daiozen (大王膳)

強くあらねばなりませぬ… 護るためにはどうしても!

わだかまり

2014年09月07日 | (転載・記事)  総 合

(引用文)
大学の構内を歩いていた。 病院のほうから、子供をおぶった男が出て来た。 近づいたとき見ると、男の顔には、なんという皮膚病だか、葡萄(ぶどう)ぐらいの大きさの疣(いぼ)が一面に簇生(そうせい)していて、見るもおぞましく、身の毛がよだつようなここちがした。 背中の子供は、やっと三つか四つのかわいい女の子であったが、世にもうららかな顔をして、この恐ろしい男の背にすがっていた。 そうして、「おとうちゃん」と呼びかけては、何かしら片言で話している。 そのなつかしそうな声を聞いたときに、私は、急に何物かが胸の中で溶けて流れるような心持ちがした。 (大正十二年三月、渋柿)


(大正十二年三月号掲載文を読んで)

幼い子に似合わない言葉が「わだかまり」や「屈託」である。

幼い子は失敗を恐れないし、周囲も幼児の失敗に寛大である。

幼い子は無用心で、それ故、周囲は幼い子を堅くガードする。

だが、大人になると失敗を突つかれる事が多くなっていくし、

心に「わだかまり」ができて、それで無用心になれないのだ。

それなら大人は屈託なく振る舞うことを恐れるようにもなる。


東大で教える寅彦の心にもその「わだかまり」は生じている。

「わだかまり」はこと有るたびに顔を覗かせて事態を窺がう。

病院から出てきた男も寅彦の「わだかまり」を刺激したのだ。

「わだかまり」を刺激されて寅彦はたちまち、不快になった。

だが、女児の穏やかな喋り口調が寅彦の戸惑いを打ち払った。

それで寅彦は悪夢から覚めたように穏やかな気持ちになれた。


無用心に話している女児を通して、優しい父親を見たようだ。
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