夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Hard Worker(前編)

2011年06月26日 17時50分54秒 | ハルヒSS:中短編

平和だ、実に平和だ。
 
高校二年の夏休み直前の、とある休日。 例の探索も無く、俺以外の家族はデパートへ買い物に行き夕方まで居ない。
シャミセンも新しいガールフレンドの所へ行ったらしく、これまた留守。 自由だ、フリーダムだ。 あぁ、独り身バンザイ!!
で、する事と言えば
 
「谷口に借りたDVDでも見るか」
 
どうも最近の外野から聞こえる俺のイメージはフラグクラッシャーだの朴念仁だのあるみたいだが、俺だって普通一般の男子高校生であり、時に情熱を持て余したりする。 只、それを発散させる場所があるか? と言えば正直な所、非常に限定されるのだ。
書物で一時的に満たす、いや、発散させるなら自室で事足りるのだが、問題は……そう、映像だ。 平たく言えばビデオやDVDって奴だ。 それを鑑賞するのは自室ではテレビはあるが再生機器が無いから無理である、よって居間で見ざるを得ない。
 
「どれどれ?」
 
谷口から借りたDVD。 それはハリウッド製作の一大スペクタクルでは無く、日本中を感動の渦に巻き込んだアニメーションでも無い。
もうお判りだと思うが、そのタイトルは
 
『ポニーテールの似合う巨乳お姉さん』
 
はい、平たく言って【禁則事項】なDVD、しかも18歳未満閲覧禁止の代物である。 何々、法律違反では無いのか? って、全くその通りだ。
法律違反と言えば去年の孤島での飲酒も当てはまるな。 聖人君子じゃああるまいし法の一つや二つ、破った事は皆さんもあると思う。
尤も、その持論に対して全面的に肯定する気は全く無いがな。
 
おっと、こんな下らないモノローグをしている間に午前十時を回ってしまったな。 さて、DVDをセットして再生っと
 
『ピンポーン』
 
おや、誰か来た様だ。 朝っぱらから何の用だ? まあ、どうせ宅配便か何かだろうから手早く用事を済ませるとしますか。
DVDの再生はそのままにして、テレビの電源だけを消す。 そうすればまた直ぐに見れるからな。
 
「はいはい、っと」
 
躊躇無く玄関のドアを開ける。 あぁ、その開けた先を見た瞬間に、そのまま扉を閉めようと思ったさ。
呼鈴を押したと予想された人物の選択肢に入っては居たが、自己都合で抹消したリストの人物、その1だったからな。
 
「…………」
「…………」
 
開けてしまったからには仕方無い。 応対するしか選択肢は無いだろう。
 
「何の用だ、ハルヒ」
「……別に」
別にって何だよ。 用事も無いのに来たってか? 暇な奴だ。
「あんた、ヒマでしょ」
「ん、ま、まぁな」
「お邪魔するわよ!」
 
仕方無い。 無碍に追い返すのも何だし、暇な団長様の相手でもしますかね。
 
「あれ、キョン一人なの? 妹ちゃんは!?」
「両親と一緒にデパート巡りで、夕方まで帰って来ない予定だ」
「ふ~ん。 あ、この家に今はあたしとキョンだけって事? お、襲わないでよエロキョン!!」
「襲うかっ!」
やれやれ、相変わらずだね、この団長様は……って、おや?
「何だ、そのコンビニの袋は」
「あ、これ? 最近、近所のコンビニのチーズケーキにハマってて。 食べる?」
「あぁ。 麦茶しか無いが、良いか?」
「うんっ!」
食堂にハルヒを案内し、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
 
 
コクッ……コクッ……コクッ
「ぷっは~っ!!」
また一気飲みですか。 夏の盛り、歩いて来たから喉も渇いてたんだろう。
「じゃ、頂くぞ」
「どうぞ、召し上がれ」
ハルヒ特選、と言うからには美味いだろうと思っては居たが、期待以上の美味しさだった。
「ん、美味いな、これ」
「ふっふ~ん。 でっしょ~? あたしのお気に入りだからね!」
「コンビニと言えど、侮れないな」
 
