夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Decade&xxx<その2>

2011年04月22日 20時10分49秒 | ハルヒSS:長編
 
  (その1より)
     
   <Midnight Special>
 

『……ョン、キョン! おっきろ、バカキョン!!』
『のわっ!?』
 
――酔った挙句、何時の間にか眠っていたらしい。 お、二次会終了かハルヒ。 んじゃ帰るとすっか。
 
『って、ハルヒ?』
『何よ、キョン』
『どうして、お前が此処に居る?』
『知らないわよ。 何か薄気味悪い空間になってるし、どう言う事よ!』 薄気味悪い空間?
 
(閉鎖空間、か。 しかし、何故だ?)
 
冷静になって周囲を見回す。 
確かに空は灰色、しかも今の俺は酔っていないらしい。 意識はハッキリしているからな。 場所は……見覚えあるが、何処か懐かしい風景が広がっている。 何処かの学校のグラウンドだろうか? って
 
『北高かよ! しかも俺達、制服だし!!』
『どう言う事よキョン! これって、もしかしてタイム・スリップ!?』
あぁビックリだハルヒ。 こいつ、まさか自分の能力を自覚して……
『何で、あたし達制服なのかしら?』 んな訳ね~か、心配して損したよ。
『多分、俺達の意識の中では、互いに「あの頃」で止まってるんだろ』
最近のハルヒを見た事無いし、どんな姿になってるか解らないからな。 逆にハルヒも同じなんだろう。 って事は、この姿で居るのは自然な事なのかも知れん。
『ふ~ん。 しっかし、あんたって相変わらず冷静よね』
『「相変わらず」って、何故だ?』
『昔、同じ様な夢を見た時……あ、何でも無い、何でも無いのよ。 今言った事は全て忘れなさいキョン! 一秒以内に!!』 無茶言うなハルヒ、変わってねーな。
『ははっ』
『な、何笑ってんのよキョン』
『何でも無いさ』 
何もかも懐かしいな。 本当にタイム・スリップしたみたいだ。
『なあ、ハルヒ』
『何よ』
『元気だったか』
『うん。 キョンは?』
『俺か、相変わらずだ』
『ふぅ~ん。 そう言えば今日、同窓会だったのよね』
『あぁ、皆元気そうだったぞ。 ハルヒ、お前も来れば良かったのに』
『……行きたかったわよ』
『ん、何か言ったか?』
『忙しいのよ!!』
『うわっ、声がでかい。 普通で良いぞ! 普通で』
『あははっ……キョン、本当に昔みたいね!』
『あぁ、変わってねーな』
『ねぇ、キョン――』
 
 
「……ョン君、キョン君。 起きてよ♪」
「んあ? あ、朝倉か。 ハルヒは?」
「涼宮さんは今日、来て無いわよ。 知ってるでしょ」 そうだったな。
 
――夢、だったのか? 今のは。 うん、そうだろうな。
 
「……違うわよ」
「ん、何か言ったか朝倉」
「う、ううん。 何でも無いのよ、何でも! それよりもう十一時回ったから、お開きよ」 
そうなのか、じゃあ店を出るとしましょうかね。
 
 
「キョン、またな!!」
「おう、谷口。 また会おうぜ。 国木田もな」
「うん。 キョン、またね」
 
全員、外へ出て、三次会に行く者、他の店に行く者、帰る者……三々五々別れて
 
「キョン君♪」
「何だ朝倉、一緒に帰るか」 同じマンションなんだし、一緒に帰るのは――
「帰らないわよ」
「三次会、行くのか?」
「行かないわよ、キョン君……今から行って欲しい所があるの」
「何処だ?」
「あ、来た来た。 タクシー!!」 黒塗りのタクシーが目の前に停まる。
「どうも、通りすがりのタクシードライバーです」 って、おい
「古泉じゃね~か!!」
「お久し振りです」
「予定通りね、古泉君」
「お待たせしました、朝倉さん」
「……何を企んでやがる、お前等」
「『企み』なんてありませんよ」
「ほら早く、乗った乗った♪」 どわっ、朝倉。 押し込むな!
「シートベルトをして下さい、少々急ぎますので」
「締めたぞ、古泉」
「それでは行きますよ。 3・2・1・イグニッション!」 
イグニッション! って、元々エンジン掛かってるんじゃ? って
 
