陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

シャーリー・ジャクスン 「野蛮人との生活」 その6.

2012-08-01 23:59:34 | 翻訳
その6.

 家は建てられてほどなく、オーグルビー家の人びとがみんな亡くなるか、引っ越してしまうかして、コートランドという一家のものになる。コートランド家は農場のほとんどを売って、ドクター・オーグルビーの薪小屋を別棟の台所に改築した。やがてコートランド家は家をフィールディングという一家に売ると、フィールディング家はすぐに周囲の土地を全部買い戻して、今度は家をいくつも建てた。それを貸家にして、ドクター・オーグルビーの時代、農場を流れていた川沿いに製材所を作り、自分の店子をそこに従業員として雇ったのである。

町史によると、もともとフィールディングというのは、ドクター・オーグルビーの作男だったらしく、一家はすでに当時からそこの地所に目をつけていたにちがいない。町が発展するにつれ、フィールディング家も豊かになっていったが、やがてその家でフィールディング家直系の最後の世代が死に絶えると、家屋土地の一切は三人の近親者の手に渡った。彼らはみんな近隣の町の簡素で近代的な家に住んでおり、有している製材所の株の配当で結構な生活を営んでいた。

 荘園屋敷が貸家として出されたときには、まるで町の活気のある部分が気がつかないうちに川に浸食されていったような具合だった。そうしてフィールディング家の相続人と、町で二番目に古い家の持ち主であるバートレッツ家の間の不和が高まったのである。住宅がこれまでにないほど欠乏していた時期、製材所は昼夜を分かたずフル操業していたのだが、古い荘園屋敷は丘のてっぺんに住む人もなく取り残され、白い柱はかしぎ、車寄せは落ち葉や雪に埋もれた。その雪に足跡をつける人もなかったのである。

わたしたちがその家を初めて見たときは、なんだか少し場違いな印象を受けたものだった。正面から両脇へと伸びる垣根さえも、いくぶん家から身を引き離そうとしているような、実際には縁を切ったわけではないが家のことを嘆かわしく思っており、にもかかわらず人間界に向かっては家と一体となって直面しようとしているかのように思えたのである。

サム・フィールディングはフィールディング家の三人の近親者の中でもただ一人、フィールディングという姓を継いでいる人物だったので、その人が家を案内してくれるというのは、一応筋が通っているように思われた。彼は小柄で物静かな老人で、思慮深いヴァーモント人らしい、 ゆっくりとした話しぶりだった。その人とわたしたちは芝生の端に並んで立って、彼も夫もわたしも言葉もなく、巨大な列柱と張り出した両翼、黙ったままわたしたちを見つめている風見鶏を見上げていたのだった。

「これが家です」ミスター・フィールディングは誰にも否定できないことを行った。「少しでも使ってもらえたらいいんだが」まるで家から非難のまなざしを向けられでもしたかのように、顔を背けた。「いい家です」と付け加える。

「なんだかとっても」わたしはためらった。「堂々としていますね」と、やっとそれだけ言った。

「堂々としておりますな」ミスター・フィールディングも同意してくれた。彼は夫の差し出したタバコを断って、自分のを取り出した。同じ銘柄だったが、自分のものを、ということらしい。「きれいにしておきますから」

「中に入ってもいいですか?」とわたしはたずねた。「もしここが気に入ったとしたら、中を見ておいた方がいいと思うんです」

「ドアは開いてますよ」とミスター・フィールディングは言った。

 わたしたちは、夫とわたしはためらっていた。ミスター・フィールディングは木の切り株に腰を下ろし、足を組んでくつろいでいる。

「ドアは開いていますから」と彼はもう一度言った。


(この項続く)






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