とまあ他愛の無い会話を交わし
 
「ごちそうさま、ハルヒ」
「どういたしまして」
所でハルヒは、まさか俺に此れを食べさせる為に来たのか? いやいや、そんな事はあるまい。
「あ!」
「ん?」
「そう言えばテレビゲーム、あったわよね」
「あぁ、あるぞ」
「一緒にやらない?」
「良いぞ」
どうせ暇だったしな。 うん、確かに暇だった筈だ、俺。
 
そして、あれこれゲームを選んでいて、すっかり忘れてしまってたよ、『あの事』に。
ゲーム機をセットして居た時に、その存在を思い出して居れば良かったのだが。
「テレビのリモコンは、っと」
何時もの場所に無かったリモコンの事など特に疑問に思わず、躊躇無くテレビの電源を入れる。 すると
 
「…………」
「…………」
 
テレビの画面いっぱいに繰り広げられる光景に、俺とハルヒは言葉を失った。 そう、忘れて居たさ。 谷口から借りていたDVDを再生したままにしてた事を。
しかも再生し始めて時間が経過していたので、何だ、その……クライマックスのシーンだった訳で、何と言うか
 
「……き、キョン!?」
「……す、すまん!!」
 
気まずい、実に気まずい。 こんな時、どうしたら良いんだ。
落ち着け俺。 そうだ、素数を数えよう。 1・2・3・ハッスル! ハッス……って、ハッスルしてどうするんじゃ~っ!!
 
「あ、あの……」
「な、何だハルヒ……」
「と、止めないの?」
 
下らない事を考えてる間にも【禁則事項】なシーンは再生されたまま画面に大映しになっている。
ポニーテールが激しく揺れているシーンだが、それを見る余裕など今の俺には全く無かった。
 
「と、止めます、止めます!」
何故、敬語なんだ俺? 兎に角テレビの電源を消した。 消したが状況は何ともなる訳でもなく、沈黙した時が流れた。
「あ、あの、キョン?」
「あ、何でございますか。 ハルヒさん」
あぁ、首吊りてぇ。 今ならマリー・アントワネットの身代わりになって断頭台の露と消える事に躊躇などしないぞ。
さぁ俺を連れて行け。 革命の戦士達よ!
「あんたって、あ、あんな感じの娘が好きなの?」
「え、ま、まあな」 此処は素直に答えておくか。
「ふ~ん、やっぱり」
「やっぱりって何だ?」
「だって、あんた、みくるちゃんの事とか、いやらしい目で見てるし」
否定出来ないな、それは。
「あと『ポニーテール萌え』なんだっけ」
「は!?」
確かに一年以上前、あの『閉鎖空間』の中では言った事はあったが。
「え、ううん。 何でも無いの。 何でも――」
そう言えば『悪夢』って言ってたよな、ハルヒは、あの出来事を。
「あぁ、確かに俺は『ポニーテール萌え』だ。 何時かのお前のポニーテールは反則的に似合ってた。 尤も、外見だけで判断してた。 って言われたらそれまでだが」
「……そう」
「でも、最近のハルヒは以前に比べて落ち着いて来た。 って言うか大人しくなって来たし。 何だ、その……」
「な、何よキョン。 はっきり言いなさいよ」
「ハルヒの事、悪くないな。 何て思ったりして」
「…………」
 
だ~っ、何言ってるんだ俺! 断頭台だけでは不足なのか? あぁそうだ、この暑さのせいだ。 全てはこの温暖化をもたらしてる太陽のせいだ!!
――そんなレトリックは通用しないか、やれやれ。
 
「して、あげよっか?」
「な、何を!?」
「……ポニーテール」
「えっ」
「少し髪、伸びて来たし。 な、何か暑いしね……髪を上げれば涼しくなるかな、なんてね――」
「あ、あぁ」
「ゴム、持ってる?」
「ほえ!?」
「何、間抜けな声を出してんのよ。 髪を束ねるゴムの事よ。 こんな風になるなんて思わなかったから、持って無いのよ」
 
ビックリした。 いきなり『ゴム持ってる?』なんて言われたから、てっきりアッチの事かと思ったぞ。
アッチが何を指すのかは各々察してくれ。 多分、それで正解だと思う。
 