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 
豪快にホイルスピンさせて進み出すタクシー。 な、何だ!? そんなに急ぐ用事か?
「ちょ、こ、古泉!?」
「大阪駅に午前零時前には着きたいわね」
「お任せ下さい。 『裏六甲の黒い彗星』と呼ばれた僕に――」 な、何なんだ、その渾名は!?
「ふふっ、北高に転校してからと言うもの、機関所有の黒いインプレッサで夜な夜な裏六甲を攻めて……」 
おいコラ古泉、普通に『無免許』じゃね~か!
「ご心配無く。 全ては過去の事ですから」
「そうかそうか……って、良くねーだろ!!」
「それも機関の訓練の一環でしたから。 しかし『彼女』には敵いませんでしたね。 CB400SFを駆るピンクのツナギを着た『裏六甲の堕天使』には」 そ、それって、まさか
「ゴトゥー……じゃ無かった、朝比n「皆まで言うな、古泉」」
 
やれやれだ、実にやれやれだ。 何なんだ、その裏設定は? しかし、このタクシーやたら速いな。 ボタンでも押したら羽根でも生えたりアフターバーナーでも吹いたりするのか?
「ここはマルセイユじゃ無いわよ?」 そうだったな、朝倉。
 
 
「なぁ古泉」
「何でしょう」
「いくら途中、高速使ったからって、二十分弱で着くものかね?」
「ふふっ、少々速すぎたでしょうか」
 少々じゃねーだろ!! 少々じゃ!! おえっ、胃がムカムカしてきた。
「大丈夫? キョン君」 あ、朝倉、お前は平気なのか?
「うん、わたしは大丈夫よ♪」
「それより少しお話がありますが」
「何だ、言ってみろ」
「はい。 実は先程、閉鎖空間が発生しました」
「!?」
「その表情は……心当たりがありますね」
「あぁ」 夢じゃ無かったのか、やっぱり、あれは。
「小規模でしたので直ぐに消滅したのですが、それは涼宮さんの力が弱体化したせいですね」
「キョン君。 あなたの夢と『それ』がシンクロしてたのは事実よ。 直接干渉するのは不可能だったけど、単純に眠っているあなたを起こしたら、シンクロも止まったの」
「恐らくですが、発生原因は、貴方に関係しているかも知れませんね」
「……そうか」
 
俺がハルヒに会いたい、と思ったのと同じ様に、ハルヒも元・3年5組の同窓会に参加したい、と思ったのだろうか。
 
「……そう思えるのは、実に貴方らしいですね」 
「ん、何の事だ古泉」
「いえ何も。 それともう一つ、これは実に個人的な事ですが……僕が何故、涼宮さんの監視から外れて京都の大学に行ったのか、ご存知ですか」
「いや、知らんが。 『機関の事情』って奴じゃ無いのか」
「えぇ、その通りですが。 根本的な原因は別にあるんですよ」
「それは何だ?」
「SOS団解散の日、実は僕……涼宮さんに告白したんですよ」
「ま、マジか古泉!?」
「えぇ、えらくマジです」
「それで、どうなった?」
「見事なまでの玉砕ですよ。 ふふっ、清々しい位にフラれました。 即答でしたからね……しかも、それが原因で閉鎖空間が発生して。 僕は上司に大目玉喰らいましたよ」
そんな事があったのか、全く知らなかった。 元々、古泉はハルヒを魅力的とか言ってたし、好意がありそうなのは何となく解っていたが。
「でも今は大学時代から付き合っている彼女と、もう直ぐ結婚するんですよ」
「ほう、それはおめでとう! で、相手はどんなんだ?」
「高校時代は軽音部に入っていたらしく――」
「キョン君、そろそろ時間よ。 古泉君、帰りも宜しくね」
「長話が過ぎた様で、失礼致しました。 では、お気をつけて」
 
 
午前零時、深夜の大阪駅。 終電間近のせいか、人通りは日中と比較してかなり少ない。 ましてや盆休みの最中だ、酔っ払いのサラリーマンも居ない。
「って朝倉、何で俺をこんな所に連れて来たんだ?」
「まだ解らないの? それより、こっちよ」 ん、此処は
 
