その7.
夫とわたしは正面玄関に向かって歩き出したが、ポーチにつづく階段の壊れた箇所をすんでのところでよけることができた。だが、いったん円柱の中に入っていくと、まさに「家」という感覚が襲ってきたのである。これこそが家だ。マキャフリー邸やエグゼター邸のような代用品とはくらべものにならない。夫がためらいがちに、ドアを開けてみようとした。するとドアは勢いよく開いた。
おそるおそる、壊れた床板に注意しながらわたしたちは中に入っていった。広い玄関ホールは列柱の影になっていて薄暗く、まっすぐで美しいコロニアル様式の階段を背にしている。向かって右手の場所には、セイヨウバラがあふれんばかりに描かれているカーペットが敷き詰められ、オルガンが一台、古びて黒ずんだ絵の下に置いてあった。絵はかすかに前方に傾いていて、なんだかわたしたちに驚いているように見えた。
キッチンに入ってみると、重々しくどっしりした鉄製のかまどが倒れかかるぞ、とわたしたちを脅しているかのよう。おまけにその台所には、ほこりが厚く積もったテーブルがあり、ほこりまみれのカップと、ひからびた年代物のドーナツをのせた皿が置いてあった。そうして椅子が、テーブルからわずかに後ろにやられて。
「こんなとこまで来てしまってごめんなさい」わたしは心から夫に謝った。おぞましいドーナツを見ていると、手が震えてくる。「わたしたち、お昼の邪魔をしちゃったのよ。早く行きましょう」
「もしこの町に家がたった一軒しかないんじゃなかったら……」と夫は言っていたが、それでも足早にわたしのあとを追って外に出た。
ミスター・フィールディングは立ち上がってわたしたちを迎えてくれている。柱の間を通ってわたしたちは降りていった。近くまできたところで、ミスター・フィールディングは「天気が崩れそうだ。朝までには雪になりますよ」
彼は神妙な顔つきで天気のことを話しながら、わたしたちを駅まで送ってくれた。列車が駅に入ってきたところでこう言った。「では、春にこっちにいらっしゃるまでに、多少修繕しておきますよ」
「少し教えてほしいんですけど」とわたしは言った。「あの家に誰も住まなくなって、どのくらいになるんですか?」
「おじいさんが亡くなってからです。」と彼は言った。「四年ほどになるでしょうかな」
「でも、片付けたりしなかったんですか?」わたしはなおも言った。「遺品を整理したりは?」
「実際のところ人に貸すつもりはなかったんです」と思慮深げな声で言った。「だからさっさと片付ける必要もなくてね」
わたしたちが列車に乗り込むと、ミスター・フィールディングは心のこもった顔でわたしたちに手を振ってくれた。
それから二週間というもの、わたしは断固として非現実的な信念を手放すまいとしていた。仮に、あの家が町でたったひとつの空き家であっても、いや、世界中でただ一軒の家であってもかまわない、その結果、公園で野宿する羽目になろうとも、ひからびたふたつのドーナツのある家に住むのだけはお断りだ。
だが、そのつぎの週になってミスター・フィールディングからの手紙を受け取ったのである。あの家をいま、修繕しているところだ。賃貸料は月額50ドルいただくのでは、高すぎるだろうか?
「どうやらあなたは家を借りることにしたようね」わたしは理に適わないことを夫に言った。
「たぶん、ぼくたちが中へ入ったからだろうよ」と夫は言った。「これまで誰もあの家に入るまではいかなかった。そこへ、ぼくたちが入っていったから、おそらくそれが賃貸契約を構成してしまったのさ」
(この項つづく)
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