「あ、あるじゃない」
「え!?」
「ほら、ここ」 
ハルヒが指差した先の居間のテーブル上には、妹所有の髪ゴムが置かれていた。 グッジョブ、マイシスターよ! これで俺の事を『キョン君』と呼ばなかったらパーペキだ!!
「勝手に借りるけど、良いわよね」
「あ、あぁ。 良いと思うぞ」
「……待ってて」
「お、おう」
何かドキドキするな。 目の前でポニーテールの製作過程が見られるとは、眼福どころでは無いぞ……ん?
「…………」
「ん、どうしたの? キョン」
「え。 い、いや、何でも無い」
「変なキョン」
 
ポニーテールの製作過程を見たおかげで、思わぬ副産物を手に入れてしまった。 そう、両腕を頭の後ろへ持って行ってる所為で服が引っ張られて、その、何だ……ハルヒの胸の二つの膨らみが強調されていたのである。
元々、朝比奈さん程では無いにせよ、出ている所は出ていると以前から思って居たが、こうして目前で、そのけしからんツインボムが強調されるのを見ると、何て言うか――
 
「間抜け面」
「はぇ!?」
「何処、見てんのよ!」
「す、すまんっ!」
「……すけべ」
 
そう言って、むくれてしまったハルヒは、俺に背中を向けてしまった。
ま、不味ったかなぁ……と思っていたが、ハルヒの手は休む事無く作業を続けている。 そして
 
「で、出来たわよ」
「お、おう」
 
作業を一から見て居たが、それでも完成したポニーテールを改めて見ると
「うん、似合ってるぞ。 ハルヒ」
「……ばか」
顔が赤いぞハルヒ。 暑さのせいか? エアコンの設定温度をもう少し下げた方が良いのか。
しかし、俺も何だ、ストレートな発言が多いのは気のせいか?
 
「やっぱゲームは止めるわ」
「そ、そうか」
「……あんたの部屋、行って良い?」
「ん、あぁ。 構わんぞ」
そうだ、流れを変えよう。 この気まずい雰囲気を変えるんだ。
俺は麦茶のボトルを、ハルヒにはコップを持って貰い俺の部屋に向かう。 しかし、そこでも俺は失態を犯してしまう。
 
「……○色か」
「え、何か言った? キョン」
「へ!? あ、いや何も」
 
基本的な日本家屋の造りとして、二階へ登る階段の傾斜は急である。 でないと緩やかな分だけ余分に土地が必要だからな。
日本の国土、ましてや住居スペースの広さを考えれば仕方あるまい。 で、何が言いたいのかと言うと……
中途半端な女性優先(レディーファースト)でハルヒを先に行かせた為、何だ、その、ミニスカートの中の三角地帯が先程からチラチラと――
 
「……ョン、キョン。 ちょっと、キョン!」
「はっ。 ど、どうしたハルヒ」
「ドア、開けてよ」
「お、おう」
 
ふぃ~っ、ビックラこいた。 見てたのバレたかと思った。 しかし、いかんな今日は。 どうもスケベの虫が治まらん。 自重しろよ、俺。
麦茶のボトルとコップを俺の勉強机に置いて
「此処、座って良い?」
「あぁ、どうぞ」
ハルヒは俺のベッドに腰掛ける。 俺は床に胡坐をかいて座ると
「ねぇ、キョン」
「何だ、ハルヒ」
「……何時も見てるの?」
「何をだ」
「さっきのビデオ」
 
グサっ!! いきなり核心ですかハルヒさん。
 
「いや、普段は見て無いぞ。 御覧の通り俺の部屋にはテレビはあるがDVDデッキが無いから、家族の居ない時しか見れないからな」
「……そう」
 
今更、隠しても仕方無いよな。 正直に答えるさ。
 
バサっ
 
音と共にハルヒはベッドに寝転がる
「邪魔してゴメンね」
「な、何をだ!?」
「……しようと、してたんでしょ?」
「あ、あぁ。 気にするなってハルヒ……休みの日に態々来てくれたんだ。 団長様直々に――」
「『団長様』なんだ」
「え!?」
「キョンにとって、あたしは『団長様』なんだよね……」
「だって、ハルヒは」
「……そうなんだ」



  (後編へ続く)



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