った所で、長門のマンションに向かうとしますか。
 

『……この関係で良いんですよ』
『そうか。 失礼な事を聞いて悪かったな、古泉』
『いえ、お気遣い無く。 何故か貴方には話しても良い様な気がしましたので。 こちらこそ、失礼致しました。 しかし、涼宮さんの笑顔なんて……貴方に会うまで見た事ありませんでしたよ』
『そうなのか、古泉』
 
 
『――羨ましいですね、貴方の事が……』
 
 
その声は、群集に紛れ、俺の耳に届く事は無かった。
 
 
 
  <12月24日>
 
「ジョン! おっそいわよ!!」
やれやれ、北高から一度家に戻って此処まで来るのに、どれだけ時間掛かるか解って言ってるのかね? ハルヒよ。
  
12月24日。 世間ではクリスマス・イブ一色、学校は今日が終業式で生徒連中も浮き足立っている。
本日のクリスマス会参加メンバーは、それぞれ一時帰宅後、長門のマンション・708号室へ集合となっていた。
「改めて、悪いな長門」
「大丈夫、構わない」
 
クリスマス会の支度をする前に
「お昼ごはん、用意したから!!」
とハルヒが言った。
実は昨夜、俺達が帰った後、この為にハルヒと朝倉が長門の部屋に残ってカレーを作ってくれていたらしい。
 
「「「「「「「「「いっただきま~す!!」」」」」」」」」
 
パーティー前だから少なめに作ったらしく、あっと言う間に完食。 物足りない位だ。
食べ盛りの男子高校生が四人居て、加えてハルヒの食べっぷり。 長門は……少食みたいだな。 この世界では何とかインターフェースじゃ無い、平凡な女子高生だからな。
カレーの味? そりゃ美味かったさ、以上!
 
「さて、飾りつけ始めるか」
「おう!」
「カレー鍋の片付け、手伝いますか? 涼宮さん」
「別に気にしないで、ジョンの方を手伝って」
「キョン、テーブルの上が片付いたから僕も手伝うよ」
男性陣は部屋の飾りつけをしている間、女性陣はと言うと
    
    ハルヒ・長門……カレー鍋片付け&鍋作り(708号室)
    朝倉……おでん作り(505号室)
    朝比奈さん・鶴屋さん……飲み物の買出し  

と分散して作業していた。
 
 
「どれどれ、こんなもんだろ」
「キョン、こっちもO,K,だ」
「お疲れさん。 キョン・谷口・古泉君」
「涼宮さん、こちらの支度は出来ましたよ」
「鍋も、もう直ぐ出来るわよ! 楽しみにしてなさい!」
 
カレーが食べ足りなかったせいもあって、台所より漂って来るハルヒ特製鍋の匂いは……時計の針を進めて、さっさとパーティーを始めたくなる程に美味そうに感じた。
いや、きっと美味いんだろうよ。
 
 
「えー、おっほん。 それでは只今より第一回・SOS団プレゼンツ、クリスマス・パーティーを始めます。 皆、コップ持った? 行くわよ! カンパ~イ!!」
「「「「「「「「カンパ~イ!!」」」」」」」」
 
ハルヒの号令で始まったクリスマス・パーティー。 
兎に角、腹減った。 鍋でも、おでんでも、ターキーでも良いから早く食わせろ! って
「おい、ハルヒ」
「何よ、ジョン」
「何だ、テーブルの上にある飲み物は」
「見て解らない? シャンパンよ!!」
「それは見れば解る。 しかし俺達は高校生だ、何であんなもんが……」
「さあ皆の衆、ジャンジャン飲むっさ!!」
やれやれ、原因はあの人ですか。 鶴屋さん、F1のシャンパンファイトで使ってる奴ですね、それは。
「まあ、難い事言わずに。 一杯どうですか」 
古泉、お前は新橋のサラリーマンか。 妙にその口調が似合ってるぞ、って
「なぁ、古泉」
「何でしょうか」
「お前の持ってる一升瓶、日本酒か」
「えぇ、地元の鶴屋酒造の」
「ちょっと待て、『鶴の宿』って、一本ン万円じゃ無かったか!?」
「おや、よくご存知ですね」
「父親が『一度は飲んでみたい』とか言ってたからな」
「それでは代わりに貴方がグッと。 さぁさぁ」
……駄目だこりゃ、酔ってるのか古泉。 二ヤケスマイルが単なるニヤケになってるぞ。
 