 『みどりの窓口』
 
「俺に何処に行けと」
「東京よ」 何ですと!?
「……涼宮さんに会いたいんでしょ?」
「…………」
「会いたいんでしょ!!」
「……あ、あぁ」 
確かに思ったさ。、ハルヒに会いたい、と。 しかし会ってどうするんだ? 
「第一、夜行バスは、この時間もう無い筈だが」
「ふふっ、キョン君、甘いわよ♪」 
朝倉に言われるがままに『みどりの窓口』に入る。 そのカウンターに居た人物を見て、俺は驚愕した。
「あ、あ……朝比奈さん!?」
「うふ、キョン君、お久し振り。 朝倉さん、予定通りね」
「こんばんは朝比奈さん、計画通りよ♪」 
計画通り? って朝比奈さん、これって。
「はい、キョン君。 これは『規定事項』ですよ」
「しかし朝比奈さん、『規定事項』ってのは構いませんが、東京に行くにしても、この時間からでは手段が……まさか、ここで野宿して始発の新幹線で行けと?」
「早合点しないで、この切符を見て」 差し出された切符を見ると
 
 『サンライズ瀬戸 B寝台個室:13号車 13番 シングル 大阪0:34 → 東京7:08』
 
「夜行寝台列車、ですか」
「そう。 お盆のこの時期、今から指定取っても(キャンセル無ければ)満席なんだけど。 此処にキョン君が来るのは『規定事項』だったから、一ヶ月前の発売日と同時に手配しておいたの」
「キョン君、そろそろ時間よ」 お、そうなのか朝倉。
「ありがとうございました朝比奈さん、行って来ます!」
「行ってらっしゃい」
 
 
相変わらずの可愛らしい笑顔に見送られ……そう言えば朝比奈さん(小)って、この時代の年齢で言うと俺より一歳年上の筈だから、来年は――  
「キョン君、『禁則事項』です!!」
……大変失礼致しました、マイ・スウィート・エンジェル。
 
 
代金を支払い、改札を抜け『長距離列車発着ホーム』へ向かう
「朝倉」
「何、キョン君」
「お前も来るのか」
「わたしの切符は無いわよ、只の見送り」
「そうか、わざわざスマンな」
「気にしないで、好きでやってる事だから」
「そう言えば古泉に『帰りも宜しく』って言ってたな」
「うん。 あ、あと向こうに着いたら長門さんに宜しくね♪」
「おう。 あ、朝倉、何か飲むか?」
「うんっ!」 
自販機で俺はスポーツドリンク、朝倉はミネラルウォーターを買い、飲んでいると。
 
 『間もなくサンライズ号・東京行きが参ります――』
 
「お、来たか」
朝焼けをイメージしたカラーリングの車体に上下二列に並んだ窓。 二階建て、なのか? 
初めて乗る楽しみでもあり不安でもあり……って時間的には乗車したら只、眠るだけなのだが。
「じゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい、キョン君。 あ、一つ約束があるんだけど」
「何だ朝倉」
「帰って来たら、一番最初に向こうであった事の話をしてくれる? お願い」
「そうか、解った」
列車は停まりドアが開く
「……わたしも一緒に行きたかったな」
「ん、どうした朝倉。 何か言ったか?」
「え、う、ううん。 何でもないわよ、さあ乗って、乗って」
「そう急かさなくても時間はあるだろ」 あと一分あるな、発車まで
「ねえ、キョン君」
 
 
 「   す ・ き ・ よ  ♪   」
 
 
『間もなくサンライズ号・東京行き、発車します。 お見送りの方は黄色い線の内側までお下がり下さい』
 
発車間際、俺は朝倉にキスされた――完全に不意を突かれた。
「あ、あ……朝倉」
「扉閉まるよキョン君。 涼宮さんにも宜しくね」
「お、おう」
「……じゃあね」
扉が閉まり列車は加速を始める。 
ホームで見送る朝倉の表情は笑顔だったが、何故か儚げに見えた。 十年間、殆ど朝倉と一緒に居たが、『好き』と言われたのは初めてだった。
「しかし、このタイミングで言うかね。 やれやれ」
指定された個室に入り、備え付けの浴衣に着替えベッドに横になると、酔いが残ってたせいか、いつしか夢の中へ……
 
 
 『皆様、お早うございます。 列車は只今、定刻で運転致しております。 あと15分程で横浜――』
 
んぁ、此処は何処だ? 何だ今の放送は!? 見知らぬ小部屋だな、此処は。 そして何故か揺れてる気がするのは二日酔いのせいか?
カーテンを開け外を見る。 流れて行く見慣れぬ風景。
「そうだったな」
ハルヒに会う為に、この夜行列車に乗ったんだっけ。 もう横浜か。 東京まで、あと少しだな。
 
 『横浜~、横浜です』
 
本日も晴天なり、か。 相変わらず暑さをもたらすこの太陽が憎たらしい昨今。 今日も一体、何度まで気温が上昇するのかね?
 
