(引用文)
ロンドンの動物園へインドから一匹の傘蛇(コブラ)が届いた。 蛇には壁蝨(ダニ)が一面に取りついていた。 健全な蛇にはこの虫があまりつかないものである。 こんなことが先ごろの週刊タイムスに出ていた。 「この事実にはいろいろのモラールがある」 とAが言った。 「さらに多くの詩がある」 とBが答えた。 (大正九年十月)
(大正九年十月号掲載文を読んで)
この文を過たずに読むためには当時の時代背景を知らなければならない。
この記事を寺田寅彦が書いた大正九年を西暦になおすと1920年に当たる。
1920年といえば、インドがイギリスから独立を勝ち取る27年も前である。
当時のインドはイギリスによる搾取に喘いでいて、衛生状態も最悪だった。
そのインドの事実、実態をモラールと表現し、真実を詩と表現したのです。
事実と云い、真実と云うも、こうした所から見抜くことを教えようとした。