他の面子もすっかり出来上がってる。 そりゃあアルコールに耐性の無い高校生だ、無理も無い――って、良い子は真似しちゃ駄目だぞ。 お兄さんとの約束だからな。
 
 
近所迷惑にならないか? と言う程には騒ぎにならず、酔っている連中もナチュラル・ハイ程度で納まっているみたいだ。
パーティーの途中、谷口と国木田がコントを始めたり……ボケの国木田・ツッコミの谷口ってのは新鮮だったが。
あとは古泉が手品を披露したり、色々と楽しかったさ。
 
 
何で俺は色々と覚えて居るのかって? それは
    『アルコールを一滴も飲んでいない』 
からで、孤島での経験を忘れる程、俺は健忘症では無い。 しかし、それ以外の連中は、すっかり酔いつぶれ皆、眠っていた。
 
 
……約一名を除いて。
 
 

  <Wonderful Christmas Time>
  
「ジョン」
「何だハルヒ、お前酔って無いな。 酒、強いのか?」
「あたし? 飲んで無いわよ。 初めの乾杯の一口だけよ」
「そうなのか」 道理で素面な訳だ、こいつ。
「あまり、お酒好きじゃ無いし」
「で、何の用だ」
「今から外へ出るわよ!」 な、何だって!?
「この寒い中、何処へ出掛けるつもりだ。 サンタクロースでも捕まえに行くのか?」
「それも良いわね、でも違うわ」
「じゃあ何だ」
「東中に行くわよ!」
「はぁ!?」
「あんたと、もう一度あのメッセージを書くのよ!」
「『わたしは此処に居る』だっけ」
「え!? な、何で意味知ってるの?」
「まぁ、その……何だ、『宇宙人』が教えてくれたのさ」
「そっかぁ」
 
凍てつく夜空の下、東中に歩みを進める
 
「このマンションからだと、近いな」
「ねぇ、ジョン」
「ん、何だハルヒ」
「『元の世界』に戻りたい?」
「え? あ……そうだな。 しかし、慣れつつあるがな、この世界にも」
「本当に?」
「――あぁ」
「ねぇ、向こうのあたしって、どんな感じ?」
「ハルヒ、か。 教室では俺の席の後ろに居て、何時も俺達を思いつきで振り回して、我が儘で、怒りっぽくって……って、どうしたハルヒ」
「ふふっ。 今のジョンの顔、どんな顔してるか解る?」
「さあな」
「……間抜け面っ!」
「はぁ!?」
「アハハッ、ウソウソ。 本当はね、何か、こう……優しい感じ? 例えるならね、娘を見る父親!?」
「何だそりゃ」
「何時も一緒に居るんでしょ? 良いなぁ、向こうのあたし」
「そうか?」
「そうよ! だって、ジョンが世話を焼いてくれてるって事でしょ。 羨ましいなぁ」
「まぁ、確かに放っとくと何をするか解らないからな」
 
 
とりとめの無い会話を交わす間に、東中の前に着いていた。
「門が閉まってるが、どうする? また、あの時と一緒でよじ登るのか」
「先に行ってジョン。 あたし、スカートだから……」
「あ……す、すまん。 先に行く」 門をよじ登って、グラウンドを目指す。
 
「所でハルヒ、ライン引きは?」
「あるわ、昨日のうちに用意したから」
「流石だなハルヒ。 じゃあ始m「やっぱり辞めるわ!」」
「え!? 何故だ、ハルヒ」
「良いのよ。 もう、やる必要が無いのよ」
月明かりすら無い真夜中のグラウンド。 風が吹き抜ける度、身が縮む。
「……あたしの願いは叶ったから」
「そう、なのか」 こいつの願い? 宇宙人・未来人・異世界人、そして超能力者を見つけて――しかし、今のこの世界に居ない筈だし
「そうよ。 だって、だって……」
 
「ジョン、あんたに再び会えたから!!」 な、何ですと!?
 