「あ!」
 
列車が横浜駅を発車すると同時に、俺は重大な事を思い出した。
 
 『次は、終点・東京です』
 
「ハルヒに連絡、取ってねー!!」
 
半ば酔った勢いと『規定事項』の名の下に、周囲に流されるまま列車に乗り込み肝心な事を忘れていたのだ。 しかも今、ハルヒが何処に住んで居るのか実は知らない。
勿論、あらかじめ誰かに聞いていれば良かったのだが、当然ながら、そんな事も考えて居なかった。
 
「そうだ研究所!……も夏休みか」
大学を卒業したハルヒと長門が、その大学関連の研究施設へ現在行っている。 と言うのは周囲の噂で聞いていたのだが、その施設の場所も知りやしない。
 
「そうだ携帯!!……も駄目、かなぁ」
高校卒業して暫く電話なりメールなりしていたのだが、互いに忙しくなったりして、何時しか音信普通になっていた。 あれから十年、携帯の番号も変わっているだろう。
 
「ちっくしょう、どうすりゃいい?」
そんな俺の思いも空しく、列車は都内へと入って行く。 気が付けば品川を通過――と言っても見慣れぬ風景ゆえ、品川と知るのは通過する駅名板を見たからなのだが。
 
「このまま東京見物でもして帰るのか?」
目的も果たせぬまま、すごすごと引き上げるのも何だし、残り少ない夏休みの一日、見知らぬ土地で過ごすのも……何だかなぁ。
  
「やれやれ」
 
悩んだまま居ても埒があかない。 ノープラン上等! 朝食でも食べながら今後の予定を立てるとしますかね。
 
 
 『間もなく東京~、東京です。 長らくのご乗車、お疲れ様でした――』
 
東京、か。 下手すりゃ中学の修学旅行以来じゃないか?
俺の周囲には帰省やら旅行やらで荷物を抱えた人達が行き交い、手ぶらの俺は逆に浮いてないか。 と思わせる。 
さて、ホームに降りるか。 デッキへと連なる列が少しづつ動いて
 
「今日も暑いな!」
 
ホームに降り立つと射す様な日差しと共に、上昇した気温が俺に襲い掛かる。 朝七時からこんな調子じゃあ、昼にはどうなる事やら……
「さて、朝飯、どうするかな」 
階段へと向かおうとする、俺の背後から――
 
 
「キョン!!」

 
……十年振りに直接聞くハイトーン・ヴォイスだが、この声が誰の声か聞き間違う程、俺は耄碌していない。
何せ高校三年間、教室の俺の後ろの席で・文芸部室で・週末の北口駅前で、散々聞いた声だったからな。
しかし、時の流れは可笑しな物で、聴覚と視覚にギャップを生み出す事があるらしい。
 
 (……誰だ、コイツ?)
 
確かに俺のコイツに対する第一印象は『どえらい美人』だった筈だ。 事実、黙ってさえいれば北高で5本の指に入ろうかと言う美少女「だった」さ。
しかし、美少女の『少』が抜けるだけで、こんなに人間って変化するものなのかね? 正直に言おう
 

今のコイツの美しさは朝比奈さんを確実に超えている!! (申し訳ありません、朝比奈さん)
 
  
『大人びた』と一言で表現するのは簡単だ。 カチューシャが無いだけで、髪が伸びただけで、こんなに見た目が変化するとは思えない。 となると、答えは一つだ
 
この十年は、コイツに何かしら変化を与えた、と
 
実際、このホームに居る人間、全員がコイツを見ている。 「十人居れば十人が振り返る」と言う表現はまさしく、この為にある言葉だろう。
しかし、だ。 何故こいつが此処にいる? 連絡も取っていない筈なのに。
 
 
――所で皆さんは疑念を感じた時には質問をする、と言うのは当然の行動だと考えると思う。
実際、その答えが「当然でしょ、バカキョン!!」と返って来ると解っていても……あぁ、思わず本能的に口から出た言葉だよ。 一体、それを誰が責められようか?
 
 
「ハル……ヒ、だよな?」



  (その3へ)
 


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