夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Players <その4(最終話)>

2011年01月25日 21時50分04秒 | ハルヒSS:長編
 
   (その3より)

     <Rock And Roll>

演奏開始5分前、ステージ上では機材のセットが行われていた。
客席から見て左、ステージ後方に岡島さんのドラム・セットを置く用地を空け、センターには体育館常備のグランド・ピアノ、KORG:M50-61、YAMAHA:D-DECKをU字配置。 そこにYAMAHA:KX-5(ショルダーキーボード)を立て掛け、右には古泉使用のドラム・セットを設置。 前方左から長門・ハルヒ・俺と立つ様、マイクスタンドが置かれる。

「よっし、皆、行くわよ!!」
「「「「お~っ!!」」」」  気合充分、さあ行くぜ!!
 
と、勢い良くステージに出たは良いが
「何だ、この観客数は!?」
我が校の文化祭は学外開放されてて……ゆえに朝比奈さんや鶴屋さんも来ている訳だ――全校生徒の他にも来ているとは思うが、この体育館一杯に何人来てるんだ? しかも、さっきまであった筈の客席の椅子も撤去されて。 ENOZが来るのは、まだ知られて無い筈なのに。
「そうか、ポスターのせいか」
……『ENOZが来るのはシークレットだが、会場は一杯にしたい』との思惑で、俺達5人の写真の載ったポスターを生徒会が率先して全校に張りまくったお陰、か。
美少女3人・美男子1人がライブやるって言うのなら、客も寄り付くだろうよ。 残る1人、俺か? 自他共に認める平凡な面だよ、文句あるか。
  
それぞれの立ち居地に着き、ハルヒが他の4人に目配せをして――
      
    「One・Two・Three・Four!!」

『Punkish Regular』 演奏開始! ハルヒの快活な歌声に乗った軽快なロック・チューンだ。 ハルヒの歌声に聞き惚れたい所だが、ここはグッと我慢。 曲の所々で掛け声が出て来るが……『SOSバンド』の他に客席からも聞こえて来た。 もしかして、休憩中の俺とハルヒの練習を聴いてくれてたのか?
何か気分が良くなって来たな、更に演奏に力が入る。
 
続いて『Under Mebius Full』……長門の澄んだ歌声が響き渡るテクノ・トランス――長門と朝倉のインターフェース同士のキーボード・バトルが圧巻だ。 長門がM50を、朝倉がD-DECKを多彩に操り~激しく動く朝倉とは対照的に直立不動で演奏する長門。 スパークスのロン・メイルみたいだ。
 
更に『小指でぎゅっ!』 明らかにイメージは『表の顔の朝倉』だな。 朝倉がグランド・ピアノを、ハルヒがD-DECKを演奏。
しかし……太眉でアサクラでキーボード使い、か。 何かの公式かね? ――口にしたらグサリとやられかねん、黙っておこう。
 
あっと言う間に3曲、終わってしまったな。 ハルヒによるMCが始まる。
「みんな~、聴いてくれてありがとーっ!! 『SOSバンド』です。 盛り上がってくれたかな~!?」
『うお~っ!!』 おぉ、良い反応だ。
 
「メンバー紹介するわね。 まずはドラムス・古泉一樹!!」 (約10秒のドラム・ソロ)
「続いてキーボード・朝倉涼子!!」 (約10秒のキーボード・ソロ)
「そしてベース・キョン!!」
「ちょっと待てぃ!!」
「何よ、キョン」
「名前を言わんかい! 名前を!!」
「だって、キョンはキョンであって、キョン以外の何者でも無いでしょ?」
「何だ、そのトートロジーは?」
「それともキョン……『あたしの彼です』って紹介して欲しかった?」 
うわ、何その上目使いで可愛い声は。 反則だ!
「……間抜け面」
ぬかった! って言うか何、この漫談。 客席からは生暖かい視線が来てるし。
「気を取り直して、ギター・長門有希!!」  
「…………」
「そして、あたし。 SOS団団長・涼宮ハルヒ!!」 
やれやれ。 お、朝倉が前に出て来た。 立ち位置変更だ。
 
次の『ハレ晴レユカイ』はハルヒ・長門・朝倉のボーカルで朝倉がKX-5を持って俺の居た場所に、俺はハルヒの横で演奏するスタイルだ。
3人のボーカルはそれぞれ特徴あるのだが、不協和音を生み出す所か絶妙なハーモニーとなって会場に響き渡る。 オーディエンスの盛り上がりも、かなりの物だ。
古泉のドラム演奏も軽快で……笑顔を作る余裕があるのか? いや、楽しんでいるんだろう、ドラミングを。
しかし、パートが逆だったらどうなって居たんだろうか、俺は? あんな器用にドラムを叩けただろうか。 尤もベース演奏が簡単って訳ではないぞ、念の為に言っておくが。
間奏では3人娘がセンターに寄って居た。 うむ、客席から見る野郎共、羨ましいぞ――なんて思っていたら演奏終了。 集中してるとあっと言う間だな。
 