「あんたに会いたくて、色々な事をやって。 北高で待ち伏せしてみたり、でも手掛かりすら掴めなかった。 諦めて光陽園学院に通い始めたけど……つまんない日々だった。 でも、再びジョンに会えて、SOS団作って――なんかワクワクしてるの! これから、もっと楽しくなりそうだって。 そして、それよりもジョンと二人っきりになりたかった。 だって、だって……」
「……ハルヒ」
「だから今、あんたを此処に連れ出したの! もう逃がさないわ、あたしの『ジョン・スミス』!!」
 
漆黒の闇から舞い降りた雪のひとひら、それがハルヒの肩にとまった。
刹那、俺はハルヒに抱き寄せられ……唇を重ねていた。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 「ジョン、ジョン……ジョ……ン―――」
 
 
世界が反転する感覚。 って、こんな感じなんだろうか。
頭の中が真っ白になり、身体が宙に浮く。 いやいや、そんな生易しい物じゃないか。
 
 
古泉と閉鎖空間に入った時の……いや、違うな。
 
 
朝比奈さんに過去へ連れて行って……とも違う。
 
 
ハルヒとキス? そうだ、あの時と同じ感覚!
 
 
しかし、俺ってば何をやってるんだ。 またしてもハルヒとキスをするなんて。
フロイト先生はおろか、ユング先生もやれやれって言ってるだろうよ。 いや、俺こそ、やれやれって言いたいぞ。
 
 
ん、世界が反転? ハルヒとのキス? ま……まさか!?
 
 
「――ョン……キョ……ン、キョン、キョン!」
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
  
キスをしているハルヒのどアップの表情に変化は無い。 しかし、何かが違う。
先程は二人共、東中のグラウンドに居た筈だ。 所が今は何故か俺は寝転がっていて、ハルヒは俺の上に乗っている。
ハルヒの髪は短い、しかも寒く無い。 此処は……?
 
「ん!?」 
目を閉じていたハルヒが何事かに気付いて
「……ぷはっ。 な、な、何よキョン! 起きるなら起きるって言いなさいよ!!」
おや、何の事だ? いかん、今まで唇が重なっていた事すら忘れる程、俺は冷静だな。
「なぁ、ハルヒ」
「なっ、な、何よキョン」
「此処は何処だ?」
「はぁ!?」
見知らぬ白い天井、何故かベッドの上。 俺はパジャマ姿で点滴されている様だ。
「病院よ!」
「病院だと?」
「そうよ。 あんた、何も覚えて無いの?」
「あ、あぁ」
ハルヒの格好を見ると、見慣れた筈の北高の制服。 
そう、見慣れている筈なのに、何故か懐かしく感じるな。
 
 (戻って来た、のか?)
 
「あんた、階段から落ちて頭打って病院に運ばれたのよ。 って、覚えてる訳無いか。 あれから一週間ずっと眠ってたもんね」
「そうなのか」 
おや? 一週間って事は
「ハルヒ、今日は何月何日だ」
「え、今夜はクリスマス・イブ……あ、もう25日になったわね」
向こうの世界と全く一緒、だった訳か。 時間の流れは――あれは夢、だったのだろうか。 どちらにせよ、ハルヒとのキスで戻された訳だな。
「所でハルヒ、一つ聞いて良いか」
「な、何よ」
「……何故、俺にキs「ストップ! 言わないで、恥ずかしいから……」」
じゃあ、するなよ。 いかん、こっちまで恥ずかしくなって来たぞ。 今更だが。
「あんた、顔、真っ赤よ」
「お前に言われたく無いな」
「うっさいわね……部屋、暗いのに何で解るのよ」
「お互い様だろ」
「ふふっ。 あのねキョン、笑わずに聞いて」
「あぁ」
「ものすご~くベタなんだけど、キスすれば起きるかな。 って思って」
「はぁ」
「だってキョンが一週間も……目を覚まさなくって、あたし、どうしたらって……」
「……ハルヒ」
 
ハルヒの眼からは、うっすらと一筋の光が流れていた。
 
「ありがとよ」
「ふぇ!?」
「そのお陰で、俺の目が覚めたんだろ」
「そ、そうよ! か……感謝しなさい!!」 
そんな顔で言っても説得力無いぞ、声も弱いし。
「そう言えばハルヒ、雪、降ってるか?」
「な、何よ急に。 そうね、確か今夜は……」
 
俺は向こうの世界で雪の降り始めを見たから、こっちはどうなんだろうと何となく、何となく思って聞いてみたのだが――
ベッドから起き上がると同時にハルヒがカーテンを開けると
 
