堀之内出版blog

『nyx』、『POSSE』、『労働と思想』、『『資本論』の新しい読み方』等、好評発売中の出版社です

図書館と出版社

2014-11-10 06:26:37 | その他
先日、図書館総合展が横浜で開催され、
全国の図書館関係者さんが大勢集結しました。
私はその「おまけ会」に参加させていただき、
熱い図書館員さん、関係者さんとお話することができました。

そうしてお話させていただくなかで、何度か聞かれて印象的だったのが、
「図書館は版元さんから見ると敵のようなところがあるでしょう?」
というお話。
1冊の購入で、たくさんの人に無料で読まれてしまう、
本を売っている版元にとってよくないのでは、
というお話です。
もちろん、おっしゃる話の筋はわかります。
ただ大局的に見て、敵ではないのはもちろん、
むしろ現状の出版社、特に専門書出版社にとっては、
図書館さんはともに出版文化をもりあげる
とても大事なステークホルダーです。

まず、売上と無料の貸し出しについていえば、
今の専門書の平均発行部数は、1000~2000部、
ニッチなものはもっと低いと思います。
それに対して、全国の図書館は現在約3000館。
単純な話ですが、図書館さんにお買上げいただくだけでも、
プラスになりこそすれ、マイナスの要素はありません。
そこから先、多くの読者に読んでもらえるのであれば、なおさらです。
執筆者も、版元も、売上も大事ですが、
まず読まれたい、ということを願っています。
弊社の本を読みたいけれど、少し高いから手が届かない…、
という方には、どんどん地元の図書館で購入リクエストをしていただきたいです。
もちろん、そういった部数ではなく、3000館に購入していただいても、
そこから1冊が100人に貸し出されているような書籍を
発行している場合については、個人の購入を促進したい、
そのために無料で貸し出されるのは困る、という考え方もありうるとは思います。
それは規模と売上に対する考え方の違いですので、ここでは掘り下げません。

そのうえで、大局的に言えば、読書という行為の普及において、
図書館が果たしてくれる役割について、私はその意義はとても大きなものだと思っています。
読書離れ、出版不況、などの話題がでるときに、そうではないよ、
という反論や数字がでることはあります。
数字という量的なものがでたときに、正しいように思いがちですが、
それも一時のある側面を量的に「正確に」あらわしたものでしかなく、
質的なものも含めて全てを表現しているわけではありません
(数字の取り方の組み合わせで、より状況を把握できる、ということはあると思います)。
おおざっぱにいうと、紙の本の売り上げは、やがて読書が身体的に困難になる
団塊の世代の方による売上が支えており、出版不況ではない、
とする電子書籍の売り上げについても多くが手軽な小説や過去のヒットマンガであったりして、
多種多様な読書がそのまま電子書籍に移行はしていません。
読書離れは進行しているし、出版界は「不況」という言い方が正しいかどうかは
わかりませんが、決して安定的な経済状況ではない、と言ってよいと思います。
なお、「若者の」読書離れについては、
若者の知的水準など本人の資質に還元するような論には賛成できず、
まず学習の機会そのものに恵まれない、書籍を購入するだけの経済的余裕がないなどの貧困の進行、
またスマホをはじめ各種代替エンターテイメントに恵まれているという時代背景があると考えています。
石川啄木も現代に生まれていれば、本を読んで俳句を創作したりせず、
四六時中スマホを見て、ネット掲示板などに書き込んでいる若者だったかもしれません。

そうした状況において、本に無料で触れる機会、多様な本を目にする機会を提供する
図書館の存在はとても大事なものです。
特に、自分自身に経済的選択権のない子供に対しての影響は大きいでしょう。
私自身、幼稚園の頃は図書室に入りびたりでした。
『エルマーのぼうけん』シリーズを楽しく読んだこと、
丸木俊の『ひろしまのピカ』を読んだ衝撃(怖かった、)は忘れられません。
『ひろしまのピカ』など、正直、子どもが自主的な購入対象としては
選び難いものではないでしょうか。親御さんなども教育的方針がなければ、
あまりプレゼントとして選ぶような書籍でもないでしょう。
教育的効果だけを強調するのもあまり好きではありませんが、
子ども時分にはただ「怖かった」という衝撃が、あとで知識や考え方に変わっていったり、
つながっていったりするものだと思います。
そうした予定調和ではない情報のつながりは、本人や親御さんだけでもない、
選択もしきれないたくさんの本にあふれた空間から生まれるものです。
子供についてだけではなく、それは大人にとっても同様でしょう。
私が読んだことのある本より、常に多くの数が図書館には用意されており、
そこで思ってもみなかった情報にアクセスすることができます。

それでは、ただ沢山、本があればよいのか? といえば、そうではありません。
本をお勧めしてくれる。沢山の本を整理し、修繕して管理してくれる。
子どもには読み聞かせをしてくれる。
そうした図書館員さんがいてこその図書館です。
残念ながら、現在の日本では、図書館員さんの正規雇用が減少し、全体の数も減っています。
膨大な本を扱うことが、一朝一夕にできるわけではありません。
貸出機なども増え、一見効率化されて人手がいらないように見えますが、
日本の本の出版点数、扱う情報が増えているはずなのに、
単純作業だけ計量化して、仕事全体を削減対象とするのはナンセンスな話だと思います。
単純作業が減ったのであれば、その他のクリエイティブな業務に
充てることができるはずで、そこからまた新たな仕事も増え、
計量化できる「図書館の利用率」などにも還元できるはずです
(こうした仕事の本末転倒なコストカット化の進行は、
現在の日本では図書館だけに限った話ではないと思いますが)。

図書館に何ができるのか。
もっと何がしたいのか。
私が上記した単純な話だけではなく、
熱い図書館員さん達が激熱な議論を交わす場に居合わせ、
同じ書籍に関わる者として、とても嬉しく、また励まされました。

みなさんも、もっと図書館を活用してみませんか。
図書館には、公立図書館、私設図書館、大学図書館、など様々な図書館があります。
都内・関西の方なら国会図書館(関西館)に行くのも面白いと思います。
私設の図書館は、絵本図書館など、ジャンルに特化して充実したところもあります。
大学図書館も、学生だけではなく、一般に開放しているところもあります
(私立はその学校次第ですが、国公立大学は、基本的に入れたと思います)。
まず、お近くの図書館をぜひ探してみてください。
 日本図書館協会HP 図書館リンク集
最近は、こんなサービスもあります。
 カーリル(日本最大の図書館蔵書検索サイト)

リアルタイムの貸し出し状況がわかりますので、読みたい本をすぐに探すことができます。
試しに弊社発行『『資本論』の新しい読み方』>東京 で検索すると…、
11館が所蔵してくださっています!
正直、少ない…。泣)
でも、いま、私が見ている時間ではそのうち4巻で借りられている!
お読みいただいて、ありがとうございます!すごく、嬉しい。
というのは、ちょっと違う使い方ですが…。

皆さんが、もっと身近に、楽しく読書をしてもらえるよう。
私も今後もっと図書館員さんや書店さん、著者さんなど、
さまざまな方と協働していきたいと思います。

ぜひ、図書館に足を運んでみてください。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。