「あたし達の演奏はこれで終わりです。 皆、聴いてくれてありがと~!!」 
ざわつくオーディエンス。、戸惑ってるな? そりゃそうだろう。 約1時間のプログラムの予定なのに、20分位しか演奏して無いからな。 センターのハルヒの横に朝倉が向かう。
「実は今日、ゲストが来ています。 生徒会の働き掛けに快く応じてくれて、ここに居る涼宮さんの力添えもあって、呼ぶ事が出来ました」
「北高から生まれたガールズ・ロックバンド!」
     
     「「ENOZです!!」」
 
『うお~っ!!』 そりゃ驚くだろうよ、まさか文化祭に来てくれるなんて思わなかっただろうしな。 来るのを知っていたのはごく一部の人間だけだし。 岡島さんのドラム・セット設置と同時にメンバーチェンジ。 SOSバンドとENOZが入れ替わる。
 
 
舞台袖に戻り、一安心したせいか
「喉が渇いたなぁ」
「あたしも。 キョン、何か買って来て!」
「パシリさせる気か? やれやれ……スポーツドリンクで良いか」
「うん! あ、あたしは一口飲めれば良いから、あんたの分1本買って来れば良いでしょ」
 へいへい、それじゃ買いに行くとしますか。
 
――本当に全校に居る人間が体育館に行ってるみたいだ。 誰一人居ない廊下を自販機求め歩く。 しかし、誰も居ない校舎って新鮮だな……あと少しで卒業ってのに新鮮も何も無いが。

ふと、『誰も居ない校舎』を見て、あの閉鎖空間を思い出した。 あの時はハルヒと2人きりの世界で……
「俺の高校生活はハルヒに始まってハルヒに終わるのか」 
しかし、今居るのは灰色空間では無く現実の世界だがな。
「おっと、ノンビリしてる場合じゃ無いな」
  
「何してたの? 遅かったじゃない」
「すまん。 待たせたな、ほれ」
「あ、ありがと」 先にハルヒにスポーツドリンクを飲ませる
「はい、キョン。 ……ジュースの事より、あんたが戻って来ないかが心配だったのよ」
「そんなに遅かったか?」
「もう3曲目、始まるわよ」 マジか? 物思いに耽り過ぎたか。
「ねえ、前にライブ見に行った時より、何か楽しそうに演奏してる様に見えない?」
「どれどれ……確かに4人共、笑顔だしな。 何でだろ?」
夏休みの終わり、大阪まで見に行ったENOZのライブ。 演奏は素晴らしかったし、迫力もあったが。 言われてみれば笑顔で無かった気がするな。
 
4曲全て終わり、MCが始まった
「北高、久し振り~!!」
「聴いてくれてサンキュ~!!」
「初めての全国ツアー終わって、次のアリーナツアーとの間に北高の文化祭に呼ばれたんだけど、そのオファーがあった時、すごく嬉しかった。 母校や地元に帰って来れる…ってのもあったんだけど、何より『やり残してた事』があったからね」
「そう、『このステージに4人で立つ』事」
「それに……急にスターダム駆け上がって、何となく立ち位置を見失ってた」
「だから、4人でこのステージに立つ事が出来て、嬉しくて……今日は聴いてくれてる皆より、私達の方が楽しんでるかも知れないけど、ゴメンね!!」
『うお~っ!! いいぞ~!!』
「ありがと~! 続いては、私達を此処に呼んでくれた生徒会の朝倉さん・古泉君、そして」
「一昨年の文化祭、ENOZの為に力になってくれた涼宮さん・長門さん」
「あと涼宮さんの彼氏のキョン君。 この5人の『SOSバンド』と、私達『ENOZ』とのジョイント」
 
     「「「「ROCKESTRA!!」」」」

 
再びステージに戻った俺達、立ち位置は
ステージ後方・左より ドラムス:岡島  キーボードステージは無人  ドラムス:古泉
ステージ前方・左より ギター:長門・朝倉・中西  センターにボーカル&ギター:ハルヒ・榎本  右にベース:俺・財前 となる
大歓声は止む事無く、ボルテージは最高潮。 ハルヒと榎本さんが同時に頷き……