   
「「うわぁ……」」
 
 
あぁ、在り来たりな表現で悪いが、一面の銀世界って奴だ。
夜で真っ暗だから、灯りの届く範囲しか見えないが、かなり積もっているみたいだ。
「まさにホワイト・クリスマスね!」
「こんなに積もるとはな」
「夜が明けたら雪合戦するわよ!!」
「やれやれ、勘弁してくれ」
「冗談よ。 あんたも病み上がりだしね」
「全くだ。 なぁ、ハルヒ」
「何?」
「改めて、ありがとうな」
「……キョン」
 
俺は、そっとハルヒを抱き寄せ、もう一度、口付けを交わした。
  
外の雪は止む気配を見せず、世界の全てを白く染めるかの様だった――
 
 
 
 
  <エピローグ・12月25日>
 
その後の事を少し話そう。
 
12月25日の朝、夜明けと共にハルヒが着替える為に家に戻ると言い病室を出た後、タイミングを計ったかの様に、入替わり人が入って来た。
  
トップバッターは古泉だ。 相変わらずのスマイル……では無く、何か安堵の表情を浮かべていた。 古泉にも心配掛けたな。
此処は機関関連の病院である事、そして閉鎖空間が一週間発生していたが神人の動きは大人しく、俺の目覚めと共に消滅した、と。
それから「いくら元気だからって、こんな場所で……」とか「声が大きいから、そりゃ筒抜けですよ――」等と何やら言っていたが、聞き流しておこう。
  
続いては朝比奈さんだが、何と(大)と(小)が一緒になってやって来た。 それって不味いんじゃ? と思ったが、これは規定事項らしい。
聞く所によれば、何やら修正で忙しい。 との事だが、何故、修正する事態となったのかについては禁則事項らしく、教えてくれなかった。
朝比奈さん(大)曰く「修正は間もなく終了します」だそうだ。 ちなみに病室に入って来るなり、朝比奈さん(小)に泣いて抱きつかれたのは内緒だ。
 
最後に長門だ。 実は、今回の改変の原因が長門のエラーに端を発した、と言う事実に驚いた。 まさか長門が世界改変をするとは……そして、この世界に戻る為のタイム・リミットは三日間だったのだが、俺が修正プログラムを見つけなかった為、長門は一度、情報統合思念体によって処分されたらしい。
しかし、ハルヒが眠っている俺に
「SOS団員が『一人でも欠ける事』は許されないから!!」
と言っていたのを思念体は『このまま長門を処分するのは、涼宮ハルヒにとって好ましく無い事象』と判定。 よって、長門は能力を半減の上、戻って来た。
そして、長門の世界改変した力より、ハルヒの力が上回った為、俺が『あの世界』から戻って来る事が出来たらしい。 
トドメに「……朝倉涼子を再構成、わたしはバックアップに」とか言ってたが、これも聞き流しておこう。
 
 
ハルヒが戻って来たと同時に、最後の問診。 やはり異常無しとの事で即、退院となった。 
本来なら様子見で後一週間は入院予定だったのだが、年末年始に向けてベッドを空けたい病院側の意向と『アレ』なら大丈夫だろうとの判断で――色々とスミマセン、病院の方々。
 
 
昼食はSOS団全員と鶴屋さん、谷口や国木田、そして俺の妹とカナダから帰って来た……事になっている朝倉を含め、ファミレスで俺の退院祝いパーティーだ。
そこで発表された俺とハルヒの交際宣言……告白? あのキスの後、二人同時に口にしてたよ。 「「好き」」だって。 同じ事考えてたんだって、思わず笑ってしまったね。
しかしハルヒよ、こんな衆人環境で堂々と宣言しなくても良いと思うが。 やれやれ。
 
 
ファミレスの屋根から積もった雪が落ちる。 何もかも白く染まった街並――
 
 
なぁハルヒ、確かにお前は『此処に居る』。 そう、古泉・朝比奈さん・長門、そして鶴屋さん。 他に谷口や国木田、俺の妹……朝倉も含めてやるか。
此処に居る面子の他にも、皆居るんだよ。 この世界に。 そして地球は回っている、未来に向かって確実に。
 
お前はもう、独りじゃない。
 
何故なら、俺もずっと、此処に居るから……
 
 
 
      <涼宮ハルヒの蒼氓>   終幕 




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