 
      「「One、Two、Three、Four!!」」

『Lost My Music』スタート! さあ、最後まで突っ走るぜ!!
長門の超絶ギター・テクニックは相変わらず聞く者を唸らせる。 朝倉はMG-M(ギター)を回したり、ステージを縦横無尽に駆け回ったりしてオーディエンスを煽る。
そして、突き抜ける様なハルヒと榎本さんの歌声……あぁ、俺がもう1人居れば、このステージを見れたのに。
あ、後で朝比奈さんに頼んでTPDD使って――無理か、そんな理由じゃあ。 「このステージが見たいから、過去に飛ばして下さい」なんて。
 
「次はラスト・ナンバー 『God Knows...』 歌える人は一緒に歌ってね!!」 再びハルヒと榎本さんのカウントで演奏が始まる。
前奏が終わる間際、ハルヒと榎本さんの間に割って入る。 お、驚いてるなハルヒ。 さあ歌えよ、俺は歌わないがな。
……え!? どうせなら歌え? やれやれ、歌は得意じゃ無いんだけどな。

でも、今までハルヒ達とバンド練習して来て、最初は只、無心にベースの練習をしてたが……このステージに立って演奏してる自分が自分で無い感覚がして居た。 それは夢中で演奏して居るせいか、それとも―― 


    二人に神の祝福を

 
「ハルヒ」
「何?」
「……愛してるぞ」
「あたしも……愛してる、キョン」
 
 
――所で皆さんは『ナチュラル・ハイ』と言う言葉をご存知だろうか? そう、軽い興奮状態って奴だ。 そして『黒歴史』、こいつは消したい過去。 これから起こる事は、行為自体に問題は無い。 場面・シチュエーションって奴も同様だ。 ただ、この2つが重なった時に、黒歴史って物が発生する事がある。 って話で……。
 
 
      曲の終わり、俺とハルヒは、キスをした。
 
 
……その後、湧き上がった歓声で我を取り戻した。 何やってるんだ俺!? バカップル? いや、単なるバカだ、俺がな。
 
 
 

      <エピローグ>
 
「すっかり遅くなっちまったな」
「でも、楽しかったでしょ?」
「楽しいと言うより、充実した。 って感じだな」
「……ベース、続けるの?」
「財前さんも『続けたら?』って言ってくれたけど、今はそれ所じゃねーし」
「そうね、受験だもんね」
「でも、趣味にしても良いかな」
「じゃあパートタイムでバンド、やりましょ!」
  
文化祭が終了し、ENOZ主催の打ち上げパーティを東中近くのファミレスで行い、陽もとっぷり暮れた夜道をハルヒと共に歩いている…手を繋いで。
 
「一生懸命にベースを弾いてるキョン、格好良かったわよ!」
「惚れ直したか?」
「バ~カ! ……元々惚れてるわよ」
「言ってくれるじゃねーか……俺も、お前の事、言えんが」
「明日は振替休日よね、久し振りにデートしない?」
「片付け、どうするんだよ?」
「つまんないわね」
「じゃあ、午前中頑張って片付けて、午後からデートだ!」
「そうこなくっちゃ!! キョン……」
「ん、何だ?」

 
      「  大  好  き  !  」
 
 
 
      <Players> ~Fin~
 
 




 
      <エピローグ・0,5  ~Back Apple Restaurant~>

(ライブ打ち上げ・東中近くのファミレスにて)
 
「全く、あんたのせいで大恥かいたじゃない!!」
「俺か? 俺のせいなのか!?」
「そうよ! や~ね、気の迷いってこれだから……」
「長門さん、バカップルは喧嘩に夢中だから、その皿の物食べちゃって良いわよ」
「……了解した」
「こら長門、俺のハンバーグ取るな!」
「ちょっと有希、あたしのビーフシチュー取らないでよ!!」
「……略奪愛?」
「奪ったのはメシで、愛じゃ無いだろ」
「……School Days?」
「何? 学園生活がどうしたの!?」
「スクール・デイズと言うタイトルのアニメとゲームですよ、涼宮さん」
「そのヒロインに比べれば、わたしなんて可愛いもんよね♪」
「いや朝倉、お前は普通に可愛いだろ(何も無ければな)」
「キョ~ン? 浮気かしら~!?」
「何言ってるんだハルヒ、俺はお前だけだ」
「あたしもよ、キョン!」
 
 
「……誰よ、このバカップル呼んだの」
「それって私達じゃない?」
「歌詞のネタにはなりそうだけど、間近であまり見るもんじゃ無いわね」
「私達、恋愛は当分無さそうだしね……」
 
「「「「やれやれよね~」」」」
 
 
      「「続きは?」」
「「「「「「「続かないっ!!」」」」」」」
 
   (終われ!)






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